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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
26/67

第二十五伝「幻想の攻略法」

第二十五伝です。みなさんは壁にぶち当たった時どうしますか。僕はとにかく攻略法を探しますね。ゲームの話です。

 進は重力に従い、幻想の塔からまっさかさまに落下し続ける。

「ははははは! あいつを潰した! 僕の勝ちだ!」

 進を容赦なく突き落としたナーガは歓喜の雄たけびを上げた。

 進の周りに広がるのは底が見えない無の空間。ナーガの遠吠えだけがかすかに進の耳をにぎわせただけだった。

 ああ……。

 俺は死ぬのか……。

 絶望。この言葉が進の心にへばりついた。


「ビクッ」

 ベンチで観戦を決め込んでいる龍の胸に途端、もやみたいなものが発生した。

「なんかやばい予感がする……」

 龍はその言葉をポッと前に置いた。

 やばい予感。科学的には証明出来ないが、スピリチュアル的に感じるもの。

 そういう予感は意外と的を得ている。そんな予感がワサビのようにつんとくる刺激で龍の身体を襲った。

「貴様の言うとおりかもしれねえな」

 鳳凰も同様の予感がしていた。

「奇遇だな、俺もだ!」

「私もですわ!」

 それは鳳凰だけではなかった。剛や凛までも同じ予感を覚えいきた。

「うん、確かにこの子たちの言うとおり嫌な予感がする……」

 アリサとて例外ではない。一年チームの全員が同じ予感を共有していた。

 龍は考えた。俺達にできることはただ一つ。

「俺達の声を進の耳に届ける!」

「そうだな!」 

「ですわね」

 気持ちが……一つに……。

 個人という名のバラバラだった小さな玉。それは集まり、やがてチームという大きな一つの玉となった。

「しーん! 負けるなー!」

「てめーはそんな奴に負けるようなタマだったのか! がっかりだぜ! いやちがう、てめーはこんな簡単に負けねー! 俺の追い求めるお前はもっと強かったはずだ!」

「進様! 私の好きな王子様! どうか無事で帰ってきて!」

 龍、剛、凛は進に各々の想いを言霊に乗せてぶつけた。

「進、みんなの声は聞こえてるか? 俺とお前で約束したよな! この交流戦絶対勝つって!!」

 届け!届け!届け!

 俺達の声!!


 こいつら正気か……。

 聞こえてるか分からねーのに、なんで他人のためにここまで一生懸命なれるんだ? 

 俺には分からねえ……。

 鳳凰は彼ら人間の行動を理解出来ることはなかった。


 なにか聞こえる……。

 音も光も届かない無の世界。進の耳の届くはずの無い音がかすかに届いた。

「頑張れー!」

「負けんなー!」

「進様!」

 三人は進への声援を止めようとはしなかった。

 届く保証はどこにもない。声もとっくに限界を迎えていた。

 それでも止めない。

 俺達は……。

 仲間だから!!

 進は声の主たちの心覚えがあった。

 あいつらか……。

 いつにもましてうるさいな……。

 この俺を心配してるのか……?

 あいつらに心配されるとはな……。

 俺も堕ちたものだな………。

 威勢はって出た分、こんな無様な負け方は出来ないな……。

 進の心は……。

 息を吹き返した!!

 進の大いなる目覚め。

 機能停止し、冷徹を極めていた進の血液が温もりを取り戻した。

 無の空間は晴れた。今まで何もなかった底に、無機質な地面がひょっこりと顔を出した。

 それで充分だ。進は温もりを取り戻した手で太刀を力強く握りしめ、地面に突き刺す構えをした。

 太刀は無機質な地面に突き刺さった。進は難なく着地に成功した。


 進の視界は次第にカラフルな闘技場の風景に様変わりした。

 幻想は無事解かれた。

 一応例は言っておくぜ。ありがとうみんな。

 進は心の中ではあるが初めて仲間に感謝を示した。

「まさか……塔幻を破ったなんて……!?」

 ナーガは珍しく驚嘆の声を上げた。

 今まで微動だにしなかったナーガの心がこの時初めて揺らいだ……!


「進! さすが!」

「お前ならやってくれると思ったぜ!」

「進様、無事でよかったですわ」

 進に声は届いた……。

 声を必死で届けた三人は、進の復活を素直に喜んだ。

「うるさいんだよ、お前らのせいでせっかくいい夢見てたのに目が覚めちまった」

 良かった。そこにいたのは、いつもの進だった。

「多分感謝されてる」

「だな!」

「ですわね」

「さあ行って来い!」

 剛は両手をメガホン代わりにして、進を鼓舞した。

「うるさいっつてんだよ!」

 完全復活。

 進は自分の足にしっかり体重を乗せ、闘技場の土を踏んだ。太刀を両手でしっかり持ち、前に構え、再度戦闘態勢った。


 邪化射ナーガの幻想。それは二年チームにとっての絶対的なウエポン。

 そのウエポンが後輩に破られたのだ。ゆえに二年陣営が動揺しない筈が無かった。

「あの算段が破られるなんて……」

「正直信じられないっす」

「ありえない……」

「一年チーム、どうやら想像以上に厄介なチームだね。その話ほんとかいなんつって」


 進は完全復活を象徴するかのように太刀を空高くに放った。

「また幻想にはめてやる!」

 そこには、いつものように気味の悪いほど落ち着いているナーガの姿はどこにもなかった。明らかに焦っている。

 進が一つ上の段階に到達した証拠だった。

「ショーの始まりだ」

 進は右手を挙げ太刀を天空へ突き出し、天空へ放った。

 そして、ワンマンショーの始まりの合図を出すようにもう一つ太刀を取り出し神々なる雷を点した。

 太刀がバチバチバチとうねりをあげた。進は一気に電圧をあげた。

 転法雷太刀!

 雷を纏った太刀を構えたままの転法。

 進は一瞬のうちにナーガの目の前に姿を現した。最初よりキレが上がっていた。

「!」

 ナーガは秒単位で反応が遅れてしまう。しかし、この闘いにおいては秒単位が命取り。

「喰らえ」

 進はナーガの体の芯を雷を纏った太刀で完璧に捉えた。

 ナーガは応急処置的に闇牙でなんとか防ぐが、今の進の勢いは凄まじく、簡単に押されずるずると後退していく。

 すると、ナーガの頭上に鈍い音がした。ナーガの頭上に太刀のプレゼントが届いた。どうやら、さきほど進が上空へ放った太刀のようだ。

 これが進の本来の闘い方。太刀を空間、時間を自由自在に多面的に使う。

 この手立てにはさすがのナーガも白旗を上げるしかなかった。

 進の心は徐々に我を取り戻し始めた。

「はははは。凄すぎるよ進君♪」

 ナーガの闘争本能は徐々にではあるが、浮き彫りになり始めた。

 二撃目。進はここぞとばかりにひるむナーガに、雷太刀を振りぬいた。

 ナーガは不恰好になりながらも、なんとか闇牙で雷太刀をガードした。

 それは、本気の自己防衛だった。

 このナーガの行動により、進はあることを確信した。

 必死に自分の身を守った……。

 間違いない……。

 今のナーガは幻想ではない、本物だ!

 進は幻想ではないことを確信すると、さらに電力を上げる。

 太刀はバジバジバジと、悲鳴とも取れる、歓声とも取れる音を発した。

 ナーガは後退し、距離を取りはじめた。

 それは、つまり……。

 進がこの闘いを優位に進めていることの表れ。

「逃がすか!」

 太刀は本来、遠距離用の武具。

 進にとっては距離を詰めようが、取ろうが関係ない話だった。

 飛太刀。進は太刀を振りかざし、ナーガを逃すまいと太刀を投じた。

「そんな単純な攻撃当たるか!」

 あまりにも単純な攻撃。

 なめれられていると思ったナーガは明らかに冷静さを欠いていた。

 その怒りを自慢の闇牙に込めて、必要以上の力で太刀を撃ち落とした。

 太刀はびっくりしたように、勢いを失い地面に落下した。

 無論、進もこの程度の攻撃でナーガをしとめられると思っておらず、すぐに次の攻撃に転じた。

 

今度は進とナーガが向き合っている直線上の位置から、六十度方向、進から見ると右斜め前方向に太刀を投げた。

 それだけではなかった。あえて、若干時間をずらし、次に左斜め前四十五度方向に投じた。

 ナーガは今の状況、相手の状態、自分の状態を照らし合わせて、逆転の一手を目論んでいた。

 次は横からか……。

 同時に避ければいい問題……。

 ん?

 なるほど。それぞれのブーメランの角度と時間が違う……。

 時間差か……。

 一つ目を避けた瞬間をもう一つのブーメランをぶつける算段か……。

 ただそのトリッキーさが裏目に出たようだね……。

 僕に幻想できる隙を作ってしまった!

 幻想を唱えると避ける時間が無くなるが、奴の攻撃を喰らってあげよう!

 その方が奇襲になりそうだ♪

「さあ、どう避ける! 邪化射ナーガ!」

 進はあくまでナーガの”避け方”の動向を探っていた。

「三眼幻想……」

 しかし、進の予測するナーガの動きとは異なり避けるしぐさをまったくしない。

 進は久しぶりに動揺を覚えた。

 なぜ、避けようとしない……。

 あの構えは……。

 幻想!

 進は気づくのがワンテンポ遅れた。

 二対の太刀が無防備なナーガに襲いかかる。

 ナーガはそれを受ける。

 ナーガの両腕に二対の太刀が突き刺さった。

 二対の太刀は、ナーガの皮膚を捕らえ、皮膚の内部に引きこもっている赤き液体を外出させた。

 当然、ナーガに刺激物を身体に含んだような痛みが襲った。

 しかし、それでも良かった。

 進というもう一人の天才の牙城を崩すには、痛くも痒くもない犠牲だった。

「決まった! 三眼幻想第一想・魔幻!」

 一分、一秒でも惜しいこの状況。ナーガは気持ち早口で詠唱した。

 ナーガの執念は実を結び、またしても進の視界を変化させることに成功した。

「幻想をかけるためなら君の攻撃など喰らってあげるよ♪」

 ナーガは痛みをこらえ、自分の腕に装着された二対の太刀を取り外しながら言った。

 

 闇の住人に鞍変わりした進は心底悔しがった。

 くそっ……!

 避ける行動をまったくとらず幻想をかけてくるとはな……。

 予想外だった……。

「さあ今度はどうするかな?」

 シュバババという進の心を揺らがせる不協和音。

 魔幻の単純にして凶悪な見えない攻撃が、進の精神を壊しにかかる。進は全てを悟ったようにそっと目を閉じた。

 進にはある考えがあった。

 どうせ何も見えないんだ……。

 だったら目を閉じた精神を集中したほうがましだ……。

 意識を聴覚と感覚に集中!

 心で……。

 視る!!

 バババ、シュシュシュ。進の耳はその音が近くにいることを警告した。

 視えた!

 俺に牙をむく無数なる攻撃が! 

 転・法!

 進は転法で、暗闇からの刺客を全て避けて見せた。

「バカな! 視界は潰したはず!」

 なぜ?

 進の視界が今断たれているのは明白だった。

 だが、ナーガが目撃しているのは全ての攻撃を華麗に回避する進の姿。

「音と感覚だ。視覚が使えないのなら聴覚と感覚を使えばいいだけだ」

「ここまでとはね、正直僕は今、君を恐れてるよ」

 ”恐れ”。

 それは、いつも自分が相手に植え付ける感情。しかし、今その感情が芽生えているのは、相手ではなく自分。

 ナーガは初めて自分が劣勢に立たされていることに気付いた。

「幻想か現実か見極めるなんて面倒くさいまねはやめた。全てを避ければいいだけだ」

 ついに……。

 進は幻想を完全攻略して見せた!

「その発想は無かったよ」


「おっと視界が晴れてきたみたいだぜ」

「君の精神が安定しているから幻想の効力が少ないみたいだね」

 進の視界は早くも光を捉えた。精神が安定している相手には幻想はほぼ意味をもたない。

 視界が戻ったのなら、もうここからは進の時間。進は転法を駆使しながらナーガとの間合いを一気に詰めた。

「雷太刀!」

 進は雷をコーティングした太刀でナーガを襲撃した。

「三眼幻想第二想・手幻!」

 苦肉の策。それは、自分の理想の戦略とはかけ離れているもの。

 ナーガが今まで味わったことの無い防戦。ナーガは間一髪の状況で、手を巨大化させて雷太刀を受け切った。

 そのまま、ナーガは進をのみこみにかかる。

 ピッというかすかな音が進の耳元だけに伝わった。

 進はナーガの攻撃を全て避けるといった手前、幻想のはずである巨大な手を転法で避けるが、手の面積の広さが災いしてかすってしまう。

 進は自分の取った戦法の穴に気付いた。

 俺は今全ての幻想を現実と思って対処してる……。

 よって全ての幻想が現実になってしまう……!

 ナーガの巨大な手は折り返し、再度進を襲撃する。

 進は、これも転法を駆使してなんとかかわした。

 しかし、背後から襲うもう一つの手には気付かなかった。

 まんまとナーガの策にはまり、進の身は巨大な手のひらの中に収容された。

 防戦ではありながらも、ナーガは戦略という網を張り巡らせていた。

 今までのお返しと言わんばかりに、ナーガは強大な力で進を握り潰し始める。

 これは幻想……。

 進は驚くほど落ち着いていた。冷静にこれを幻想と判断した。

 巨大な手は進の視界から朽ちていくように消えた。

 ナーガは幻想の穴を身をもって痛感していた。

 幻想に慣れてきたね……。

 元々初見殺しに特化したスペシャルだからね……。

 長期戦には向かない……。

 決めるなら……。

 今!!

 ナーガは勝ちに急いだ。

 大将戦は激流と化す……!

「どうした打つ手なしか?」

 進は今一度ナーガの専売特許である精神的な揺さぶりをかけた。この言葉は、案外ナーガの心に響いた。

「ちょっと幻想に慣れてきたからって、僕のことなめすぎじゃないかな♪」

 つい挑発に乗ってしまった。ナーガはしまったと思った。

 本来、幻想の発動者は常に安定した精神を保たなければならない。

 しかし、今ナーガの心は……。

 揺れた。

 ナーガは心の中で自分をビンタし、安定した精神状態を心がけた。

「舐めてるわけないだろ。警戒心しかない」

「そうか、ありがとね♪ 三眼幻想第三想・塔幻!」

 ナーガはそそくさと話を切り上げて幻想を詠唱した。

 ナーガの一つである会話の攻撃。ナーガはその会話を明らかに嫌がった。

 塔幻。

 進を死の一歩手前まで追い詰めた極限たる幻想。進はあの忌々しき塔幻の記憶が蘇った。

 しかし、進は今の自分の心に確固たる自信が芽生えていた。

 今なら克服できる!

 

 天ほど高い塔の頂上の端っこ。

 そこにまたしても進という名の人間が立っていた。

 今度は背後の人間がはっきりと分かった。

 自分の最大の宿敵、邪化射ナーガ!

「ビクッ」

 脳は安定していた。しかし、身体は正直。

 進の身体はトラウマを思い出し生まれたての小鹿のようにプルプル震えていた。

「そうだよね、例え頭では幻想だと思い込んでいても体は正直だよね♪ さっきの恐怖を感じてるのだから♪」

 ナーガは自分の世界に持ち込んでから、やっと得意の話術を開始した。

「はあはあ」

 大丈夫だ……。

 これは幻想。

 それは間違いないんだ。

 進の中で脳と身体と心が大会議を開いた。

 幻想か?

 現実か?

 分かりやすい葛藤。

「息が上がってるよ? 大丈夫かな?」

 ナーガはさらに揺さぶりをかける。

「ふうふう」

 これさえ乗り切れば俺の勝ちが見えてくる!

 進は必死で自身の心を、泣いている赤子をあやすように落ち着かせた。

「もしさ、これが現実だったらどうする?」

「答える必要がない。これは間違いなく幻想だ」

「なんで幻想だって言い切れるの? これは僕のもう一つのスペシャルだよ」

 違うこれははったりだ……。

 だまされるわけにはいかない!

 そうやって俺の精神を揺さぶるのが奴の狙いだ!

「でもさっき落ちたでしょ?」

「これは、まさか幻想の中の現実?

 いやそんなはずはない……。

 だったらナーガがこんなことを言うはずない……。

 だが、俺の逆をつくということも……。

 だから深く考えるな!

 こうやって俺を困惑させることが狙いなんだ!

 ナーガとの、そして自分との心との闘い。

 進は両者と必死で向き合い、闘っている。

「君の仲間はどう思っているんだろうね? ただでさえ大事な最終戦、このまま無様に負けたら、君は果たしてチームに戻れるのかな?」

 ナーガは止めとばかりに、話術の瞬間最大風速を迎えた。

 仲間……!

 そうだな……。

 しかし、ナーガの決め台詞は完全に裏目に出てしまった。

 進の心は……。

 進の身体と一体化した!

「だいぶ葛藤してるようだけど、そろそろ落ちてもらうよ」

 ナーガはフィナーレと言わんばかりに、進を突き落としにかかった。

 進は後ろを振り向き、自身を突き落とそうとしたナーガの腕をがっちりとつかんだ。

「結論は出たの?」

「いや出てない」

「じゃあなぜ?」

「幻想か現実なんて考えるのは止めた。今俺の心の中にあるのは”絶対勝つという意志”それだけだ!」

 その言葉にナーガの心は揺れた!

 まさか、そんな方法で……。

 現実と幻想、その二つすら考えないなんて……。

 むちゃくちゃだ……。

 ナーガの心は巨大地震が発生したかのように激しく揺れ動いた。


 進はあっさりと難攻不落の塔幻を攻略して見せた。

 仲間のお陰で……。

 進の視界は簡単に闘技場の風景を捉えて見せた。

「よしっ!」

 龍、男としてお前との約束は守らせてもらうぜ。

 吹っ切れた。何もかも。進は男と男の約束を守るために。

 何が何でも勝つことを決めた!

「くっ……」

 状況は一変した。まるで晴天を貫いていた空が、雨雲という新興勢力に支配されるかのように。

 ナーガが苦しい表情を浮かべながら頭を抱え、うずくまった。こんなナーガはめったにお目にかかれるものではない。


 交流戦。

 一年と二年の垣根を越え、友好を図るための行事。

 しかし、その裏の意味は……。

 二年の絶対的な強さを見せること。

 二年チームは圧倒的な強さを見せなければならなかった。しかし、ふたを開けてみれば一勝一敗の五分。

 しかも、チームの絶対的な存在だったナーガが苦しんでいる状況下。二年陣営は事のまずさに気づいていない筈が無かった。

「なにが起こっているのですか!?」

 とにかく今起こっておる状況が知りたい。太郎は妹であるナギに、現在のナーガの状態を問いただした。

「ありえない……これは逆精神崩壊……」

 ナギは口を震えさせながら答えた。

「逆精神崩壊? 難しい言葉っすね」

 黄河も話が気になり聞き耳を立てた。うんとうなずき、さらにナギはこう続けた。

「相手に精神崩壊を促した時、相手が精神崩壊を克服したら自分に返ってくる現象。このリスクは幻想の唯一の弱点でもある。でも兄様は得意の話術を組み合わせることでそのリスクをなくすことに成功した。でも、まさか兄様の話術を克服するなんて……」

「僕たちの負けなんてありえませんよ! ナーガ君!」

 太郎は先ほどの一年チームがやったように、逆精神崩壊に陥ったナーガの耳に届くように必死に声を送った。


 そう、僕は生まれながらにして勝利を約束された男、敗北は許されない……。

 生まれながらにしてね……。

 ナーガは自分が過去に体験した壮絶なる記憶を思い出した。

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