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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
34/67

第三十三伝「囚われの剛」

第三十三伝です。皆さんは誰かに誘拐されたことはありますか。ほとんどの人がないですよね。それほど日本は平和ってことです。わが国に感謝しつつご覧ください。

「エルヴィンさんのことをかぎまわっていたみたいだけどなんか用かな?」

 裏闘技出場者である戦樹は、思ったよりも紳士な態度で話しかけていた。

 エルヴィン……。

 今、剛ののどから手が出るほど欲している名。

 それが出たということは……。

 この男とエルヴィンはつながっている……!

 こういう時に意外と人は頭が回る。

 頭でっかちである剛ですら、即座にエルヴィンとつながっていることを見抜いた。

「エルヴィンのことを知っているんですか?」

 剛は恐る恐るこの質問をした。

 人のことをかぎまわるのはあまりいい気がしない。

 もしかしたら、ブチ切れられるかもしれない……。

 剛はこの質問に多少の負い目を感じていた。

「知っているよ」

 戦樹はにっこりとした表情を浮かべながらこう答えた。

 あと少し……。あと少しで……。

 銀次が見つかる……!

 銀次捜索という終わりなき長い長いトンネル。

 剛にはそのトンネルの先にある光が見えた……!

「本当ですか! 教えてください!」

「ここじゃあれだからついてきて」

 

 戦樹はそう言うと剛を連れ、裏闘技場の端っこに向かった。

 そして、裏闘技場の端っこに設置されている、獰猛な裏闘技場とは不釣り合いな人ひとりがやっと通れるくらいの可愛く小さい扉を開けた。

 扉の向こうには、まるで異世界に誘うかのような薄暗い廊下が永遠と続いている。

 廊下を少し歩いたところで戦樹は不意に立ち止まり、口を開いた。

「君にはここで眠ってもらおう」

 眠る……?

 まだおねむの時間ではないぞ?

「どういうことだ!?」

 今まで優しいお兄さんのように接していた戦樹の不意な冷ややかな言葉に、剛は思わず敬語を忘れてしまった。

「木柱!」

 戦樹が技名らしき言葉を唱えると、戦樹の腕からずるずると大工さんの商売道具になりえそうな材木が生えてきた。

 その材木は、植物の生命力を用いどんどん伸び、剛の体まで伸びる。

 そして、材木はまるで生きているかのように、剛の体にいやらしく絡み付き、そのまま縛った。

 材木が縛る力はどんどん増強し、まるで大男の巨大な手に握りつぶされるかのような感覚を剛に植え付けた。

「何をする!?」

 離れねえ……。

 剛から堅牢な縛りから脱出するめどがまるで立たなかった。

 なんとか、言葉を投げつけることしかできなかった。

「エルヴィンさんのことをかぎまわっている奴がいることをエルヴィンさんに報告せねばなるまい」

「そうか連れていってもらえるのか」

 エルヴィンのもとに行けば銀次を見つけられるかもしれない……。

 剛の銀次を見つけたいという強い精神が、材木に縛られる痛みを上回った!

 剛は戦樹に挑発的な笑みを浮かべた。

「そんな口が聞けるのも今だけだ」

 剛の態度にいら立ちを覚えた戦樹は、さらに縛りを強くした。

「グワアアア!!」

 さすがに精神力で耐えれる容量(キャパ)を超えてしまった。

 悶絶。

 苦しさと痛みの波状攻撃が、剛の体という一つの民家を強大な台風のごとく襲撃した。

 

「ここまですれば大丈夫だろう」

 戦樹は紳士な男。

 人を殺すような野蛮なまねはしない。

 彼は、剛の悲痛な顔と叫びを総合的に判断して、縛りを少し緩めるという決断に至った。

 今だ……!

 狙いだった。

 剛は、相手が人の心をもっているのなら悲痛な声と叫びをすれば、情が移って力を弱めると踏んだからだ。

 ただし、”人の情”があるのなら。

 体こそ身動きが取れないものの、なんとか手だけは最低限の動きが出来るほどになった。

 剛は動作環境が元通りになった手で、自分の服の内ポケットに隠し持っていた無線機を取り出し、とっさに電源を入れた。

 そして無線機のスピーカーに今の状況を端的に声という鉛玉をぶち込んだ。

 剛の脳は危機的状況に関わらず、いや危機的状況だからこそ瞬時に伝えるべきワードを取捨選択した。龍、進、凛、アリサに大声で伝える。

「銀次はエルヴィンと戦k……!」

 グシャッという音が現したのは、人間が作ったちっぽけな機械を、大自然という荒波がいとも簡単に飲み込んだ音だった。

 戦樹はとっさに材木で、剛が隠し持っていた無線機を粉々に砕いた。

 強者を感じさせる素早い対応だった。

「ちくしょー、もうちょっとだったのになー」

 剛は粉々の無線機の破片を見つめながら、悔しがった。

 剛には、二秒あれば全てを伝えられる自信があったからだ。

 姑息なまねをするネズミには、お仕置きを。

 戦樹は再度、剛の体を相当量の強さで縛りあげた。

 キリキリと剛の身体は悲鳴をあげていた。

「……」

 痛みが強すぎると声を発することでさえ困難になる。

 剛はあまりの強烈な痛みに耐えきれず、スッと意識を星の彼方へ飛ばしてしまった。


「!」

 剛の声は、無線機というフィルターを通して、捜索を続けていた龍、進、凛、アリサの四名にしっかりと伝わった。

「剛になにかあった!」

 人一倍仲間を大切にする龍がまず、真っ先に無線機に向かって大声を張り上げた。

「とにかく集まろう! 場所は戦校の門!」

 こういう緊急時に頼りになるのは年の功。

 アリサは迅速な対応で、捜索を続けているであろう龍と進と凛の三人にてきぱきと指示を出した。

「はい!」

 指示を受けた三人は、快く要求を快諾した。


 ☆ ☆ ☆


 生徒達がほとんど帰ってしまった夕暮れに染まり、なにやら哀愁漂う表情をしているように見える戦校の門に集結する龍、進、凛、アリサの捜索隊の四名。

 まずは隊長であるアリサが話を切り出した。

「無線機で聞いたと思うけど剛君の身になにかがあった」

「確か剛君が話した言葉は『銀次はエルヴィンと』って感じだったですわね」

 凛の耳の良さと記憶力の高さはここで活きた。

 凛は、剛が無線機越しで届けた声を、産地直送で三人に伝えた。

「エルヴィン……聞いたことのない名前……」

 アリサは脳内にこの名前を検索してみたが、ヒットはゼロ件だった。

「エルヴィン……!」

 しかし、龍と進の脳内検索エンジンにエルヴィンという名前は即座にヒットした。

「二人とも知っているの?」

 誰がどう考えても知っているような口ぶりだった。

 アリサは龍と進がエルヴィンという者の存在を知っていると確信し、尋ねた。

 ふっふっふっ。

 エルヴィンというワードを知っている俺はさぞかし感謝を受けるだろうなあ……。

 龍は称賛を浴びる気満々で、今にも口の中からあるとあらゆる下心があふれ出そうな口で行った。

「エルヴィンは裏闘技場で闘う”バトラ崩れ”です!」

 捜索に一役買った俺は感謝状でももらえるのかしら……。

 ”感謝待ち”の龍だったが、返ってきた言葉は実に意外なものだった。

「あなたたちそんな危ない所に行っていたの!」

 龍に浴びせられた言葉は感謝ではなく罵詈雑言だった。

 あれ……。

 思ってたのと違うぞ……。

 察しが悪い龍だったが、アリサの反応は当然と言える。

 戦校は未来のバトラを育てる”公式(オフィシャル)”な機関。

 裏闘技場のような”非公式(アンオフィシャル)な”場への出入りなど許されない。

 それも、裏闘技で行うのは賭博行為。

 未成年の彼らがやって許される行為ではなかった。

「とにかくそのエルヴィンって人と銀次君が関わっているようですわね」

 しかし、そんなことは二の次。

 今は剛の安否が最優先。

 ここにいる中で、唯一中立な立場を保っている凛が強引に話を戻した。

「親御さんが心配すると思うからあなたたち、今日のところは帰りなさい。後は私がなんとかする」

 先生、それは出来ない相談だ。このまま呑気に家帰って布団に入れるわけがない!

 アリサは生徒達のことを想い三人を帰らそうとしたが、彼らは指示通り帰るほど一筋縄ではいかない。

「銀次と剛が大変だってのに帰れるわけないじゃないですか!」

 龍はそう言い放ち帰ろうとしなかった。

「そうですわ。本当に私達の想いを汲むのなら、一緒に探すべきですわ」

「先生ばっかりいい格好はさせねえぜ」

 凛と進も同じ気持ちだった。

 剛を助け、銀次を見つける。

 今、彼らに確固たる意志が備わっていた。

「オッケー、じゃあみんなで探そう。さっきエルヴィンって人は”バトラ崩れ”って言ってたよね?」

「はい。確か元々バトラを目指していて諦めた人のことを言うんですよね?」

 龍はアリサの問にこう切り返した。

「そう。正確にはバトラに一度なって辞職したって感じかな。つまり一度はバトラになっているってことだから、うちの卒業生の可能性もある。卒業生のデータだったら戦校のデータベースにあるはず」

「じゃあ早速データベースを見ましょう!」


 アリサが龍、進、凛に引き連れやってきたのは、戦校の校舎の中にある機械のコードらしきものが散乱する六畳一間の小さく薄暗い部屋。

 そこにひときわ目立つように取り付けられている大きなスクリーン。

 どうやらこれが戦校のデータベースのようだ。

「ふー。校長に許可取れて良かったー」

 アリサ達は校長にこの部屋の鍵を受け取りなんとか入ることに成功した。

 戦校の機密事項がたくさんある部屋なので、許可を取ることは意外と難しい。

 アリサはタッチパネル式のスクリーンに”エルヴィン”の四文字を文字を打ち込んだ。

 そして、表示されたのは。

 ”見つかりませんでした”

 という無情なる文字であった。

「どうやらここの卒業生ではなさそうだね……」

 結局、手掛かりなしか……。

 汗水たらしながらせっかく見つけた手掛かりという名の貴重な文献。その文献が、一瞬のうちに価値の無い紙屑になってしまう。

 そんな感情に四人は陥っていた。

「みんなはなにか手掛かりをつかめた?」

 アリサはここで、昼間捜索に奔走していた三人に捜索の成果を聞いた。

 しかし、帰ってくるきたのは、首を横に振る彼らの落胆した表情のみだった。

 結局剛以外はなにも手掛かりをつかめなかった。

「もう日が沈んじゃったね。また捜索は明日にしようね」

 手掛かりという持ち駒が尽きた四人は、結局家に帰ることにした。


 銀次、剛……。

 今日のところは嫌なことは忘れようとした龍であったが、忘れようとしたことでかえって彼らのことを思い出してしまう。

 心配という頑固な汚れは、龍の頭から落ちることは無かった。

 だからといって、見つけることはできない。

 そのもどかしさを声に出すことしかできなかった。

「やっぱり剛と銀次のことが心配だ!」

「んなこと言ったって手掛かりねえんだからしゃーねーだろ!」

 鳳助は相棒の歯がゆさが風邪のように移ってしまっていた。

「探しに行くぞ! 鳳助!」

「はああ!? 今から!?」

「俺の予想が正しければエルヴィンの住処は裏闘技場から離れていないはずだ」

「俺がなんと言おうが変わらねえんだろ?」

「ああ悪いな。いつも付き合わせて」

「しゃあねえ、俺たちは”相棒”なんだからよ」


 ☆ ☆ ☆


 すっかり陽が落ち、普段から人気がない「ノルン通り」は、より一層静けさを増していた。冷ややかな風音だけが龍の肌を刺激した。

 人気が無いだけに、電気が消え閉店している店も多い中、裏闘技場有するカフェテリア、「カフェ・リバーシブル」は明るい店内を演出させていた。

 それを見て営業中と判断した龍は、一人で「カフェ・リバーシブル」に入店した。

 店内はあの人気の無い通りにしては活気にあふれていた。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 今日は、夜だからか接客に来たのはいつものガタイの良い店員ではなく、ヒョロヒョロの眼鏡男だった。

 しかし、人が変わろうと、あのおなじみのセリフは変わらない。

「アイスコーヒー、一つで」

 裏闘技に入るためのキーワード、「裏カフェ」。

 本来ならここで「裏カフェ」を注文し、裏闘技への道が開かれる。

 しかし、今日の龍は普通の客としてここに足を運んだ。

 よって、龍は普通の客として普通の注文をした。 

「かしこまりました。それではこちらの席へどうぞ」

 店員はおひとり様ということで、龍を普通のカウンターへ案内した。

 カウンターは厨房が筒抜けになって、席、テーブル、厨房その全てにおいて肉眼でゴミを視認できないほど綺麗で清廉。とても地下に闘技場があるなんて想像できない。

「おい、なにちんたらしてるんだ!?」

 さっきまで、あんなにも熱く語っていた相棒。

 しかし、今の相棒はまったりと店内の様子を見ながらコーヒーを待っている。

 鳳助は龍の矛盾している行動に痺れを切らした。

「まずは一服してから。それに、エルヴィンは裏闘技場を縄張りにしている。いつここに来てもおかしくない」

 龍はふうっと深呼吸をしてリラックスしながら、軽く鳳助の言い分を受け流した。

「お待たせしました」

 店員はアツアツのアイスコーヒーをトレーと共に龍の席に置いた。

 コーヒーは本当にどこにでもあるようなシンプルなもので、とても地下に闘技場を有する超特殊なカフェテリアとは思えない。

「ごゆっくりどうぞ」

 接客も普通のカフェテリアと何ら変わりもない。どちらかというと、普通のカフェテリアより丁寧なくらいだ。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 また、あの決め台詞。

 ということは、どうやら客が入ってきたようだ。

 龍は何気なく、今入ってきた客に目を向けた。

「あいつは……!」


 ☆ ☆ ☆


 龍がコーヒーに舌鼓を打っている時、剛は深い眠りについてた。

「ここは……」

 剛は久々に目を覚ました。

 自分の体を見て、すぐに脳が活性化してしまった。

 剛の体は無機質な材木に巻きつけられていた。それは、強靭な体を有している剛でさえ、まったく身動きを取れないほどだった。

「やっと気づいたか……」

 目の前に男が立っていた。

 その男の顔を見るなり、剛の脳に保管してあった過去の追憶が一気によみがえってきた。

 剛の目の先には剛を連れ去った張本人である戦樹が立っていた。

「俺をどうする気だ!」

「あら、よく見るとこの前裏闘技場で私の試合を見てくれた坊やじゃない」

 戦樹の横に女が立っていた。

 その女も剛の脳内保管庫に厳重に保管されていた。

「お前は、エルヴィン……!」

 目を隠すには過剰すぎる大きさのサングラス、高級そうな毛皮のコートの女優風の女、剛が忘れもしない大男を瞬殺したスタージャ・エルヴィン。その女である。

「どうやら私のことをかぎまわってたんだって。どうしてなの?」

 エルヴィンは殺気をムンムンに放ち、剛を問いただした。

 怖ええ……!

 剛はエルヴィンの体からあふれ出る恐怖を必死で御しながら、なんとか自分らしい言葉で言ってのけた。

「俺は銀次を探していた。お前が銀次と一緒にいるところを定食屋の店員が見たんだよ!」

「銀次君のお友達なの?」

「やはりつながっていたか! 銀次はどこだ!?」

「質問しているのはこっち」

 ギュルルルルという空気と空気が密接に交わる音。

 この忌まわしき音波は、またしても剛の脳内保管庫に保管されていた。

 マイスターを一瞬で墓場送りにしたあの音。

 そして、剛はマイスターと同じ感覚を味わった。

 体のあるべき場所に一歩も動くことなく役割を果たしている幾数の臓器が氾濫を起こし、体のいたるところに暴走したような、そんな気持ちの悪い感覚。

 エルヴィンは剛の気を意のままに操り、剛の体中に巡る気を乱した。

「グハッ」

 剛は吐血した。

 剛の強靭な体ですら対応できないほどの体内の暴走だった。

 エルヴィンは今一度、剛に同じ質問をした。

「銀次君に何の用なの?」


 ☆ ☆ ☆


 剛が失意の中、「カフェ・リバーシブル」であることが起きていた。

「銀次……!」

 龍がおしとやかなカフェテリアの店内にも関わらず、ハッと声を上げ驚いた。

「カフェ・リバーシブル」に綺麗な店内には歓迎されないような、薄汚いボサボサの髪と無精ひげを生やした銀次が入店してきた。

 銀次捜索は実に意外な形で幕を下ろした。 

「龍……! なぜお前が……!?」

 自分が驚いている場合は大抵相手も驚いている。

 銀次もまたカウンターにちょこんと座っている龍を見て驚いた。

「お前今までどこ行ってたんだ!? みんなが心配しているんだぞ!」

 龍が久しぶりに銀次を見て最初にこみ上げてきたのは安堵ではなく、怒りだった。

 みんながどれだけ心配して探していたことか……。

 龍は静けさが板についている店内にも関わらず、ついかっとなり声を荒げ、銀次に言葉を投げかけた。

「残念だったな! 俺はもう戦校などに興味はない。戦校など行かなくても簡単にバトラになれるのだからな!」

 は……?

 何を言っているんだ……?

 龍が自分の発言にパニくっていることなんか知る由もなく、銀次は龍のとなりの席に着いた。

「どういうことだ?」

 龍はとりあえず気持ちを整理しながら、質問した。

「俺は裏闘技場で荒稼ぎをして裏闘技場マスターになる!」

「な……に……!?」

 もはや、銀次の発言を理解できるものは一人もいないだろう。

「ご注文は?」

 二人の会話お構いなしに、店員はやや食い気味に注文を尋ねた。

「持ち帰りでサンドイッチ一つ」

 持ち帰りならわざわざ席に着くなよ……。

 と、龍が心の中でツッコミを入れている間に、龍はある疑問を出産していた。

「どこに持ち帰る?」

 龍は先ほどの店員のように、食い気味で銀次を問い詰めた。

「お前には関係ない」

「とにかくお前の親が心配してるんだ! 家に帰ってやれ!」

 龍はついカッとなってしまった。

「家に帰る暇があるなら特訓しているほうがました!」

「特訓ってなにをしているんだ!」

「だからお前には関係ないって言っているだろう!」

 周りの客が、ヒートアップしている龍と銀次を嫌そうな目で見つめた。

 それでも、二人はお構いなく会話を続けた。

「エルヴィンが関係あるのか?」

 龍の質問に銀次の顔色が変わった。

 銀二の顔色は、信号機のように赤から青に様変わりした。

「なぜその名を?」

「剛が教えてくれた」

「剛さんが……!」

「そうだ! 剛はどこにいる?」

「それは分からない」

「とにかく、俺をエルヴィンのところへ連れて行け!」

「……分かったよ……」

 龍の強い声のトーンに押され、銀次はしぶしぶ従った。

 これで、全てが解決する……。

 龍はこの一連の事件を自分で片付けることを心に決めた。


 ☆ ☆ ☆


 銀次は袋詰めにされているサンドイッチを手に持ち、龍を引き連れすっかり闇に落ちた「ノルン通り」を闊歩した。

「ノルン通り」から少し道を外れたところに、空き地に囲まれた小規模な体育館らしき建物が建っていった。

「ここだ」

 銀次はこう言って、その建物を指さした。


 一方、銀次が指さした建物の中。

 そこには体を縛っていた材木こそ無くなっているものの、エルヴィンに気を操られどちらにしても身動きが取れずにいる剛が苦しい表情を浮かべながら、這いつくばっていた。

「ちくしょおおお! 離しやがれ!」

 身動きが取れなくなった剛は、言葉で主張するしかなかった。

「あなたが助かる方法を教えてあげるわ。私たちと共に裏闘技場で闘うこと」

「断る!」

「そう、じゃあ生かしてはおけないわね」

「なに!?」

 やばい……。

 死ぬ……!

 今まで”死ぬ”と思ったことは無いわけではなかった。

 だが、ここまで安直に”死”を掲示されたのは初めてだ……!

 エルヴィンの無情とも思える発言に、さすがの剛の毛も逆立ち、戦慄を覚えた。

 その時だった。 

 バタンという建物に入るための大きな扉の開場音が、エルヴィンの住処に響き渡った。

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