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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
7/67

第六伝「仲間という感覚」

 発射口である龍の右腕を支える銀次と剛。龍は進に向けて再度、照準を合わせ、そして小さい太陽のような玉を放つ。

 火の玉は、地面の草花を焦がしながら、進という強敵に一矢報いるために猛進した。

 しかし、先ほど放つところを見ていた進は速度がわかっていたのであっさりかわした。

「さすがだな、一度見ただけでもう回避できるほど動きが読めているとは」

 せっかくの協力作戦が決まらず、剛は足踏みして悔しがった。

「これじゃあ当たらない!」

 龍は焦燥感に駆られていた。

 それもそのはず、せっかく修得した技を開始早々攻略されたのだ。

「仕方ねえ! 俺らが囮になるぞ! やれるよな銀次ぃ!」

「俺もっすか?」

 しかし、剛は諦めない。すぐさま、次の作戦に移る。剛の提案に銀次は剛の目を一点だけ見つめ戸惑っている様子だ。

「や・れ・る・よ・な・?」

「はい……」

 主従関係の二人。剛の圧に銀次は素直に従うしかななかった。

「いい加減、体がなまっちまったぜ!」

 さすがタフな剛。腕をぐるぐる回している。すっかり体力が回復したようだ。龍側につき、参戦する意志を示す剛と銀次。

 二人ともありがとう。

「龍、銀次これから作戦を言う。耳かっぽじってよく聞けよ!」

 作戦会議だ。剛は珍しくリーダー的な立場を取り龍と銀次に指示を出す。

 これが仲間と共に闘うということなんだ。

 龍は、今までにない嬉しさを覚えた。今まで一人で闘ってきた龍に共に闘う仲間が出来たのだから。

「俺がまずやつを引き付ける。そしたら銀次、お前はアナグラで潜り隙を見つけて進を捕えろ。最後に龍、お前の新技、火の玉・魂で進にぶち込め。その時は俺がお前の腕を支えてやる。行くぞ!」

 顔に似合わず的確な指示だった。

 意外とやるね剛。

 龍は剛の新たな一面を見出した。

「はい」

「ああ」

 二人は剛の指示をのんだ。

 いよいよ、最後の攻防が始まった。

「こうやって仲間の指示で動くの初めてだからうれしいよ」

 龍は嬉しそうに親指を立てる。そして、ありったけの炎を掌に込める。

 仲間と共に勝ちたい……!

「ふん。んなこと言って失敗するなよ!」

「ああ!」


 剛は久しぶりに進の目の前に立った。

 勿論、先ほどやられた恐怖が無いわけではなかった。だが、仲間の為に剛はその恐怖を押し殺した。

「待たせたな雷連進! 久々にこの俺が相手だ!」

「一度敗北した劣等者がしゃしゃり出てくるな!」

 進はどんな状況になろうと仮面のように表情を一切変えることはない。勝利への絶対的な自信が垣間見える。だが、怖気づいてはいけない。囮が出鼻をくじかれれば、後続に迷惑がかかる。


「アナグラ……」

 一方裏では、銀次がひっそりと地面に潜み進の隙をうかがっていた。

 失敗があってはいけない。いつもと違って共闘する仲間がいる。自分のせいで失敗なんてあってはいけない。心音が地を伝って聞こえてくる。銀次は今までにない緊張に襲われた。


 チェーンがない分威力が半減されてしまう、決定打は打てないだろうな……。

 剛がそんなことを考えていたのもつかの間。

 進は間髪いれずに剛に向けてブーメランを放つ。ブーメランが風を切り裂きながら剛という名の牙城を崩しにかかる。

「遠距離攻撃はおろか、スペシャルすら持っていない劣等者に用はない、散れ」

「カラス落とし!」

 ドンという大きな音。剛は豪快なかかと落としで滑空を決め込んでいたブーメランを蹴り落とす。ブーメランは浮力を失い地面にめり込んでしまう。

「進! 良いこと教えてやるぜ! スペシャルを持っていなくても体一つあれば闘える! 覚えておけ!」

 言ってやったぜ。

 剛はそんな表情で、右手の人差し指を高らかに進の胸に指し示す。

「なるほどブーメランの最大の特長である投手のもとに戻る特性上起こる不規則な軌道を潰したか、劣等者のわりにやるものだな」

 進はニヤッと笑った。

 何か俺が見落としているものがある!

 剛はそう感じた。

 その直感は正しかった。

「ぐわっ!」

「ただ”2投目”に気づかないところは詰めが甘いな」

 ガンというむごい音。

 その音が聞こえた途端に剛は背中を押さえてうずくまった。

 そう、進は1投目を投げた後、瞬時に横方向にブーメランを投げていたのだ。それに気付かず剛はブーメランに当たってしまった。

「(やつは投げ終わったら必ずブーメランを回収しに行く、その時は必ず無防備になる。つまり、狙うならそこ!)」

 銀次は冷静に読んでいた。進の動きを。

 息を殺し、その瞬間を待つ。

 来た。銀次の思惑通り進はブーメランを回収しにやってきた。

「今だあ! アナグラあ!!」

 ここだ!!

 銀次はドンピシャのタイミングで渾身のアナグラを繰り出す。

 そのタイミングは完璧であった。さすがの進もこの攻撃には気づかず、銀次の拳が進のみぞおちに直撃する。

「ぐはっ!」

 進は不格好な声をあげてひるんだ。

 その隙を逃さず銀次は進の両腕を抑えた。

「今だ龍!」

 そう。進を倒すにはこのタイミングしかない。

 興奮気味の銀次は龍に指示を飛ばした。

「忘れたのか……”帯電”」

 さすが進。これでもダメだった。

 進の身体に電気が走った。腕をがっちりつかんでいた銀次は大ダメージ受けてしまった。

 銀次の体が感電しているのか小刻みに震えてしまっている。

「うおおおおお!」

 離さなかった。勝利のため。仲間のため。

 銀次は進の体を離そうとはしなかった。

「こいつ!」 

 進は歯ぎしりをしながら、いら立ち始めた。

 いよいよ宿敵の憎たらしいほどの余裕の表情は消えた。

「銀次、そこまでしなくていいよ! 俺のためにそこまで……!」

 龍は罪悪感でいっぱいだった。銀次が自分のせいで傷ついている。

「勘違いするなよ! これはお前だけの闘いではない! 俺ら全員の闘いなんだ!」

 そうだ!これは俺だけでなない!”みんな”の闘いなんだ!

 その銀次の言葉は龍の目を覚まさせた。

 みんなの想いを届けるために俺がやるしかない!俺がやらなきゃだれがやる!?

「ありがとう銀次、火の球・魂!」

 剛はやさしく龍の腕を支える。

 龍は目をつむった。

 剛の助け、銀次の覚悟、今一度心にとどめる。

 そして、龍は目を見開き、再び勝利という名の炎を灯し、宿敵に向けて構える。そして、仲間の想いと共に力いっぱい放つ。

 激しく燃え上がる火の玉は轟音を立てながら今度こそ進に向かって一直線。

 銀次の最後の大仕事。当たる直前ギリギリまで銀次は進の腕掴み続ける。そして、間一髪で進の腕を離し、少し離れた場所で力尽きるようにそのまま倒れてしまった。

 ボアガンという肉体と炎がぶつかる音。仲間の想いと作戦が全て繋がった瞬間だった。

 見事、炎の弾丸が進に直撃した。

「とどめだ!」

 みんなの想いは俺が受け取った!

 龍はヌンチャク片手にとどめをさすために進に向かって駆ける。

「距離をとれば問題ない」

 進はまだ抵抗するそぶりを見せる。

 冷静に状況を分析し、最善の一手を取り始める。しかし、進の後ろには最初に龍が燃やした大木が後ろを構える。

「避けられない」

 進が龍の攻撃を受けることを決心したその時だった。


 龍と進の間に誰かが割り込んだ。

「さすがにやりすぎですわ!」

 痛々しい戦場に目の保養になりそうな美しい黒髪。光間凛だ。

 全員が全員、凛が何を考えているのか分からなかった。ただ、彼女が戦場に割り込んできたことは事実だ。

 龍はそれに気付き急いで足に一杯の力を入れ、自分の身体を制止させる。

「どいてくれ! もう少しで勝てるんだ!」

 魂の願いだった。

 しかし、龍の願いはむなしくも届かず、凛はその場をどこうとはしなかった。

「何もせずに好奇心で見ていたのは謝りますわ。でも私たちはクラスメイト、殺しあってどうするのですの? それと、3対1は美しくないですわ!」

 確かに凛の言うとおりだ。俺達はクラスメイト。本来なら仲良くしなければならない立場なのに。俺は何をやっているんだ……。

 それは美しすぎる正論だった。龍は自分の行いを激しく後悔した。

 思い起こせば、俺達が勝手に闘いをふっかけただけではないか。

 進は被害者だ。

 4人はぐうの音も出ないと言った感じで、周りにある木のように呆然と立ち尽くした。

 そう言い放った後、凛はコツコツと足音を立てて進に向かって歩き出す。

「王子様……」

 パチンという綺麗な音が空を包んだ。

 その音の正体は女の子の平手打ちだった。凛は進に強烈なビンタをお見舞いしたのだ。意外な出来事に進もただただ唖然と立ちすくむ。

「これでさっき私を攻撃した分はおあいこですわ。でも、私はあなたのこと嫌いになってませんわ」

 この女は何を言っているんだ?

 凛の乙女の心は男どもには全く理解できなかった。

「進、いつか決着をつける!」

「当たり前だ!」

 それは龍と進による男の約束だった。

 この約束が終戦のきっかけとなり、進転校初日の大バトルは終息に向かったのであった。


 ☆ ☆ ☆


 進との激闘後、龍は凛の言いつけどおり数日間戦校を休んだ。

 そして、数日後久しぶりに登校する。龍はふうっと一度深呼吸をし、懐かしいように見える校門をくぐった。

「よう、龍!」

 朝っぱらから獣のような大きな声。剛の声だ。

「おっす」

 自然に人とあいさつを交わせた。これが、共闘した成果なのであろう。

「お前いつから通い始めた?」

「今日から」

「お前もか!偶然にも俺も今日からだ!」

「そうなのか。ところで銀次は?」

「あいつは来ねえよ、特別なことがない限りな」

「あ、ああ」

 まだぎこちない部分はあるが、龍は徐々に友とのコミュニケーションを覚えてきた。

「あらあなたたちも今日からなのですか、奇遇ですわね。私もですわ」

 友が友を呼ぶとはまさにこのこと。

 香水のようないい香りを黒髪に漂わせながら、龍と剛の間に入ってきた。

 しばらく三人は教室に向かうために校庭を散歩していると、見覚えのある人影が三人の目の前を通過する。

 数日前のバトルの中心人物である転校生・雷連進であった。

「王子様ですわ!」

 朝っぱらからこんなにテンションが高い凛は初めて見た。

 しかし、嬉しそうな凛とは対照的に、進は凛の声を聞いて落胆する。どうやら進はあの一件以来、凛に苦手意識を覚えたようだ。

「何の用だ? 用がないなら行くぞ」

 進はとりあえず歩みを止め、仏像のようなムスッとした表情で進は答えた。

「みんなで行きましょ、楽しいですわよ」

「お前らと仲間ごっこをする気はない」

 進は凛に明らかに嫌悪感を示した。

 この男の辞書に仲間という文字は未だに存在していないようだ。

「なんだと! そういうところが気に入らねえんだよ!」

 剛は進の対応に怒りがわきあがっていた。朝から不穏な空気。

 龍はもう一度深呼吸をした。今度はため息だった。

「進、だったよな?」

 この空気で話しかけるのは骨が折れた。それも、この前の一件があったからなおさらだ。でも、龍の進に対する興味がこれを勝った。

「一撃龍か、気安く俺の名を呼ぶな」

 進は眉間に自らの属性である電気が走っているような錯覚に陥るほどの鋭い形相で龍を睨んでいた。

「正直俺はおまえのことが気に入らない、ただ俺とお前は似ている。だから、少しは分かるようになるはずだ仲間の大切さを。お前との闘いで俺は少し分かった気がする」

「言いたいことはそれだけか、どうでもいい」

 進は龍の言い分に耳を貸さず、冷徹な背中を龍に見せつけながら、一足先に教室に向かってしまった。朝から一触即発の龍と進、そして剛。

「(はーあ、これだから男は……)さっさと教室に行きますわよ、遅れますわ」

 朝から騒がしい男子どもにすっかり呆れている凛は3人を引き連れ、進を追いかけるようにして、せっせと教室に向かった。


 廊下。いつもより騒がしく見える。龍たちが休んでいる間に他の生徒たちは新しい友達を作ったのだろう。普段から人間観察が好きな龍は即座に理解することができた。

 進はというとそんな騒がしさに怪訝な表情を見せ、人という荒波をかき分けながら突き進んでいた。明らかに話しかけるなオーラを出している進だったのにもかかわらず凛は何の抵抗もなく小走りして話しかけた。

「王子様も今日からなのですの?」

「王子様って俺のことか?」

 怒りを通り越し今度はあきれた。なんなんだ、”王子様”というのは。

「そうですわ、あなた以外いないですわ」

「その呼び方やめろ、進でいい」

「分かりましたわ、これからは進様って呼びますわ」

 あまり変わっていないような気がするが王子様よりは幾分ましだろう。

「それでいい。そう、俺はあの一件以来の登校だが」

 進が凛のことを得意になる日は遠かった。

 4人は全員が今日から。ここらの時期は進行が非常に速い。廊下からでも聞こえる教室の騒がしい音。龍達はなにか取り残されている感じがした。

 騒がしい教室の音にも負けない扉の音。不安が頭をよぎるも剛を先頭にして教室の扉を勢いよく開いた。

 教室にはこちらをじっと見つめるアリサの姿がまず視界をとらえた。

「ししょー! お久しぶりでーす!」

 剛が開口一番にアリサに元気よく挨拶したのもつかの間、アリサは剛にとっては予想外の歓迎をした。

 バケツだった。剛めがけてバケツが飛んできた。

「ししょー! いきなり何するんですか!」

「一撃龍、雷連進、鉄剛、光間凛! この数日間何してたの! 4人一緒で来るあたりが怪しい! しばらくそのバケツに水一杯入れて廊下に立ってなさい!」

 怒り慣れていないのかアリサは猿のように顔を真っ赤にさせて、四人を廊下に追い出し扉を閉めた。パシャンという扉を閉める音は心底、耳に応えた。

「お前らのせいだぞ!」

 頭上に湯煙を上げるようにして進は怒った。その怒りは廊下内をこだました。

「進様の言うとおりですわ、あなた達がバトルを吹きかけるから!」

「(はっ、これは師匠が俺に下さった試練なんじゃ!?)よっしゃ、やるぞー!」

 もうむちゃくちゃだった。

 三人が三人、様々な方向で感情をむき出しにした。

 龍だけは一人冷静だった。

「先生も悪気があってこんなことをやらせてるんじゃないと思う。みんな、やろうよ」

 龍だけが一人冷静に3人に指示をした。

「なんであなたが仕切っているのですの?」

「まあいい、バケツ一杯など造作もない」

 なんだかんだ言いつつ4人は先生の言いつけどおりバケツを持ち廊下に立った。

「俺たちは全員敵同士だったのに、こうして廊下に立ってバケツ持ってるなんておかしいよね」

 素性も性格も何もかもが違うバラバラの4人。そんな4人が同じ方向を向いてバケツを持ちながら立っている。もうそれが龍にとっておかしかったのだ。

 全員から笑顔がこぼれた。

 まるで水面に写る太陽のように輝いていて、穏やかで、それでいて自然な笑顔だった。

 これが仲間なんだ。

 仲間。龍の辞書に新しい言葉が加わった。

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