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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
51/67

第五十伝「万事休す」

第五十伝です。みなさんは万事休すの経験はありますか。それではお楽しみください。

 のどかな公園に突如出現した、空を覆うような闇の裂け目。

 裂け目の中はまるで異次元のようだ。

 この表現はあながち間違いではなかった。この裂け目は時裂と呼ばれる空間転移術。

 夢我のスペシャルである。時空を裂いて任意の空間に転移させることができるとてつもないスペシャルなのだ。

 それも人ひとりがすっぽりはまるほどの大きさ。しかし、これほどまでのサイズを呼び寄せる反動は大きく術者は半日間は戦闘ができない。

「この裂け目の中を通れ。ここを通ればすぐエンペラティアへたどりつく。本来ならば、こんな荒い真似はしないのだが、緊急事態だ。仕方あるまい。そして、エンペラティアに着いたらこれを使え」

 夢我は反動からか額に汗をかきながら手渡したのは、地下に乱雑に置かれていたもう一つの時空鏡を一際背の大きいリーダーらしき男に手渡した。

 事前に説明を受けていたらしく、会話はスムーズにいった。

「これがその時空鏡というわけですね。できれば”今日”使いたくはなかったですね」

「くだらんことはいい。合言葉は……」

 夢我は、データベースに書かれてあった合言葉をリーダーに伝えると、増援五名を自分のスペシャルである闇の裂け目に誘導した。

 五名の増援は一列になり、裂け目の中に吸い込まれるように入っていった。


 ☆ ☆ ☆


 エンンペラティア側も誰を現場に向かわせるか、若干議論になったもののこの男の鶴の一声で議論はすぐさま沈下した。

「私が出る」

 エンペラティアのトップに君臨する男、火雷弾の鶴の一声である。

 なんと総帥直々に現場に向かうことになったのだ。

「お気をつけて」

 秘書の女は総帥の無事を祈るように敬礼し、見送った。

 いよいよ終息を迎えようとしている一連のエンペラティアでの襲撃事件。

 しかし、安心はできない。

 時間内に龍達の命が尽きる可能性は決して低くはないからだ。


 ☆ ☆ ☆

 

 同じ風景を常に見せている平和な丘に、ある変化が見られていた。

 触れることさえできなかった剛だったが、ついに瞬の腕を掴み捉えることに成功したのだ。

「破壊してやる! 剛拳・左丸打!!」

 瞬の腕をがっちりつかみながらの剛による左のボディーブロー。

 当たった……!

 剛の拳に確かに人の皮膚が当たった感触があった。

 攻撃が当たる……。

 この闘いを経験するまでそのことが当たり前のことだと思っていたが、攻撃が当たったという事実に剛の心の中の大応援団は大歓声をあげていた。

 ついに剛の拳が瞬の体を打った。

 効き手の右拳が潰されたので左で打ちざるおえない。しかし、剛はこういう時の為に効き腕ではない左も鍛えていたのだ。

 瞬は一瞬ひるんだが、エンペラバトラの底知れぬ体力と精神力で蘇り、自分の体を掴んでいる憎き剛の右腕を斬った。

 剛は痛みで力を弱めた。瞬はその一瞬をつき剛の右腕を振りほどき、距離をとった。

「剛拳・空殺弾!」

 これまでの剛だったら一呼吸を取っていただろう。

 しかし、剛はこの半年の間己を磨いた。体だけではなく心も磨いた。

 彼に容赦なくつきたてた数々の敗戦が彼のバトラ魂に火をつけたのだ。

 チャンスと思えば一気に叩きこむ。これが剛の新しい信念だ。自分の信念に基づきドロップキックのよる追撃を敢行した。

 これも見事にヒット。

 さっきまで触れることすらできなかったのに面白いように上手くいく。

 

 この闘いで初めて気分を良くした剛は欲深くさらに追撃をかけた。

「もう一発、剛拳・左丸打!」

 剛はなんの躊躇もなく瞬に記念すべき初ダメージを与えた左のボディーブローを放った。

 しかし、時には引くことも肝心。この時ばかりは剛の悪手だった。

 剛の左腕は白銀の個体により凍結した。瞬がさっきまで持っていた短剣は銀色の剣に変形していた。

「なんだよこれは……!?」

 冷たさで感覚を失いかけている左腕に語りかけるように剛は言った。

「まさか僕のスペシャルを君程度の相手に披露するとは思わなかったよー。僕のスペシャルは氷。人は寒さに弱い。君を絶対零度の世界に連れってあげるよ」

 瞬は気味の悪い笑みを浮かべながらこう話した。

 剛は一瞬にして過酷なる氷点下の世界に誘われてしまった。

「そしてこれが僕の愛すべき剣、雪月花。はじめまして」

 瞬があいさつを交わしたと思ったらすでに剛の腹は斬られていた。

 瞬のスピードを最大限に生かした斬撃。さらに氷のスペシャルにより剛が今斬られた傷口の周りが凍結した。

 また負けるのか……。

 俺は!?

 敗・北。

 瞬はその二文字がいやらしく脳裏にこびりついている剛に氷の剣で最後の判決を下す。万事休す……。

 その時だった。

 堅牢な鉄の盾が瞬の銀剣の斬撃を許さなかった。


 ☆ ☆ ☆


 一方、屋上で女同士の熾烈な戦闘を敢行していた凛は光の防壁でスケルトンの侵入を防いでいた。

「んだよ! その壁は!?」

 スケルトンの侵攻を防がれた。

 それは最大のウエポンの消失。恐香は相手の力からか、自分の不甲斐なさか、相棒スケルトンの無様さからか、怒りがこみ上げてきた。

「ボロボロになりながらも相棒が助けてくれたのですわ」

 聖剣エターナルが……。

 私を救ってくれた!

 凛は相棒との絆が確かにあると実感し、聖剣エターナルを精一杯ねぎらいながら、答えた。

「ちっ、さっき潰したはずだがな。どうやら生命力が売りのようだな。後、相棒という言い方はやめろ。虫唾が走る。武具とは闘いを優位に進めるための道具にすぎん」

 恐香は相棒というニュアンスが気に食わなかったようだ。

 恐香のイライラは加速度的に増すばかりであった。

「違いますわ。武具は時に助けられ、時に助け闘いを共にするパートナーですわ!」

 パートナー。

 確かに今までの凛と聖剣エターナルの闘いぶりはそれを如実に表していた。

 凛はきっぱりと目を見開き、恐香の主張を切り捨てた。

「ああー! うぜー!」 

 武具は道具にすぎねえんだよ……。

 直射日光に当てられた飲み物のように生ぬるい凛の発言を受け、恐香の怒りというクライマーは沸点という山の頂上に到達しよとしていた。

「エターナル、もう少しの辛抱ですわ。聖路エターナルロード!!」

 凛の掛け声と共に、凛を優しく守っていた光の防壁が突然恐香に牙をむいた。

 光の光線になって恐香を征伐しにかかった。

 光の速度は速い。人間が反応できるようなスピードではない。

 直撃は免れなかった。恐香の体が浄化されるように光に包まれた。

「終わりましたわ。ありがとう……エターナル……」

 凛は涙ながらに刃先が砕け散ってしまった相棒に感謝の言葉をかけた。

「なに勝手に闘いを終わらせようとしてるんだ?」

 凛の思惑通りとはいかず、終わってはいなかった。

 恐香は二度も光の征伐を受けながらも立ち上がった。まるで雑草のように。

「スケルトン! もうポカは許さねえぜ! 今度こそ喰らえ!」

 スケルトンはご主人様の言葉を受け、奮起したように今まで以上の勢いで凛を喰らいにかかる。

 またしても光の防壁は凛の周りを包み、スケルトンの猛威から守った――はずだった。

 しかし、光の防壁は腹ぺこのスケルトンの胃袋に吸い込まれていった。

 凛の最終防衛ラインは突破された。

 エターナル……。

 頼みの綱がプツンと切れた凛はここで心の中で唖然とするしかやることが無かった。

 万事休す……。

 その時だった。

 隕石のような蹴りが空から降ってきた。

 その隕石は獰猛なるスケルトンを軽やかに弾き飛ばして見せた。


 ☆ ☆ ☆


 今まで暗色を極めていた路地に、突然灼熱という名の灯火が上がった。

 鳳凰剣の剣先を中心に龍が持つ朱色の炎が激しく燃え上がった。

 剣先に集まった炎は次第に球体の形を得ながら巨大化する。炎は人の上半身ほどの大きさにまで成長する。その姿はまるで小さな太陽。

「なんやねん、それ……!?」

 斬竜は初めて目の前に立つ男に恐怖を覚えていた。

「本当は俺様の力を加えて完成なのだがな。まあいい。それでも半分程の威力は出せるだろう。見せてやれ、あの男に貴様の本当の力を!」

 満身創痍の鳳助だが、主人の成長につい力強く話した。

「ああ!いくぞ! 太陽・(ソウル・ボム)!」

 これが……。

 俺の……。

 そして、相棒ほうすけの……。

 全ての力だ!!

 対戦相手の眼、ただ一点を見つめながら龍は、鳳凰剣を力いっぱいに振り下ろした。

 鳳凰剣の剣先に溜めた小さな太陽は鳳凰剣から離れ、斬竜という名の地球を飲みこむようにして襲いかかった。

 ボワアアンッという怒号のような爆音が静寂な路地に響き渡った。

 衝撃波で建物の窓ガラスが軒並み割れた。

 ここは異空間、人がいないのが幸いした。

 斬竜は自然が作り出した最強のエネルギー、太陽に抗えるはずもなく、斬竜の体は人形のように吹き飛ばされ、窓ガラスが散らばっている痛々しい地面に身を預けるほかなかった。

 この衝撃的な攻撃をもろに受けた斬竜は一体どうなってしまったのか。

 斬竜の周りに立ち込めていた煙が徐々にはけてきて、斬竜の姿が目視できるようにになってきた。

 斬竜の体は悲惨なことになっていた。斬竜の服が炎によって焼き払われ、身体の皮膚がただれ、発赤していた。

 ここまでは火傷の症状だが、ここからは違った。斬竜の皮膚からどす黒い液体がたれ流されていた。毒だ。龍を散々苦しめたあの斬竜の毒だ。

「いい一撃やったわ。お前をライバルに認めてやるわ。だがな相手が悪かったで。わいの血の半分は毒でできているんや。わいを傷つけたら毒が出てくるんや。つまりや。相手はわいを傷つければ傷つけるほど窮地に立たされる。まさにわいと闘う相手は八方ふさがり状態というわけや。言い忘れてたけど、わいは毒の抗体を大量に持ってるから平気ってからくりや」

 自分の今ある全ての力を出したのにもかかわらず、相手はさらに上を歩いていた。

 斬竜が自信満々に話している間に、毒の液は斬竜の周りから徐々に広がり始める。太陽・ソウル・ボムの強大な威力が裏目に出てしまった。

 斬竜のいたる傷口から毒という毒がとどまることなく出てくる。

「こんなに毒が出てきたのは初めてや。お前凄いで。でもこれだけは言っておくで。闘いは奥の手を最後まで残した方の勝ちや。終わりや。死の(デスリバー)

 路地が氾濫を起こしたように、毒が大きな川となり龍を飲み込みにかかる。

 終わった……。

 龍は今までの経験と鋭い勘を合わせ、こういう結論に達していた。

 万事休す……。

 その時だった。

 毒という汚れを浄化していくれそうな、純白なる水が路地から大量に流れ出した。


 ☆ ☆ ☆


 純然と立ち尽くす巨木の下で、稲光に包まれた二羽の木の蝶がうめき声をあげて激しく舞っていた。

 二羽の蝶の標的はただ一つ。新威ラギアの首だけだ。

 雷太刀という名の二羽の蝶は蜂に豹変し、ラギアの首を他のものには目もくれず一猛スピードで狙った。

 まずは一羽目。一羽目はラギアの守り神である女神によってむなしく散る。

 しかし、進の狙いは二羽目。化身を出してしまった手前、ラギアはもう避けることはできない。

 白色の蜂はバジジジと奇妙な鳴き声を上げ、ラギアの左腕を激しく刺した。

 雷を腕にもろに受けたラギアは感電をまぬがれる事は出来なかった。

 高い電圧によってラギアの左腕の皮膚はがれおち、痙攣するように小刻みに震えている。

 女神に守られていたラギアがここまで甚大なダメージを受けたのは生涯初といっても過言ではなかった。

「厳しい闘いだったが、なんとか勝ったか。どうだ、少しはお前が変わるための手助けはできたか?」

 進の機嫌は良かった。やっと自分の意図した攻撃が出来からだ。

 進は上機嫌からか、まるで師が弟子に説法するような調子で話した。

「あいつに勝ちたい。勝ちたい。憎い。憎い。殺す!」

 ラギアの眼が変わった。それは豹変と呼ぶにふさわしいものだった。

 さっきまでは心ここにあらずという感じの眼だったが、今は違う。

 今は目の前にいる男、進を殺す。ラギアは頭にこの一点しかないような狂気の眼で進をにらみ始めた。

 ナーガの時の殺気と似ている……。

 いやそれ以上かもしれない!

 なんだよ、何者なんだよ……?

 こいつは!!

 進は目の前にいる人の形をした”なにか”に恐れおののいていた。

 進の思惑通りラギアの闘争本能は目覚めたのだ。ただ、ここまでの闘争本能は想定外だった。

 ちょっとやそっとの狂気では動じない進ですらラギアから放出されたとてつもない殺気に敏感に反応感じるほどだった。

「やばい、こっちにはもうカードが……」

 進がこんなことを口にしてからの彼の記憶はあいまいなものだった。

 気づいた時にはラギアが目の前に立っていた。

 確かラギアのほかにもう一人、いやもう一体いた。

 化身だ。髪が短く、胸もなかったので女神ではなかった。

 気づいたら木の下に横たわっていた。ピクリともしない。

 万事休す……。

 その時だった。何者かが進の手を引き、安全な場所に避難させた。


 ☆ ☆ ☆


 アリサは半蔵と時空鏡の手によってまたしても異空間に連れ去られた。

「ここじゃないと気が引きしまらんだろ?」

 バトラにとって、いや闘うもの全てにとって自分の得意なフィールドで闘うことは定石。

 半蔵は年の功からか、無意識にそれをやってのけた。

 半蔵は得意げな調子でアリサに話しかけた。

「別にどっちでもいいけどねー★」

 アリサが悠長に話していた瞬間、半蔵は時空鏡を利用し、またしても実体を消した。

 姿を現したのは、半蔵ではなかった。

 半蔵の代わりに大量の短剣がシャワーのようにアリサに降りかかった。

 さすがの反応を見せたアリサ。

 四柱壁を傘代わりにして短剣のシャワーを一本残さずに弾き落とした。

 この時、アリサは自分が生み出した防御壁で、視界が制限されていた。

 

 それを逃す半蔵ではなかった。

 アリサが四柱壁で守っている最中のすきを見て、半蔵はアリサの真上から姿を現した。

 半蔵は脇差を構え、アリサを上空から突き刺しにかかる。

 ここでアリサは人間離れした反応で、この半蔵の練りに練られた攻撃まで転法で回避して見せた。

「ここまでむちゃくちゃな動きをされては、嫌になるな」

 さすがの半蔵ですら脱帽するほどの反射神経だ。

 やはりおかしい……。

「あなたはなぜここまでして私たちにこだわるの? エンぺラティアにクーデターを起こすと言うのなら私たちを襲うのは遠回りじゃない?」

 アリサは闘いの最中、ずっと腑に落ちていなかった。

 半蔵の目的から察するに、自分達にこだわる必要が見いだせないからだ。

 アリサは、このタイミングで半蔵に尋ねた。

「お主の言うとおりだ。もし本当に帝国のクーデターだけが目的ならば、お主らを襲うよりもっと賢い作戦があっただろう。クーデターの事は本当だが、わし個人にはもう1つ目的がある。わしの目的、それはダイバーバトラをこの手で潰すこと」

 どういうこと……?

 アリサは半蔵の言葉という洗濯物を脳内の洗濯機でまわすことはできなかった。

「なぜ?」

「わしは元々、ダイバーバトラだった」

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