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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
37/67

第三十六伝「四階堂戦樹の実力」

第三十六伝です。人の実力って意外と測れないものですよね。私の実力はどうなのでしょうか。それではご覧ください。

 ズルズルと音を立てながら、戦樹は自身のニ対の材木を無邪気な子犬の飼い主のように、縦横無尽に駆け回らせた。

 凛はズパッと気持ちの良い音で、伸び続ける材木を光間家の秘剣、聖剣エターナルで伐採する。

 が、命を宿す木という性質上、斬った所から生え始め元の長さにあっさり戻ってしまった。

 これではきりがない。

「らちがあきませんわね」

 痺れを切らせた凛は聖剣エターナルの先端に自身の属性である光を集めた。

 そう、これは宿敵であるナギを打ち破った今現在の凛の必殺技とも言える聖路エターナルロードの下準備だ。

 とっておきを出すのには早すぎるタイミング。しかし、相手が相手だけあって出さずにはいられなかった。

「行きますわ! 聖路エターナルロード!」

 満を持して輝かしい透明の光線が空気がよどんでいる裏闘技場に姿を現した。

 その光線は対戦相手である戦樹を浄化するかのように浴びせた。

「おしかったな……」

 まばゆい光の真っただ中から聞こえる余裕綽々の戦樹の声。

 まばゆい光で何が起こっているのか分からないが、どうやら効いていないようだ。

 次第に光が無くなり、もとの煙たい裏闘技場に姿を戻す。

 注目の戦樹の方に目を向けると、戦樹の代わりにロール状に巻かれた材木のドームが姿を見せた。

 どうやら戦樹は自分の周りを材木でロール状にぐるぐる巻きにして身を守ったようだ。

「そんな……聖路エターナルロードが全く効かないなんて……」

 とっておきの技が攻略される。それは、敗北への第一歩。

 今現在、自分が持ち合わせている最大の力が通用しない状況に直面して凛が感じているだろう絶望感は計り知れない。

 戦樹は自分の身を守ってくれた材木をそのまま、今凛に当たるように材木を変幻自在に動かし、攻撃に切り替えた。

 まさに自由自在!

 斬ってもらちが明かないと学んだ凛は、交流戦でナーガチームと対抗できるためにアリサに教えてもらった転法を使い、次々と押し寄せてくる材木という名の荒波を避け続けた。


 しばらく凛が回避を続けていると、いやらしいほどに動き続けていた材木の動きがピタッと止また。

「まさかここまで避けられるとは……子どもといえやるな」

 自分と対等に闘う若き少女の存在に戦樹は、相手をほめたたえた。

「やっと私の力を分かってくれましたわね」

 闘い中に相手にほめられることなど滅多にあることではない。

 凛は戦樹の言葉を受けまんざらでもない様子を示した。

 闘いの最中にも関わらず和やかな会話をしていると突然、凛の後頭部あたりから鈍器で殴られたようなバチインという鈍い音が鳴り響いた。

 凛は後頭部を襲った得体のしれない攻撃を受け意識を失い、そのままうつ伏せの形になって地面に倒れてしまった。

 たった数秒の間におこっためまぐるしい展開に全くついていけない観客は静まり返ってしまう。

「ふー、少し時間がかかってしまったな……」

 全ての戦樹の言動と行動は倒すための計算の内だった。

 戦樹は確実なる手ごたえのもと、今度こそ勝利を確信し安堵した。

「……何をしたんですの?……」

 凛はどんな攻撃を受けたか、そもそも何が起きたのか全く分からないでいた。

 彼女はほんのわずかの意識でなんとか一番聞きたかったことを尋ねた。

「答えはこれ」


 凛の後頭部から、材木がタコの触手みたいにズルズルした動きで見え隠れしていた。

 どうやら凛の後頭部を襲った正体は戦樹のその材木だったようだ。

「……どうやって?……」

 凛がそう聞くのも無理もなかった。

 凛は終始材木の動きに注意を払っていた。

 当然、自分の背後に動くような怪しげな材木を見逃すはずはない。

「ネタばらしをしてあげよう」

 戦樹はそう言って、凛の背後に漂う材木を掃除機のコンセントのようにで巻き取り始めた。

 すると、材木は一番最初の銀次vsマイスター戦で銀次が開けてマイスターが落とされた穴の中に吸い込まれてしまった。

 しばらくして、巻き取られた材木は銀次がアナグラをするために最初に開けた穴から出てきた。

「……なるほど……材木をその穴に通したわけですわね……」

 タネを理解しうなだれる凛に、戦樹はさらに解説を付け加えた。

「そう、全ては計算済みだ。まず、第一に材木をわざと君に斬らせた。そして、斬っても斬っても伸び続ける材木に斬ることの無意味さを頭に刷り込ませた。君の攻撃こそ予想外だったが、次の私の攻撃で君は防ぐことではなく、避ける事は明白だった。そこでわざと君が避けられるようなスピードに調整して攻撃し、先ほど銀次君が開けた穴の真ん前に君が来るように誘導した。地中を通せばいくら材木に注意していた君でも見ることはできまい」

「完敗ですわね……」

 私は……弱い……。

 それは、分かりやすいほどの完敗だった。

 バトラではないものとバトラだったものの、力の差というか戦略の幅というか経験が浮き彫りになった一戦となってしまった。

 凛はこの解説を聞き、自分の何手先をも読んでいた戦樹に勝てるはずはなかったと頭に深く刷り込まれた、と同時に自分のあまりの無力さを知った。


「第一試合は四階堂戦樹選手の勝利! つまりザシャドウが一勝を手にした! 一方のレボリューションズは残り二人! 後が無くなりました!」

「オオオオ!!」

 進行役の決着宣言と共にどよめく裏闘技場。

 もはや、彼らに叫ぶ理由などなかった。

 ともあれ、いきなりレボリューションズが窮地に立たされたのは言うまでもない。

「大丈夫か!?」

 龍の頭の中は勝敗よりも仲間の安否で一杯だった。

 龍はそう凛に声をかけながら、急いでリング上に躊躇なく上がり、倒れている凛の元に駆け寄った。

「大丈夫ですわ……頭を急にぶたれてびっくりしただけですわ……ただ何もできなかった自分にいら立っていますわ……今の私に美しさのかけらもないですわ」

 とは言っているものの、凛はしゃべるのがやっとの極限状態に変わりはない。

「女、一つ言っておく。これがバトラの闘い方だ。全ての行動が勝利のための伏線なのだ」

 戦樹は最後に対戦相手である凛に置手紙としてそう伝え、リング上からあっさりと立ち去ってしまった。

「……」 

 しかし、戦樹の声は届くことなく、すでに凛の意識は夢の世界へと誘われていた。


 ☆ ☆ ☆


 ふー……。行くか。

 その男は颯爽と灼熱のリングに現れた。

 その男は初めてとは思えないような威風堂々とした姿を披露した。

 ザレボリューションズ不動のエース雷連進の登場である。

「凛、よくやってくれた。おかげでこいつの手の内は全て分かった」

 進は意識を失っている凛に、精一杯の言葉でねぎらった。

 ありがとな……。凛……。

 進は可愛い凛の寝顔を見ながら、心の中で感謝を述べた。

「お前そんな事も言えるようになったのか……」

 人って変わるもんだな……。

 龍はキャラに似合わない進の温かい言葉に思わず目を丸くした。

「そんなことを言っている暇があったら凛をリング上から連れ出せ」

 へいへい。

 進のお山の大将ぶりはとどまることを知らず、命令口調で龍に指示を出した。

「その必要はありません」

 ん?

 龍に耳に聞き慣れない声が届いた。

 先ほど控室で龍達を呼んだタキシードを身に纏った裏闘技場のスタッフがもう一人のスタッフと共にタンカを持ってリング上に上がってきた。

 そして、二人のスタッフは凛をタンカに乗せた。

「どこに連れていく?」

 まさか、奴らの息がかかっているのではなかろうな?

 進は疑い深く、凛をタンカに乗せたスタッフに尋ねた。

「安心してください。裏闘技場にある医療室に連れて行きます。回復したら元に戻します」

 スタッフは進の誤解を解くようにして、こう回答した。

「そうか。頼んだぞ」

 進はその回答に安堵しスタッフたちに凛を託す。

 二名のスタッフは進に向かって軽い会釈をし、タンカで凛を医療室に連れていく。

「さあこの闘いは一試合終えるごとに入れ替え自由! ザシャドウは選手を変えますか?」

「ガキ連中なんて私一人で十分だ。このまま残る」

 このまま退くことは戦樹のプライドが許さなかった。

 戦樹は、動くをそぶりを見せず余裕の面持ちでこう答えた。

「その言葉、すぐに後悔するぞ」

 進は甘く見られることが大嫌い。

 進は戦樹の挑発ともとれる言葉に完全にスイッチが入った。

「次は進が行くのか?」

 龍は疑問に思った。

 なんで、あいつが闘うオーラを全開に出しているのかと。相談もなしに。

「この闘いに負けるわけにはいかないんだろう? だったら窮地に立たされているこの状況では次の試合に勝つことが絶対条件となる」

「まるで俺よりお前の方が勝てる可能性が高いみたいな言い方だな」

「当たり前だ」

 結局こいつの根本は何にも変わってない……。

 進のぐさりと突き刺さるような一言に、龍はそそくさとリングから離れるしかなかった。


「それでは第二試合スタートだ!」

 ザレボリューションズにとっては確実に落とせない一戦が始まった。

 電光掲示板に表示されたオッズは、雷連進が1.8倍に対し四階堂戦樹が1.6倍。

 実績のある戦樹がやや支持されているものの、戦樹の連戦に対する疲労と進の並々ならぬオーラが加味されて拮抗気味。

 さすがに、賭け事を生き甲斐にする裏闘技ファンだけあってオッズがシビアだ。

 闘いが始まったのにも関わらず、まるで闘いを終えたような静けさがリング上に滞っていた。

 様子見……。

 それは戦闘における基本戦法。

 両者ともその場から一歩も動かず様子を見あっている。

「悪いが一瞬で片付けるぞ」

 進の心には絶対に負けられないという強い意志と、この闘いに勝つという確固たる自信が混在していた。

 進は鋭い形相で戦樹を見つめ、先ほど凛を完封した相手にも関わらず強気を貫いた。

「私は未来ある若者は好きだが、言葉使いがまともにできないクソガキは大嫌いだ。それに次は男だ。容赦はしない」

 進の性格を理解した戦樹は、容赦という邪念を頭の中から浄化していた。

 そんな脅し文句は進には全く通用しなかった。

 進は戦樹の忠告を完全無視し、太刀と呼ばれるブーメランを戦樹に向かって一直線に放ち、裏闘技の観客達に自慢の相棒を披露して見せた。

「ツリーロール」

 戦樹は材木を腕から生やすとすぐさま凛のエターナルロードを完封させた時と同じようにロール状に巻き、ドームのように自分を囲み進の太刀の襲撃を軽々受け止めてしまった。

 しかし、進にとってそれは次なる算段の伏線に過ぎない。

 進はその隙に転法で戦樹の真後ろに移動した。

 戦樹は四方八方を材木で囲んでいるが故、視界が断たれているので進が真後ろに移動したことに気づくことができなかった。

 それは、ツリーロールの弱点だった。

 進は対凛戦で一度見ただけ技の穴を、早くも見抜いていた。

 雷太刀……!

 進は自身のスペシャルである雷を太刀に纏わせ大きく振りかぶった。戦樹が防御を解いた瞬間に襲う算段のようだ。

 そんなことになっていると知ってか知らずか、綺麗に円を描いていた材木の形が食虫植物のように奇怪な動きをしながら崩れ始めた。

 今だ……!

 材木のロール状の形が崩れた瞬間、進は振りかぶっていた雷を纏っていた太刀を思いっきり振り抜いた。

 戦樹はとてつもない反射スピードで、材木をツリー状に再構築し、間一髪で進の奇襲を防いだ。

「今のは危なかった」

 戦樹は心地悪い冷や汗をかいてしまった。

 平静を保ち続けていた戦樹でも、さすがにこの奇襲は応えたようだ。

 

 しかし、さすがは元バトラだけあって切り替えが早い。

 すぐさま材木を伸ばし攻撃行動にスイッチした。

 進は転法し材木をかわしながら、戦樹から距離を取った。

 ヒットアンドアウェイ。

 一度攻撃をしたら欲深く追撃せずに十分すぎるほどの距離をとって相手の攻撃に備える高等戦術。

 進は素人ながら、この戦術を完璧に体現して見せた。

「ただのガキではないことは認める。ただ、この程度でいい気になっては困る」

 今主導権は彼にある。主導権を奪取せねば……!

 主導権を取ることがすなわち勝利に直結するといっても過言ではない。

 戦樹は主導権を握ろうと意気込み、自分から仕掛けていった。

 動きを調整していた凛の時とは違い、目で追うのも難しいくらいのスピードで材木が縦横無尽に動き回った。

 進はなんとか研ぎ澄まされた転法で避けるもかなりきつそうだ。

 そして、まだ転法を完璧に修得したとは言い難い進にほころびが見えた。

 転法する場所を誤って、材木の目の前に現れてしまったのだ。

 進は卓越した反射神経のおかげもあってか、材木が体に直撃する直前に雷を纏った両手で掴んだ。

 はあはあ……。

 これがバトラとの戦闘……。

 コンマ一秒を争う究極のせめぎ合い。

 さしもの進も、余裕の顔色を見せることが困難になっていた。

 進は雷付きの両手でがっちり掴んでいる材木を思いっきり引き抜いた。

 材木とつながっている戦樹は、材木とともに進のもとに引き寄せられた。

 進は再び太刀に雷を纏わせた。

 どうやら戦樹が引き寄せられ無防備になっているところを容赦なく襲うようだ。

「口唾木柱!」

 戦樹は引き寄せられている間に口から材木を吐きだし、そのまま材木は戦樹の体を守るように肥大化した。

 そのまま雷太刀と肥大化した材木が、戦樹を引っ張るスピードも相まってガギイイインという車の衝突音のような凄まじい衝撃でぶつかった。

「くっ……」

「はあはあ……」

 この激しいぶつかり合いはお互いにこたえたようだ。

 どう見ても素人とプロの闘いには見えなかった。

 互角……。

 少なくとも観戦を決め込んだ裏闘技のファンはそう判断した。

 不意に銀次が創った落とし穴から姿を見せた材木が隙を見せた進に襲いかかった。そして、一気に縛った。さらに念入りに今まで進に猛威をふるっていた別の材木で二重に縛りあげた。

 奇襲……。

 奇襲返しされた進は全く反応できずに、さすがに身動きが取れなくなってしまった。

「ちぃ、まさかここまで先を打っているとはな……」

 自分は戦闘中に常に相手の一歩先を行く戦法を取っていた。

 しかし、相手はさらに自分の先を行っていた!

 負けず嫌いの進も、この手立てには感服するしかなかった。

「そういう君の状況を見極め次々といろんな手を打つ闘いぶりは素晴らしい。ぜひ我がチームに来てもらいたいくらいの逸材だ」

 戦樹も進の高い潜在能力を一目置いていた。

 プロが認めるほどに進のバトラとしてのセンスは素人としては図抜けていた。

「少しお前に問いたいことがある」

 進は材木によって二重に縛られている窮地の状況にもかかわらず、あくまでも冷静に戦樹に話しかけた。

「未来ある若者の質問にはできるだけ答えたい。なんだ?」

「なぜお前ほどの男が、バトラを諦めこんな野蛮な場所にいる?」

 進は戦樹の目、ただ一点だけを餌を欲する金魚のように見つめていた。

「若者よ、大人にはいろいろあるのだ。いいだろう。未来ある若者の為に少し昔話をしてやろう」


 ☆ ☆ ☆


 ~半年前~

 私は半年前まではダイバーシティに正式に雇われたバトラであった。

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