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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
35/67

第三十四伝「挑戦裏闘技」

第三十四伝です。初めての挑戦って誰しも緊張しますよね。それではご覧ください。

 エルヴィンの住処である体育館のような広い空間に響く、銅鑼のごとく扉が開く轟音。

「誰だ!?」

 この音に最初に反応したのは戦樹だった。

「眠れ」

 こんな非常時にも関わらずエルヴィンは気持ちの悪いほど冷静だった。

 乗り越えてきた修羅場の数を端的に示している。

 エルヴィンは状況を冷静に見極め、気を意のままに操ることで自分の術中にはめることに成功した剛を手刀で後頭部を打ち、気絶させた。

 剛はまたしてもふっと意識を宇宙の彼方へ飛ばし、エルヴィンの柔らかなお膝元に後頭部を置いた。

「剛さん、なぜここに!?」

 銀次は驚くしかなかった。

 そこに、いるはずのない銀次の良く知る剛の姿があったのだから。

「剛君はあなたに会いに来たみたいね。今は疲れて寝ているみたい」

 エルヴィンは話術にも長けている。

 前半に本当のことを話し、後半に嘘を挿入するという嘘をばれにくくするための高等テクニックを駆使し、エルヴィンは銀次を話術というウエポンで術中にはめようとした。

「剛さんこんな俺を探してくれてありがとうございます! エルヴィンさんも剛さんを迎えてくれてありごとうございます!」

 銀次は何者にでも染まる純粋な少年のように、いとも簡単にだまされてしまった。

 銀次はどうやらエルヴィンに対して相当な信頼を置いているようだ。

「お前ら、すぐさま剛から離れろ!」

 この空間で明らかに違う温度を出している者がいた。

 扉を威勢良く開けた龍だ。

 彼の怒りはとうに沸点に達していた。

 エルヴィンという分かりやすいほどの強者の目の前。当然、恐怖はあった。

 しかし、剛や銀次といった仲間を手玉に取るエルヴィンに対しての怒りが、それを遥かに上回っていた。

「そう熱くなるなよ。青いな少年」

 この状況にも関わらず、戦樹はすっと動揺を足の底にしまった。

「鳳助行くぞ」

 龍のやる気パラメーターは100%だった。

 龍は小声で鳳助に合図を送った。

「しゃーねーな!」

 言葉からは面倒くさそうに感じるが、鳳助は声色からはやるきがみなぎっているように感じる。

 出会って半年ちょい、もう彼らは相棒と呼ぶにふさわしい存在になっていた。

 鳳助は居住空間である鳳凰剣を飛び出し、朱色の鳥型の衣を身にまといながら龍の周りを旋回を始めた。

「うおおおお!」

 龍は気合いをつけるために発した叫び声と共に自分のきき手である左手を真正面にかざし、右手でそれを支えた。

 息はぴったりだった。

 しばらくすると龍の左手に純度の高い紅色の炎がともり、鳳助の朱色の炎と共鳴する。

「悪いが一撃で決め……!」

 龍は決め台詞を言い終わる前に言葉を止めた。

 それもそのはず、龍の眼前に広がったのは両腕を広げ通せんぼうのポーズをとる銀次の姿だったのだから。

「どけ!」

 なぜ、そんな奴をかばうんだ……。

 龍は銀次をどかそうとするが、銀次は山のごとく一歩も動こうとはしない。

「エルヴィンさんと戦樹さんは俺を救ってくれた恩人だ。その恩人にたてつこうというなら俺がだまっていない!」

 一体、銀次とエルヴィンになにが……。

 龍は銀次の言葉を受け、察した。

 銀次とエルヴィンの間には、ただの浅い紐みたいな繋がりではなく、奥深い鎖のようなもので繋がれていると。

「頼むどいてくれ!」

 しかし、今はそんなことはどうでもいい。

 今は俺達の仲間の絆に土足で踏み入れ、かき乱しているエルヴィンをブッ倒したい。

 龍はその想いで必死に銀次に懇願した。

 しかし、銀次はそれを受け入れる考えなど毛頭ないようで、両腕を広げたまま微動だにしない。

「木柱・四方陣!」

 戦樹は龍が銀次に気を取られているすきを見逃さなかった。

 戦樹は技名を唱え、材木を自身の腕から長い毛のように生やした。

 木は例によってみるみる伸び、四方向にグニャリと裂かれた。

 そこからは、あっという間だった。

 四方向に分かれた木は龍の左右の腕、脚を正確に捉えビリヤードの要領で龍という玉を弾き飛ばした。

 龍は軽々と見事に扉の向こう、つまり建物の場外まで弾き飛ばされてしまった。

「龍君だったよね? いいこと教えてあげよっか?」

 エルヴィンは、場外に弾き飛ばされ見るも無残な体制になっている龍に話しかけた。

「もし、まだ剛君を取り戻したいという気持ちがあるのならチャンスをあげる。明後日行われる裏闘技場主催の私エルヴィンが率いるチーム・ザシャドウに裏闘技場の出場者が挑むというイベントがある。そこで私たちに勝てば剛君を返してあげる」

 エルヴィンはこう言い残し、ピシャリと扉を力強く閉めた。

 龍はすっかり日が落ちた寒空の下に放りだされ、眼前にはむなしく閉ざされた堅牢な扉のみ。

「甘いな。銀次もろとも斬ればいいものの」

 そんなこと出来るわけないだろ……。

 龍は閉ざされた扉を哀しげに見つけながら、鳳助の無責任な発言にいらっとした。

「ちくしょー」

 龍のよわよわしい悔し声が空に響くことはなかった。


 ☆ ☆ ☆


 翌日、戦校にて龍は進と凛の二人に昨晩の出来事を全て打ち明けた。

「勝手なことをするな。お前一人ではなにもできない」

 進は打ち明けた龍にこう言った。

 一見、あまりにも冷徹な言葉に思えるが、むなしいが今の龍には的を得ていた。

「そうですわ。明日みんなで探すと昨日言ったはずですわ」

 凛は身勝手な行動をされるのが何よりも嫌い。

 昨晩の龍の行動は、当然凛の嫌いな行動の一つとして数えられた。

 凛は、大好きな進に同調する形で、龍の昨晩の行動を辛口のコメンテーターばりに批判した。

「ごめん。でも我慢できなかったんだ」

 というか、収穫得れたんだから少しくらい感謝の言葉をもらっても……。

 龍は表面上謝っているが、内心ではむしろ二人に腹立たしさを覚えていた。

「いくらお前でもただで帰ったわけでは無いだろ?」

 ふっ、良く聞いてくれたぜ進君……。

 龍は進の質問に、自慢げに答えた。

「勿論だ。明日、裏闘技場に出場しエルヴィンチームと闘う。勝てば剛と銀次を取り戻すことができる」

 確かにエルヴィンは去り際に言っていた。

 裏闘技のイベントでエルヴィン達に勝てば剛と銀次は返してもらえると!

「つまり負けは許されないというわけか」

「ああ」

 龍と進の二人でどんどん話が進む中、全く話しについていけない凛が水を指した。

「話を進めないで下さる? それに裏闘技場ってなんですの? まったく話についてきけませんわ」

 それは納得の反応だった。

 凛は裏闘技場に訪れた事はない。

 凛の疑問に、進はインフォメーションセンターのスタッフのような素早い対応を見せた。

「裏闘技場とは闘士を諦めた者”バトラ崩れ”が同じ闘士崩れと闘いファイトマネーを稼ぐための非公式の場所だ」

「そんな危ない所に行きますの?」

 バトラ崩れ、非公式の場所。

 そのような危険に満ち溢れている言葉を受けた凛の脳内信号機は、赤く点滅した。

「剛と銀次を助けるためだ。頼む」

 進様が、私の為に懇願している……。

「進様の頼みとあってはしょうがないですわね」

 大好きな進の直々の願いとあれば凛は快諾するほか選択肢はなかった。

「それにしても明日か……早いな……」

「アリサ先生に伝えなくていいんですの?」

「それはダメだ。あくまで裏闘技場は非公認の場。裏闘技場に行くだけでもめちゃくちゃ怒られたんだ、出場するとなればどんな目に合うか分からない」

 行きたくないですわ……。

 凛は早くも軽い気持ちで承諾してしまったことを後悔していた。

 壁に耳あり障子に目あり。

 特に一流の闘士となれば盗聴など朝飯前。

 アリサは教室越しに三人の会話を盗み聞きしていた。

「面白そうなことやってるじゃん★」

 本来ならすぐさま三人を何としても阻止しなければならない立場のアリサだが、なぜかうすら笑いを浮かべながら止めようとはしなかった。

 

 放課後、実戦場の砂には青春の汗がこびりついていた。

 実戦場には、明日の裏闘技に向け、特訓をする龍、進、凛の姿が青春の一ページを切り取ったようにして映し出されていた。

 三人は銀次と剛のことを想い、より一層特訓に身が入っていた。

 進はサンドバックを太刀と呼ばれる自慢のブーメランを巧みに使い切り刻んだ。交流戦時よりキレと精度が上がっているように見える。

 凛は光間家の代々伝わる聖剣エターナルから自身の光を放出し、光を様々な形に変形させている。どうやら、新しい技を編み出そうとしているようだ。

 龍は特訓もせず、汗水たらしている進と凛を横目で見ながら突っ立っていた。

「貴様は技のレパートリーが少なすぎる」

 こいつはいつも痛いとこついてくるな……。

 鳳助の厳しい一言に龍は、毎度のことながらしどろもどろしていた。

「どうすればいい?」

 そう言うのであれば、せめて解決策ぐらい教えてくれよな……。まあ、ないんだろうけど……。

 龍はダメもとで鳳助に質問したが、鳳助から返ってきた言葉は実に意外なものだった。

「新技を教えてやる……!」

 マジ……?


 ☆ ☆ ☆


 その翌日、まだ西日が照りつけるこの日三人の英雄が「カフェ・リバーシブル」の入口に立っていた。

 この日の戦校は休み。

 一撃龍、雷連進、光間凛の三名は戦闘態勢を整え、剛と銀次を取り戻すために朝から裏闘技場に挑戦するのだ。

 三人は裏闘技場に出場するために避けては通れない、「カフェ・リバーシブル」の入口を一呼吸して入った。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 今日は、いつものガタイの良い店員が応対してくれた。

 一言一句変わらないいつもの言葉。

 龍は相言葉である、あの言葉を口にした。

「裏カフェ三つ!」

 龍の言葉を受けるなり店員は目の色を変えた。

 さらに店員はマニュアル通りこう続けた。

「観戦者ですか? 出場者ですか?」

 いつもならここで観戦者というところだが今日は違う。

 今日は紛れもない出場者なのだ。

 当然龍はこの言葉を口にした。

「出場者で!」

 しばしの沈黙が流れた後、店員は口を開いた。

「こちらへどうぞ」

 店員は三人を厨房に案内した。

 目つきの悪い店員が三人に自慢のにらみで歓迎した。

 この人たちなんですの……。

 初めて訪れる異空間。

 凛は過剰ともとれる歓迎にすっかりおびえてしまった。

 少し進むと地下へと続く階段が姿を見せる。普段ならここを降りて裏闘技場へ向かうのだが、今日は出場者。

 店員は階段をスル―してさらに奥へ案内した。

 店内は、電球の間隔が短くなり徐々に暗くなり始めた。

「ここから階段です。気をつけてください」

 店員が注意深く三人に伝えた。

 無理もない。段差がほとんど見えない状況なのだから。三人は足元を凝視しながら。細心の注意を払った。

 すると暗闇で見えずらい足元からかすかに段差が見え隠れしていた。

 段差になれない三人は、店員のがっちりとした背中を見ながら、手すりを頼りにしてゆっくりと段差を降りていく。

 段差を無事降りると、長い長い廊下が出現した。薄暗い影響からか恐怖からか廊下が永遠に続いているように見える。

 どうやら、剛が連れされた現場と同じところのようだ。

 店員は暗闇で前を進むのさえ苦労している三人にお構いなしにどんどん先に進んでいった。

 

 30mくらい進んだ頃だった。

 店員が足をピタッと止めた。壁に気味悪く反射していた足音もピタッと止まった。

 横を見ると、意味深に設置されている扉が、まるで三人を見定めるかのように備え付けられていた。

 店員はその扉を開き三人こう伝えた。

「ここで待っていてください。出番になったら呼ばれます」

 どうやら出場者の控室の扉のようだ。

 店員は役目を終えたように来た道を引き返した。三人は恐る恐る控室の中に入った。

 中は、真ん中に腰かけがあるだけの、教室くらいの広さの無着色な空間。

 そこには、物騒な武具を持ったり、顔に刺繍を縫っていたりするこわごわしいい男、女が待機していた。

 その中から、体中傷だらけの上半身裸の野蛮人が三人に近づいてきた。

「ここはてめーらみたいなガキがくる場所じゃねーんだよ!」

 その男は猛獣のごとく顔で、三人を脅しにきた。

 恐いですわ……。

 今まで清楚な空間で居住してきた凛にとって、このおぞましい空間は刺激が強すぎた。

 凛は男の威圧に、女の子らしく小動物のように震えてしまった。

「お言葉を返すようだが、お前らのような劣等者がくる場所ではないと思うが」

 進は完全アウェーの状況にも関わらず、凛と野蛮な男の間に入り、凛をかばいながら挑発した。

 進様は、こういう時に本当に頼りになります……。

 龍と凛は、頼もしすぎる進を御神体に見立ててお祈りしていた。

 こういう状況でこそ、この男は本当に頼りになる。

「んだとこらあ!」

 野蛮な男は分かりやすく激情した。

 一回り小さい小童に挑発されたのだ、たまったものではない。

 進は容赦という言葉を知らない。

 アウェイだろうが控室だろうが関係なく、進は帯電を帯びた手刀を野蛮な男の後頭部に浴びせた。

「ぎゃあああ!」

 あまりにもあっけなく、うめき声をあげながら野蛮な男は失神した。

「さすがバトラを諦めたような連中が集まるだけはある。大したことが無い」

 進様、もう止めてください。我々が目立ち過ぎています。

 龍と進の祈りもむなしく、進の言葉の暴走は止まらなかった。

 ギロリという音が聞こえるほどに三人に睨みという熱い歓迎が集中した。

 完全に目をつけられてしまった。

 やばいぞ……。これは……。

 龍と進は戦前にも関わらず、寿命を縮めていた。

 すると控室にいた一人で、おしゃれなのか海賊帽をかぶり、無精ひげを生やしたワイルドな男が三人のもとに近づき、話しかけてきた。

「私はギルティー。ここにいる連中は血の気が多い。目立つ行動は控えた方がいい」

 海賊男は控室の荒々しい雰囲気に似合わず紳士的な口調だった。

「そういうお前はどうなんだ?」

 おい、もうやめてくれ……。

 龍は思った。せっかく優しく話しかけてきてくれて、数少ない味方になってくれそうな人にこの(バカ)は何をしてくれているんだと。

 進は紳士的に話しかけてきた人でさえも挑発的な口調で言った。

「私は少し違う」

 ギルティ-はとても人と会話しているとは思えないような小さい声で答え、もといた場所に戻り座り込み沈黙を貫いた。

「龍、少し裏闘技場の様子を見てきてくれ」

 次の暴走の標的は龍だった。

 進は部下をこきつかう上司のように、偉そうに部下の龍に指示を出した。

「へいへーい」

 どんだけ偉そうなんだよ……。

 龍はしぶしぶ上司である進の指示に従い、控室を後にして裏闘技場に向かった。

 廊下に出るとかすかだが聞こえる裏闘技場特有の荒い歓声。

 道が分からない龍はそれを頼りにして裏闘技場へ向かった。


 龍が歓声を頼りにして歩いているとバカでかい空間にたどりついた。

「うおおおおお!」

 特有の獰猛な歓声、熱帯雨林にいるようなじめじめとした熱さ。まさに裏闘技場の特徴を端的に示していた。

「さあ今日は裏闘技場の特別イベント! 題して、今裏闘技界で話題沸騰のエルヴィン選手率いるチーム・ザシャドウに挑め、激熱・ザシャドウvs最強の挑戦者だー! 出場者は逐次募集だ!」

「うおおおおおお!!」

 いつも以上に気合が入る進行役。

 裏闘技場ではなかなか行われない珍しいイベントに観客は爆撃音のような轟音で応えた。

「さあ最初の挑戦者はこの人だー!」

 進行役の呼びかけで一人の男が自信満々にリング上に上がった。

 その男はたいそうな肉体を有しており、男心をくすぐる覆面をかぶっていた。

 龍が初めて裏闘技場に訪れた時に、エルヴィンに苦杯をなめられたマイスターだった。

「ここでルールの説明だ! 挑戦方法は個人戦とチーム戦の二つだ! 個人での挑戦の場合は挑戦者が三人いるザシャドウの中から一人を指名、指名した人と闘って勝ったら勝利!チーム戦の場合は三人で挑戦、ルールは1vs1の勝ちぬき戦で途中交代は自由だ! もちろん、先に全滅した方の負けだ! 勝者の賞金はいつも以上だ!」

 リングのそばには、余裕そうに腕組みしながら立っているエルヴィン、戦樹、銀次が進行役の説明を聞きいっていた。

「オッケーよくわかったぜ! 俺が指名するのはリベンジを兼ねてエルヴィン! と言いたいところだがここ最近連敗続きで金がねえ! 確実に金をいただくためにもそこの小せえガキ!てめーだ!」

 マイスターは意外にも銀次を指名した。

 指名された銀次は、颯爽とリング上に姿を現した。

 銀次……。

 龍はリング上に現れた銀次を瞬きもせずにじっと見つめた。

「それでは激熱・ザシャドウvs最強挑戦者のスタートだ!」

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