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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
62/67

第六十一伝「頼もしい助っ人【2】」

第六十一伝です。第六十伝『頼もしい助っ人』の続きとなっております。助っ人って本当に頼もしいですよね。どうぞ、ご覧ください。

 狭い路地に死を意味する毒の川が大量に流れていた。龍が死を覚悟したその時、青々とした清き水が、汚らしい毒を完全に洗い流した。

「ギリギリ間に合ったっすかね」

 水の流れに乗って現れたのは、助太刀に参上したナーガチーム一の努力家で、交流戦では龍と激闘を演じた水堂黄河であった。せっかくの新品の制服が水にぬれぐちょぐちょだ。

「何が起きてる……?」

 半ば人生を諦めかけていた龍は、今の状況を理解するには時間が必要だった。

 黄河は、そんな龍の肩を優しく背負い、安全な場所に避難させてあげた。ここで、やっと龍は状況を理解しはじめた。

「黄河……先輩……?」

「久しぶりっすね龍、ここまでよく頑張ったっすよ」

「なぜ先輩が?」

「トラブルに巻き込まれてる龍達を助けるために、本部が僕達を助っ人としてエンペラティアに派遣したんすよ。僕達がバトラになって初の大仕事っす」

 とにかく助かったああ!

 龍は生まれて初めて命の危機に陥っていた。その命を救うために、かつての敵が仲間となって助けてくれた。その嬉しさたるや尋常ではあるまい。

「なんやねんお前? そっちの助っ人かなんかか?」

 斬竜は首をぽきぽき鳴らし怪訝な顔をしながら、新たに参戦してきた男に尋ねた。

 どうやら、獲物を邪魔されたことに不機嫌になっているらしい。

「そうっす、水堂黄河っす、よろしくっす」

「名前なんてどうでもええねん、わいは六角斬竜っちゅうもんやけどな。ちゅうかお前のせいで仕留め損ねたで、どうしてくれるんや?」

「お詫びに僕が相手になってやるっすよ」

 黄河は自信満々に答えた。それが斬竜にはたまらなかった。

「おもろいやんお前、死の川!」

 斬竜はおもむろに左手を正面に突き出した。

 もはや斬竜には先ほどまでの不機嫌さは星の彼方へ吹き飛んでしまった。

 新たな刺客の挑発的な態度。それが斬竜の異様な戦闘意欲を掻き立てていた。

 斬竜の左手に反応するかのように、またしても毒が黒い川となって龍、黄河二人いっぺんを飲み込みにかかった。

「龍、さがってくれっす。こういう相手は僕みたいなのが適任っす。服は濡れるけど勘弁してほしいっす」

 黄河は崩れそうにもない自信に満ち溢れた言葉を龍に言い聞かせ、両手をばんざいするかのように挙げた。

 液体系のスペシャルは液体系のスペシャルで……。

 黄河はバトラになってから半年あまりで自分の長所を完璧に把握していた。

「新技っす! 海原!」

 ゴゴゴゴという音を立てながら、黄河の体から大量の水が湧き出てきた。

 その水の量たるや尋常ではなく、黄河と龍のももあたりまで浸水した。その様子はまるで小さな海のようである。

 その海と毒の川が入り混じる。綺麗な青色をしていた海が、毒と混ざり合いどぶのような汚らしい色に変色した。

 黄河という名のダムから創り出された海は変色しながらも斬竜もろとも飲み込んだ。

「やるやんけぇ!」

 体の芯からびしょびしょになった斬竜は、新たな刺客のスペシャルに興奮を覚えていた。

 もっと闘わせろや!!

 斬竜は有り余る闘争本能に駆られ、黄河を全速力で斬りにきた。しかし、斬竜の自慢の毒は、黄河の海によってすっかり洗い流され、先ほどまでの恐怖感はまるでなかった。

「ぜえぜえ……」

 そうはあろうと、黄河は編み出したばかりの大技を使い、反動でスタミナをきらしてしまった。いくら毒が抜けたとはいえ、斬竜の剣の斬れ味が落ちると言うわけではない。

 動けない黄河を先頭の鬼と化している斬竜が見逃すはずがなかった。斬竜は狂気の目で動きが鈍った黄河を斬りにきた。

 斬竜の魔の手がいざ襲いかからん……!


「……おい龍……最後くらい貴様が決めろ……」

 いつの間にか傍観者にジョブチェンジしていた龍の耳に不意に鳳凰剣から声が聞こえた。鳳凰剣に一旦退き、傷ついた体を休めていた鳳助からだった。

 野次馬のように闘いの様子を見ていただけの龍はここでハッとした。

 そうだ……。

 これは俺の闘い……。

 俺が決めないと……!

 鳳助はそれを気づかせてくれた……。 

「鳳助、いつも俺のことを思ってくれてありがとう」

 龍は自分が本当にやるべきことを示してくれた鳳助に感謝を示した。

「んなことはどーでもいい、早くしろ!」

「ああ」

 鳳凰剣は龍の炎を受けて、昔を懐かしむように、そして今の龍の気持ちを代弁するかのように荘厳と紅色に燃え上がった。

 これが俺の”闘い”だああ……!!

「鳳凰斬・緋祭!!」

 それはこの局面を考えると驚くほど単純な縦振りだった。

 これは龍が鳳凰剣を手に入れ、最初に編み出した思い出深い技だ。それを龍は今あえてこの場で使った。

 この判断が功を奏したのか、斬竜の剣を弾き飛ばした。斬竜の剣は回転しながら宙に舞った。

 これだけでは終わらなかった。鳳凰剣のニ撃目。このニ撃目は、武具を持たない無防備な斬竜の体にクリーンヒットした。

 しかし、そんな攻撃を受けても斬竜は倒れ込むことなく、自分の生き様を表現するかのように仁王立ちしていた。

 わいは”逃げ”へんで……!

 逃げずに闘う……。

 これを龍に身をもって教えるために……!

「ま、まだやるんすか!」

 黄河はその姿に畏怖を覚えた。

 しかし、斬竜の様子をよく見ると、体がフルフルと震えながら目が泳いでいた。仁王立ちをしているにも関わらず、ギリギリの状態だった。おそらく世界で一番ボロボロの仁王だろう。

 そんな世界で一番ボロボロの仁王は、世界で一番たくましい仁王だった。

「お前、いいもん持ってるやないか、名はなんて言うんや? わいは六角斬竜や」

 斬竜は体を震わしながら、龍に語りかけた。

 自分が認めた強敵ダチの名を知りたいから……。

「あなたは俺に闘うことから逃げるなということを体で表現するために、そんな振る舞いを……?」

 もしかしたら俺のために……と過去の斬竜の発言、行動を照らし合わせてふと思った龍は、斬竜に突拍子もないことを聞いた。

「深読みしすぎや、で名前はなんて言うんや? わいは六角斬竜や」

「龍、一撃龍」

「なんや、お前も”リュウ”かいな。いいダチになれそうやな……必ずこの闘いの決着ケリつけようや」

「ああ」

 斬竜は龍と約束を交わした後、決して倒れないというバトラの生き様を龍に見せるように、立ったまま気を失った。

 龍は新たにもう一つ新しい約束を交わした。


 ☆ ☆ ☆


 ゆらゆらと風でなびく巨大な木。

 そんな木の下で、今まさに決着の時が訪れようとしていた。その木の木陰に、まるで木のように風になびかれゆらゆらと立ちすくむラギア。

 その横に人の倍ほどのサイズがある人の体をかたどった化身の姿が。その化身は、頭の上に黄金のリングを浮かせ、顔立ちは整っており、真っ白い絹のような服を身につけている。手には銀色のフォークのような槍を持っている。そんな、夢物語のような神みたいな風貌をしている化身が、進に裁きを下した。

 その進はというと、何者かに戦場から少し離れた林の中に連れ去られて、間一髪のところで助かった。

「僕を本気にさせた男がこんな無様な姿になってちゃ、僕の面目もたたないよ♪」

 進を連れ去った謎の男が話しかけた。その男はピカピカの制服に真っ黒いマントを羽織った、奇抜なファッションをしている。

「誰だ……」

 進の意識が戻った。しかし、進はまだ自分の身に何が起こったのか全く分かっていない。

「やだな、もう忘れたの? 君をボロボロにしてあげた邪化射ナーガだよ」

 そう、進を間一髪のところで救出した者の正体は邪化射ナーガ。このチームの絶対的なリーダーかつ絶対的なエースで、交流戦の時に最後の最後まで進を苦しめた張本人だ。ナーガvs進の交流戦最終戦は戦校の名勝負として語り継がれているほどだ。

「ナーガか! 俺はお前を倒すために! いっ!」

 このカンにさわる声と喋り方。 

 進はたったこれだけの材料で即座に謎の者の名前を即座に言い当てた。

 進はこの声に激しく反応し、体をがばっと起こした。それもそのはず、進はこの男を倒すために、己に厳しい特訓を課し鍛えぬいたのだ。しかし、無理に体を起こしたせいで、ラギアにやられた傷が痛み出してしまった。

「待って待って、今回の僕は味方だよ♪ 同じダイバーバトラなんだから、これからは仲間だよ♪」

 ナーガは傷んでいる進の体をなでながら、優しく語りかけた。あの時、進を苦しめまくった恐怖感のかけらもなく、今そこにいるのは優しいダイバーシティの先輩バトラだった。

「まさか、君がこんなに弱いとは思っていなかったけどね♪」

 とはいったものの、一言多いことは変わっていないようだ。

「お前、ふざけ……!」

 ナーガのとげのある言葉に、進の堪忍袋の緒が切れる。このやり取りも、なにか懐かしさを覚える。

 その様子をラギアは化身を従えながら嫌に冷静に見つめていた。

「冗談、冗談♪ 君、とんでもないカードを引いてしまったね。君の相手、素人のレベルを軽く超越しているよ。なにあのスペシャル? 僕も大概だけど、あんなスペシャル見たことも聞いたこともないよ。レア度で言ったら超がつくほどのレアスペシャルだね」

 ナーガは途端に真剣な表情に風変わりし、ラギアの隣に粛々と立っている異様な化身を指さしながら言った。


「効くかどうかわからないけど……三眼幻想第一幻・魔幻!!」

 ナーガは交流戦で散々進を苦しませた、邪化射家の正当後継者たる証である禍々しい黄色の眼を、右手のひらという異様な場所から未知なる敵であるラギアに見せつけた。

「ゴホッ、ゴホッ。まさか、”女神の加護”だけではなく”神の裁き”まで使うことになるなんて……」

 ラギアは初の幻想をもろに喰らいせき込んだ。幻想を受け、さらに二つの大技を使ってしまい、病弱のラギアにはとうに限界が訪れていた。

 ラギアは地面に膝をつき、手をつき、四つん這いのような情けない体勢になっていた。

 そこに、わき腹を押さえながら、慎重に慎重に進が近付いてきた。

「……少しは闘う意味が理解できたか……?」

 神の裁きを受け限界を迎えている進はなんとか声を振り絞り、同じく病気が再発して限界を迎えているラギアに訊いた。

 まるで昔の自分を見ているようなラギアに、進は他人事ではいられなくなっていた。

「なんとなく分かった。君と闘っている時に心臓の奥が少し熱くなった」

 ラギアは自分の心臓を手で押さえながら答えた。

 闘いは永眠していた心を蘇らせる……。

 それは昔、進が実際に体験したことだった。今度はそれを相手に教えた。

 進はよくわからない達成感を得ていた。

「それはよく分からないが、きっかけができたのならそれでいい」

 そんな偉そうなことを言った後、一対一では負けていたという事実が進の頭に猛烈に襲いかかってきた。

「俺は……まだまだだ……」


 ☆ ☆ ☆


 こちらもフィナーレを迎えようとしているアリサと氷、そして半蔵。

 最後の決戦を盛り上げるかのように、風で砂浜にある大量の砂が舞った。

「おい勝手に話を進めるな! そこの小僧、なぜこの空間に入ってこれた!?」

 アリサと氷の平穏な会話に我慢できず、半蔵は面白くない顔で割って入ってきた。

 ここは自分しか自由に行き来できない絶対的な空間……。しかし、第三者が我が物顔で自分の意思とは関係なくこの空間に侵入してきた……。

 そんな計算外の事象が自分の肉眼に色鮮やかに捉えてしまったので、半蔵の癪に触っていた。

「これです」

 氷は半蔵とは正反対の落ち着いた顔で、今回の仕事の鍵となった”もう一つの時空鏡”を半蔵に見せてやった。

 それを見た半蔵は、さらに面白くない顔をして見せた。

「この時空鏡はロワード・ジャルダンの世界に二つとない門外不出の作品だぞ! 他にあるなどふざけた話があるか!」

 半蔵は自分の頭の中にある事実が否定され、動揺を隠しきれない様子で怒鳴った。

 それは自分の完璧に練られた計画書が、ビリビリに引き裂かれるような予感がしたからだ。

「本部長から聞いた話だと、どうやらジャルダンさんのお弟子さんがあなたの暴走を危惧して創られたそうです」

 氷の言葉に半蔵ははっとなった。

 遠い遠い過去の記憶を想起させ、ジャルダンが言ったであろう言葉を思い出した。

「そう言えばジャルダンは時空鏡のことは今のところ弟子しか知らないといっていたな。余計なことをしてくれた」

 半蔵は口をイの字にし舌打ちをしながら言った。自分の完璧なる野望を目に見えぬところで工作されて腹が立っていた。


「だが一人増えたところでこちらは三人だ、攻略はできまい!」

 これはこれ、それはそれといった感じで先ほどの険しい表情とは打って変わり、半蔵はニッと不敵に笑いながら言った。

 強くなった……。

 その事実が半蔵の心というベースに確固たる自信を装着させていた。

 そして、アリサをあと一歩のところで仕留め損ねた三人に増殖させて一斉に襲いかかる攻撃を再度試みた。

 すると、辺りの景色が霧のように白っぽく見え始めた。

 三人の半蔵は動こうとはしない。いや、動けないのだ。

 しばらくして、パキッパキッという音が三人の半蔵から聞こえ始めた。そして、半蔵の指先が紫色に変色し始める。

「私のスペシャルは名前の通り氷、私に氷を出させたということは私をおこおらせた(怒らせた)ということです」

 氷は得意のダジャレを用いて、自分のペースに徐々に半蔵を持ちこんだ。

「なめるなあ!」

 半蔵は自分が押されていることが気に入らなかった。

 ダイバーバトラ時代に仲間からバカにされたことが蘇ってくるからだ。 

 半蔵は一瞬にして氷の背後に瞬間移動した。空間を自由自在に動けることをすっかり忘れていた。

 完全に後ろを取ったはずなのに、半蔵は微動だにしない。途端に、半蔵の体が透明な氷の棺桶によって包まれる。

「私から半径30m以内の空間は私のアイス世界ワールドによって支配された。あなただけの空間ではありませんよ。後はアリサ先生、決めちゃってください」

 アリサは氷の言葉にコクリと頷き、動くことができない半蔵との距離をゼロ距離に詰め、跳躍した。

「アリサ拳撃★ 星転順回!」

 アリサは跳躍しながら、まるでベイゴマのように超高速で回転し始める。その回転を利用して、半蔵を凍結させている氷を削り取りながら、半蔵の本体までもえぐっていく。

「うあがっがあが!」

 文字の起こすことができない、叫び声を上げながら、半蔵はアリサの回転の影響を受け、自分の体を回転させながら吹き飛んだ。

 半蔵は砂浜に叩きつけられ、砂にコーティングされながら、ころころと転がった。正義の鉄槌がよどんでしまった半蔵んお心をさばいた。

「エンペラティアでの上層部復帰も、ダイバーバトラに復讐も諦めなさい」

 アリサは転法で、氷の破片と砂の粒まみれになってすっかり無様な姿になった半蔵にむかって言った。正義の審判をアリサが下したのだ。

「わしは、わしは……!」

 強い……!!

 半蔵は最後の力を振り絞り、アリサの目ん玉めがけて脇差をついた。

 自分の強さを他人に示すために……!

 しかし、残念ながら半蔵の願いは届くことはなかった。アリサは手刀で、あっさり半蔵自慢の脇差を弾き飛ばした。

「わしは、失敗してしまった……。ダイバーシティにもエンペラティアにも居場所を失った……どうすればいいんだ……」

 半蔵はここで全てを失ってしまった。

 地位も野謀も全て……。

 半蔵は絶望した。自分の人生すべてに。だから、遥かに年下のアリサに躊躇なく問うた。

「あなたのやるべきことは一つ。しっかりと罪を償い、ダイバーシティの為に、そしてエンぺラティアの為に闘うこと」

「くっ……このような小娘にそんなことを言われるとはな……最後にこれだけは聞かせてくれ、お主からみてわしは強いか?」

 アリサは半蔵の質問に一瞬戸惑いを見せるも、力強きながらしゃべり始めた。

「うん。強いよ★ 氷先生が助けに来てくれなかったら負けてたもん★ きっと、永錬さんって人も喜ぶと思うよ★」

「そうか……良かった……」

 半蔵はアリサの言葉を受けると、スッと気を失ってしまった。しかし、半蔵の表情は晴れやかに見えた。

「元の空間に戻りましょう」

 氷は二人の様子を実に穏やかな表情で見つつ、本部から託された時空鏡を取り出した。

 こうして、帝国での苦しい、苦しい闘いは幕を閉じたのであった。

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