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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
43/67

第四十二伝「バトラに戻りたい」

第四十二伝です。この話しを最後に裏闘技編完結します。期待を胸に膨らませてご覧ください。

「これが私が裏闘技の世界を歩むことになった真相だ。私は、エンぺラティアいやバトラ全てに失望したのだ!」

 それは、エルヴィンの本心だった。

 彼女はアリサに、いや裏闘技にいる全ての者に感情を言葉に乗せ訴えかけた。

「人の人生は十人十色。人の人生に口出すような愚かなことはしないけど、”バトラ”って言うほど悪くないよ」

 このアマ……。

 さぞ私の全てを分かったような口ぶりを……!

 アリサの言葉に感情を大噴火させそうになったが、さすがそこは一流の元バトラ。その感情をぐっと押し殺し、自分の確固たる意志をを行動で示した。

 エルヴィンは二本指を立てた。

 そう、あの進を一瞬のうちに破滅に追い込んだ首を突き気道を断絶させる残酷極まりない”気道波壊掌”である。それを気を操られ自分の思うように動かないアリサに牙をむいた。

 しかしエルヴィンの思惑むなしくアリサはあっさりとエルヴィンの腕を掴んだ。

 おかしい。

 エルヴィンに気を操られているアリサが普段通りに動けているのだから。

 無論、この不可解な現象に真っ先に気付いたのはエルヴィンだった。

「なぜ動ける!?」

 エルヴィンはあふれ出る焦燥感に駆られていた。

 無理もない。

 今まで土付かずで裏闘技界の頂点までのぼりつめようとしているエルヴィンに今まさに土がつこうとしているのだから。

「簡単なことだよ。私の”気”の強さがあなたの気を上回ったってこと」

 そんな筈は……。

 私の”気”は誰よりも強い……!

 アリサの覆面越しから飛び出したあまりにも単純明快な答え。そして、エルヴィンの二十余年の人生の中で導き出した答え。

 それは決して交わることのできない人生という名の直線だった。

「おかしい! さっきまで私の攻撃は効いていたではないか!」

 確かにエルヴィンの肉眼には、苦しむ対戦相手の姿を捉えていた。

 だから、おかしいのだ……。

 何事もなかったかのように動くアリサの姿が!

 エルヴィンは、取り乱しながら舌を回した。

「さっきのは効いた”フリ”。演技もバトラには必要なんだよ」

 そんな無茶苦茶な……。

 はっきり言って、目の前に立っているこいつは全てにおいて私を”上回っている”!

 こんな危機的状況にも関わらず、なんでこんなにも”ワクワク”するんだよ……!

 エルヴィンは裏闘技に身を置いていからというもの、自分より強い者と出会ったことがなかった。

 彼女は久々味わった。強者と闘うというバトラだった若かりしあの時の記憶を。

 エルヴィンの体に鳥肌が立っていた。強き者と命を取りあうこの感覚を身体は悦んでいたのだ……!

「四柱弾!」

 さすがは本物のバトラであるアリサだ。

 ここからの手が早かった。

 先ほどエルヴィンからの狂気なる攻撃をまるで相手にしなかった堅牢な壁を実現させた四柱を再度出現させると、四柱を砲台のように変形させた。

 すると四柱製の砲丸がみるみる創りだされ、華奢なエルヴィンの体めがけて強固でいて、さらに四柱の鼓動が伝わってきそうな生命力の高さが砲丸が発射された。

 ガンというむごい衝突音とともに、エルヴィンが吹き飛ばされた。

 裏闘技場は騒然となっていた。絶対女王のエルヴィンが圧倒されている光景を目の当たりにしているからだ。

「アリサ拳撃★流星鎚!」

 アリサは華麗に空中に飛ぶ。

 そして、流星のごとく、吹き飛ばされて無防備になっているエルヴィンめがけて右拳を構えながら飛来した。

 それは、まるで夜空から降り注ぐ流星のようだった。

 ズゴオオンというけたたましい爆音とともに、地響きが裏闘技場一帯に響き渡った。

 リングの方に目を向けると、アリサの右拳がエルヴィンの腹を確かにとらえていた。

 アリサの常識外れのパワーに耐えきれずに二人の周りの地面がひび割れしていた。

 勝負は決していた。

 エルヴィンは一歩も動くことはできなかった。

「なななんと裏闘技場で絶対的な強さを誇っていたエルヴィン選手が一歩も動けていない! 信じられないがこれは事実です! なぜなら、私の眼は確かに一歩も動けないエルヴィン選手を捉えているからです! そして、エルヴィン選手を退けたのは謎の覆面ファイター!」

「うおおおお!!」

 無敗神話を築いてきたエルヴィンのまさかの敗北。

 この裏闘技場の歴史が動いた瞬間を目撃した狂酔な観客の興奮はピークに達した。

 それもそのはず。今まで裏闘技場を君臨してきた絶対女王をすい星のごとく現れた謎の覆面ファイターが倒すという裏闘技の、いや全格闘ファンの心をくすぐるうそみたいな展開が今まさに起きているのだから。


「負けた……屈辱的な事なのになんで心が弾んでいるのだろう……?」

 かろうじて口だけは動くエルヴィンは仰向けになりながら空に、困難な質問を問うた。

「あなたの心の叫びは闘いを通して伝わってきた。本当はバトラに戻りたいんだね」

 バトラに……。

 戻るだと……!?

 空の代わりに疑問を解決させてくれたアリサの答えに、エルヴィンの心は激動を生きていた。

「違う! 私は……!」

 強い言葉とは裏腹に、エルヴィンの目から弱弱しい水滴がこぼれ落ちた。

「身体は正直だね」

 くそう……。

 こいつに私は何も言い返せないのか……。

 自分の優しさがエルヴィンの心を浸食しているとは知らずに、アリサはさらに言葉を並べた。

「まだあなたはやり直せる」

「待ちなさい! 私がバトラに戻れば貴女と闘えるの?」

「うん★ きっとね★」

 アリサは今まで敵だったとは思えない飛びっきりの笑顔をエルヴィンにむけ、またしてもすい星のごとく裏闘技場から去っていった。


 この後、エルヴィンを倒した謎の覆面ファイターが裏闘技場に現れることは二度と無かった。

 これにより、ザシャドウの人員の戦闘が不可能となり、この嵐のようなイベントは予定よりも早く終息を迎えてしまった。

「なかなか面白いヒューマン達がいるではないか」

 そう裏闘技場の片隅で呟いたのは試合前に控室で進と会話していた海賊帽をいっちょまえにかぶっているギルティ-だった。

 彼はそう言い残して、裏闘技場から姿を消した。

 その後、エルヴィンは自分が今までやってきた行いを悔いるように自分の住処に幽閉させていた剛を無事解放した。


 ☆ ☆ ☆


 二日後エルヴィンの住処にて、かろうじて一昨日の闘いの傷を回復させたエルヴィン・スタージャ、四階堂戦樹、桜田銀次のザシャドウの面々が、風の音も聞きとれるような沈黙を生みながら、机を挟み向かい合うような形で座っていた。

「今まで私が貴方たちに行った行為。すまなかったわ……」

 エルヴィンは沈黙の中、二人に謝罪を添え頭を下げた。

 それは、プライドという殻を一切粉々して、申し訳ないという気持ちがむき出しになったエルヴィンの今の気持だった。

「エルヴィンさんの行為は許されるものではありません。ですが、私はあなたと出会って新しい人生を進んでいる喜びを感じることができたのは事実です。あなたの行為は見なかったことにします。ですが、私は今後一切、裏闘技場に足を踏み入れることはないでしょう。私の本当の居場所があの闘いを通し理解することができました」

 戦樹はエルヴィンの謝罪を引き金に自分の想いを語った。真面目な一面を持つ彼には隠し通すという行為が我慢できなかったのだろう。

「ありがとう戦樹。今まで私のパートナーにでいてくれて感謝しているわ。そう、バトラに戻るのね?」

「はい!」

 エルヴィンの問いかけに、まっすぐな目でエルヴィンを見つめこう返事した。

「銀次、貴方はどうするの?」

 次にエルヴィンは銀次に答えを求めた。

「俺は何をやりたいかという問いに今のところまだ答えを見つけることはできません。でも、ここじゃない気がするんです。あいつに説得されて戻ってくるという感じでしゃくですけど、もう一度戦校に戻って自分を見つめ直してきます!」

 銀次は愚直な目と、率直な言葉でエルヴィンの問いを返した。

 そんな返しを受け取ったエルヴィンはついに自分の今の想いを口に出した。

「私も一昨日の闘いで心の奥底にある本当の想いに気づくことが出来た。バトラに戻りたい……!」

 それは、今まで心の奥底に封印されていた”本心”だった。

 エルヴィンの魂の叫びは無事二人に届いたようだ。

「エルヴィンさんの本心を聞けて良かったです。今度はバトラとして出会えるといいですね」

 表情の浮き沈みが少ない戦樹には珍しい心からの笑みを浮かべながらこう口にした。

 私を許してくれてありがとう……。

 エルヴィンは感謝で一杯だった。

 皆と出会えたことに。

 そして、皆が私と共に闘ってくれたことに。

 この日限りでザシャドウは解散した。彼らが裏闘技へ戻ることはなかった。

 そして、彼らの新しい人生がこの日を境に始まった。


 ☆ ☆ ☆


 同日の朝。

 一撃龍、雷連進、光間凛の三人もああ見えて意外と設備が整っている裏闘技場の医療室のお陰で無事回復し、戦校に復帰する事が出来た。

 そして、この男の姿も……。

「おーっす、お前ら」

 一昨日の闘いの話題で会話がはずんでいる龍、進、凛の三人に一昨日までのことが嘘のように戦校の門を久しぶりに叩き、陽気な顔をした銀次の姿がそこにはあった。

「銀次、戻ってきてくれたんだね」

 龍にとって銀次の復帰は素直に嬉しかった。

 龍は一昨日まで戦校を飛び出し、裏切っていた銀次が戦校にいるという光景につい嬉しくなり笑顔で話しかけた。

「だから貴様は甘いんだよ!」

 水を差したのは、一昨日の闘いでまったくと言っていいほど出番がなく、鬱憤がたまっている鳳助だった。

「別にお前らと一緒に居たいから戻ってきたわけじゃねえからな!」

 銀次は照れを隠しながら、強めの口調で言い返した。

「素直じゃないですわね」

 凛はあきれ顔で言った。

 こんな他愛のないことを言い合えるのは久々だ。

 ようやく平穏な日常が戻ってきたのだ。

 剛がらしくなく下を向きながらトボトボと歩きながら教室に入ってきた。

 扉の音からも元気の無さが伝わってくる。剛もあの一件以来の登校だ。

「剛さん、おはようございます」

 銀次は剛が来るや、龍達に見せないような謙虚な態度で頭を下げて挨拶した。

 剛に対する師弟関係は変わらないようだ。

「……」

 しかし、剛は返事することなかった。

 彼は下を向いたまま自分が普段座っている席へ向かった。

「剛、無事に帰ってこれて本当に良かった」

 せっかく龍が声をかけたのにもかかわらず、剛は全く返事をせず落ち込んだまま席に着いた。

 交流戦ではチームに黒星をもたらし、裏闘技に至っては闘いに参加もできずただ寝てただけ……。

 俺はもはや足手まといになっているんじゃ……。

 どうやら剛は自分のふがいなさにひどく落ち込んでいたようだ。

「はーい、みんなおはよう★」

 ガラガラという活気のある扉の音と元気な挨拶。

 アリサは一昨日現れた覆面ファイター、アーリー★スターと同一人物とは微塵も感じさせない振る舞いで元気良く生徒達に挨拶した。

 俺はエルヴィンに歯が立たなかった……。

 そのエルヴィンをあの人は簡単に倒した……。俺はバトラになれると心のどこかでたかをくくっていた。

 甘かった。バトラになることがここまで難しいとは……。

 進は裏闘技を通じて初めて痛感していた。

 バトラという壁の敷居の高さに……。

「まず銀次君、あなたの教室ここじゃないから!」

 そういえば……。

 いやに自然と教室になじんでいたので、生徒たちはついつい銀次が留年したという事実を忘れてしまっていた。

 それをアリサの言葉で今一度銀次が留年して今は一学年ということを思い起こさせた。

「しまったー! 忘れてたー!」

 それは本人ですら忘れていたことだった。

 銀次は恥ずかしさのあまり、珍しく顔を赤らめながらそそくさと二年の教室を飛び出し、自分の居場所である一年の教室に戻った。

「そう言って、また失踪するしなければいいのだがな」

 進は皮肉めいたことを口にした。

 それは進の心にゆとりがあるように、平穏な日々に戻ったということを表していた。


 その日の放課後。

「龍君、進君、剛君、凛ちゃん、ちょっといい」

 これはやばいぞ……。

 アリサのらしくない真面目なトーン。

 これはアリサが怒っている証拠であった。

 呼び出しを食らった四人は、それを知っているがため恐る恐るアリサの下に集まった。

 四人がそろったことを確認してアリサは口を開いた。

「今から戦校校則第五条を読みます。戦校に通う生徒の一切の賭博行為、及び賭博場の行き来を禁ずる」

 それは、四人が校則違反を端的に示していた。

「戦校の校則なんて初めて知ったぞ……」

「だからあんな場所に行くのは嫌だっのですわ」

「こんなことだろうと思っていたが」

「そりゃないっすよーししょー!」

 四人はそれぞれの言い方で愚痴を漏らした。 

 アリサは耳に不快な愚痴を聞きながら、さらに言葉を続けた。

「校則を破った生徒は、反省文と、三日間戦校の掃除を毎日行う。あなたたち覚悟はできてるね?」

「はい……」

 この後、規律を破った四人が規則に従い反省文を書き清掃活動したのは言うまでもなかった。

 こうして、銀次失踪事件はなんとか平穏にその幕を降ろしたのであった。

 

 ドラゴンバトラ・裏闘技編完結

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