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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
45/67

第四十四伝「本部長・小門秀錬(こかどしゅれん)」

第四十四伝です。ついにダイバーシティのバトラのリーダーが登場します。みなさんのリーダーはどんな人ですか。リーダーといっても様々な人がいますよね。それではどうぞ。

 いよいよナンバーワンと……。

 ナンバーツーですらこのオーラなんだ……。

 ナンバーワンは一体どれほどなんだ……。

 まだ国のナンバーワンである本部長に会ったことが無い龍、進、凛、剛はナンバーツーである夢我を恐る恐る横目でチラチラ見ながら、様々な本部長像を頭に思い描いていた。

 巨人かな……。

 仙人みたいな人かも……。

 もはや人間ではないとか……。

 そもそも生物ではないなんて……。

 その想像はどちらにしてもおぞましいものしか想像できなかった。

 ダイバーシティのナンバーワン。つまりダイバーシティ最強のバトラといっても過言ではないのだから、凄まじいものを思い浮かぶのも無理はない。

 

 エンぺラティアの交流会に招待された五人は副本部長である夢我の先導のもと、センターハウスと呼ばれる本部の最上階である七階のシャンデリアがきらびやかな輝きを見せる廊下を歩き、一番奥へと進んだ。

 すると、洋風の館内に似つかわしくない和風のふすまが佇んでいる。

 どうやら、ここがダイバーシティの闘士、通称ダイバーバトラのトップに君臨する本部長の部屋のようだ。

「入りますよ、本部長」

 ダイバーバトラのナンバーツーである夢我が扉越しに声をかけるも、沈黙が帰ってくるだけで、何の反応も帰ってこなかった。

「師匠、反応がありませんけどどうします……?」

 弟子にとって師匠の困っている姿はあまり見たくはない。

 そんな師匠の困り果てた様子を見て、アリサは自らの師匠である夢我に不安そうに話しかけた。

「(あいつまた……)仕方ない、勝手に入る」

 夢我は国のリーダーの部屋の入り方としては不適当な入り方をした。

 中にいるであろう本部長の了承も得ないまま、所持していた合いカギで本部長の部屋を強引に開けたのだ。総理大臣の部屋に了承もなく勝手に入る愚か者などいないだろう。それが、総理大臣の次に権限を持つ人でも。

 そんな恐ろしいことを夢我は平然とやってのけたのだ。

「い、いいんですか……?」

 アリサのリアクションは適当なものだった。

 師匠である夢我のぶっ飛んだ行動に、アリサは不安を募らせた。

 実は、アリサでさえも本部長のことは一度見たくらいしかなく、どんな人物像なのかは全く不明だったのだ。

 ゴクリ……。

 本部長に会うのが初めての四人と、アリサを加えた五人は国とのトップとの対面の時間が間近に迫っていることを再確認し、聞こえるほど思いきり唾をのどに通した。

 

 ふすまを開け中に入ると、部屋は真っ暗だった。

 あたりの様子は何も分からず、唯一伝わってきたのは猛獣のうめき声のような大きく不快ないびきの音のみ。

 カチッという音がしたと思ったら部屋に光が生まれた。

 どうやら、誰かが電気の電源を入れたようだ。ここでそんなことができるのは夢我しかいないので、夢我が点けたということで間違いはない。

 部屋は宴会ができそうなくらい広く、下駄箱が備えられていること以外は、畳が敷かれて、掛け軸が掛けられている床の間もあり完全なる和室だ。

 本部長らしき人は部屋の奥で布団を二重に掛け、布団からひょっこり出ている顔は、とても気持ちよさそうに目を閉じていた。

 いびきの主はどうやら本部長で、彼はとっくに顔合わせの時間がきたにも関わらず熟睡していたようだ。

「いつまで寝ているのだー!」

 夢我は国のナンバーワンに怒鳴りながら、本部長が熟睡を決め込んでいる布団を強引にひっぺがえした。

 どっちがナンバーワンなんだ……?

 夢我の強気な対応を目撃した五人は、一体どちらが本部長なのだか分からなくなっていた。

「……あと10分……」

 ここで、初めて五人は本部長の言葉と声を聴いた。

 それは、国のナンバーワンとは思えないような情けない言葉と声だった。

「もうとっくに顔合わせの時間だろ! そもそも、ダイバーシティのバトラ、ダイバーバトラのリーダーが昼間から寝ているとは何事だー!」

 副本部長の夢我は立場が上の本部長にも容赦なく説教して見せた。

 本部長は夢我に言われると、自分の仕事を思い出したかのように、ムクッと立ち上がり龍達に向かって話し始めた。

「…そうだった。僕はここの本部のリーダーの小門秀錬こかどしゅれん。センターリーダーとか本部長とかいろいろな言い方あるけどどれでもいいよ。今日はわざわざ休日の中来てくれてありがとね」

 小門秀錬、これが本部長の名だ。

 寝起きもあって髪はぼさぼさで、無精ひげを乱雑に生やしている。とてもダイバーシティのリーダーとは到底思えない風貌だ。ただ、目はきりっとしていて整いさえすれば顔面レベルは高そうだ。

 だが、どう見ても公園でお昼寝しているようなどこにでもいるおじさんにしか見えなかった。

 龍、進、凛、剛の四人は本部長に対していろいろな想像を膨らませていた。

 巨人。仙人。猛獣。機械。

 ただ、目の前にいる本部長と呼ばれる男は何のオーラも感じないただのおっさん。

 四人の拍子抜けもいいところだった。

「こんにちわ!」

 しかし、見た目はどうであろうと本部長、国のトップであることは変わりはない。

 靴を履くスペースで立ちっぱなしではあるが、背筋を伸ばし体を45度に曲げて、しっかりと龍、進、凛、剛、そしてアリサの五人は最大級の敬意を示して挨拶をした。

「どうぞ中に入って」

 秀錬が寝起きだからか気が抜けた声で促すと、龍達は靴を下駄箱にしまい、ゆっくりと畳の中に入った。

「私が彼らの保護役を勤めさせて頂く戦校の教員のアリサと申します」

 アリサは畳ということもあり膝を曲げながら正座をして、丁寧な言い方で自己紹介をした。ここで、奇抜な短いスカートがあだとなり、アリサは逐一スカートを伸ばしていた。

 それに続き龍達も緊張しながら先生に倣い正座し、じっと人の話を聞く姿勢を取った。

「アリサちゃんね。夢我の口から君の名前はよく出てくるよ。なんでもダイバーシティの将来を担うバトラだって」

 私が将来を担うバトラなんてそんな……。

 お世辞とも取れる言葉だが、アリサは疑う余地もなく、嬉しさのあまりすっかり赤らめた頬に手を置いた。

「いらんことは言わなくていい。本題の方に入れ」

 しかし、この秀錬の言葉は決してお世辞ではなかった。

 というのも、夢我が秀錬と会話するときの話題のほとんどは弟子(アリサ)の自慢話だからだ。

 夢我は弟子を裏で、べた褒めしていたのが恥ずかしいのか、強引に話しをそらそうとした。

「そうだね、じゃあ早速本題の方に入ろう。君達は聞いたとは思うけどダイバーシティとエンペラティアの同盟国の証として去年から実施された戦校と帝校の交流会のメンバーに晴れて選ばれたんだ。これは交流会といっても小国である我がダイバーシティと大国であるエンペラティアとの信頼関係を保つための国の威信をかけた大事なイベントなんだ。君達はその代表、自覚を持ってほしい」

 そんな重要なイベントになんで俺たちが……。

 秀錬の大それた言い方に、龍、進、凛、剛の四人はすっかり物怖じしてしまった。

 その様子を見た秀錬は「やっちまった」というような表情を見せ、言葉を180度方向転換させた。

「ごめん。言い方が悪かったかな。君達は遠足感覚で楽しんでもらえばいいからね」

 それなら……。

 秀錬は安心させるように笑顔でか弱き四人の少年少女に語りかけた。

 その甲斐あってか、四人はすっかり保育園に母親が迎えに来た時の子供のような安堵した表情を浮かべた。

 秀錬は肩をなでおろすと、表情をきゅっと引締め具体的な説明に入った。

「それでは具体的な来週の予定について説明するね。この交流会は一泊二日を予定していて、来週は朝9時にこの本部の周りにある公園、ダイバーパークの噴水の前に集合してね。君達専用のブライトカーを手配してあるからそれに乗って港に行き、それから船で帝国に向かう。帝国の港には帝国の案内スタッフが待っていると思うから、後はその人の指示に従ってね。帝国は遠いから二日はかかるからね。何か質問ある?」

「はい」

 龍が先陣を切るように、手を挙げた。

「じゃあその大剣をぶらさげているえーっと……」

 豪快な性格の秀錬は細かいことを覚えるのが大の苦手だ。

 秀錬はまだ交流会に選ばれた四人ことを全く把握しきれていない。

「一撃龍です」

 龍は本部長に名前を憶えてほしいといわんばかりに、はっきりとした口調で答えた。

「ごめん、ごめん龍君ね。どうぞ」

「本部長は一緒に行くんですか?」

「悪いけど僕は通常業務があるから行けないんだ。一応アリサちゃんに保護役を一任しているから、アリサちゃんよろしくね」

「了解です!」

 四人の身の安全を守るため、そして交流会を成功させるため……。

 確固たる気持ちのもと、アリサは秀錬の呼びかけに自信満々に返事をした。

「他に質問ある?」

 龍に続けと言わんばかりに、次はなにかと機転がきく凛が質問を始めた。

「帝国に行って私たちは具体的に何をすればいいんでしょうか?」

「さっきも言った通り帝国の案内役の人の指示に従えばいいんだけど、多分向こうの授業を体験したり帝校の生徒達を交流したりするのが主な活動内容だと思う。去年もそうだったらしいから」

「ありがとうございました」

「こちらこそいい質問ありがとね。君の名前は?」

「光間凛です。よろしくお願いします」

「他には?」

 待ってましたと言わんばかりに剛が話し始めた。

「俺の名は鉄剛です! 帝国で戦闘はやるんすか?」

 剛らしい血の気が多い質問に秀錬は思わず物珍しそうに剛を見つめながら話し始めた。

「戦闘かー。授業の一環ではあるかもしれないけど本格的な事はやらないと思うよ。と言ってもなにが起こるか分からないのがこの世界だし一応準備はしといて損はないかもね」

「あざっす!」

 剛は急に立ち上がり頭を下げた。

 意外と縦社会が激しい不良の世界に生きてきた男だけあってそういうところはしっかりとしているようだ。

「順番的には最後に君か、何か質問はある?」

 秀錬はまだ一言も発していない進の目を向き尋ねた。

「雷連進だ。質問はないが、気になることが一つある。あんたはどれくらい強い?」

 スパイシーすぎる質問だぜそれは……。

 進の突拍子もない質問に朗らかな空気を常に出していた本部長の部屋の空気が、一瞬のうちに冷ややかになる。

 最近の進は人の、特にプロバトラの戦闘能力が気になってしょうがない。

 この質問に秀錬の心臓がびくっとなったが、そこは未来ある若者の質問。秀錬は笑顔で柔らかく対応した。

「そうだね。ちょっと戦闘体制に入った時の感じを出してみようか」

 空気が……。

 変わった!

 秀錬がそう言った途端今までこの部屋に流れていた温かい空気が一瞬のうちに変わってしまったのだ。

 瞬きでもしようものなら殺されそうな、そんな冷ややかな空気だ。

 龍、凛、剛はおろか、言い出しっぺの進までも怖気づいてしまった。

 なんがこの殺気は……!

 ナーガやエルヴィンの殺気よりも深く、大きく、重い……!

 進がそう感じたのも無理はないだろう。

 なんといってもダイバーシティのバトラの頂点に立つ男なのだから。

「それじゃあ明日よろしくね」

 夢我と秀錬に見送られ、アリサ、龍、進、凛、剛の五人は和のテイストを取り入れた本部長の部屋を後にした。


 ☆ ☆ ☆


 六日後。

 龍たちの出国があと一日に迫ったこの日。

 ここは帝国。

 半蔵、斬竜、恐香、瞬、ラギアの五人が性懲りもなくまたしても民家で怪しげな密談をしていた。

 重苦しい雰囲気の中、半蔵が口を開いた。

「いよいよ明日だ。わしらの目的は明後日来るダイバーシティからのこのこやってくる戦校の生徒を人質にとり、交流会を失敗に終わらせることだ。すると新上層部に傷が付き、帝国内に不信感が募る。そんな中、わしが”王”に上層部をもとに戻すことを提案し、わしが上層部に返り咲くのだ」

「そんなうまくいくんか? そもそも王はんがそんな簡単に同意するんか?」

 半蔵の言っていることを成功させるのは難しい。

 それは、まだ十余年しか生きていない若人でも分かった。

 全員の気持ちを代弁するようにして、帝校で問題児扱いされている斬竜が半蔵の話の腰を折った。

「そこは問題ない。そもそも新上層部の代表的な存在である”火雷弾”が王を説得して半ば強引に我ら旧上層部を退けたという背景がある。王自体は解体案に中立的だった」

 人生経験の多い半蔵は、人生経験の少ない斬竜の物言いを一蹴してみせた。

「それではわしらの明日行う作戦を改めて説明するぞ。明日やってくるのはダイバーシティの戦校の生徒四人とその保護役の正バトラの計五人。これは昨年の傾向とわしのスパイからの情報を照らし合わせまず間違いない。彼らは明後日、帝国北の港、第三帝港に午後一時頃やってくるのもスパイからの情報で間違いない。ここで注意しなければならないのが帝国側に戦校の連中の案内役が帝港に待ち受けている。まずはそいつを処理する。その後に戦校の連中を処理する。連中はちょうど五人、一人一殺で問題ない」

「処理とか簡単に言うけどさー、そんな簡単にできるの? 帝国をあんまりなめないほうが良いと思うよ」

 とは言うもののやはり不安はないわけではなかった。

 今度は氷の息子である瞬が、半蔵の話に割って入った。

「それも問題ない。わしにはこれがあるからな」

 そう言って半蔵がとりだしたのはなんの変哲もない鏡だった。

 女性がメイクに使うような小さな鏡。

 とても、戦闘に役立つ代物とは思えなかった。

「なんやねんこれは?」

 おちょくっているのかとも思えた斬竜は目上にも関わらず、若干強気な態度で半蔵に食って掛かった。

「これは”時空鏡”(じくうきょう)という禁武具だ。禁武具というのはあまりに効能が危険なため使用禁止となっている武具。この時空鏡を使えば別空間へいざなうことができる。これを使えば見つかることはないだろう」

 半蔵はあまりに恐ろしいことを口にした。

 こんなどこにでもある鏡が、こんなにも恐ろしい代物だとは思わなかった斬竜、恐香、瞬、ラギアの四人は目の色を変えた。

「思ったより準備ええやん」

 今まで渋っていた斬竜もこれには納得したようだ。

「闘えるならなんでもいい」

 血の気立つセリフを吐いたのは男勝りな気性をもつ恐香だ。

「わしが保護役の正バトラを引き受けるから、お主らは戦校の生徒達を頼んだぞ。小国のか弱きガキどもだ。お主らにとっては余裕だろ」

 この男はかなりダイバーシティを甘くみていた。

 まあ無理もない。千余年の歴史があるエンペラティアに比べ、まだ建国して五十年弱しかたっていないダイバーシティ、比べるのもおこがましいくらいだ。

 ダイバーシティは建国して間もなくエンペラティアとの敵対を恐れ同盟を結ぼうとした。

 エンペラティア側が弱小国とみなすのも無理はない。

「逆に弱すぎて退屈しのぎにもならんのもいややけどな」

 持ち前の関西弁口調で強気な発言をする斬竜だった。

 エンペラティアのバトラ、エンペラバトラは好戦的な傾向があるのが特徴である。

「ラギアはなんか言いたいことあるか?」

 斬竜は沈黙を決め込むラギアに話しかけた。

「……何もないよ……ゴホッゴホッ」

 普段声を聞けるのもまれなくらい無口のラギアがやっとのことで口を開いたと思ったら、せき込んでしまった。

「斬竜ー、ラギアは病弱なんだからあんまりしゃべらせない方がいいよー」

 瞬がラギアのフォローに入った。

 ラギアは幼いころから持病持ちで、そのせいもあってあまり声を発せないのだ。

「病弱なのにバトラになろうとすんなよ」

 恐香はラギアにとっては相当こたえる言葉をが吐いた。

「恐香、そらいいすぎや」

 いくら言葉が荒っぽい斬竜でも、言っていいことと悪いことの分別がついているようで、恐香を注意した。

 こうして半蔵、斬竜、瞬、恐香、ラギアの五人は夜まで細かく念入りに段取りを打ち合わせして明後日に臨むのであった。


 ☆ ☆ ☆


 翌日。

 この日は、すっかり魔城と化したエンぺラティアに龍達が赴く日だ。

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