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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
39/67

第三十八伝「銀次失踪の真相」

第三十八伝です。いよいよあの真相が語られます。それでは眼を見開いてご覧ください。

 仲間が俺の勝ちを信じて待っている……。

 仲間を闇の中から救い出す……。

 そのために、俺は……。

 負けない!!

 あれだけ立派だった巨木を躊躇なく砕きながら、戦樹に滑空しながら襲いかかるのは黄色い光を纏った太刀だった。

 俺は負けるのか……?

 確かに彼は普通の人より万倍の才を持っていることは分かった。

 ただ私は元バトラだ。

 バトラがバトラではない人間に負けることがあっていいのか……?

 私はエルヴィンさんの為に何もできないのか?

 ああ……。

 情けない人生だ……。

 思えばあの調査仕事も失敗した……。

 私の人生は失敗続きだ……。

 私は……。

 私は……。

 戦樹は走馬灯のように自分の無力さが脳内を駆け巡った。

 理性では負けを認めることはできなかった。

 ただ彼の本能は負けを認めてしまっていた。

 ズガアアンというとてつもない音が裏闘技場を震わせた。

 進の渾身の雷太刀が見事戦樹の体を捉えた。

 雷を纏いながら太刀を飛ばすことができないと結論付けた戦樹には予想外の結末だ。

 否、戦樹の推測はあながち間違ってはいなかった。進は確かに交流戦時には雷を纏わせながら太刀を飛ばすことが出来なかった。

 ただ、月日は流れた。

 進はナーガに敗戦した悔しさを糧にさらなる飛躍を遂げていた。

 雷太刀を飛ばす、つまり飛雷太刀の習得に成功していたのだ。

 この闘いばかりは完全に私の負けだな……。


「けっちゃーーーーく! なんと大波乱! 裏闘技界の絶対王者であるザシャドウが無名のお子様集団であるレボリューションズに敗北ッ!」

 あまりにも壮絶な試合につい仕事を忘れて見入ってしまった進行役が、自分の仕事を思い出したかのようにコールした。 

 裏闘技場の観客もまた同じだった。

 彼らの仕事である怒号のような歓声を放棄し、だんまりと観戦を決め込んでいた。

 それは、この闘いの息詰まる攻防をクリアに物語っていた。

「俺は本当のお前の気持ちを知りたい」

 進は闘いを通して、戦樹の本心を見抜くことはできなかった。

 だから、言葉で聞きたかった。

 四階堂戦樹という男の”中”の部分を。

「私は……私は……バトラになりたいィ……!」

 仰向けに倒れ込んだ戦樹は、声を振り絞って言った。

 それは彼の魂の叫び。

 詳しい解説は説明不要だ。この言葉通りの意味合いである。

「そうか……」

 進は安心した。

 そうか、こいつも俺達が目指すべき目標である”バトラ”の一人なんだ。

 進は安堵した顔を浮かべ、リングを後にした。


「さすが進様ですわ! 元バトラの大人に勝つなんて!」

 リングに戻ってきた進を祝福したのは、つい先ほど医療室から戻ってきた凛だった。どうやら大事には至らなかったようだ。

「いや、奴は右腕を負傷していた。まともならどうなっていたか分からない」

 進は思いの外、謙虚な言葉を言って見せた。

 それほどまでに、四階堂戦樹という男、つまりバトラになる者は”強い”……!


「戦樹、あなた今何て言った?」

 幾多の死闘で原形をとどめていないリング上に突如乱入したエルヴィン。

 相変わらずバカでかいサングラスをかけているが、心中穏やかではないのははっきりと分かった。

「エルヴィンさんあなたには感謝しています。ですが、私は彼と闘い裏闘技場では味わえない魂と魂の闘いが出来ました。私は思い出しました。これが”バトラの闘い”なんだと。私は戻りたい、あの場所へ」

 それは戦樹の今の想いの”ありのまま”だった。

 彼は忠義を尽くしていたエルヴィンに思いのたけをぶちまけた。

「そうか……残念だけどザシャドウの事を表に漏らすことはできない。よってあなたを消すしかない」

 そ……ん……な……!?

 サングラス越しからでも視認できる狂気の眼、熱き裏闘技場を凍らせる威力をもつ非情すぎる言葉。

 それは連戦の立場で進を追い詰めたあの戦樹をも硬直してしまうには十分すぎる材料になりえた。

「そんな! 私は今まであなたに忠誠を誓い共に闘ってきたというのに!」

 戦樹のセリフに間違いはない。

 しかし、一度裏闘技に染まった者が表舞台に立ち再び栄光を取り戻そうとなんて虫のいい話しもないのも事実である。

 パキンという、儚く砕ける音が一瞬裏闘技場を包んだ。

「ああああああ!!」

 その直後に、大歓声に慣れている裏闘技場でさえ心臓がビクッとなるような、大音声の金切り声が裏闘技場を支配した。

 その音と声の犯人は、今までなんとか均衡を保っていた戦樹の右腕が完全に崩壊した音と、その激痛に襲われた戦樹だった。

「昔言ったわよね。あなたの”気”は完全にコントロールしているって。治せるということはその逆も可」

 悪魔のような言葉だが異論を唱える余地はない。

 誠にその通りである。


 許さない……!!

 この一部始終を我慢できなかった男がリング上に姿を現した。

 赤と黒が入り混じった特徴的な髪形、たいそうな剣を背に掲げた一撃龍だ。

「今回ばかりは絶対に許さない!!」

 龍はエルヴィンを思いっきり睨んだ。

 もう龍の怒りは軽く臨界点を突破していた。

「待って、次は私じゃないわよ。次の出場者は銀次君、あなた」

 エルヴィンすっと銀次を指名した。

 最初から組み合わせを決めていたかのように。

 エルヴィンと交代するようにエルヴィンは手負いの戦樹を担ぎリングを後にし、代わりに銀次がリングに降り立った。

「銀次の相手は龍、お前だ」

 進は最初から決めていた。銀次に龍をぶつけることを。

 銀次を改心させる可能性が一番高いと踏んだからだ。

「分かった」

 進の言葉の真意を察した龍は、全てをこの四文字に凝縮させた。


 ☆ ☆ ☆


「さあ第三試合! なんとこれまで一勝一敗の互角の戦況。この戦況を打ち破り先に大手をかけるのはどっちだ!? 次世代のザシャドウを担う若手のホープの銀次選手の登場だ!対するレボリューションズは一撃龍選手だー!」

「うおおおあああ!!」

 裏闘技の観客は未来ある両雄にありったけの声援を送った。

 オッズは両者とも1.7倍の互角。

 あの時の続きが、この大歓声の面前で行われる。

 それは遡ること一年前。

 龍が初めて戦校に登校した日。

 銀次は果敢にも龍に勝負を挑んだ。

 龍はこれか人生において記念すべき初バトルとなった。

 しかし、決着はつかないまま終わった。

 その決着が一年の時を経て……。

 蘇る!!

 両者は、進行役のコールそっちのけ因縁の対戦相手のことだけをじっと見つめた。

「それではスタート!」

 進行役の開始宣言があったにも関わらず、両者は無を貫きなにもアクションを起こそうとしなかった。

「やっとお前を倒すことができるぜ」

 銀次はずっと心待ちにしていた。

 あの時の決着をつけることに。

「お前になにがあった? なぜそんな奴らにつく? 俺たちは仲間ではないのか?」

 龍はそんなことはどうでもよかった。

 ただ、銀次の想いを知りたかった。

 銀次は龍と最初こそ敵同士だったものの進との闘いでの共闘をし、交流戦の時も応援してくれた仲間だと信じていたからだ。

「仲間だと? 俺はお前らと仲間ごっこをしているつもりはない。俺は俺だ。俺自身の人生に他人が入ってくるな」

 そんな……。

 銀次の冷酷無比な言葉に龍はショックを受けてしまった。

 それもそうだろう。今まで仲間だと思っていた男にこんなセリフを吐かれたのだから。

 しかし、龍は負けじとなんとか切り返した。

「だからってエルヴィンと関わってはダメだ! お前も見ただろ! 今まで共に闘ってきた戦樹を駒扱いしたんだぞ! お前だってああなるかも知れないんだぞ!」

「お前にエルヴィンさんの何が分かる!!」

 龍の必死の呼びかけむなしく、銀次は龍の言葉を一言で一刀両断した。

「お前が失踪してから一体なにがあったんだ?」

 そう……。

 この一週間の間に桜田銀次の身になにが……。

 銀次は一瞬目を閉じてからゆっくりと語り始めた。


 ☆ ☆ ☆


 ~六日前~

 俺はこの日戦校を辞めた。

 正確に言うと通っていないだけなのだが、俺の意志では辞めた事にしている。

 もう何回留年したか忘れた。今年もまた留年。俺はいったいなぜ通っているんだ。

 そんな俺も昔はわずかばかりの両親の血と、強くなりたいが一心で、バトラを志して戦校の門をたたいた。

 ただ月日が経つにつれ俺の大木のように堅かった意志は徐々に朽ち果て次第に小枝のようにやせ細ってしまった。

 そして今年もまた進級することはかなわなかった。

 俺の小枝のようにやせ細った意志はぽっきりと折れてしまった。

 ただ親になんて言えばいい?人より何倍も通っていて辞めます。そんな暴論が通じる甘い世の中ではないことぐらいクズ人間の俺でもわかる。

 急にむしゃくしゃしてきた。強い奴を倒したい。この発作はたびたび俺をむしばむ。初日に龍を襲った時もこの発作だった。だが今回のそれは非常に重く大きい。

 

 俺は真昼間から街中を流浪していたら、標的に出会った。

 それは、昼間からたいそうな刀を背負っている大男だった。

 俺はその男にわざと肩をぶつけ因縁をつけた。ただそんな男にかなうはずはなかった。

 俺は素人集団の戦校の中ですら落ちこぼれの部類なのだ。

 後から分かったことなのだがその男は”バトラ崩れ”だった。

 今はバトラではないにしても、元バトラ。素人の俺がかなうはずなかった。

 それからのことはあまり覚えていない。思い出したくもない。

 俺は自暴自棄になった。

 その日は家に帰ることなく、近くの仮眠部屋という闘士が長期滞在の時に利用する簡易的な部屋を一時的に提供してもらえる場所で寝泊まりした。

 食事や入浴といったサービスは一切なく、ただ寝る場所を提供するだけという稚拙な施設であるが、それゆえ稼ぎが無い俺でも利用する事が出来た。


~五日前~

 俺は家にも帰らず、仮眠部屋で朝を迎えてしまった。

 この日は心底目覚めが悪かった。

 昨日の事を思い出したからだ。俺は気づいた。俺が”強かった”ら昨日の闘いは勝てた。力があればこんな苦労はしない。そもそも力があれば闘士になることなどたやすいのではないか。

 そう言えば、俺は強くなりたいからバトラを志したんだっけ。

 とにかく強さが欲しい。

 強さが……欲しい……。


~四日前~

 俺は昨晩、強くなる方法を考え込みあまり睡眠を取れなかった。

 しかし、そんな超難関な問いの答えなど一日で用意できるはずもなかった。

 心底気分が悪く、それもあってか行くあてもなく街に繰り出した。

「力が欲しいか?」

 街を放浪していると、俺の目の前に金持ちそうな女が立ってこう尋ねた。

 この女は何者だ?そもそもこの女はなんで俺の深層心理を読むことができたのか?

 確かに力が欲しいとは心の中で思った。ただそれはたった今思ったことで当然口にも出していない。

 とにかく俺の目の前に立っているこの女がただものではないことはさすがの俺でも分かった。

「なんで俺の考えが分かったんですか?」

 やはりこのことが気になってしょうがなかった。

「”眼”よ。どうやらあなたは今、自暴自棄になっているようね」

 目は口ほどに物を言うとはよく言うものの眼だけでここまで分かってしまうものなのだろうか。

 この女のスペシャルかもしれない。

 ただこれだけは確信した。この女はやはりただものではないと。

「あなたに力をあげるわ。ついてきて」

 知らない人にはついていかない。

 そんなことは、小学校のガキどもが習うこと。

 罠かもしれない。

 それは、こんな俺にも分かった。

 だが、このままどうせろくな死に方はしない。

 俺には守るものが何もないのだ。

 このままろくな死に方をするより、罠にかかって利用されて死ぬ方がよほど充実した人生を送れる。

 俺に迷いはなかった。

 俺はこの見知らぬ女についていくことに決めた。

「今からあなたに強さを授ける」

 なにを……すると……?

 エルヴィンさんはそう言って俺の肩に手を置いた。

 俺の体という名のエンジンに新たな燃料が投下された。

 そんな感じがした。

 感覚的に俺が強くなったことが理解できた。

 自分のことは自分が一番よくわかっている。

 そうだろう?

「すごい! 一体どうやって!?」

 この時すでに俺はエルヴィンさんの虜となっていた。

 俺の野望が一瞬のうちにかなったのだ。この人は俺にとっての神だ。

「私は”気”を操る。あなたに強くなった”気”を与えた」

 エルヴィンさんの言っている意味はよくわからなかった。

 だが、俺が力を得たのは事実。俺にとってはこの事実だけで十分なのだ。

 俺はこの日からエルヴィンさんと生活することとなった。

 俺はエルヴィンさんの住処に招かれた。そこで、戦樹さんと出会った。

 どうやら彼も路頭に迷っていたところをエルヴィンさんに救われたらしい。同じ穴のむじなというわけだ。

 同じような境遇を持っていることからすぐに意気投合することができた。


 ~三日前~

 この強さを早く使いたい。

 俺は朝起きるやいなやふとこんなことを思った。

 エルヴィンさんの住処で朝ご飯を食べた。エルヴィンさんの手作りのようだ。

 料理は焼き魚だった。見た目はこんがり焼けていてとてもおいしそうだ。実際おいしかった。

 エルヴィンさんは料理もできるのか。

 俺は少しエルヴィンさんは見とれてしまった。決して恋などではない。

 だいたい俺は16の子でエルヴィンさんは大の大人。そもそも土俵が違う。

 食事をしながらエルヴィンはこんなことを俺に話した。

「早く力を使いたいという眼をしているわね。ちょうど今のあなたにうってつけの場所があるの」

 また見抜かれた。

 俺はこの人に魅了されている。間違いない。

 この人と共になら俺のクソみたいな人生が変わる……!

 エルヴィンさんは住処に大量にあったカジュアルな服に着替えた俺をどこかへ連れてった。

 そこは、なんの変哲もないカフェテリアだった。

 ここが俺の力を使える場所となにが関係あるのか。でも、その疑問はすぐに解決されることとなった。

 裏闘技場だ。

 こんな場所が存在するのか。

 俺は結構な事情通と自負していたが、こんな場所があることなんて生まれて初めて知った。

 ましてやこんな平凡なカフェテリアの地下に。俺の知らないことなど山ほどあるのだと痛感した。

 だが、俺は肌で感じた。ここは俺に合っている。滞る異端者のオーラ。

 これが、俺をそう感じさせた。

 ただ今はそんなことはどうでもいい。やっと俺の強さを見せることができる。

 ただその一点だけで俺は他の事などどうでもよかった。

「あなたにふさわしい相手を用意したわ」

 最初エルヴィンさんの言葉は理解することができなかった。

 ただすぐに理解する事が出来た。

 エルヴィンさんが用意してくれた相手は俺が一昨日喧嘩を吹っ掛けボコボコにされた刀男だ。

 どうやらこの男はここの出場者だったらしい。俺は気がつくとリングに立っていた。

 俺のリベンジマッチが始まった。

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