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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
5/67

第四伝「雷連進(らいれんしん)」

第四伝更新しました。キーマンの登場で物語が動き出します。どうぞお楽しみください。

 龍と剛との間に突然現れる人影。その人影は流星のごとく突然に、そして軽やかに出現した。

 目の前に現れた背中はこの戦場に耐久できるか心配なくらい華奢、でもその背中に、歴戦のつわものを感じさせるものだった。

「誰だあ!?」

 剛はひるんだ。その、圧倒的なオーラに。

「やっと着いたー★」

 その人影は言葉を発した。そして、徐々に正体があらわになる。

「アリサ先生!」

 人影からチョロンと飛び出る茶髪のツインテール。そして、その人影のシルエットはいやにスラリとしている。

 我がクラスの担任であるアリサ先生の特徴と一致した。アリサはなんとか間に合ったのだ。

「遅くなってゴメンネ★」

「いえ大丈夫です」

「まったく遅すぎますわよ、5分遅刻ですわ」

 凛は自らの光で自分の体を回復させながら、アリサの遅刻に文句をたれた。

「はは。さてそこの不良君、私の可愛い教え子がお世話になったみたいね」

 アリサは長ったらしい髪をかき分けながら、この危機的状況でも明るくふるまった。

「ちっ担任か……」

 担任の登場ということは、銀次側にとっては明らかな不利だ。

 それを容易に判断できた銀次は苦杯をなめた。

「くそお、女相手に手え出す趣味はねえ……とでも言うと思ったがバカめ!」

 女だろうと容赦はいらねえ……!

 剛はアリサにも容赦なくチェーンに巻きつけられる拳をグルグル回しながら襲いかかった。

「危ない!」

 龍はこの身をもって体感していた。あの、拳は危険だ!

 龍はとっさにアリサの身の危険を察知し声を出した。

 しかし龍の目に飛び込んできたのは、恐るべき光景だった。

 あの龍を苦しませ剛の重いパンチをいとも簡単にアリサの小さな手のひらが受け止めたのだ。

「!!」

 そんな……バカな……!?

 俺の拳を止めるだと!?

 自分の自慢の拳がここまで簡単に受け止められたことの経験がない剛は、あまりの衝撃で声も出すことができなかった。

「そんな、あのパンチを止めれるやつなんて聞いたことない!」

 ありえないことだった。

 銀次とて剛の拳がいとも簡単に止められていることろは見た事が無かった。

「さすが本物のバトラといったとこですわね」

 アリサの能力に最初から気付いていた凛だけは、この状況を安心して見守った。

「嘘だろ!? あのパンチを……これがあのアリサ先生なのか?」

 龍はあの拳を誰よりも知っていた。

 だからこそ、その光景は驚くべきものだった。

 龍は、手で口を押さえながら唖然としていた。

「なかなかいいパンチ持ってるね。立派な闘士になれるよ君。でも、今日のところは制裁を受けてもらうね★」

 アリサは剛の拳をパアンという痛々しい音と共に、180°軽くひねると、その反動で剛は仰向けで思いきり地面にたたきつけられる。

 闘いのことがまだよくわからない龍でも簡単に理解する事が出来た。

 圧倒的な実力差だ……。

「なめるなあ!」

 敗北。それは死を意味する。

 そういうところで生きてきた剛にとって負けるわけにはいかなった。

 剛はすぐに立ち上がった。敗北をしたくないその一心で。

「とりあえず終わりにするね」

 一羽の華麗なる蝶が戦闘館に突如姿を現した。

 アリサは空中に跳躍した。恐るべきスピードで。そのスピードに追いつけたものはこの中にはいなかった。

 空中で回転し始めるアリサ、ギュルギュルとプロペラが高速で回るような回転音がBGMのように頭に流れるほどに、あまりにも高速、龍達にはまるで止まって見えたようだ。

 一瞬なにがおこったのかは分からない、ただバシンというむごい音と共に、剛が吹き飛んだのだけは事実として残る。

 アリサは目にもとまらぬ早業で、空中で剛に蹴りをお見舞いしたのだ。


「見えなかった、実力が違い過ぎる」

「これほど圧倒的だとは思いませんでしたわ」

 龍と凛、銀次は初めて次元が違うという単語が脳裏を支配した。

 あまりの実力差に三人はただただ唖然とするしかなかった。

 剛は失意の中をさまよっていた。

「まさかあんたは独自で編み出した拳法である天空拳を極めた格闘術のスペシャリストか?」

 剛は聞き覚えがあった。天空拳という独自の拳法を編み出した女闘士がいると。

「天空拳を知ってるなんて嬉しいよ」

「俺はあなたのような拳法のスペシャリストにあこがれこの世界に入ることを決心しました! アリサさん僕を弟子にしてください!」

 はい……!?

 戦闘館のピリッとした空気が音を立てて崩れた。

「えーーー!!」

 ここにいた全員が声をあげ驚いた。

 突然の申し出に、アリサは自分の胸に指をさしながら困惑した。

「いいけど、あなたに2つほど条件がある。その条件を呑めば弟子にしてやってもいいけど……」

「もちろん!あなたの弟子になるためだったらなんでもやります!」

 剛の目は驚くほどキラキラしている。

「一つ目はもう生徒と戦校を襲わないこと。二つ目は……その前に龍君、銀次君、凛ちゃんまず病院に行きなさい!」

「龍! 次は絶対破壊してやるからな!」

 剛はこのセリフを残し戦闘館から立ち去った。

 龍達は戦校の中に完備されている簡易的な病院に向かうことにし、戦場となった戦闘館を後にした。

 その後、全員戦校職員にこってり絞られたのは言うまでもない。


 ☆ ☆ ☆


 翌日のことだった。

 昨日の戦いの後、戦校の病院にお世話になり、なんとか登校できた龍はいつものように教室に入った。

 すると……。

「よお! 龍!」

 バカな……!?

 龍は目を疑った。

 龍の目に飛び込んできたのは、特攻服を着た男が席にふんぞり返りながら座っている男の姿であった。

 そう、昨日龍と激闘を演じた鉄剛、その人である。

「なんでお前が!?」

 この驚きの光景に龍は思わず、朝から変な声が出てしまった。

「実は二つ目の条件っつうのが、毎日休まず戦校に通うことだったんだ!」

「なに!? なにを考えてるんだあの先生は?」

 龍は自身の担任の頭を疑った。

『時間です、時間です、着席してください』

 疑惑に満ちた状況でも時報を告げるフクロウの声は変わらない。そして、ガシャガシャピシャーンという豪快な音を教室内に効かせながら、アリサは力強く扉を開き入室した。

「師匠おはようございます!」

 アリサ先生の言うことには従おう……。

 龍は知ってしまった。あのおちゃらけた担任の中に潜む鬼を。

「今日はみんなにお知らせがあります! 今日から新しく入った鉄剛君です!」

「おい、あいつ昨日の……」

 予想外の転校生に教室はザワついた。

「はーい静かに」

 アリサは手をパンパンと叩き、生徒達を落ち着かせた。

「先生質問がありますわ。みなさんご存じの通り彼は昨日私たちを襲った張本人。なぜ、そんな彼と共にすごさないといけないのですか?」

 ここで、凛は反論ののろしを上げた。

 敵と同じ屋根の下で過ごすのは凛のモラルに反しているからだ。

「確かに剛君がやった昨日の一件は許されることではない。でも、償いとして彼がみんなに襲った拳を今度はみんなを守るための拳にしてほしいの。その為にはこの戦校に通って立派な闘士になる。凛ちゃん納得した?」

「まあ、納得はしませんけど、とりあえずはそれでいいですわ」

「ということでみんなよろしく!」

 こうして驚くべき生徒が新しいクラスの一員として加わるこっととなった。

 これが鉄剛襲撃事件の真相である。

「それと、明日から転校生が入ってくるからみんなよろしくね★」

 この転校生の加入により、この戦校に嵐ともいうべき、新しい風が吹き荒れることとなる。


 ☆ ☆ ☆


 翌日。この日は新たな転校生がやってくる日である。

 転校生……一体どんな奴なんだ……?

 龍は今日から来る転校生の事を気にしつつ、いつもの席に着席した。

 教室の扉が開いた。

 教室に入ってきたのは龍達を幾度となく襲ったあの銀次であった。あの一件が嘘のように違和感なく教室に入り、初日以来座っていない席に着席する。

「よくまあ普通に来れますわね。どんな神経しているのですの?」

 凛はとにかく銀次のことを嫌っていた。同じクラスという事実も吐き気がするほどだ。

「転校生のスペシャルが気になるからな」

 レアなスペシャルをもっている生徒と闘うのが銀次の生きがい。転校生というレア臭がたっぷりするワードを銀次が聞き逃すはずがなかった。

「懲りないのですわね」


「みんなおはよー★」

 アリサはいつもと変わらない様子で入ってきた。

 一つだけ違うのは……。

「今日は、昨日言った通り転校生が来ます。みんな温かい雰囲気で迎えてね。それでは雷連進(らいれんしん)くんどうぞ★」

 アリサの呼びかけ一人の男が教室内に入ってきた。

 空気がピリッと変わった。

 その男は、下着と見間違うような胸に雷のようなマークが刺しゅうされている、真っ白い長そでのポロシャツ。背中にはたいそうなつぎはぎだらけの体ほどの巨大な三日月状のブーメランを三丁ほどかかげ、顔は整っていてハンサムなのだが、目は今からでも殺しにいきそうなハイエナのような鋭い眼光をもっていた。

「進君、みんなに自己紹介★」

「名は雷連進(らいれんしん)。過去は無い、あるのは決して輝くことのない闇」

 進は淡々と自己紹介をしていく。その言葉の奥底になにかを隠し持っていそうな不気味さを併せ持っていた。

「み、みんなよろしくね。席は端っこに座っている龍君のとなりね」

「やだ、あの転校生イケメンじゃない?」

 進は、女子生徒がザワつくほどの美系な顔立ちだった。

「彼こそ私の王子様にふさわしいですわ!」

 王子様のような甘いマスク。凛にとってドストライクの顔だった。

 凛は、今まで見た事の無いキラキラとした目で進を見つめた。その注目の進はというとコツコツと歩き、言われた席のもとへ歩いていく。

 

 転校生……雷連進か……。

 龍は、物珍しそうに転校生を見つめた。

 お返しと言わんばかりに進は、まるで小動物をにらむかのごとく鋭い形相で龍をにらみ返した。

 こいつ……俺と同じ眼をしてる……。

 これが俺と進のファーストコンタクトだった。

「よ、よろしく」

 普段人に話しかけない龍であったが、ここで話しかけないと後悔するように思った。

 恐る恐る転校生に声をかけた。

「……」

 しかし、返事は返ってこなかった。無の空間だけが龍と進の間を流れた。

 失敗した……。

 龍は早速話しかけたことに後悔した。

 進は大きい音を立てて今まで空席だった席に着席した。その進のことを銀次は興奮気味に見つめた。

 雷連進、なんだこいつは!今まで見たことのない鮮やかさ、こいつは間違えなくレアなスペシャルを持っている!

 銀次の目で見た進はあるえないくらいキラキラしていた。銀次の目も進と同じくらいキラキラしていた。


 その日の放課後のことだった。

「はーい、今日の授業はこれで終わり。みんな気をつけて帰るんだよー★」

 アリサの帰りのあいさつと共に進はすぐさま教室を出た。そして進の後をつけるように銀次は教室を出た。

 手厚い歓迎をしてやるよ、新入生!

 銀次は何かよからぬことを考えていた。

 そして、進の後をつける者がもう一人いた。

「私の王子様はどこに住んでいるのかしら」

 すっかり進の虜になった凛であった。


 道のはずれにある茂みの中。背の高い木々がきれいに並んでいる。

 そんな場所で、龍を襲った時と同じように銀次は仲間達を引き連れ、進の行く手をふさいだ。

「はじめまして雷連進君。君の為に歓迎会を開こうと思ってね」

 銀次はあえてニコニコしながら話しかけた。

 進の警戒心を取る作戦だ。

「俺の邪魔をするな、消すぞ!」

 進にはそんなものは関係なかった。

 圧倒的なプレッシャーで銀次を威圧する。

 進をつけていた凛は銀次達と進が対峙する姿を目撃し、気付かれないようにスッと木々の間にある物陰に隠れる。


「お前らは分散して、やつの身動きを封じろ」

「はい」

 銀次の指示のもと、銀次の仲間達が進のもとへ駆け寄った。

 進は手始めに背中に担いであったブーメラン2丁を取り出し上空に放った。

「バカめ、どこ狙ってるんだ!」

 銀次は進のトンチンカンな攻撃に呆れかえった。

 なんだこいつ、大したことないじゃん……。

 すっかり油断した銀次は、段どり通りに進の両腕を掴み身動きを取れなくさせようとしたその時。

 パアアンという気持ちい音と共に、なんと上空に放ったブーメランがピンポイントで進を掴もうとした銀次の仲間達の腕に直撃し、そのままブーメランは地面にめり込み、逆に銀次の仲間達の身動きが取れなくなった。

「嘘だろ! まさかこうなることを想定して!」

 雷連進はとんでもないほどの策士だった。

「美しすぎますわ、やはり私が惚れた王子様だけはありますわ」

 自分の目に狂いはなかった。

 凛は華麗な進の闘い方にさらに虜となってしまった。

「くそ俺の仲間はもう使い物にならないか。だが幸いにも俺のスペシャルをやつは知らない」

 次に進は最短ルートで銀次にブーメランを投じた。

 速い、だが高速アナグラならなんとか……。

 銀次は得意の潜り技で、なんとか地面に潜りこんでブーメランをかわす。

 今度はこっちの番……。

 銀次は定石通り敵の真後ろから地上に戻り、すぐさま攻撃に移った。

 しかし、進はあたかも図ったかのように跳躍し銀次の奇襲をかわす。そして銀次の視界には進が跳躍した先にはブーメランの姿が。

 かわせるはずはなかった。

 銀次の頭はきれいなくらいにブーメランと激突した。

 銀次はそのまま、ふかふかの草を布団代わりにしてうつ伏せで倒れこんでしまった。

 ぐっ、さっきのブーメランか……。

 あまりにも洗練された戦闘スタイルだった。銀次は痛みをこらえながらも、進の戦法に脱帽するしかなかった。

「ブーメランは特性上投手のもとにもどってくる。後は分かるな?」

 進は戻ってきたブーメランを格好良くキャッチして、余裕綽々の表情を見せた。

「お前ただものではないな。何者だ?」

「俺に過去は無いと言ったはずだ」

「まさか2年連続でこの戦校に天才が来るとはな、”邪化射ナーガ”以来のな」

「知らねーよそんな奴。お前のスペシャルは価値がない。消えな劣等者」

 進は、銀次を軽蔑するような目で睨みながら、捨て台詞を吐いた。

 このままではまずい……。

 進は歩きだし身動きが取れない銀次の仲間達をブーメランの柄の部分で気絶させ、ブーメランを回収した。

 徐々にうつ伏せに倒れている銀次に歩み寄った。

 そして銀次を倒したブーメランを取り出し、銀次めがけて振り下ろした。

「やめろー!」

 銀次は必死の形相で叫んだ。

 進は、銀次の形相を見て不敵な笑みを浮かべながら、ブーメランを容赦なく振り下ろした。

 終わった……。

 銀次は圧倒的な実力差の前に死を覚悟した。

 銀次が完全に諦めた、まさにその時だった。

 どこかで見覚えのある重厚な拳の弾丸が進に向けて飛んできた。

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