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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
49/67

第四十八伝「闘う理由」

第四十八伝。みなさんは闘うときって理由が必要ですか?いりませんか?ちなみに僕は闘ったことが無いので分かりません。それではどうぞ。

「信じ難いけど、どうやら別空間に飛ばされたみたいだね。それに、あの鏡が関係しているようだね」

 砂浜という過酷な環境下に置かれながらも、堂々とそびえ立つ四柱を盾にしながら、アリサはついに時空鏡の秘密を見破ることに成功した。

 この時点ですでにアリサの狙いは一つであった。

 時空鏡を半蔵から取り上げ、元の空間に戻り、無線で本部に伝える。

 アリサは朽ち果てそうな四柱に鞭打って、四柱を変形させた。

 四柱に与えられた新しい形は砲台。砲弾には砲弾で対応する気のようだ。

 バシュウという音と共に四柱によって形作られた砲台から木製の鉛弾が放たれた。その鉛弾は放物線を描きながら半蔵という大きな牙城を崩しにかかった。

 しかし、半蔵からしてみれば放物線を描けるレベルの鈍足にすぎない。空間を自由自在に動ける彼にとっては、かわすことなど朝飯前であった。

 またしても、アリサの攻撃は空を切った――はずだった。

 しかし、さすがは熟練者であるアリサだ。

 何度も同じ手にはかからなかった。

 なに!?

 ここで初めて半蔵は動揺という感情をお披露目した。

 アリサは洗練された転法で先回り。空間移動を図ろうとする半蔵の両腕を背後からがっちりホールドし、いやらしい空間移動を阻止した。

 程なくして四柱砲丸がついに完全無欠を誇っていた半蔵の牙城を崩した。

 木製の砲丸は半蔵の老体には相当応えたようで、半蔵は腹をうずくまりながら膝から崩れ落ちてしまった。

「お主、やるな……」

 半蔵は相当なダメージを受けたようで、息を切らしながら初めてアリサという強敵を称賛した。

「あなたも大概だけどね。でも空間移動は転法と違って移動する時のタイムラグが存在していた。私はそこを狙った。あえて砲丸を放つスピードを遅くし、油断させた。そして、速い転法で緩急をつければどうしても反応は遅れてしまう。私の作戦勝ちだね」

 アリサは自らとった作戦を饒舌に解説しはじめた。

「なるほどな。だが、自分の手の内をさらすとはまだまだお主も甘いな。鏡よ、鏡よ、時空へ誘へ!」

 半蔵は心の中でアリサの戦略に感心しながらも、それとは裏腹にアリサの甘さも感じ取った。

 彼は状況の悪さに一旦元の空間に戻ることを選択した。この冷静な判断が半蔵の場数の多さを感じさせる。

 時空鏡の鏡面が、らせん状に動き始めた。

 半蔵はここでニ度の空間移動を連続で行うことになった。

 一度目は自分だけが戻れるようにアリサとの距離を取るための空間移動。二度目に元の空間に戻るための空間移動だ。


 冷やかに降りしきる雨。港から吹き付ける潮風。

 ここは、サード・エンぺラポート。

 半蔵はなんとか元の空間に戻る事が出来た。元の空間はすっかり本降りとなっていた。雨の影響か海が踊り狂っているようにも見えた。

「ふー、やっと戻った★ 雨凄いなー」

 しまった……。

 半蔵は焦りを隠しきれないでいた。

 ここで半蔵は致命的なミスを犯してしまったからだ。敵であるアリサを元の空間に戻してしまったのだ。

 アリサは半蔵との距離は取るまいと、転法で半蔵の後を追い、間一髪で空間移動の現場に潜り込むことに成功していたのだ。

 これでは、外部との通信を取られてしまう……。

 アリサは半蔵の危惧していた通りの行動を始めた。

「こちらアリサです! 時空を操る鏡を使う白ひげの男に……」

 アリサが早業で無線機に声を送るが半蔵はさすがの対応を見せた。

 間一髪で無線機を払いのけ、いら立ちを脇差にのせて無線機という名の悪の根源をブッ刺した。これにより、アリサの無線機は使い物にならなくなってしまった。


 しかし、このアリサの決死の行動は実を結んだ。無線機を通じ、アリサの声がすぐさまダイバーシティの本部にいる副本部長である黒猫夢我と本部長の小門秀錬の耳に届いたのだ。

「今の聞いたな?」

 暗雲立ち込めていた本部に届いた一縷の望み。

 夢我は喉から手が出るほど欲していたアリサの声を聞くことができ、興奮気味に秀錬に話しかけた。

「うん、早速弾さんとの通信を再開しよう」

 そうなればやるべきことは一つに絞られていた。

 秀錬は最新鋭のコンピューターであるスクリーズを起動し、帝国の総帥である弾との通信要請を試みる。

 うれしいことに弾はすぐに対応してくれた。どうやら、弾もなにかしらの情報をとにかく欲していたようだ。

「なにか手掛かりを掴んだんですか!?」

 スクリーズがら聞こえる興奮気味の声。

 急を要する状況だけあって機械越しからでも弾の焦りが伝わってきた。

「はい、交流会の招待者であるアリサから通信が入りました。ただ、敵によりすぐに無線機は壊された模様。ただ手掛かりとなる言葉ははっきりと聞き取ることができました」

 秀錬は気持ちが表れたようで、早口に弾の問いかけに答えた。

「それでなんて?」

「『時空を操る鏡を使う白ひげの男』で通信は途切れましたがここから推測するこの男に襲われているということで間違いないでしょう」

「白ひげの男ですかか……」

「心当たりがあるのですか?」

「はい、かつて私と敵対していた旧上層部の連中の中に時偶半蔵という特徴的な白ひげを生やした男がいましてね。ただ、問題なのは……」

「時空を操る鏡、ですか……」

「残念ながら存じあげません。ただ、時空を操るということは別空間に移動していたということになりますね」

「はい、そうすれば彼らの謎の失踪も辻褄が合いますね」

「ただ、問題なのは我々は別空間に飛べる方法が存在しないということ」

「とりあえず、時空を操る妙な鏡のことをデータベースで調べてみます」

「こちらは時偶半蔵について調べてみます」

「ありがとうございます。それでは、分かり次第また連絡いたします」

「お願いします」

 ここで秀錬は一旦通信を切り、妙な鏡のことについて調べることに専念した。


 ☆ ☆ ☆


 秀錬と夢我は二人がいた本部長の部屋がある七階の一つ下の六階にある資料室に足を踏み入れた。

 資料室は滅多に人が出入りすることはなくほこりまみれ。中には大量の資料が無造作に並べられているが、今の時代こんな大量の文献から得たい情報を掴むという途方に暮れるような原始的な方法は使う必要はない。

 二人の目的は資料室の奥にある不要な文献たちを見下ろすように設置されている巨大なデータベース。

 このデータベース一つにこの資料室にある文献の情報がすべて詰まっているといっても過言ではない。このデータベースの情報はデータベースに備え付けられている画面に写しだされる。

 二人はほこりのカーテンをかき分けながらデータベースの電源を入れた。

 夢我が操作し、時空 鏡というキーワードで検索をかける。

 夢我は画面に表示された文章をそのまま音読した。

「出てきたぞ。時空鏡。そのままの名前だ。読んでみるぞ。見た目はただの手鏡。禁武具といってあまりにも危険なため使用が禁じられた武具。その効能はおぞましく空間を自由自在に動き回ったり、別空間に移動することさえできてしまう。この武具には……」


 ☆ ☆ ☆


 路地の真ん中に絶望的な表情を浮かべながら、呆然と立ちすくむ男がいた。

 男の目の前にはもう一人剣を自慢げに剣を担いでいる男がいる。彼は目の前の男に恐怖を覚えているのか、悪寒のような小刻みな身ぶるいしていた。

「この状況を見ろ。もう闘うしかねーよ」

 幻聴なのか、身震いしている男が大事そうに担いでいる剣から声が聞こえてくた。

 違う、幻聴などではない。これは、剣に力の一部と共に意志の一部を封印された鳳助の声だ。

 鳳助に話しかけられ、身震いしている男は一撃龍で、自慢げに剣を担いでいる男は六角斬竜だ。

「はよ闘おーや」

 斬竜は好戦的な性格。

 その性格のせいで、帝校でする必要のない闘いをたくさんしてしまいたびたび注意を受けてきた。

「なんであなたと闘わなくてはいけないんですか? あなたとは闘う理由がない」

 龍は斬竜と闘う理由を見つけることが出来なかった。

 闘うには理由がいる。

 龍は特に理由はないが、自然とそう考えていた。

「バトラとバトラが出会ったんやぞ、闘うのは当然やろ」

 何を言っているんだこいつは……。

 それは理由になっていない……。理由なしに闘うことは自分の力を誇示していたい不良がやることだ……。

 龍は斬竜の言葉に違和感を感じずにはいられなかった。

「それは理由になってません」

「なんか堅苦しいやっちゃな。そもそも闘うことに理由なんているんか?」

 違う、そうではない……。

 バトラは誰かのために剣を握り、拳を振るわなくてはならない……。

 俺は戦校に通い仲間と出会うことでそう考えることができた……。

「俺はあなたと闘う理由はありません!」

 龍は自分の中で答えを見つけ、きっぱりと言い張った。

「せやか。だったら斬るで」

 斬竜は一歩一歩足場を確かめるようにゆっくりと龍に近づいた。

 ちょうど剣があたる位置まで移動した斬竜は立ち止まった。そして、斬竜は担いでいた剣を振り下ろす。

 ここで、龍は防いだ!

 龍は無意識に自身の相棒である鳳凰剣を盾にして、斬竜の攻撃をしのいだのだ。

「剣を抜いたな。闘う意志があるというわけや」

 斬竜は快楽を覚えていた。

 闘えることに……!

 斬竜はしてやったりというような顔を浮かべながら、なおも話を続けた。

「そもそもお前はバトラになるんやろ? バトラは当然やが闘いが付きまとうんや。いつ何時でも闘う覚悟をもたなあかんで」

「そうかもしれませんね」

 龍の目の色が変わった。

 ここで龍は闘う覚悟を決めた!

 互いの剣を交えたことで龍のスイッチがついたようだ。

「その眼を待ってたんやあ!」

 斬竜は先ほどより力を加え、自身の髪色と酷似している毒々しい色をもち、とても美しいとは言えない刃こぼれしている不格好な剣を振り抜いた。

 龍は鳳凰剣で受けて立つも斬竜の剣の勢いに押され徐々に後ずさりしてしまう。

「行くぞ、鳳助!」

「ああ!」

 龍と鳳助、一人と一体の呼吸が合った。

 龍が持つ紅色の炎と鳳助が持つ朱色の炎が鳳凰剣というパレットで入り混じり、美しい緋色に変色した。

 緋という新たな色を携えた鳳凰剣はまるで水を得た魚のように激しく燃えた。

「僕と闘った事を後悔しないでくださいよ! 鳳凰斬・緋祭!」

 龍と鳳助の炎を融合させた緋の斬撃が斬竜の体を強襲した。

 斬竜はなんとか剣で防ぐものの、衝撃で後ろに吹き飛び後ろにそびえていた建物に激突してしまった。

「やればできるやないか」

 はたから見ればかなり痛手を負ったように見えたが、斬竜は何事もなかったようにあっさりと立ちあがってしまった。

「あの攻撃を受けて……」

 龍はこの攻撃で仕留められるという自信があった。

 しかし、それは分かりやすいほどの慢心だった。すんなり立ちあがった斬竜を見て、龍は思わず口をあんぐり開けてしまう。

「この程度で驚くなや。エンぺラバトラは他の国と鍛え方が違うんやで」

 斬竜は肩を回しながら言った。

 龍は本能からか一歩さがってしまった。そ

 れを見て追撃はないと判断した斬竜はついに動いた。

「今度はこっちからいくで!」

 斬竜は剣を担ぎ、不敵な笑みを浮かべながら距離をとった龍に突っ込んできた。

 龍は剣で剣を受けた時には聞こえるはずの無いビチャッという液体が飛び散ったような音を耳にした。それは幻聴ではなかった。

 斬竜の剣先から汚らしい紫がかった黒い液体が飛び散っていた。

 その液体は鳳凰剣と龍の服に付着してしまった。龍はその液体を見るなり一瞬で嫌悪感を感じ取らずにはいられなかった。

「なんだよ、この液体は……!?」

 この時、龍の体はぶるぶると震えており、明らかに拒否反応を起こしていた。

「”毒”や」

「毒ってあの毒?」

「そうや、人体に多大な影響を及ぼすあの毒や。わいのスペシャルは毒。他の属性と比べると明らかに厄介やで。直接害を与えるからんやからな」

 毒……!

 龍は思った。

 よく聞き誰もが知っているおなじみの言葉だが実際にこの眼で、しかも自分の剣と服に付着しているなんてことになると話は違ってくる。

 そもそも毒とは何だ。

 詳しくは分からないが毒を吸ったら死ぬ、毒を飲んだら死ぬということはなんとなく分かる。

 毒と死は常に付きまとっているイメージが頭に刷り込まれているのだ。

 やばい……。

 死ぬ!!

 龍はこの時、死を想像した。


 ☆ ☆ ☆


「お前は何者だ?」

 悠々とそびえたつ巨大な木の下で進は意味深な質問を対戦相手に投げかけていた。

「僕は新威ラギアだ。これが僕という個体を識別するための名称だ」

 進の対戦相手であるラギアは回りくどい言い方で答えた。

「そういう意味ではない。質問を変えよう。お前はなぜここにいる? なぜ俺と闘う?」

「命令だからね」

「それも違う、お前自身はどう思っている?」

「僕自身は何も思わないし何も感じないよ。ただ命を受けたからここにきて、君と闘う。君はどうなんだ?」

「確かに似ているかもれないな俺と、俺も前まではそんな感じだった。勝負を仕掛けられたから受けて立つ、そこに自分の意志はない。だが、今は違う。今まで闘ってきた俺より強い相手より強くなる。そのために俺は闘う!」

 進に過去の記憶は存在しない。

 覚えていないというわけではない。穴のように過去の記憶がぽっかりと”ない”のだ。

 だから進はその空白を埋めるために戦校を訪れた。そこで、仲間と出会った。友と出会った。強敵ライバルと出会った。

 そうした出会いが進の記憶という名の空白を埋めてくれた。

 進の眼は光っているようにも見えた。進は明らかに昔より生き生きしていた。充実感に満ち溢れていた。出会ったころより生き生きしていた。

 ここで、進は思った。

 今度は自分が空白を埋める番だと……。

「はああああ! ヒ・ラ・イ・タ・チ!」

 進の眼はこれ以上ないくらい本気マジになった。

 自分が今持ち合わせている全ての雷を太刀に……。

 捧げる!!

 太刀は稲光という塗料によってコーティングされ、白色という新たなフォルムへと変貌を遂げた。

 進は真っ白に染まった太刀を、肩甲骨が外部に飛び散りそうなくらいの勢いで、思い切り振るった。

 豪腕投手の腕から放たれた球のように、太刀は進の腕という装置によりとんでもないスピードを得ていた。近距離にいたラギアに避ける猶予はなかった。

 

 だが、太刀がラギアに届くことはなかった。

 嘘かまことか判断できない、床までつきそうな透き通るような長い髪を携え、葉の冠をかぶった透明の女性がラギアの目の前に突如出現し、とてつもない電力を帯びた太刀を弾いたのだ。

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