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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
55/67

第五十四伝「エンぺラティアの承認」

第五十四伝です。国を創るには他国の承認が必要なんですね。意外と知られてませんよね。それではどうぞ。

「へー、すごい自信だね。この光景を見せられて、そんなこと言えるなんて」

 マギアにとって永錬は今までにないタイプだった。

 普通の人間ならば、周りの仲間達が瞬殺されているのを間近で見てしまったら、恐れおののき戦意を喪失してしまうのが世の常。

 しかし、永錬は戦意を喪失するどころか、むしろ自信を持っているようにも見える。

 マギアは悦んでいた。

 最高のお友達が現れた事に……!

「これは幻覚の類だろ?」

 永錬は、このような真暗闇の非現実的な光景を見せつけられても精神が揺れることはなかった。

 永錬は相手を丸裸にしてように、背に携えている刀を掴みながら指摘した。

「すごい! こんなにも早く見抜いたのはあなたが初めてかも! あなたなら楽しく遊べそう!」

 それは完璧な解答だった。

 自分のスペシャルをこんなにも早く見極められたことの無いマギアは、まるで新しい生涯の親友パートナーができたかのようにはしゃぎ始めた。

 こういうときの永錬は実に迅速。

 目で追うこともできないスピードで刀を抜き、そのままマギアの体を斬った。

 しかし、羅山の時と同じように、まるで手ごたえがない。マギアがいた場所には、代わりに赤髪で黒いマントを着せたマギアによく似た人形がちょこんと座っていた。

 辺りにはマギアの姿はどこにも確認できなかった。


「……私と……遊んでええ!」

 大きな声が人形の周辺から聞こえてきた。

 いや、違う。人形そのものから聞こえてきた。

 それは、つまり人形がしゃべったということになる。ありえない事が今、永錬の目の前で起きている。

 早いな……。

 もうかけられたか……。

 永錬は世界中の様々な兵と闘ってきた圧倒的な経験値を用い、すぐさま幻覚にかけられていることに気づいた。

「……私と……遊んでええええ!!」

 人形はさっきよりも強い調子でしゃべった。

 そして、人形は栄養を得たかのようにみるみる大きくなっていく。そして、等身大の大きさまで成長してしまった。

 カタカタカタとカラクリ人形のような音を立てながら人形は口をぱっくり開けた。人形の口の中はサメのような鋭利な歯がびっしりと並んでいる。

 人形は、おじいちゃんと遊びたい孫のように、永錬の胸に飛び込んできた。

 永錬は刀を盾にして人形の侵攻を阻んだ。

 その時だった。

 人形の大きな口が刀をガブリと噛んだ。

 口の中に息をひそめていた鋭利な歯たちが刀を噛み砕く。永錬の紋章刀の美しい刃は、音を立てて砕け散った。

 しかし、永錬は動揺したそぶりは何一つ見せなかった。幻覚だと分かっているからだ。

 永錬は躊躇なく、素手で人形を殴った。

 人形はポスっとという空気をしぼませたような軽い音をたて、吹き飛ばされ、背を地面に叩きつけられた。

 幻想の弱点は幻想だと見抜かれること。その弱点をなくすために、ナーガは進との交流戦で幻想と現実を織り交ぜる手法を発案したのだ。

 だが、この当時はまだその手法は考えられていなかった。

 人形は観念したかのように一旦姿を消すし、マギアがまるでシフト制のように代わりに現れた。

 こんな摩訶不思議な状況、普通だったら精神崩壊を起こしても不思議ではないが、永錬の精神はいたって正常を貫いてた。


「久しぶりだよ。こんなに遊ぶことができる人は。もっと楽しもっか!」

 マギアが興奮気味にそんなことを話した後、マギアが二人現れた。

 いや、どんどん増え始める。最終的には五人までに増えた。

 分身か……。

 四人は偽物……。

 ただ、本物を見分けることができないか……。

 永錬は今までいろいろな経験をさせてきた脳をフル回転させて、この異様なる状況に立ち向かう。

 五体の分身の内、永錬から見て一番左の分身が手始めに永錬に向かって走り出した。

 五体のマギアの右手には先ほどの人形をもっている。人形は口を開いて鋭利な歯を見え隠れさせていた。

 人形は貪欲にも走り込んでいる永錬にも、容赦なく大きな口に収納されている鋭利な歯を見せびらかしながら突っ込んでいった。

 永錬は四つん這いの体勢になって、人形の攻撃をかわした。

 そして、四つん這いの体勢のまま、背中を突きあげマギアの腹にアタックした。

 そして、間が開かないうちに、マギアの体はさっさと斬ってしまった。

 しかし、マギアは煙のように消えてしまった。どうやら分身だったようだ。

 マギアは間髪いれず次の行動に出た。今度は本人が、それも三体同時。三体のマギアが永錬の上にのっかりそのまま押しつぶした。

 しかし、永錬は全くひるむことなく、そのまま立ちあがり、一振りずつマギアを斬り、計三振りで三体のマギアを仕留めた。

 三体はまたしても煙ののように消し去ってしまった。やはり、これも分身。

 となれば、真正面に立っているマギアこそ本物のマギアだ。

「すごい、すごいよ。こんなに遊んでくれる人初めて! もっと遊んでよおお!!」

 それは狂気と呼ぶにふさわしい異様な声と表情だった。

 マギアは狂気に満ち満ちとした笑顔をして、永錬に高笑いをしながら言った。

「悪いが、遊びはそろそろ終わりだ」

 永錬の目的はマギアと遊ぶことではなく、屈服して国創りのメンバーに引き入れること。

 久しぶりに遊び相手を見つけて、興奮しているマギアとは対照的に永錬は冷たくあしらった。

「終わらせないよ! こんな楽しい時間!」

 マギアの体が次第に人形に変化していく。

 ただの人形ではない。両腕に愛くるしい手の変わりに、おぞましいチェーンソーが取り付けられていた。

「もっと……あ゛そ゛ぼ……!」

 人形の声とマギアの声が重なりあった不快な声が、永錬の耳を震わせた。

 人形は飛行機のように滑空しながら猛スピードで飛んできた。

「出番だ! 紋章刀!」

 無の世界に、永錬の刀から忽然と輝きだす橙の光。虎の紋からまるで遠吠えのような音が聞こえ出す。

 紋章刀が深い眠りを経て目覚めたのだ。

 紋章刀はマギアにそっくりな赤髪の人形を綺麗に真っ二つに斬った。

 可愛らしい人形は見る影もなく、真っ赤な鮮血が顔を染め、気味の悪い見てくれと化してしまった。

 これが決め手となり、幻想はとかれた。


 そして、元の世界に戻った。

 元の世界は、さっきの真っ暗な部屋が嘘のように、陽の光を浴びて明るい。

「全然殺せる気がしないや……がっかり……でも、こんなに遊んでくれた人初めて……うれしい」

 マギアにとって生涯初の敗北。それは、屈辱的なことだがマギアの心は陽の光のように明るかった。

 マギアは一回は顔を膨らませてふてくされるものの、さっきまでの不気味な顔とは正反対の実に晴れやかな表情で、綺麗な赤髪をなびかせながら、永錬に礼を言った。

「あんたと闘って分かった。あんたは、孤独だ。仲間を欲している。俺達と一緒に来ないか?」

 永錬はこの短い闘いを通じて、マギアの心の奥まで完璧に読み切ってしまった。

 永錬は説法を解く坊さんのようにマギアを説き伏せた。

 孤独……。

 この単語にマギアは心当たりがあった。

「孤独……そう、私は孤独……遊び相手が欲しかった……でも、みんな私を見ると恐がって逃げていった……でもあなたは違った……あなたは私に最後まで付き合ってくれた……ありがとう……」

 また一人、永錬という人物に魅了された瞬間だった。

 この時マギアは永錬に一生ついていくことを決めた。

「……うーん、ここは?」

「ん、朝か?」

「もうしません! 許してください!」

 今回全く役に立たなかった半蔵、羅山、類のお荷物三人組がようやく目を覚ました。

 大出遅れをかました三人は、何が起こったのか全く分かっていない。

「私の名前は邪化射マギア! みんな、よろしくね!」

 マギアは目を覚ました三人にとびっきりの笑顔で言った。

 それは、永錬の戦力集めが大成功した証明だった。

「えー! 永錬さんは一体どうやったらこの人を説得できるんですか!?」

 半蔵は永錬に驚いてばっかりだった。

 こうして、永錬が求めていた人材は永錬のカリスマ性もあってなんとか全てそろえることができた。新国完成へまた一歩前進したのであった。


 ☆ ☆ ☆


 それから、しばらくたったある日。

 新国の初期メンバーである小門永錬、時偶半蔵、一撃羅山、光間類、邪化射マギアの超個性的面々が訪れた地は大帝国エンぺラティア

 建国には他国の承認が必要不可欠になるからである。

 五人は似合わない正装で、承認を得るためにエンぺラティアのリーダー的な存在である、当時の帝国の総帥に会うために、大事な会合によくつかわれる帝国邸という古風なお屋敷にやってきた。

 整われた庭園と、高級感を漂わせる黒光りしたレンガの屋根がその屋敷の特別感を漂わせる。

 帝国の総帥と密会するのは大変困難なことではあるが、半蔵のエンぺラバトラの経歴が生き、すんなりいった。

 お屋敷の門の前に、花柄の着物を着た案内人と思われる女性が立ており、その女性は五人を見るなり一礼して中へ招いた。

 

 五人は案内人の女性を先頭として、帝国邸へ入るために庭園の石の足場をたどり、一歩一歩進んでいった。案内人の女性は茶色の地味目な引き戸をがらりと開け中に入った。

 五人もそれに続き、帝国邸の中に入った。

 中は意外と質素で、派手な飾りなどは何もなく、有名な人が書いたような絵画が飾られているだけだった。

 案内人の女性は、先が見えない長い長い廊下をひたすら突き進む。

 しばらく進むと左隣に美しい模様をしたふすまが見えた。案内人の女性はそこでピタッと止まり、ふすまを音をたてないようにゆっくりと開いた。

 中は十二畳ほどある畳の部屋。シンプルだが、非常に美しい内装だ。真ん中には大きな木製の机、机の上には人数分のお茶と菓子が置かれており、テーブルの左右には座布団が10枚ほど敷かれてある。

 五人はふすま側の下座に座り、総帥が来るのを待った。

「これから帝国のトップと会うわけですから、くれぐれも失礼の無いようにお願いしますよ」

 半蔵は四人に小声で念を押した。それにはわけがあった。

 類はともかくとして永錬、羅山、マギアには常識というものを知らなさすぎるからだ。あまりにも個性的な面々が揃っている訳だから致し方ないが。

「オレ達は大の大人だぞ、それくらい分かってるわ」

 羅山はそう言いながらも、胡坐をかき、テーブルに肘を置いている。半蔵の意図が全く伝わっていないようだ。

 はたから見ればこれから帝国のトップに会う人の態度とは到底思えない。

「半蔵氏はそういうところを言っているのですよ!」

 新戦力で唯一の常識人である類が、礼儀作法の先生のような美しい正座を見せながら羅山を注意した。

 類は羅山の両足を曲げさせ、正座をさせ、羅山の両手を持ち、両手を羅山のももの上に置いた。まるで、母親が子にしつけをするように。それを大の大人が大の大人にしているのだ。滑稽以外の何物でもない。

「んだよ、こんな体勢しなきゃいけねえのかよ!」

 羅山は、今までの人生比較的自由に生きていた。

 羅山はマナーという肩身の狭い常識に苦しんでいた。

「私と遊んでくれるかな?」

 マギアがここでとんでもないことを言い始めた。

 マギアが遊び始めたら取り返しがつかないことになる。それが周りの人間が分からない筈が無かった。

「それだけは絶対だめです!」

 類は羅山に続き、今度はマギアを強く注意した。類は帝国に来てから母親まがいのことしかしていなかった。


 そんなことを言っている間にガラガラという美しいふすまを開ける音が五人の耳に気持ち良く伝わった。どうやらお出ましのようだ。

 まず、スーツ姿の秘書らしき女性が姿を見せた。秘書の女性がふすまを押さえていると、帝国の黒い制服を身に纏ったちょび髭がトレードマークの50代くらいの男性が入ってきた。ただならぬオーラを放っているあたり、この男が帝国の総帥で間違いはないだろう。

「はじめまして。今日はよろしくお願いします」

 半蔵と類は総帥が入ってくるなり、すぐに立ち上がり頭を90度下げて挨拶をした。目の前の男が大帝国エンぺラティアをまとめ上げる総帥という揺るぎの無い事実が彼らをその行動をさせた。

 しかし、他の三人は部屋に入ってきた総帥らしき男を物珍しいものを見るような目で見続け、挨拶をする気配すらない。

「すみません。あまり礼儀を知らないもので」

 半蔵は三人を注意しようと思ったが、まずは総帥に謝ることが先決だと考えた。

「まあよい。私は帝国の現総帥だ。君達が建国を考えているのかね? リーダーは誰かな?」

 総帥は座布団に威風堂々と座りながら口を開いた。これぞ、総帥の威厳であろう。

「私だ。私の名は小門永錬だ。放浪バトラをしている」

 永錬は挑発的な態度で答えた。

 総帥だろうと、低姿勢を全く取る気がない。これが、上下関係というしがらみにとらわれない生き方をしてきた永錬の本分を表している。

 そんな永錬の強い一言で部屋の空気が凍り始めたような気がした。

「君がリーダーか。君は確かに人を引き付けるような感じは見て取れるが、そんな態度を取るようでは他国との信頼関係が無くなるぞ」

 さすがはエンぺラティアの総帥だ。凍った空気を融解しつつ、永錬に対して的確な指摘をした。

 おお……。

 永錬に強く、それも的確なことを言ってのけたエンぺラティアの総帥に、半蔵と類は心の中で頭を下げた。

「なるほど。考えさせて頂く」

 総帥は永錬を行動、言動をじっと観察しながら話を続けた。

 この人は……。

 対して半蔵と類は、永錬の株を落さざるおえなかった。

「建国については君らの事だ。私が反対する意味もないだろう。ただ、問題なのは我らの同盟国となるのか同盟国にならないのか。組まないのであれば敵国とまではいかないとしても、手助けは一切しない。もし、同盟を組むのであれば戦力や資金の提供をしたいが、もちろんただでとはいかない。見返りが欲しい。そこはどう考えている?」

「ここからは私から説明させていただきます」

 ここで類が強引にも会話の主導権を握った。こういう小難しい役は知識と教養がある類に任せる魂胆なのである。

 おねがいします類さん……。

 半蔵は心底、類をメンバーに引き抜いて良かったと思った。

「結論から言いますと、あなたがたと同盟を組みたいと思っている次第です。見返りは我が国の名産品、輝鉄です」

 類はそう言うと、内ポケットに大事にしまっていた、輝鉄の破片が入っている密閉されている袋を机の上に置いた。

「これをどうしろと?」

 総帥は目の前に置かれた辺鄙な物になんの心当たりもなかった。

 こんなものが見返りだと……。

 総帥は若干腹を立てながら類に聞いた。

「これは非常に固く上質な素材でして、そちらの国の優秀な技術者であれば、素晴らしい武具が創れるはずです」

 類は総帥のお眼鏡にかなおうと、総帥の目をじっと見つめ、力強く答えた。

 ふーむ……。確かに武具に使えそうな素材に見えなくもない……。

 まあ、同盟国が増えるに越したことはないしな……。

 総帥は国の為に冷静に考え、結論付けた。

「なるほど。その材料を我が国に提供しようと言うのかね。なかなか、考えているのだな。まあ、同盟の話は君達が無事建国できたらじっくり考えることにしよう。とにかく、建国の話は認めよう。国を創るには後、その土地の住民の同意が必要だな。まあ頑張ってくれたまえ。応援しているぞ」

 総帥は机に置いてあった茶をすすりながら答えた。

「ありがとうございます!」

 こうして、新国の初期メンバーである小門永錬、時偶半蔵、一撃羅山、光間類、邪化射マギアの五人は帝国から承認を無事得ることに成功したのであった。

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