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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
48/67

第四十七伝「エンぺラバトラの実力」

第四十七伝です。いよいよエンぺラティアの刺客達の実力が分かります。それではお楽しみください。

 ピクニックが出来そうなのどかな丘に広がる戦慄。

 早くも手負いの剛は自らの重厚な両拳にチェーンを巻きつけ戦闘態勢に入った。その姿を対戦相手である瞬は、余裕綽々で見つめていた。

「うおおおお!」

 戦闘態勢に入った剛は早かった。

 躊躇なく右拳を瞬に向かって放った。

 しかし、むなしくもその拳はかすりもしなかった。瞬は余裕の表情で転法を用いいとも簡単に回避していた。

「なにそのパンチ? 僕には止まって見えるよ」

 この野郎……!

 剛は焦っていた。自分の攻撃が思うように当たらないことに。

 瞬は察知した。この男は挑発に乗るタイプだと。だからこそこのような挑発的まがいなセリフを投げつけたのだ。

「転法がお前だけのものだと思うなよ! 転法剛拳!」

 剛が最近身につけた新技だった。転法しながらの剛拳。リーチは格段に上がる。

 荒っぽさが残るりながらも移動距離に定評がある剛の転法。瞬の間合いに一気に詰めることに成功した――はずだった。

 しかし、そこには瞬の姿はどこにもいなかった。

 なぜか瞬は剛のはるか後方に立っていた。

「なんで当たんねーんだよ……!」

 自分の攻撃が全く当たらないいら立ちからか、剛は心の声を無意識に外部に流出させていた。

「闘いに絶対負けない方法を教えてあげるよ。それは、”相手の攻撃に触れないこと”。つまりスピードを制する者は闘いを制す」

 瞬はまたしても姿を消してしまった。

 瞬の超高速の転法に剛が対応できるはずもなかった。

 剛は瞬の居場所を見つけるより先に右ひじに痛みを覚えた。

 右ひじには見覚えの無い傷か刻まれていた。傷口から鮮やかな赤色の血が皮膚を伝って流れていた。

疾風はやて。スピードを高めることだけを極めた斬撃。あまりのスピードに相手は気づく間もなく斬られる。これが僕の唯一にして最強の技だ」

 それだけではなかった。

 瞬は剛の二つの意味をもつ右腕を集中的に狙い、戦闘能力を極端に低下させていた。

「いちいちむかつくやつだな、てめーは! ぜってー俺の拳でぶん殴ってやる!」

 いてえ……!

 剛の強気な発言とは裏腹に、自分の商売道具である右腕を動かすたびに、痛みが脳に直接伝わって来た。

 剛はなんとしても攻撃を当てるために転法で距離を詰めようとするも、当然スピードという向こうの土俵で歯が立つはずもなかった。

 気づけば自分から仕掛けたはずなのに自分の傷が増えるばかり。

 それも今度の傷は致命傷ともとれる右手首の傷。剛の腕はすっかりグロテスクな見てくれと化してしまう。

「どうやって闘えばいいんだ!?」

 剛は瞬の圧倒的なスピードを前にただただ嘆くしかなった。


 ☆ ☆ ☆


 風がじかに伝わる建物の屋上。

 ここで異様な武具を構える女性と、それを凝視する女性が一人づづ。

「殺すなんてそんな物騒なこと言わないで下さる? それに、なんなんですのその武具? 気味悪いですわ……」

 凛が不安な面持ちでこう口にするのも無理もない。恐香が構えている武具は鎖に繋がれているサメのような生物の頭蓋骨といういびつな風貌。

「恐皇スケルトンだ。お前はこいつの餌となるんだぜ」

 恐皇スケルトンという名の武具から鎖と鎖がこすれる不協和音が流れた。

 恐香は巧みにスケルトンを操り、頭蓋骨部分であるスケルトンの本体が凛を喰らうために、蛇のように段々と近づいていく。

 凛はなんとか間一髪で避けた。

 スケルトンは凛の代わりに屋上の柵を喰らった。すると、鉄でできた柵は粉々に砕かれてしまった。

 あれを喰らうとまずいですわね……。

 凛は冷静に状況を分析するも、心の奥底では恐怖が巡っていた。

 でも、後ろに下がるわけにはいかない!

 と同時に闘う意志を自分の胸に誓った。

「避けてんじゃねーよ! 素直に喰われろ!」

 勿論一発で終わるようなやわな闘いではない。恐香はすぐさまスケルトンを軌道修正させ二撃目に移った。

 凛という女は恐怖におびえて逃げ回るだけの、か弱い女ではなかった。

 凛はこの頃、背に寝かせ続けていた聖剣エターナルを満を持して抜いた。彼女は聖剣・エターナルを前に構え自分の持つ属性である光を剣先に集める。

聖路エターナルロード!」

 凛は交流戦でナギを追い詰めたまばゆい光線を放つ必殺技、聖路エターナルロードをスケルトンの本体めがけて放出した。

 目を開いているのもやっとなくらいの光線が無機質な屋上に突如出現した。

 その光線は見事おぞましきスケルトンの本体に的中した。スケルトンはこれによってひるんでしまう。

 ここだと思った凛は、恐怖を押し殺してこの時初めて、敵である恐香との間合いを詰めた。

 凛の狙いはスケルトンを意のままに操る恐香の左手だった。

 凛は躊躇なく聖剣で恐香の左手を斬りかかった。

 しかし、恐香は後方に跳躍してかろうじて凛の斬撃をかわす。

 凛は深呼吸して体制を整えようとした、その時だった。

 スケルトンの鋭い歯が聖剣エターナルの刃を噛み砕いた。今まで幾度となく凛に力を与え続けていた聖剣エターナルの刃が見るも無残に砕け散ってしまう。

「聖剣エターナルうううう!」

 凛の悲痛な叫びが天まで響いた。


 ☆ ☆ ☆


 昼にも関わらず、まるで夜のように薄ぐらい路地の真ん中で、龍は仲間の居場所を尋ねただけなのになぜか喉元に剣を突き立てられていた。

「うわああ! なにするんですか急に!」

 殺される……!

 死の危険を感じた龍は無心で突き立てられた剣を払いのけ、全速力で逃げだした。

「はあはあ……いきなりなんなんだあの人……いきなり剣を突き立ててきて……エンぺラティアって物騒なんだな……」

 しばらく龍は逃走を続けた。

 後ろを振り向き、追手がこないことを確認して息を荒げながら立ち止まった。

「なんなんだよ? 騒がしいな」

 龍の心臓は大雑把な振動を始めた。

 突然声が聞こえたからだ。

 しかし、その声の主が分かり安堵した。不意に龍に声をかけたのは、鳳凰剣という寝床で朝からずっと熟睡していた鳳凰の意志の一部である鳳助だった。

「逃げんなや」

 またしても龍の心臓は大きな揺れを生み出した。

 しかし、今度は声の主が分かると震撼した。

 鳳助とはまた違う声だった。声の主の足音が徐々に近づいてきた。

 声の主の正体は先ほど龍の喉元に剣を突き立てた張本人、斬竜だったからだ。

「なんかおもしれー状況になってるじゃねーか」

 鳳助は心を弾ませていた。

 久しぶりの戦闘の血なまぐさい匂いがぷんぷんと鳳助の鼻に伝わってきたからだ。

 しかし、鳳助の相棒である龍は正反対のリアクションをしていた。龍は恐怖のあまり声すら出せず、顔面蒼白の顔色をしていた。これが、龍の現在の心理状態を端的に物語っていた。。

 龍は先ほどの逃走で疲労が蓄積されている足に鞭打って、再び逃走を始めた。

「おい、なんで逃げるんだよ? むこうは闘う気満々だぜ! 受けて立てよ!」

 鳳助にとっては相棒の行動は理解に苦しんだ。

 せっかく楽しい楽しい闘いがおっぱじまりそうなのに、当の龍がそれを拒んでいるからだ。

「むこうが闘う気でもこっちは闘う気がないの! とりあえずみんなを探さなくちゃ」

 鳳助が何を言おうとも、龍の意志は変わらなかった。

 龍は反論しながら、逃走をやめようとはしない。

「追いかけっこはやめよーや」

 そんな……。

 龍の必死の逃走むなしく、龍の行く方向に先回りしている斬竜の姿が無情にも龍の眼球に映し出された。

「逃げれてねーじゃねーか。どうやら闘うしかないようだな!」

 今度こそと思った鳳助だったが、その言葉は龍に全く届いていなかった。

 龍はなんとかこの危機的状況を回避する案を模索することで頭がいっぱいだった。

 そうだ!

 無線機でみんなと通信すれば……。

 龍は肝心なことを思い出した。

 しかし、別空間に隔離されていた龍に通信という手段は通用しなかった。無線機から聞こえるのは不規則に流れるノイズのみだった。

「なんで俺に剣を突きたてたり、追っかけたりするんですか?」

 斬竜は龍の素朴な問いに、真顔で答えた。

「お前を斬るためや」


 ☆ ☆ ☆


 居座りを決め込む、大きな木の下で息も詰まるような異様な雰囲気が流れていた。

 転法を用い進の背後をものの見事にとって見せたラギアの姿が画面を捉えた。

「あんまり後ろに立つなよ。気に障る」

 進は早速、太刀と呼ばれる体ほどある三日月状のブーメランに雷を纏わせていた。それを逆手に持ち、真後ろをついた。ラギアがいやらしく進の真後ろに直立していたからだ。

 ラギアは絵にかいたようなお手本のような転法で進の奇襲をあっさりかわした。

 しかし、それで終わる進ではなかった。

 ラギアが転法した瞬間に自身も転法し、ラギアに一息入れる暇を与えなかった。

 転法先を空中に選んだラギアは空中に現れる。

 それを追うように進も空中に現れた。

 まさに転法合戦!

 そして、進の太刀とラギアの手刀が空中で衝突した。

 空中で衝突しながらも二人は態勢を崩すことなく地上に着地した。

 

 この時、進はある疑問を抱いていた。

 ラギアは武具を使う気配もなければ、スペシャルを使う気配もない。

 剛のように拳一つで闘う戦闘スタイルなら腑に落ちるのだが、だとしたら剛のように体が鍛え抜かれて、筋肉隆々の体つきであるはず。しかし、ラギアの体は筋肉隆々どころか女のような華奢な腕。とても拳一つで闘うとは思えない。

「ゴホッ、ゴホッ」

 それにこの健康状態だ。

 間違いなくこの男はなにか隠し持っている。

 そんなことを頭に入れつつ進はラギアという謎のファイターとの闘いに挑んでいた。

「ニ連双飛太刀!」

 進は正面に一刀、空中に一刀、進が所持している三刀中ニ刀を投じた。

 正面の一刀を気に止めている間に空中の一刀で仕留める進が好んで使う算段だ。

 しかし、ラギアはニ刀両方に気を配っていた。

 正面の太刀を跳躍で避けると、空中の太刀を転法して避けて見せた。


 進は転法を仕掛けた。

 進の狙いは自分が持っている三太刀目にあった。

 進はラギアの能力を考慮して、ニ刀両方避け切ることまで読んでいた。

 進はラギアが転法終わりの一瞬の隙を最初から狙っていた。

「雷太刀!」

 進は自身の雷を纏わせた太刀で転法を終えたラギアに照準をピタリと合わせ、襲いかかった。

 ラギアは胸元で両手を交差させて身を守るという原始的な方法で雷太刀を防御した。

 しかし、ラギアの両腕の皮膚は雷の影響ではがれていた。

 闘いの主導権を握っているは間違いなくこっちだ……。

 だがなぜだ……。

 奴から焦りが見えない……!

 進は押しているにも関わらず、表情をゆがめた。精神的に追い詰められていたのは進だった。

 

 ラギアはここまでされて黙っている訳にはいかなかった。

 転法で進の目線の真横に移動し、右フックを進のわき腹に入れた。ラギアの奇襲に反応できず進は綺麗にわき腹に直撃を喰らった。

 進はわき腹を押さえながらこんな事をつぶやいた。

「かつて俺のチームメイトが言っていた。互いに拳を交えれば相手の想いが伝わってくるってな。だがお前の拳には何も伝わってこない……」


 ☆ ☆ ☆


 砂浜に描かれている寂しい灰色のキャンパスに血の鮮やかな赤色がキャンパスを彩った。

 アリサは半蔵の脇差によって刺され、出血している腰を顔をしかめながら手で押さえた。

「今から言う私の質問に答えてね。あなたは何者で、何が目的で私たちを襲う?」

 アリサはなんとしても相手の目的を知りたかった。

 そうすれば、自分のやるべきことは分かる。

 アリサは声を出すのも苦しい状態で、なんとか声を振り絞って背後で悠々と自分の腰を突き刺している半蔵に尋ねた。

「今頃エンぺラティアはわしの思惑通り大慌てだろうな……」

 半蔵はアリサの腰に刺さっている脇差を引き抜き苦しむアリサを嘲笑いながら答えた。

「質問の答えになってない!」

「お主の命もあとわずか。冥土の土産に教えてやろう。わしらはエンぺラティアにクーデターを起こすのだ。お主らを利用してな」

 なんだと……!

 早くこのことを本部に伝えないと……!

 でも無線機は使えない……。

 そもそも最新鋭のこの無線機が使えないのはおかしい……。

 それにあいつの空間を使う奇妙な移動法……。

 私の推測が正しければ……。

 アリサは満身創痍の中、思考を巡らせ一つの結論に至った。そして、すぐさまその結論に見合った最適な行動に移った。


 アリサはクルンと一回転して、真後ろに居座る半蔵に、空気を切り裂くような正拳突きを見せた。

 しかし、時空鏡のお陰で空間を意のままに操ることのできる半蔵にはなかなか当てることができない。

 全く当たらない……。

 ただ向こうからの決定打はない分こっちに分がある!

 アリサは隠し持っていた包帯で止血しながら、冷静に相手の弱点を見抜いた。

「どうせわしには有効な攻撃手段がないとかくだらないことを考えているんだろ? 甘いわ!」

 半蔵はいきなり声を大にして時空鏡を前にかざした。

 時空鏡が映し出している景色がゆがんだ。すると、時空鏡から巨大な物体が吐きだされる。巨大なバズーカ砲だ。

 持ち運びが困難なバズーカ砲を時空鏡を駆使し、この空間へ持ち出したのだ。ここでも時空鏡は万能性を見せつけた。

 巨大な発射音と共にアリサに向けて砲丸が放たれる。

 水面を叩くバコオンという大きな音。

 直撃――そう思ったが、さすがはアリサ。

 エルヴィンの攻撃を寄せ付けなかった堅牢なる四本の樹で形作られた四柱壁で砲丸を防いだ。

 ただ、砲丸の威力でさすがの四柱壁もクレーターのような砲丸の跡がくっきり残ってしまった。

 そして、見事に身を守ったアリサは目を見開きながら言った。

「エンぺラティアへ行くときに降っていた雨が突如やんだ謎の気候、空間自体を移動させる妙な移動法、そして隠し持っていたとは到底思えない巨大なバズーカの突然の出現。全ての謎が解けた!」

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