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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
36/67

第三十五伝「vsザシャドウ開幕」

第三十五伝です。陽の存在、影の存在と分類されることが多々ありますが、どちらも人間には変わりありません。ということでご覧ください。

 銀次……。

 龍は敵チームの一員となって再び姿を現した銀次をリングそばから、哀愁漂う目で見つめていた。

「最初の挑戦者は不屈の覆面ファイター、マイスター選手! 対するはザシャドウは突如裏闘技界に現れた若き新生、銀次選手だー!」

 進行役のコールを受け、リング上にすでにあがっているマイスターは羽織っていたバスローブをリング外に脱ぎ捨てた。

 すると、マイスター自慢の筋肉隆々の肉体が姿を現した。

「それではオッズを見てみましょう!」

 そう、これはあくまでも裏闘技場。

 勝利者の勝敗を予想して賭けるというこの裏闘技場特有のシステムには変わりはない。

 リング上のスクリーンに最終オッズが表示された。

 オッズはマイスター1.9倍、銀次1.6倍と未知の魅力かザシャドウというブランドか銀次の方が支持されているようだ。

「舐めやがって! かかってこいガキ! けちょんけちょんにしてやる!」

 なんで、こんなガキよりも人気が無いんだ……。

 オッズは端的に支持率を表すもの。

 マイスターは度重なる黒星で支持率を落としていた。

 彼は、オッズという名の凶器で精神的なダメージを受けていた。

 そんなダメージを悟られまいと、つい銀次を大声で挑発した。

「俺に勝てるとでも思っているのかこのデブ!」

 銀次の勝気な性格は、失踪してからさらに磨きがかかっていた。

 銀次は暴言ともとれる発言でマイスターに挑発し返した。

「さあマイスター選手vs銀次選手のスタートだあ!!」

 vsザシャドウの一回戦が始まった。


「俺は完全にキレちまったよ! 喰らえコスモキック!」

 完全にぶち切れたマイスターに様子見という言葉は消え去っていた。

 マイスターは様子見一切なしで、銀次に丸太のようなぶっとい足で蹴りかかった。

「アナグラ!」

 久々に登場した銀次のスペシャル、アナグラ。

 銀次はリングの底に痛々しい穴を開け、その穴の中に吸い込まれるように潜っていった。

 地中に潜り一旦姿を消す銀次のスペシャルは初見だと見抜くのは難しい。

 当然、初見のマイスターは蹴りかかろうとした瞬間に銀次が突然姿を消したことに動揺を隠せないでいた。

「久々見たけどあのスペシャルえげつないなー」

 この闘いを進の指示のもとリングそばで観戦している龍は、ポロッとそんなことを声にしてこぼした。

 何を隠そう龍の記念すべき初めて戦闘での対戦相手は銀次。特に散々苦しめられたアナグラには龍の脳裏にこびりつくように残っている。

「さあどこから出てくる?」

 龍の言った通りアナグラとは一旦地中に潜り姿をくらませ、しばらくしてから地上に戻り相手を攻撃するスペシャル。

 つまりこの後、銀次がどこかしらから姿を現すはずなのだが、ここで予想外の出来事が起こる。

 地面が……揺れたのだ……!

 観客の全員、いや進行役や対戦相手のマイスター、銀次のことをよく知る龍でさえも天災だと思った。

 しかし、それは人為的なものだったことが明らかとなる。

 ガラガラガラという不安にさせる音と共に、なんとマイスターの足場が無残に崩れ落ちたのだ。

 当然、足場を失ったマイスターは底抜けの地面に落下するしかない。

「ぐわあああ!」

 突然自分に降りかかってきた災難な出来事に、マイスターはただただ悲鳴を上げることしかできなくなってしまった。

 マイスターが落下してしばらくするとガタンという地中からむごい音が裏闘技場全体に響き渡った。

 どうやらマイスターが地の底に激突したようだ。

 その音を聞いて銀次は、勝利を確信したかのように優雅に地上に舞い戻ってきた。

 銀次はマイスターが落下した穴を覗き込み、地中でうずくまるマイスターにこう言い放った。

「これが俺の新技、落としアナグラだ! さっきはよくも俺をなめてくれたな!」

 しばしの沈黙の後、進行役は自分の仕事を思い出しこうアナウンスをした。

「銀次選手の落とし穴にマイスター選手なすすべなし! ザシャドウの完全勝利です!」

「うおおおおお!!」

 突如裏闘技場に現れた新人のあまりの鮮やかな勝利に裏闘技場は、初戦にも関わらずクライマックスのような盛り上がり方を見せた。

 

「まさか銀次がここまで強くなっているなんて……」

 龍の目に飛び込んだのは、あの時とは比べられないほどに力を身につけた銀次の圧倒的な姿だった。

 龍はあらぬ人のあらぬ成長に、渋い表情を見せながら驚いた。

「どうやら貴様だけが強くなっていると勘違いしていたようだな」

 鳳助の言う通りだ……。

 今まで自分のことしか見てなかった……。

 俺だけが成長するわけではないんだ……。

 みんなも成長する……!

 ぐうの音も出ない鳳助の正論に龍は言い返す言葉を探すのに苦労した。


「さあ次なる挑戦者カモーン!」

 さて、戻るか……。

 進行役の声と時を同じくして、龍は熱狂の坩堝にある裏闘技場を後にして、進と凛がスタンバイしている控室に戻ってしまった。

「で、どうだった?」

 そう龍に迫ったのは控室で太刀と呼ばれる自慢のブーメランタオルで丁寧に磨きこれから訪れる闘いの準備を整えている進であった。

「俺たちがこれから闘わなければならない相手、ザシャドウは総勢三人。その中に銀次がいる」

 龍は裏闘技場で見た光景をそのまま伝えた。

「銀次君なにをしてるのですの……」

 無理やり連れてこさせられた裏闘技場という自分には不釣り合いな野蛮な地。今度は銀次が敵と来た。

 戦前にもかかわらず、凛のやる気は全くと言っていいほど感じらることはできなかった。

「いくらチームメイトだからといって敵のチームとして現れたのなら敵として処理する」

 闘いのことになると情という異物を掃き捨てる進らしい発言だった。

 進はそう言いながら、つぎはぎだらけの巨大な三日月状のブーメラン、太刀を背負い、臨戦態勢を整えた。

 進の言葉に沈黙だけが受け答えした。

 

 凍ったような空気を切り裂くような扉の開場音。

 入ってきたのは全身タキシードを身にまとったこの裏闘技場のスタッフらしき男だった。

「チームレボリューションズの皆様出番です」

 スタッフは謎のチーム名を口にした。

「ププッ、どこのチームですの? ヘンテコなチーム名ですわ」

「そんなダサいチーム名つけられたチームメイトはたまったものではないな」

 凛と進はどこのチームだかも分からなかったが、小馬鹿にしたように笑った。

 このチーム名はそれはもう散々な評価だった。

 しかし、返事したのは意外な男だった。

「はい! チームレボリューションズ行きます!」

 龍であった。

「はああ!」

「なんかの冗談だよな?」

 凛と進は先ほどまで小馬鹿にしたもんだから、恥ずかしいったらありゃしなかった。

 凛と進は先ほどの小馬鹿にした笑いとは、正反対の怒りを引き下げ龍にぶつけた。

「実はさっき店員の人にチーム名聞かれて……」

 龍は「まあまあ」と二人をなだめようとするが……。

「そういう重要な事はリーダーの俺に言え!」

 しかし、進の怒りは収まることはなくさらにエスカレートした。

「それは悪かった。でも格好良くない? レボリューションだよ? 革命だよ?」

「ダセえわ!」

 ダサいんだ……。

 進に一喝された龍は、自分のセンスに自信をなくしてしまった。

「はーあ……もう……」

 ただでさえ何にも気持ちが乗らない凛は、これ以上落ちないくらいにテンションが下がってしまった。


「さあ続いては若き三人のヒーローが登場だ! 輝け三色花火、チームレボリューションズだー!」

 ダメだ……。何もかもダサい……。

 ワードセンスに人一倍厳しい進は、進行役の練りに練られた煽り文句に嫌気がさしていた。

 そんな戦前からフラストレーションがたまった進、格好いいアナウンスにまんざらでもない龍、ハナからやる気が全くない凛の3人が、満を持して裏闘技場の特有な舞台に足を踏み入れた。

「ウオオオオ!!」

 珍しい若武者達の登場に、裏闘技ファンはおなじみの熱狂的な歓声で歓迎した。

 こんな野蛮な所は今後一切お断りですわ……。

 凛は裏闘技の舞台に一歩一歩踏みしめながら、今後一切裏闘技に近寄らないことを心に誓った。

 かつてのクラスメイトの登場を銀次は、小さくジャンプしながら嬉しそうに見つけていた。

 やっと、お前たちを超えることができる……。

 並々ならぬ自信と気合いが確かに今の銀次の心を支えていた。


「それでは一番手カモーン!」

 チーム戦のルールは3vs3の入れ替え戦。

 1vs1を何度も続け、生き残ったチームの勝ち。

 闘いごとに勝ったほうもメンバーの変更があり。

 そして、レボリューションズが勝てば銀次と剛を返してもらえる!

 進行役の呼びかけに応じ颯爽とリング上に現れたのは材木使いの戦樹。ザシャドウの一番手はどうやら戦樹のようだ。

 一方、レボリューションズの三人はのっけからそわそわしていた。

「誰がいきますの?」

 先鋒はとにかく大事。

 それは、交流戦でも周知の通りだ。

 結局、あの時も先鋒戦を勝たれそのままむこうペースのまま闘いを終えてしまった。

 それを身をもって体験した凛が、二人に不安そうに尋ねた。

「凛、まずはお前が行け」

 すっかりお山の大将となった進は、リーダーという権限を乱用し、半ば強引に凛を一番手に命じた。

「どうせ闘わなければいけませんものね。進様の指示とあらば喜んで承りますわ」

 大好きな進の命令にこの女はたてつく筈がなかった。

 しかし、凛は言葉とは裏腹に、神妙な面持ちだ。

 やはり、やる気がないことには変わりがなかった。

「この闘いは銀次と剛を取り戻すための闘い。絶対に負けられないんだ。頼んだぞ!」

 龍はこの闘いの本来の目的を明示しながら凛に声援を送った。

 しかし、これは逆効果。

 かえってプレッシャーがかかってしまう。

「あんまりプレッシャーかけないで下さる?」

 凛は心から漏れ出した言葉を言い残すと、自信な下げに下を向きながら注目が一同に集結する情熱の赤きリング上にロープをかき分け登場した。

「さあレボリューションズvsザシャドウ第一試合は初出場の光間凛選手vs材木のスペシャリスト、四階堂戦樹よんかいどうせんき選手の対決だー! それではオッズの確認だー!」

 スクリーンに映し出されたオッズは凛が4.2倍に対し、戦樹は1.2倍と戦樹の一本かぶり状態だ。

 裏闘技場初挑戦、そしてか弱気女の子、エルヴィンのような波乱もなさそうとあれば、無理もなかった。


「さあ見あって見あってー! スタート!」

「ウオオオオ!!」

進行役のコールと、裏闘技場の名物である猿の鳴き声のような大歓声と共に銀次と剛を取り戻すための運命の闘いが火ぶたが切られた。

「仲間を連れ戻しに来たみたいだが、ここは君みたいなか弱き少女がくる場所ではないんだ。悪いことは言わない。降参しなさい」

 戦樹は凛を見るやいなや一つの感情が芽生えた。

 この子には裏闘技の舞台はまだ早い……。

 戦樹はバトラとしては珍しく無益な闘いを好まない性質の持ち主。その性質が降参を促すにいたった。

「あらそのセリフ。私に火をつけてしまいましたわね。そういう上から目線で話しかけてくる奴大嫌いですの」

 凛はこう見えて大の負けず嫌い。

 この発言は完全に逆効果だった。

 この発言により、裏闘技場に来てからずっと気分が下がりっぱなしだった凛の闘志が初めて……。

 燃えた!

「やれやれ。女性に手を出すのは主義じゃないが仕方ない。せめて一瞬で終わらせてあげよう」

「私、そういう女性差別的な発言も大嫌いですの。どうやらあなたとは分かりあえないようですわね」

「木柱!」

 戦樹は話の途中にも関わらず早速自身のスペシャルである材木を腕から生み出した。

 この思い切りの良さが、元バトラということを窺えた。

 材木は凛に向かって一直線で伸び始めた。


「なんだあれは?」

 龍はこれまでいろいろなスペシャルをこの目で見て体感してきたが、この手のスペシャルは見た事が無かった。

 リングそばから見守る龍は、人間の腕から木が生える奇怪な姿を目の当たりにしこうつぶやくしかなかった。

「あれは木属性だな。お前の炎と同じ属性使いだ。人の腕から木そのものを生やすスペシャルは見た事が無い」

 進とて、戦樹のスペシャルは初見だった。


 凛は自身の唯一無二の武器である聖剣エターナルの柄を左手で持ち、峰を右手で支えながら前に構え、材木によるこれ以上の進行を妨げた。

 しかし、木という性質上グニャリと曲がり、剣という防波堤は軽く突破されてしまった。

 くそっ……。

 凛がいくら悔しがろうが、変幻自在な動きをする材木を止めるすべなく、凛はいとも簡単に材木に捕らえられてしまった。

 凛を捉えた材木はそのまま凛の体を両腕と共にきつく締めあげた。

 あまりの痛みと苦しさに、凛は持っている聖剣エターナルを手放すほかなかった。

「ッ……!」

 痛み、苦しみ、痛み、苦しみ。

 その二つの人間にとって不快な感情が凛という可愛げな少女に、交互に襲いかかった。

 凛はあまりにきつい材木の縛りに悲痛な顔を浮かべ、声もあげられないぐらい苦しんだ。

 早くも、ザレボリューションズは危機に見舞われていた。

「はやく降参するんだ。降参すれば君の苦痛は一瞬で終わる」

 戦樹は紳士な一面を持っている。

 戦樹は苦しそうな凛の表情を見ながら、申し訳なさそうな顔をして言った。

「……誰が……降参するものですか……」

 それは、どう見ても虚勢だった。

 仲間が私を信じて待っている……。

 そう簡単に諦めるもんですか!!

 凛は持ち前の諦めの悪さを対戦相手に見せてやった。

「諦めが悪いのだな」

 戦樹はさらに材木の縛りを強化した。

「ぎゃああああ!!」

 凛は、裏闘技の歓声と聞き間違えるほどの大きな悲鳴を上げた。

 なぜ気絶しない?

 普通ならこの強度だったら気絶するはずなのだが……。

 戦樹は一つの疑問を抱いていた。

 凛の意識がまだあることに。

 体全体を光で包んでよかったですわ……。

 そう凛は自身のスペシャルであり、自分の真骨頂である光属性を体中に巡らせて痛みを最小限に抑えていたのだ。

 かといって凛が有利になるわけではない。

 しかし、状況を変えようにも凛の両腕は体と共に縛られ身動きが取れない。


「……」

 この状況が変わることなく早くも数分が経った。

 凛は目を閉じてしまった。

「ふー。やっと気を失ってくれたか……」

 戦樹は目を閉ざした凛を見て、気絶したと判断。勝利を確信し、ゆっくりと材木の縛りを弱めた。

 その時だった。

 意識を失ったはずの凛が、縛りが弱まりある程度自由がきくようになった左手で聖剣エターナルを掴み自身を縛っていた忌まわしき材木を切り刻んだ。

 凛は光属性のお陰で聖剣エターナルの重量を100分の1に感じることができるが、実際は総重量30kgの鈍剣。

 材木は玉ねぎのように綺麗に切り刻まれた。

「この女、図ったな……」

 戦樹は凛を甘く見ていた。

 この女、出来る……!

 戦樹はようやっと凛を対等の敵として見た。

「私はある闘いで学ぶことができましたわ。どんなことをしてでも勝てばいいってね」

 凛が回想したのは、交流戦でのvsナギ、太郎戦だった。

「女、大人をあんまり大人を怒らせるものではない」

 戦樹のもう片方の腕からも材木が出現した。

「私はバトラ崩れとはいえもとはバトラだ。本物のバトラの恐ろしさを思い知るがいい」

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