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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
63/67

第六十二伝「闘いを終えて」

第六十二伝です。ついに長かった闘いに終止符が打たれました。ただ、話の終止符はまだまだです。どうぞ、ご覧ください。

 氷が本部より授かったもう一つの時空鏡をかざすと、時空鏡はそれに応えるようにギュルギュルと音を立てて、別空間に迷ってしまった者たちを元の空間へ戻してあげた。

 まずは、自分も被害者ではあるが保護役としてやるべきことを全うしたアリサ、そのアリサを本部から助っ人として派遣され窮地を救った氷、そしてこの一件の首謀者である半蔵の三人が元の空間に戻ってきた。

 戻ってきた先は、エンぺラティアへ来て最初に訪れたサード・エンぺラポート。空は鉛のように暗く、整備されているコンクリートも濡れている。鉛色の空から僅かではあるが雨がポツリポツリとさらにコンクリートを湿らせる。

「そうか、元の世界は雨が降ってたんだ……」

 アリサは、そう言えば異空間は雨が降っていなかったなあと思いつつ、久しぶりにもといた世界に戻ってきての第一声をあげた。

 そしてほどなくして、右も左も分からないまま別空間に飛ばされた龍達、そんな彼らを半蔵の命令で襲った斬竜達、そして龍達を助太刀したナーガ達、総勢12名の将来有望な若武者達も元の空間に戻ってきた。

「ここは、俺達がエンぺラティアに来た時に最初に訪れた港じゃねーか! やったー、戻ってきたぜー!」

 普段は閑散としている港にこれでもかと集結した豪華な面々の中で最初に声を出したのは、エンぺラティアでの交流会を誰よりも楽しみにしていた剛だった。剛は、元の世界に戻った喜びを万歳をして素直に表現した。しかし、彼にとって予想外の襲撃も刺激的で楽しかったと考えていた。

 それに続き、龍、進、凛は声には出さないものの安堵の表情で喜びを表現した。と同時に、疲労とか痛みとかが一気に襲ってきて龍、進、凛、剛の四人はチームメイトだけあって息ぴったりに、ほぼ同時のタイミングで座り込んでしまう。

「みんな大丈夫だった?」

 そんな四人の保護役を本部から仰せつかったアリサは、座り込んでしまった四人を心配して、まだこんな余力があるのかというようなスピードで駆けよってきた。

「俺達はししょーの教え子ですよ。ししょーの教えを受けた俺達がこんなところでへばるわけにはいかないですよ」

 剛は膝と手を地面について、前のめりになっていかにも苦しそうな体勢をしながら、師と仰ぐアリサに心配かけまいと頼もしいことを言ってきた。アリサはそんな頼もしい教え子である剛をギュッと抱きしめた。

「良かった……本当に良かった……」

 アリサは剛を抱きしめながら、涙を流した。


 その一方で、まるで今の空のようにどんよりとした空気を放出しているエンぺラバトラ達。斬竜、ラギア、恐香、瞬の四人は円になりながら、濡れている地べたに尻もちをついている。

「仕事は失敗や」

 斬竜はため息交じりに、今自分達が置かれている状況を端的に仲間に報告した。

 失敗……。

 この単語が四人の頭に鈍器のように猛烈に叩いた。

「これから僕たちどうなるんだろうね?」

 次に口を開いたのは瞬。瞬は今自分達がやってしまったことと照らし合わせながら、今後の不安を口にした。

 瞬は一流のバトラである氷の子どもということもあり、英才教育を受けていた。エンぺラティアの戦校である帝校でも常にトップクラスの成績。そんなエリートの致命的な過ちだった。

「グチグチうるせー奴らだな、男ならもっと堂々としろ」

 情けない言葉を口々に言う男達にいら立つ恐香は、両手で地面をバンと叩きながら言った。

 雷連進、君とはどこかで……。

 ラギアはそんな三人をしり目に、目をつぶりながらまったく違うことを考えている。

「残念ながら、わしらは失敗してしまった」

 そんな四人に、半蔵がゆっくりと近づき、斬竜達と同じ目線になるようにしゃがみながら話した。

「すまんな、あんたの役に立てなくて」

 斬竜は半蔵に頭を下げて言った。斬竜はこの計画の失敗を少なくとも自分達の失敗であると考えていた。

「いや、お主らの責任ではない。わしが私情に走り過ぎたのが失敗の原因じゃ。お主らを巻き込んですまなかったな」

 半蔵の自慢の白ひげは雨によって湿ってしまった。半蔵の目も確かに雨か涙か分からないが濡れていた。


「半蔵おお!」

 降りしきる雨の間を裂くように、どこからか半蔵の名を叫ぶ声が聞こえてきた。

 その声の主は無心で雨にぬれたコンクリートを足でビチャビチャと音を立てながら、かなりのスピードで半蔵のもとに近づいてきた。声の主の正体は、エンぺラバトラの軍服に身を包んだ女流バトラであった。そう、アリサ達と同じく半蔵の手によって訳分からない空間に閉じ込められたエルヴィンだ。

 エルヴィンはその借りを返そうと、左手で半蔵の胸ぐらをつかみ、右手を得意の突きの構えにした。そんなエルヴィンが奇襲した瞬間、斬竜、ラギア、恐香、瞬の四人は半蔵を守るためにエルヴィンの体やら腕を掴み止めさせた。

「離しなさいよ、貴方達はこの男に利用されたのよ!」

 エルヴィンはそう言って、斬竜達の手を強引に振りほどこうとした。

「いやや、確かにわい達は利用されたかもしれんけど、半蔵はんはわいらの戦友や。手え出すゆうなら容赦はせんで。なあみんな?」

 斬竜はエルヴィンの目にこう語りかけ、掴んだエルヴィンの右腕を離そうとはしなかった。そして、斬竜の言葉を受け、ラギアと恐香と瞬は首を縦に振った。

「ちっ」

 エルヴィンは舌打ちをして、斬竜達の熱意に堪忍したかのように力を抜いた。

 それを受けて斬竜達がエルヴィンから離れると、エルヴィンは半蔵に背を向け今度は龍達がいる場所へ歩いていった。

「お主ら……ありがとう」

 半蔵は口を真一文字に結び、今にも泣き出しそうな表情で斬竜、ラギア、恐香、瞬の事を一人一人見渡した。


「我々、エンぺラバトラがご迷惑をかけすみませんでした」

 龍達のもとにやってきたエルヴィンは、深々と頭を下げ謝った。

 彼らはただの客人。何の非もない。そんな彼らが突然エンぺラバトラに襲われのだ。十ゼロで自分達エンぺラバトラが悪い。

 だからこそエルヴィンはプライドを捨て、謝った。許してくれるかは分からない。いや、許してくれないだろう。

 だが、謝らないといけない……。

「エルヴィン……!」

 龍、進、凛、剛、アリサの五人は口を揃えて言った。格好こそ全く違うものの、この顔には見覚えがあった。

 そう、五人は裏闘技場で嫌というほどこの女にお世話になったからだ。

「はっ、貴方達は裏闘技場の時の……」

 エルヴィンも龍達の事に気付いたようだ。エルヴィンは途端に申し訳なさそうな顔をした。

 何の非もなく裏闘技場に迷い込んでしまった少年少女。そんな彼らを自分はボロボロになるまで追い込んでしまった。こちらも十ゼロで自分に非があったからだ。

「あの時は悪いことをしたわ」

 エルヴィンは今一度、龍達に深々と頭を下げて謝った。一度ならず、二度もこの人達に怖い思いをさせてしまったことに相当な罪悪感を抱いている。

「エルヴィンちゃん、顔をあげていいよ」

 アリサはエルヴィンの肩を優しくポンポンと二度叩いた。

「ところで、貴女は誰?」

「誰って嫌だなー」

「その豊満な体……。まさか、アーリー★スターだな! 次こそ倒してやる!」

「はっ!」

 そう言えば私、あの時アーリー★スターとして覆面をかぶってたんだ……。


 しばらくして、各々が闘いの疲れをいやしているエンぺラバトラに一人の男がやってきた。その男はガチャンガチャンと騒々しい金属音を立てながら登場した。

 その男の格好を見るとあらびっくり。キラキラ輝く、砲弾くらい余裕ではじきそうな分厚い銀の金属性の防具を脚から胸まで装着しており、背にはこれまたド派手な赤、黄、青、三色の色鮮やかな一回り大きな剣を装備している。その男は、その装備が重いのか歩くのがどう見ても遅い。

「総帥!」

 エルヴィンはその男を見るなり、驚きの声をあげ、その男に敬礼した。エルヴィンですらかしこまってしまうその男はエンぺラティアのリーダーである火雷弾だ。そう言えば、自ら戦地に赴くと言っていた。

「遅くなってすまない。エルヴィン、大丈夫だったか?」

 弾はガチャンと音を立て、重そうに一歩を歩みながら、総帥として一エンぺラバトラであるエルヴィンに心配そうに言った。

「私は大丈夫です。それと、お言葉を返すようですがその格好は何ですか?」

 エルヴィンは弾の異様ないでたちをまじまじ見つめながら質問した。いくらなんでも異常な重装備だったからだ。

「実は私は超がつくほどの心配性でな、ここまで装備を万全にしないと不安で仕方ないんだ」

 この言葉にエルヴィンは、そうなんですかとしか言いようがなかった。

「それと、君達が交流会の招待メンバーだね?」

 弾は首をくるっと60度ほど曲げ、今度はアリサに話しかけた。

「は、はい!(格好いい人……)」

 アリサは頬を赤らめ、弾の顔をじいっと見つめながら答えた。どうやら、弾のキリっとしたつり目が心臓を射ぬいたようだ。

「今までのご無礼許してくれ」

 総帥が直々に頭を下げた。防具のカカカっという金属音が邪魔だったが。

「ぜ、全然いいんです」

 エンぺラバトラの頂点の人間が自分に頭を下げている。

 どれだけ自分がそうなる立場であっても、申し訳なくなった。アリサは両手を前に掲げながら横に振った。


 弾はまたガチャンガチャンと重々しい音をあげながら歩いていった。

 次に弾が訪れたのは、すっかり蚊帳の外においやられているナーガ達、ダイバーシティからの助っ人達だ。

「あなたがたが秀錬さんが手配した増援ですね。ありがとうございます」

 総帥自らまたまた頭を下げた。この男、大帝国のリーダーにも関わらずやけに低姿勢だ。

 この謙虚な振る舞いが、エンぺラティアに住んでいるありとあらゆる人達の支持を集めたのだろう。

「は、はい。そうです」

 帝国の総帥に話しかけられた氷は、明らかに緊張しいた、珍しく声を震わせながらなんの面白みの無い返答をした。

「なんですか先生、その返しは? 他国のお偉いさんに緊張するなんて、いい大人が情けないです」

 太郎が痛いところを突いてくる。これでは、教え子の太郎にこんなことを言われても仕方がない。

「はー、はー。凄い……!」

 先ほどから弾をまじまじと凝視しているナーガの様子が変だ。体を震えて、目が充血している。

「ちょっと、こんなところで発作を起こさないでくれっすよ、ナーガ」

 黄河の言うとおり、ナーガ特有の強者を見てしまうと、その人と闘わずにはいられないという厄介な発作が起こっていた。つまり、弾はそれほどまでに強者であるということだ。まあ、帝国のリーダーなのだから当然なのだが。

 弾は、また騒々しい金属音を立てながら、氷達を後にした。それと入れ違いになるように、瞬が氷のもとにやってきた。

「父さん……」

 瞬は父親である氷の目の前に立つなり、申し訳なさそうな表情で口を開いた。

「瞬か、久しぶりだね。元気だったかい? こっちはのんきにやっていたよ」

 いつもと変わらない父の声、父の空気、父のにおいだった。

「僕は……僕は……」

「ダイバーバトラってだいぶ強いでしょ?」

 なかなか言葉が出ない我が子をフォローするように、父は話を繋いで上げた。

「うん……そうだね……」

 瞬は顔を下にして父に顔を隠した。今まで父親に一度も見せたことの無い情けない顔を見られたくなかったからだ。


「半蔵さん、やってくれましたね」

最後に半蔵のもとにやってきた弾は、半蔵の小さな背中に語りかけた。

「弾、最後にこんなわしの願いを一つだけ聞いてやってもいいか?」


 ☆ ☆ ☆


 数日後。龍達は無事にダイバーシティに戻ってきた。

 一応、あの後交流会は行ったのだが、龍達はエンぺラティアに対して恐怖感が植え付けられていたので、あまり楽しめなかったというのが本音だ。剛だけは心底楽しめたようだ。龍と進と凛は初めて単細胞がうらやましいと思った。

 事件の共犯者となってしまった斬竜、ラギア、恐香、瞬だったが、将来のエンぺラティアを担う有望なバトラ候補生ということもあり弾の配慮で弾の目が届く帝国タワーでの数ヶ月間の労働ということで手を打った。


 話は変わって、ダイバーシティにはパンドラハウスという施設がある。

 この施設は、刑務所と同じような施設で、行動を自由にさせては危険と国がみなした人をパンドラハウスに閉じ込め行動を制限させる機能がある。こういった危険人物の事を”縛人ばくにん”と呼ぶ。そんなパンドラハウスにこの日、新たな住民が収容されることとなった。

 帝国でダイバーバトラの襲撃事件の首謀者である時偶半蔵、その人である。

 半蔵は忙しく初日から面会が組まれていた。半蔵は国のバトラである看守によって連れられた。塗装がはがれている汚い机と、ただのパイプいす、電気が切れかけているのか部屋は薄暗く、いたるところにクモの巣が張っている気味の悪い部屋。ここが面会場のようだ。

 半蔵は看守の言われるがままにパイプいすに腰掛けた。両サイドには看守が目を光らさせて半蔵を監視している。数分が立ち、ドアがガチャリと開いた。一人の男がやってきた。その男はスウェット姿でまるで寝起きのような格好だった。小門秀錬である。異例の本部長直々の面会だ。

 勿論、両サイドには屈強なボディガードが秀錬を守るようにして立っている。半蔵と秀錬、そして双方の両サイドに看守とボディガードという異様なフォーメーションで面会が始まった。

「勝手ながら、あなたの素性は調べさせていただきました。まさか、あなたがダイバーシティ創世記の”伝説の五英雄”の一人だったとはね」

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