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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
52/67

第五十一伝「ダイバーシティ建国の物語」

第五十一伝です。いきなりの過去回想です。今回は、ダイバーシティ創世記の物語となっております。しばらく過去回想ですのでしばしお付き合いください。

 今から約四十年前。時偶半蔵二十三歳。

 半蔵は茅葺き屋根が連なる小さな集落がある村に住んでいた。

 この村西方には輝叡山きえいざんという標高1000mほどの山があり、この山の名前の由来にもなった輝き(ブライト)の(ロック)という文字通り全身にダイヤがちりばめられているように輝く全長10mほどの巨大な岩が頂上付近に我が物顔で鎮座している。

 この希有な岩見たさに毎年少なからず観光客がこの小さな村に訪れていた。観光客の為に、古びたと言えば聞こえが悪いが、よく言えば趣のある宿が数多く点在していた。

 そんな小さな村で育った半蔵少年は、幼いころからバトラを志していた。

 半蔵はバトラになるべく、バトラの聖地であるエンぺラティアに十八歳の時から留学していた。半蔵の親は貧相な小さな村ながら比較的裕福で、半蔵を無理なく留学させる事が出来た。

 

 そして、二十二の夏、時偶半蔵は無事エンぺラティアのバトラ、通称エンぺラバトラになることができた。

 半蔵が二十三の春ごろ、半蔵は休みを使い久しぶりに故郷へ戻ることができた。

 故郷に凱旋した彼はある男と出会うのであった。

 

 実家で一晩過ごした後、私は久しぶりに輝きの岩をこの眼で拝みたいと思い、故郷の誇れる名所である輝叡山に登ることにした。

 この日は雲ひとつない快晴ともあって多くの観光客でにぎわっていた。

 一時間くらい登り続けたくらいだった。輝きの岩の壮観な光景が私の眼を虜にさせた。両親に連れられて幼いころに何度か見た事はあったが、大人になって改めてみるとまた違う。何百年もこの地を守り続けている威風堂々ないでたち、光に反射して眩しいほどの輝きを私たちに届ける美麗さ。その二つが見事に融合したまさに奇跡の岩だ。

 このような素晴らしい産物がよく我が村のような辺鄙なところを選んでくれたものだ。

 私は感謝をする意味でも輝きの岩に熱い視線を送り続けていた。

 私と同じくらい熱い視線を送っていた男が一人いた。その男三十歳くらいではところどころでほころびを見せている不格好な麦わら帽子を深くかぶっていたので素顔は良く分からなかったが、ただならぬオーラが体を覆うような登山服を貫いて伝わってきた。

 私は瞬時に同業者バトラだと感じ取った。

「失礼ですけど、あなたバトラですよね?」

 気づくと舌が動いていた。

 私の故郷である射場村はバトラがいないのはおろか、バトラの存在すら知らない者も珍しくはない。

 そんな地で同業者に出会えたことが嬉しかったのは確かだ。それだけではなく、何かここで声をかけないと後悔しそうなそんな非科学的な気持ちにもなっていた。

 だから、無意識に声を掛けたのだろう。

「ああ、その通りだ。だが、バトラといっても国から仕事をもらているわけではなく、ただ勝手にいろんな地をささ迷っているだけの放浪バトラだがな」

 男は渋い声で答えた。

 放浪バトラ。国の管理下に置かれず、自由気ままに旅をする。そんなバトラだ。

 私のような社会というがんじがらめに縛られている人間とは真逆の存在。

 だからこそ、そんな彼の生き方に惹かれたのかもしれない。

「私は時偶半蔵です。私もバトラをやらせていただいています」

 私が自己紹介をすると、男の眼の色が変わった。

「ほう、あんたもバトラなのか。こんな所で会うのも珍しい。俺の名は小門永錬(こかどえいれん)だ」

 男は私がバトラだと知り、嬉しくなったのがすぐに分かった。心を弾ませながら言っていたのが印象的だったからだ。


「少し話をしようか」

 永錬さんはそう言って、私を山の頂上にある団子屋に連れていった。

 この団子屋、山の斜面の影響で外観が傾いており、危なっかしい見てくれで人受けが良くないが、味は確かで知る人ぞ知る名店なのだ。

 永錬さんは店の一番隅っこの真っ赤な敷物が印象的な席に腰かけた。私は永錬さんの対面に腰をかけた。

 ここで、永錬さんは開口一番とんでもないことを口にした。

「俺はここに新しい国を創ろと思っている」

 私は一瞬耳を疑った。

 国を創るなどそんなおとぎ話を大の大人が信じるはずもない。

 でも、永錬さんの真剣なまなざしを見る限り、とても嘘をついている人の目に見えなかった。

「この村に国を……ですか?」

 私は永錬さんの発した言葉の真意を確かめたかった。

 本当にこんな辺境に国を作るというのかとうことを。

「そうだ。この世界には大きく分けて二つの人種がいる。特殊な力を持つ者とそうではない者。力をもつ者は持たない者を卑下し、力をもたない者は持つものを恐れている。お互いがそっぽを向いているのが今のこの世界の現状だ。だが、私は力を持つ者、持たない者、お互いが支え合い、共存していく世界こそがこれからの時代に必要だと感じる。この地でそんな国を創りたい!」

 私は永錬さんの言葉に深くうなずいた。私も永錬さんの考えに共感する節があったからだ。

 私がバトラを志すようになった理由と重なるところがあるからだ。なぜ私がバトラとは無縁のこの村に育っておいてバトラを志したのかというと、私が十二くらいだった頃、旅行で帝国に訪れた時だった。

 私は偶然、泥棒を見かけたのだが、その泥棒をバトラが成敗する姿に強く感銘を受けた。

 しかし、バトラの存在を知るこの村の民は否定的な意見が多かった。

 私も見た事が無かったのだが、そんな村民の意見に流されマイナスのイメージがついていた。

 だが、現実は違った。

 バトラとは素晴らしさ人達だったのだ。

 私は村民達に対する誤解を払拭すべくバトラを志した。

 しかし、私にはバトラになるために必要不可欠なスペシャルを持ち合わせていなかった。

 断念しかけたが、身一つでバトラになった者もいるという事を知り今まで以上に意志は固くなった。

 私はバトラになれる自信があった。なぜなら、私は幼いころから身体能力に恵まれ、村一番の運動神経の持ち主ともてはたされたほどであった。

 そして、私は環境と才能に恵まれ、こうしてバトラになるという夢をかなえたのだ。

 そんな経緯もあって永錬さんと少し似通っている考えをもっていた。

 いや、全く同じかもしれない。

 ”バトラとそうでないものの共存”。

 私の点と点の理想は永錬さんの言葉のお陰で線になった。

 私はこの事を全て打ち明けた。永錬さんはうんうんと嬉しそうにうなずいてくれた。

 初対面ではあったが、私と永錬さんは友情以上のもので繋がった。

「なぜ、この地が選んだのですか?」

 私はずっと気になっていた質問を投げかけた。

 わざわざちっぽけなこの村に永錬さんが白羽の矢を立てた意味が分からなかったからだ。ただ、正解はすぐに永錬さんの口から出た。

「答えは輝きの岩だ。輝きの岩をはじめ、この山には輝く鉄が大量にあることが分かった。これを俺は輝鉄と呼んでいる。輝鉄に含まれる鉄は強度が高く劣化しにくいことが分かった。これは、バトラの武具に使える。輝鉄をバトラが多くいるエンぺラティアなどの国に輸出すれば、この地をより豊かで、より大きな国に成長できると見込んだ」

 私はポンと手をたたいた。永錬さんの行動に合点がいったからだ。

 なるほど、だから永錬さんはさっき輝きの岩を凝視していたのか。私は輝きの岩にこんな可能性があったのかと思うと、ますます輝きの岩、いやこの輝叡山が好きになった。

「私も協力させてください」

 私に迷いはなかった。エンぺラバトラという肩書を捨てる覚悟さえあった。

「仲間がいるに越したことはない。よろしく頼むぞ。時偶半蔵」

 小門永錬と時偶半蔵のダイバーシティの建国の物語が始まったのだ。

 

 ☆ ☆ ☆


 ほどなくして半蔵は帝国から登録を抹消し、永錬と共に国の建国に向けて本格的な活動を始めた。

 村の茶屋で綿密に話し込む半蔵と永錬。刀を携えた大人二人の密談。

 はたから見ればかなり怪しい。それに、バトラをよく思ってない村人は、白い目で彼らを見ていた。

「まずは、戦力の確保だ」

 そんな中、まず永錬が口を切った。

「エンぺラバトラのように国直属のバトラを引き抜くのは、ほぼ不可能と言っていいでしょう。引き抜くとしたら我々のようにどこの国にも属していないフリーのバトラですね」

 半蔵は永錬に同調するように話し始めた。

 バトラには大きく分けて二種類いた。国の管理下で依頼をこなし、国から報酬を得るバトラ。国に属さず独自に依頼をこなし直接依頼者から報酬を得るバトラ。

 企業に勤めるサラリーマンと、企業の属さない自由業フリーランスと言った具合だ。

 当然、フリーランスの方が自由が効くのだが、いかんせん定期的な収入をもらえないのは痛い。

 よほど自信が無い限り、国に雇われるのが一般的なバトラだ。

「その通りだ。ここからそこまで離れていない地に有力な闘士の一族がいる。彼らを引き抜きたい」

「そんな人達がいるんですか。心強いです」

「ただ、気をつけなければいけないのは、彼らは国に属していない。つまり、国からは金が一切支給されない。彼らの主な収入源は、依頼者の報酬に加え、他の闘士と闘い、勝利して金を奪うこと。彼らは国のバトラよりはるかに野蛮だ。彼らと会うにはそれなりの覚悟をもたなければならない」

半蔵は恐怖で顔が引きつってしまった。

 はたして、こんな新米がそんな怪物みたいなバトラと闘い、屈服などできるのだろうか。

「心配するな。俺がいる」

 半蔵はこの永錬に頼もしすぎる一言で不安は吹き飛んだ。


 射場村から山を一つ越えたあたり。

 人が生活しているのか、していないのか分からないくらいのみすぼらしい家が点々としているくらいで、ほとんど何もない殺風景がしばらく続く。

 さらに進むと、やっと家らしい家が増え始める。まばらだが、人もちらほらと見かけるようになった。

 さらに、奥へ歩くと山のふもとにたどりつく。

 山のふもとには、不気味な鳥の絵が描かれた鳥居が立てられている。鳥居の奥には道が続いているようだ。

「ここだ。ここに、古来から炎を操り、その力で化け鳥を封印した一族がいる」

 永錬はそう言って、半蔵を連れ鳥居をくぐる。

 くぐった先には、だだっ広い更地が広がっており、赤い屋根が目立つ家が、堂々と来客を歓迎するように建てられている。

 真ん中の家が母屋のようで、左右の家の二倍ほどの大きさがある。

 永錬は母屋の玄関と思われる茶色の扉をノックした。

 永錬の呼びかけに応えるように、ガチャアと年季の入った茶色の扉が歯ぎしりするような音を立てながら開いた。

 出てきたのはアフロヘアーの四十代くらいの中年の女性だった。

「ここに、”一撃羅山”という方はいるか?」

 永錬が初対面の相手と会話する時に必要な挨拶というベールをビリビリに引き裂きながら、口火を切った。

 永錬は放浪人という職業柄、礼儀というものの学びを受けていないらしい。

「夫は外出中です」

 玄関を開けた中年の女性はそう言って、二人を追い返そうとした――その時だった。

「オレになんのようだ?」

 不意に永錬と半蔵の後ろから聞こえる野太い声が永錬と半蔵の耳をえぐった。

 半蔵は急に耳に飛び込んだ声に驚き、反射的に声がした方向へ振り向いた。

 そこに立っていたのは、身長2mもあるかのような大男だった。

 顔は全身傷だらけで、その威圧感たるや相当なもの。まさに野蛮という単語はこの男の為にあるのかというような風貌だった。

 この男こそが、一撃家当時の当主であり、龍の遠い親戚にあたる一撃羅山だ。

 こんな男が真後ろに立っていたのに、声が聞こえるまで気づかなかっただと……。

 どうなっている……?

 半蔵は怯えていた。

 バトラという圧倒的な存在に!

 半蔵は得体の知れない恐怖感に駆られるあまり、無意識に後ずさりをしてしまった。

「その殺気、テメエらバトラだな。こっちは今あいにく金欠でよお。まさか、獲物がそっちからのこのこやってくるとは思わなかった」

 羅山はそう言って、背中に携えていた人の身長ほどある巨大な剣を抜き、永錬の喉元をえぐるようにして構えた。

「俺たちは闘いにきたのではない。話をしにきただけだ」

 永錬は羅山の威圧に屈しず、あくまでも自分のペースで話を進めた。

「話だと!? 手短にしろ」

「俺たちはこの地に国を創る」

「国だと……!? はっはっは! こいつはおもしれー! そんな冗談を言う奴は生まれて初めて見たぜ!」

 単細胞な羅山の頭ですら、それは無謀なことだとはっきりと分かった。

 予想外の永錬の言葉に、羅山は大きな口を開いてがっはっはと笑った。

「本気だ」

 永錬は羅山の茶化しにも負けず、まっすぐな目で羅山を見つめた。かつて、輝きの岩を見つめたときのように。

 この眼、マジだな……。

 永錬の眼を見つめ、空気を察し羅山も黙り始めた。

 その後、永錬は国を創るに至った経緯、そのために人員が必要だと言うこと、それらを羅山に丁寧に解説した。

「そんなにうまくいくのかしら」

 玄関越しで永錬の話を聞いていた羅山の妻が話の腰を折った。

「そうだ、母さんの言うとおりだ。建国なんざ上手くいくわけねえ。よほどの力を持っている奴なら別だがな。少なくても、オレより強くないとなあ!」

 羅山は山ほどもある巨大な刀を両手で振り上げ、同時に二人を斬るようにして振り下ろした。

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