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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
53/67

第五十二伝「戦力集め」

第五十二伝です。みなさんは人集めをしたことがありますか。僕は張り切って人を集め過ぎて予定より多くなってしまったことがあります。それではどうぞ。

 羅山が身の丈ほどの巨大な剣を振りかざしただけで、台風のような衝撃波が静寂を決め込んでいた辺りの更地を騒がせた。

 永錬は背で狸寝入りをしていた刀を目覚めさせるように抜いた。永錬の刀の鍔には、虎の絵が描かれた紋が、茶色の鍔に溶け込むように刻まれている。

 永錬はその刀を両手でがっちりと掴み、羅山の剣の刃を、永錬の刀で受け止めた。

 一線級のバトラの武具が交わった衝撃波は、先ほど羅山が剣を振りかざした時のそれよりはるかに強いものとなって、更地だけではなく、この衝撃波を生み出した張本人でもある永錬、羅山や、それを見入っていた半蔵、羅山の妻まで伝わった。彼らの肌を叩くようにして。

「半蔵、お前はさがれ」

 永錬の言葉に半蔵は一瞬耳を疑うものの、自分の立場をわきまえ、永錬の指示通りに戦場から一歩さがり、戦闘からフェードアウトした。

 私は力不足なのか……。

 永錬の退去命令は、即ち自分の力不足を分かりやすく示す指標。半蔵はこの時、自分の無力さに憎悪を覚えた。

「母さん、ここからの闘いは危険になる。家に戻っていろ」

 羅山は妻の危険を心配し、退去の指示を出した。野蛮な風貌の羅山ではあるが、こういう繊細な一面も持ち合わせている。

 羅山の妻はこくりとうなずくと、足早に家に入り、玄関を閉め避難した。


「オレの剣を受け止めるとは、国を創ろうとしているだけあってただものではないようだな。久々に身が入る闘いができそうだなあ!」

 羅山の心は踊っていた。

 久しぶりに骨のある獲物と出会えたことに……!

 羅山は体の内部に溜め込んでいる空気を外部に吐き出すように、ふんと気合いを入れた。

 すると、羅山の体からまたしても鋭い衝撃波が放たれた。

 しかし、ただの衝撃波ではなかった。永錬の肌は、その衝撃波に熱を感じ取った。

 そして、羅山の両腕、両足、体のいたるところから目に見えるほどの紅色の炎が噴き出していた。

 まるで、噴火直前の火山のごとく……!

 その溢れんばかりの炎は、次第に羅山の剣までしみわたっていく。

 炎を得た剣は、水を得た魚のごとく、活き活きと動いているように見えた。

熱中斬下(ねっちゅうざんげ)!」

 羅山は、炎を纏った剣を相手の心臓を貫くようにして突いた。

「岩肌!」

 永錬が息を吐くようにして叫んだ。

 すると数え切れないほどの岩が、永錬の身を守るかのように静を極めていた地中から大量にわき出てきた。その岩は城の外壁のように形成する。

 ズドゴオンという大地が叫んだような衝突音。羅山の炎の剣と、永錬が生み出した岩が正面衝突していた。

 一撃目こそ阻まれたが、羅山はひるむことなく堅牢なる岩壁に二振り、三振りと剣を一心不乱に振り続けた。

 その熱意が通じたのか、岩肌は音をたてて崩れ落ちた。

 意外にも簡単に崩れ散った岩だったが、これは次の攻撃の為の布石だった。人の上半身ほどある大きな岩は、拳サイズほどの小柄な岩へと変貌を遂げ、その岩が砂嵐のように羅山に向けて飛び散った。

 しかし、羅山も二重の攻撃態勢を敷いていた。

 羅山は自分の体から放たれている炎を切り離し、その炎で拳サイズの玉を量産していた。羅山は、ここぞとばかりに炎の銃弾を束にして岩の銃弾を相殺させる。

 見事に岩の玉と炎の銃は同時に粉々に砕け散り、物の見事に相打った。

「さすが攻撃力に特化した一族、一撃家の現当主といったところか。岩肌から岩弾の算段でダメージを与えられないとはな」

 永錬とて羅山同様に心を躍らせていた。

 この一分一秒も無駄にできない質の高い攻防戦。永錬は麻薬のような高揚感にさいなまられていた。

「それはこっちのセリフだあ! オレの熱中斬下と玉熱砲汰(ぎょくねつほうた)のコンビを防いだ奴は滅多にいるもんじゃねえ!」

 羅山もまんざらでもなく、目の前にいる強者にまるで相手の心と共鳴するかのように胸が高鳴っていた。

 強者同士は闘いを通じ……。

 ひかれ合う!

 これが闘士同士の闘い……。

 次元が違い過ぎる……。

 私は本当にバトラになる資格はあったのか……?

 ハイレベルな応酬を間近で見ていた半蔵は目線を下に向け、自分が歩んだ人生という道に疑問を自分自身に投げかけていた。


 永錬は地を弾ませるように大きな一歩を踏み出し、羅山との間合いを詰めた。それは一流バトラ同士の闘いとは思えないほどのロースピードだった。

 羅山は、のこのこと近づいてきた永錬にカウンターの要領で斬りかかった。

 永錬ここで意外な行動に出る。永錬は自分の刀を地面に突き刺し、当の本人は刀を棒高跳びの要領で、刀を支えにして羅山の頭上を飛び越すように飛躍した。

 羅山は永錬を斬ったつもりが刀を斬ってしまった。

 斬られたことにより突き刺していた刀が地面を離れ、永錬の手元に戻ってくる。

 永錬は重力に身を任せ、そのまま羅山の背後に着地。永錬は無防備な羅山の背後を容赦なく刀で服越しに斬りつけた。

 羅山の服は斬られ、傷は背中に届く、背中の皮膚は斬られ、傷口からポタポタと出血した。

 この闘いでの両者通算して初のダメージだ。

 羅山は、振り向きざまに永錬を斬りにかかるが、時すでに遅し。永錬は、先ほど羅山との間合いを詰めるために使ったロースピードとは正反対のハイスピードで剣がちょうど当たらないような、剣一本分の間合いをすでに作っていた。

 このめまぐるしい応酬は約五秒の間で行われた出来事だった。

 んだよ今の……。

 よほど闘いを知り尽くしていないと出来ねえ芸当だ……。

「テメエ一体何者だ?」

 羅山は心の奥で対戦相手の圧倒的な戦闘センスに舌を巻きながら尋ねた。

 この時、羅山は強き一族の現当主として、負けるのではないかという雑念をなんとか心の中にしまっていた。

「俺の名は小門永錬。世界中を旅している放浪バトラというやつだ」

「世界か……世界にはこんなつええやつがいるんだな……」

「そうだ、この世界には俺よりも強いやつが星の数ほどいる」

「あってみてえな……まずは、テメエを倒してな!」

 羅山は会話を強制終了させ、永錬との距離を詰めた。

 羅山の戦闘意欲は全く失われていなかった。むしろ、それは強者と闘うという起爆剤により高まっていた。

 永錬は会話に力が入り反応が遅れてしまった。

炎髄脚上(えんずいきゃくじょう)!」

 羅山の炎と共存している左足の蹴りあげが、永錬のあごにクリーンヒットした。

 永錬は衝撃で上空に舞い上がった。永錬の気が半分失われているところに羅山はさらなる一撃を加える。

炎柱地獄(えんじゅうじごく)!」

 炎の柱。それが、上空に放りだされた永錬を焼き尽くすように出現した。

 天まで届きそうな、火柱が永錬を飲み込んだーーその時だった。

 煉獄のさなかにいる永錬の周りから橙の光が炎を鮮やかに彩った。

 永錬は、なんとか火柱から脱出し、無事に地面に着地する。

 しかし、ノーダメージとはいかず、羅山の高次元なる炎により永錬の両腕の皮膚がはれあがってしまった。

 しかし、それよりも目を見張るのは、まばゆいばかりの橙の光を発光させている永錬の刀だった。発行源は永錬の刀のトレードマークでもある虎の紋。

 先ほどまで、茶色く地味に映っていた虎の紋がウソみたいに輝きを放っている。さらに、刀の柄の部分にも変化が生じている。先ほどまでは何の変哲もなかった柄が、猛々しい虎の頭に変形していた。

「なんだよ……! んな刀見た事ねえぞ……!?」

 幾多の戦闘を乗り越えてきた羅山でさえも目を見開きながら、驚嘆の声を上げてしまうくらいのありえない刀の豹変ぶりだった。

「あんたの強さは十分に伝わった。どうやら、あんたの力の影響でこいつが目覚めちまったらしい。”紋章刀”がな」

 紋章刀。相手の力によりその姿まで変えてしまう特殊な刀のようだ。

 永錬はそう言い残し、羅山の炎の影響で腫れあがった右腕で紋章刀と呼ばれる光る刀を握り、振るった。

 橙の光が残像となって剣筋を追う。あいにくにも刀は空を切ってしまった。

 しかし、風圧だけで十分だった。紋章刀から生まれた風圧は、2mくらいある巨体を有する羅山をまるで葉っぱのように軽く吹き飛ばしてしまった。

 羅山は我が家の木造の壁に激突してしまった。


「テメエにはどうやったって勝てねえ。弱きものは強きものに従う。これはこの世界の掟だ。いいだろう。テメエについてってやる」

 羅山は、光る刀の一撃を受けて、今までの長い長い戦闘経験で悟った。いや、悟ってしまった。

 あの化けえいれんには何をやっても勝てない……!

「ありがとう。これからよろしく頼むぞ、一撃羅山」

こうして羅山が国造りの仲間として新たに加わった。

「私も強くなれねば……」

 半蔵は、二人の闘いを見て強くなりたい、いや強くなることを心に誓った。

 この後、羅山は妻に事情を話し、永錬らと共に国造りに協力する事にした。


 ☆ ☆ ☆


 新たに羅山を加えた、永錬ご一行が次に訪れたのは、草が生い茂る未開拓の土地に、悠々と立ちすくむヨーロッパの城を彷彿とさせる立派な豪邸だった。

「ここのようだ」

 永錬は、その豪邸の豪華な窓に向かって指を差した。

 次なるメンバーはここにいるようだ。

「ここってことは、あいつだな。あいつは難しい奴だからなあ。説得は難しいかもしれないぜ」

 羅山はこの豪邸の家主を知っているらしい、知っているからこそ、珍しく弱気に話した。

 永錬は固く閉ざされている門のそばにつるされている呼び鈴を鳴らした。

 どうやら、これがインターホン代わりらしい。

 青を基調としたレンガで作られた扉がゆっくりと開いた。

「はい。どちらさまでしょうか?」

 この野蛮なる土地には不釣り合いな、礼儀作法をしっかりと学んだことを証明するかのような丁寧な口調で扉から現れたのは、全身白の司祭服を身にまとい、まるで牧師のようなひときわ目立つ格好をした男性だった。

「久しぶりだなあ”光間類”! どうだ、会った記念に一杯でもやるか?」

 羅山は、門越しではあるが開口一番に豪邸の家主に声をかけた。

 羅山の言うとおり彼の名は光間類。代々、光を操る一族として知られていた。

「羅山さんでしたか、お久しぶりです。そちらにいる方は」

 類と羅山は戦友。名のある一族の当主として現場が同じになることも多々あり、ともに杯を交わすほどの中だ。

 類は羅山の顔を見るなり安心した様子で言った。

「ああ、こいつは……」

「俺の名は小門永錬だ。世界中を旅する放浪闘士だ。あんたが光間類だな?」

 永錬は初対面にもかかわらず、敬語は一切ぬきでズバズバと話しかける。それは礼儀作法を全く学んでいないことを証明した。

「いったいこの私に何の用なんですか?」

 類は永錬の言葉づかいが気に食わなかった。類は礼儀作法に厳しい光間家に生を受けたこともあり、礼儀作法がなっていない人間に無意識に嫌悪感を抱くようになった。

 それは羅山とて例外ではなく、仲良くなるのにはかなりの歳月が注がれた。

 類は例外なく永錬の粗雑な言葉遣いに嫌悪感を抱いたようで、トーンを一つ落として尋ねた。

「俺が新しく創る国のメンバーに入ってもらいたい」

 国……?

 確かに今、この男は国といったのか……?

 類はただでさえ粗雑な言葉遣いをするもにもかかわらず、それに加え危険な思想を持ち合わせている永錬に生涯一番の嫌悪感を示した。

「ばかばかしいですね。羅山もこんな怪しげな連中とつるまない方が良いですよ」

 類はすっかり機嫌を損ねてしまい、そそくさと豪邸に戻ってしまった。

「待ってください。話だけでも聞いてください。お願いします」

 半蔵は永錬に礼儀というものを教えるかのように、腰を低くして類に懇願した。

 なんだこの男は……。

 先ほどの男とは違い、礼儀作法がしっかりしているではないか……。

 類は礼儀作法を身につけている、脇座を携えた一人の若者に興味を覚えた。

「ちゃんと話せる方もいるようなので少し安心しました。あなたの名前をお聞かせ願いたい」

 半蔵に興味を持った類は家に戻ろうとした足を止め、半蔵に話した。

「私は時偶半蔵と申します。元々、エンペラティアのバトラでしたが、今はここにいる永錬さんの補佐をして国を創るための手助けをしています」

「エンペラティアのバトラだったのですか。そんな優秀なあなたが、なぜ国を創るなどという妄言を吐くどこの馬の骨かも分からない男に協力するのですか?」

「永錬さんは礼儀を知らないところもありますが、正義感と信念あふれる素晴らしいお方です」

 半蔵は類に、永錬の良さをアピールする。ただ、一言多かったようで半蔵は永錬ににらまれた。

 なるほど、人は見かけで判断してはダメということですね……。

 類は自分の軽率な判断に反省すると同時に、永錬に嫌悪感ではなく興味を抱いた。

「そうなんだよなあ。こいつ口のきき方が悪いんだよなあ」

 羅山は、そう言って永錬の事を指さしながらげらげらと笑った。

「あなたも人の事言えないでしょ!」

 類の鋭いツッコミが炸裂した。

 この一族は類といい凛といい代々ツッコミの能力が秀でているようだ。

「やはり、闘って見ないことには話しになりませんかね?」

 半蔵は先ほどの羅山の言動と行動という確かな経験を踏まえて、類に背中を丸めながら問いかけた。

「闘う? なぜですか?」

 類は半蔵の言葉が理解できず、頭をひねりながら聞き返した。

「羅山さんは闘って自分より強い者であれば従うということだったので……」

 半蔵の言葉を聞いた類は、呆れた様子で頭をカクンと落とした。

「はあ……私は、この男のようにそのような野蛮なことはしませんよ。私は力より頭です。あなた達の考えはちゃんと筋が通っていたら快く協力しましょう」


 類はそう話すと、外敵の侵入を阻んでいた門を開け、三人の来訪者を自慢の豪邸に招き入れた。

 玄関の中に入ると壁に飾ってある金ぴかの十字架の飾り物がお出迎え。玄関を上がってすぐ、通路と階段が枝分かれしている。

 通路には真っ赤なカーペットが敷かれていて、階段の手すりには、当時かなり高価であった射場村の輝鉄がふんだんに使われている。

 豪邸は内観も抜け目がないようだ。

「あら、お客様?」

 腰くらいまで長い髪を生やしたエプロン姿の女性がこちらに近づいてくる。どうやら類の妻のようだ。

「そう。紅茶でも入れておいてくれるとありがたい」

 類はそう言うと、真っ白の靴を20足くらい入りそうな大きな下駄箱に入れる。

「すみません。お邪魔させていただきます」

 半蔵は類の奥さんに丁寧にお辞儀をして、靴を脱ぎ家へと入った。永錬と羅山も半蔵に続いて家の中に入る。

「こちらへどうぞ」

 類はそう言って輝鉄で作られた手すりを持ち、階段を上がった。

 三人は類についていくように階段を上がる。

「しかし、豪華なお家ですね。失礼ですが、バトラ以外にもなにかされているのですか?」

 半蔵は国から雇われているバトラではないのに、なぜ豪邸を建てる財力があるのかが気になっていた。

「代々うちの一族はバトラの傍ら神父をやっているのですよ。恥ずかしながら、ほとんどの収入源がこれなんですよ」

 類は苦笑いをしながら、半蔵の疑問に答えてあげた。


 類は階段を上り終わると、真ん前のドアを開ける。

 ドアを開けると、ガラス張りの透明なテーブルと、三人掛けのふかふかのソファーがテーブルの両隣りに2つ置かれていた。

 いずれも高級な品というのが見ただけで分かる。左隣に類、羅山、右隣に永錬、半蔵という形でそれぞれ腰をかけた。

「失礼します」

 類の妻が部屋に入ってきて、これまた高級な外国産の紅茶を人数分のカップに入れ、テーブルに置いた。

 類の妻は紅茶を配り終えると、役目を終えるようにして部屋から退出した。

「それでは、本題に入りましょうか」

 この空間のホストである類が最初に沈黙の扉を開いた。

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