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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
二年編
31/67

第三十伝「裏闘技場」

節目の第三十伝です。二年編は第二伝です。一撃龍二年の物語はこれからどういった方向に進むのでしょう。それでは、どうぞ。

 扉の中に入ると、まず熱気が三人の肌に伝わった。

 赤道直下にいるようなすさまじい温度。

 あまりの熱気に視界が曇り、中の状況を目視するのに困難を要した。

 三人の肉眼にかすかに黒い点みたいなものが大量に写し込まれた。

 しばらくして、その大量の黒い点の正体がはっきりした。

 人!人!人!

 人の群れ!

 カフェの地下とは思えないような、なんとかドームくらいある巨大な空間に人の群れがびっしりと敷き詰められている。

 その人の群れの視線が一同に集結しているのは、中央に設置されてある今の温度を示しているかのような真っ赤なリング。

「なんだよ、これは!?」

 俺達がいたのはただのカフェのはずだろ……!?

 なんで、こんな巨大な闘技場があるんだよ!!

 龍は、まるで別世界に瞬間移動したような不思議な感覚に陥っていた。

「こいつはおもしれー!」

 血なまぐささが体好物の鳳助にとって、ここはたまらない場所であった。

「そういうことか」

 進は冷静さを保っているも、内心驚きを隠せないでいた。持ち前の冷静さを見せ全てを悟ったようだ。

「やってる、やってる!」

 剛は過去にこの地に何度か訪れたことがあった。

 だからこそ、この異様な光景に臆することなく、一歩一歩奥に歩を進めることができた。

「一体何なの、ここ?」

 龍はそんなせっせと歩く剛を止めつつ、尋ねた。

「ここは裏闘技場と言ってだな。まずはリングに立っている二人がいるだろ?」

 とてつもなく辛い唐辛子のような真っ赤なリング。

 剛の言うとおり確かにそのリング上に二人の者が向き合って立っていた。

「簡単に言えば今リングに立っている二人がこれから闘うんだ!」

「あの二人は何者なんだ?」

 進は質問を上乗せした。

 確かにリング上に立っている二人の素性が分からない。

「奴らは”バトラ崩れ”と言ってだな、バトラを目指していたがバトラになることが出来なかった、もしくはやめちまった奴のことを言うんだ。そんな奴らが金を求めてこうして非公式の場で昼夜闘っている訳だ。ちなみにここでも稼げない奴は上のカフェで働くことになるんだぜ!」

 だから店員の頑体が良かったし、厨房の奴らの殺気を感じたわけか……。

 進の心のもやもやは剛の説明のお陰ですっきり晴れた。

「でもさ、お金ってどこから発生するの?」

 そう。剛の説明ではお金の発生源が不明。

 金にうるさい龍は真っ先に気付いた。

「よく聞いてくれた! 上に表示されている数字をご覧あれ!」

 剛はそう言って斜め上を指さした。

 剛の指先には大きなスクリーンがあった。

 そこには倍率らしき数字が表示されていた。

「賭けだよ、賭け! 俺達観戦者は勝敗を予想するんだ! そして、勝つと思った方にお金を賭ける! 予想が当たったらあそこに表示されている数字の倍率が加わってお金が戻ってくるって訳だ!」

「そんなことやって大丈夫なの? 進級取り消しとかにならない?」

 賭けごと。

 それは、道を踏み外した不良や、悪い大人たちが暇つぶしの為にやる不健全な遊び。

 そんなことを、将来を嘱望されている俺達がやっていいものなのか?

 龍は急に心配になり、同時に好奇心という気持ちがかき消されて帰りたい気持ちになった。

「大丈夫だ! ここの賭博場は年齢制限なしだ! ちなみに出場者の年齢制限も無しだ!」

 そういう問題じゃないだろ……。

 龍は内心そう思いながら、渋った顔を二人に見せつけた。

「少額なら問題ないだろ」

 進は剛の意見に同調し、渋る龍を説得した。

 多数決。

 それは、この世で絶対的な意志決定を図る方法。

 それに、一度決めた事にはなかなか意見を変えない、我が強い進と剛。

 龍に、説得する術はなかった。

「まあ……ちょっとだけなら……」

 龍はまるで、麻薬を勧められた人のようなセリフで了承した。


「さあどっちに賭けようかな?」

 剛は慣れた口ぶりで、賭博の対象者を吟味した。

 賭博の対象者はリングに上がっている二人。

 一人は覆面をかぶり筋肉ムキムキのレスラー風の男。

 もう一人はスリムな体形で腕がか細く、なにやらブランド品のような毛皮のコートを身にまとい、大きなサングラスをかけているハリウッド女優風の女。

 まさに、対照的な両者。

 オッズは見た目からか、レスラー風の男が1.4倍で、女優風の女が2.3倍と、レスラー風の男が優勢という評価だ。

「どう考えても覆面の奴だよな?」

「体格からして圧倒的だ」

 剛と進はこんな会話をしていた。

 確かに、体格的に見てもどう考えても覆面男が有利。

 でも、アリサ先生みたいに華奢でも強い人はいくらでもいるし……。

 うーん……。

 龍は頭を右に左にかしげながら悩んでいた。

「決めたら周りにあるボックスで投票だ! ボックスの指示に従ってお金を投入して闘券を手に入れるんだ! 当たったらボックスが闘券と引き換えにお金をプレゼントしてくれるぜ!」

「分かった。行ってくる」

 どうやら進は決まったようで、剛の説明を受け群衆の波をかき分けながら投票ボックスへ向かった。

「よーし俺も行ってくるぜ! 龍は?」

「ちょっと待って、もう少し考えさせて」

「もうすぐで締め切りだから早くしろよ!」

 この裏闘技には締め切り時間というものがある。

 締め切り時間を過ぎれば、当然投票はできなくなる。

 そういうこともあり、剛は優柔不断な龍を焦らせた。

「龍! 決めたのか?」

 鳳助は龍の動向が気になっていた。

「まだ迷ってる。確かに覆面の男の方が強そうなんだけどオッズ的に女の人も良い気がするし……でもみんな男の方だしな。うーん……」

「女の方に賭けろ!」

 鳳助は何か自信があるようで、迷う龍にきっぱりと指示を出した。

「うそっ! なんで?」

「あの女に強いオーラを感じるぜ!」

「分かった、鳳助を信じる!」

 どうせみんな覆面の方だろうし……。

 一人勝ちってことも……。

 龍は鳳助を信じ、そして思わずよだれが出ることを妄想しながら、女の方に賭けることにした。

 龍は暑苦しい群衆達をさばきながらなんとか隅っこに設置されているボックスがある場所に向かい、ボックスの指示に従い、ボックスの中に財布の中にある持ち金全てである、500Geを投入した。(この世界の通貨単位はGe「ゲイル」、貨幣価値はほぼ円と同じ。)

「よし、みんな賭けたな! 俺は男の方に1000Ge賭けたぜ! これでお菓子でもいただくぜ!」

「俺も男の方に賭けた」

「俺は女の方にしたよ」

 剛と進は堅く男の方に賭け、龍は穴の女の方にそれぞれ賭けた。

「おっ! ギャンブラーだな! 全員一緒だとつまんねーしな!」

 どうやら、ギャンブラーは倍率が高い方に賭けるらしい。

 剛は龍のギャンブラー的賭け方に、一人で盛り上がっていた。


「おっーと!締め切り時間だー! みんな投票は済んだかな? ここで選手紹介だー! ルールは何でもアリだ! 意識を失ったり審判が止めたりしたら試合終了だ! まずはきらりと光る覆面、その素顔は誰も知らない! 覆面英雄(ふくめんヒーロー)、マッスラ-・マイスター選手だー!」

「おおおおおおお!!」

 進行役のアナウンスに、群衆は声をそろえて盛り上がった。

 地鳴りのような大音声は、反射的に耳をふさぐほどだった

「続いては、むさくるしい会場に咲く一輪の花、そんな格好で大丈夫なのか! 美しき戦闘お姉さん、エルヴィン・スタージャ選手だーーー!」

「おおおおおおお!!」

 珍しい女流バトラの登場に、爆撃音のような大声援。会場のボルテージはさらに上がった。

 それは、耳にある細胞という細胞が削り取られる感覚に陥るほどだ。

「うるさ……」

 龍は耳を押さえるには十分すぎるほどの力で耳を押さえ、この大音声になんとか耐えきった。

「今日は楽勝だな! こんな弱そうな女が相手かよ!」

 この裏闘技の常連であるマイスターですら、女は初めてだった。

 今までの経験を加味し、早くも勝利を確信し、挑発し始めた。

「あら、人を見た目で判断するのはやめてくださる?」

 一方、対戦相手の女優風女エルヴィンは、この裏闘技は初めての参戦。

 エルヴィンは初めてにもかかわらず、全く臆する様子は見せず、落ち着きながら返答して見せた。

「見あって見あってー! スタートだああ!」

 進行役の合図と共に裏闘技場のバトルが開始された。

 

 エルヴィンは毛皮のコートを脱ぎ捨て戦闘態勢に入った。

「行くぞおおおお!」

 勝てると確信したマイスターは、その大きな足で不安定なリング内をドタバタと駆け回った。

 エルヴィンは真黒いサングラス越しに、リング上を縦横無尽に走りまわるマイスターを凝視した。

 マイスターは、標的をエルヴィン一人に絞り、リング脇にあるロープで勢いをつけ、背後からエルヴィンに近付いた。エルヴィンの両腕を自らの腕でがっちりホールドした。

 マイスターはエルヴィンの両腕を掴みながら、飛躍。空中で二人の四肢がピッタリと合い、マイスターはエルヴィンを下敷きにする形を取り、自らの愚鈍な体重で押しつぶした。

 重力と体重のサンドイッチ。

 エルヴィンの華奢な体はそのサンドイッチにあらがえる術が無く、スクラップのようにグシャリと押しつぶされた。

 バキイイッというむごい音がリング内を震撼させた。

「これが俺の必殺技・コスモドロップだ!」

 マイスターは確実なる手ごたえのもとで、改めて勝利を確信した。

 マイスターがエルヴィンから離れると、とっさにサングラスを外したのか、リング上に無造作に置かれるサングラスと、その隣でぺったりと横たわるエルヴィンの姿が裏闘技の観客の網膜に鮮明に映し込まれた。

「これは決まったかーーー!? マイスターも巨体になすすべなし!」

 長年裏闘技を見てきた進行役の目にもマイスターの勝利は明らかなものだった。

「よっしゃーーー! 1400Geゲット!」

「案外ちょろいな」

 剛と進も同じ。

 マイスターの勝利を確信し、早くも頭の中に配当金をちらつかせていた。

「おい、鳳助! 全然だめじゃないか……」

 俺の金が……。

 龍はお金を大事にするタイプ。

 昔からお菓子という誘惑から何度も振り払い、極力節約をしてきた。

 そんな龍が初めて、金をどぶに捨てるという感覚を味わった。

 もともと、鳳助の助言でエルヴィンに賭けるという意志決定を下したのだ。

 龍は鳳助にぶーぶー文句をたれ始めた。

「いや、まだだぜ」

 鳳助は人間ではない。

 だから、他人とは違うなにかを感じ取っていた。


「どうした? もう終わりかな?」

 大勢の観衆の眼前に映し出されたのはとんでもない光景だった。

 エルヴィンはコートの下に着ていた、これまた高級そうなシルクの服の汚れをパッパと払いながら、何事もなかったような落ち着いたしゃべり方で、すっと立ち上がった。

「バカな! この技を受けて立っているなどありえん!」

 マイスターはこの技に確固たる自信を持っていた。

 並の奴なら一撃必中。

 とくに、今回の対戦相手の華奢な体なら尚のこと。

 だからこそ、マイスターこの光景に驚かずにはいられなかった。

「これはワンダフル! まだまだエルヴィンは終わらない!」

「うわおおおああ!!」

 エルヴィンに賭けていた人達の歓声と、マイスターに賭けていた人達の悲鳴がドロドロと入り混じり、裏闘技場内に異様な音色が響き渡った。

 ギャンブルは人を狂わせる……!

「今度こそ終わりだーー!」

 だからといってマイスターがひるむことはなかった。

 経験者としての意地……!

 それが、マイスターを前に進ませた。

 マイスターは気合いをつけ、自慢の巨大な拳を振りかざしエルヴィンを再度仕留にかかった。

「はっ!」

 エルヴィンは怠惰な観客の気持ちが引き締まるような掛け声を発した。

 すると、空気の色が変わった。

 ドロドロとした赤い空気から、すっきりとした白い空気に……!

 そして、リング上に怪奇現象並の不可解な現象が起こっていた。

「俺の拳が動かねえ……!」

 マイスターの拳は透明の壁にぶち当たったように制止していた。

 あ……ありえねえ……。

 マイスターは頭だけではなく身体全体を混乱させていた。

「どうしたんだ! マイスターピーンチ!」


「なんでマイスターって奴の拳が動かねえんだ!?」

 威勢の良かったマイスターの動きが時が止まったかのようにぴったりと止まった。

 その光景を、剛が不思議がるのも無理はなかった。

「おそらく”波動”属性使いだ」

 進はおもむろに口を開いた。

 波動属性。

 それは龍の炎属性、進の雷属性であったりする属性の種類の一つ。

「波動?」

 龍は聞きなれない波動という言葉に反応した。

 スペシャルの知識が豊富な進は、饒舌に話し始めた。

「人には”気”というものが流れている。闘士にはそれが顕著に現れ、熟練者ほど気を自在に操れるという。波動は気を操ることに長け、相手の気まで自在に操る事が出来るそうだ。剛、俺等の負けだ。波動属性を扱うのではあの覆面男に勝ち目はない」

「えっ、うそ! 俺の勝ち? やったー!」

 一人勝ち。

 賭け事においてこんなに気持ちの良いことはない。

 それも、”穴”も方でだ。嬉しさは一入ひとしおだろう。

 龍は気構えしていないと驚くほどに大きな声で、的中させた喜びをあらわにした。

「言った通りだろ?」

 鳳凰に表情があったらニヤニヤしているだろう。

 鳳凰はそんな声で、龍に自慢げに話した。

「ありがとう鳳助」

「儲かった金、俺にも分けろよ!」

「えーー!」


 バタンというリング上に何かが叩きつけられた音で、観客の注目を今一度リング上に集めた。

 リング上の闘いはさらに変貌を遂げていた。

 マイスターの巨体が、見えない力に操られるようにリングという無機質な地面に軽々と叩き込まれた。

「なんだよこれは!」

 人は混乱すると声を荒げることしかできなくなってしまう。

 今のマイスターはそれを象徴するしていた。

「貴方の”気”は完全に読めた」

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