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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
24/67

第二十三伝「みんなの力」

第二十ニ伝です。最近つくづく思います。仲間の大切さを。そんな仲間の大切さを描いた話をご覧ください。

「おいおいなんだよ、この嫌な気配は!」

 鳳凰は、黄河の中から嫌なものを感じ取った。言葉では表現できないような、なんかドロドロとした血なまぐさい変な感じ。

「まさか”奴”か……!?」

 心当たりはあった。しかし、それは定かなものではなかった。

 鳳凰は一旦黄河のもとを離れた。

 そして鳳凰は、あれだけ龍を苦しめていた、水球をいとも簡単に割り、龍を救出した。

「ありがとう、鳳凰」

 龍はしっかりと闘技場の土を踏んだ。

「後は、貴様に任せる」

「えっ! どうして!?」

「簡単に言うと、あいつの中に鳳凰ではないが俺と同じ”化け物”がいる」

「何言ってんだよ! 黄河さんの中にお前と同じ化け物……!?」

 鳳凰の言っていることは正直言って意味が分からなかった。

 鳳凰と同じ化け物?それも人間の体の中に?一部?それとも全部?

 何が何なんだ……?

「それも俺と貴様と違って、あいつ自身の体の中にいるからタチが悪い」

「本当なのかそれ?」

「ああ、俺は昔そいつとやりあったことがあってよ。その時と同じ嫌な気配を感じた。ただ、俺と同じ”一部分”だけのようだがな。どうしてあいつの中に入ってるのか分からないがな」

「そうか、でもなんでお前は闘えないんだ?」

「化け物同士が戦うと共鳴反応がおこり、お前たちはおろか周りにいる連中も危ない」

「そういうことか、分かった。でも、俺は相性の悪い黄河さんとどうやって闘えばいいんだ?」

「貴様、バカか?」

「なんでお前にそんなこと言われなきゃならないんだよ!」

「あの雷連進とかいう奴に渡された物の存在を忘れたのか?」

「あ、”電粉”だ! すっかり忘れてた!」

 そういえば、昨日進からある道具を託されていた。不甲斐ないことに、頭の片隅にすらなかった。

 どれだけバカなんだ、俺は……。しかも、鳳凰に気づかされるとは……。

 この一撃龍、一瞬の不覚であります。

「本当に忘れてたのか……本物のバカだ……」

 優雅に滑空を続けていた鳳凰付きの火の玉は、パイロットを失ったかのようにカクっとバランスを崩す。どうやら、呆れているらしい。

「でも、はっきりいってこれめちゃくちゃ怪しいないか……でも、これに頼るしか勝ち目はない!」

 龍に選択権がある状況ではなかった。

 炎属性と水属性の相性の悪さ。黄河の背水の陣。頼りの鳳凰が戦闘不能。

 一縷の望みは……。

 進に託された謎の粉”電粉”!

 龍は昨日から内ポケットに忍ばせておいた電粉を取り出す。昨日からずっと放置してあったからか、水に濡れたからか、電粉を保管している袋はぐちゃぐちゃだ。だが、密封されているおかげで中身は無事。

 龍は覚悟を決め、チャックを開封し、サアアと電粉をノドに流し込んだ。


「覚えてたか……てっきり忘れてたのかと思ったが、さすがに忘れてたらバカすぎるがな……」

 進は龍が電粉の存在を忘れてなかったことに肩をなでおろした。

 鳳凰がいなければ気づかなかったんですけどね。

「進君、今龍君が飲んだ粉みたいなものはなに?」

 アリサは進に龍が口に含んだものについて尋ねた。

「あれは電粉といって服用者を一時的に雷属性に変化させる薬だ」

「雷属性は水属性に強い、なるほど。でもなんで闘う前から黄河が水属性って分かったの?」

「一応は相手のデータを調べさせてもらった」

「やることやってるじゃん、さすがリーダー★」

「持っている属性しか分からなかったがな」

「十分、十分だよ」

 進はリーダーらしく、チームを勝利に導くための努力は怠っていなかった。


 電粉を口に含んだ龍体の痺れに悩まされていた。

「体全体が痺れる……やっぱりやばい薬じゃねーか! 騙された……でもいくら進でも味方をだますことはしないよな……」

「あれっ、僕何してたんすか?」

 黄河は目をキョロキョロさせながら、体をムクッと起こす。どうやら、直近の記憶がないようだ。

「ちぃ、俺が折角与えたダメージが無くなってやがる! あの野郎の仕業だな。ただ、黄河は自分の中に眠っている奴のことを分かっていないようだな。どうやって入りこんだ?」

 黄河の体は、シャワーを浴びたかのようにピカピカだった。

 黄河の中に潜む”化け物”。

 鳳凰は黄河の中に眠っている化け物の事が気になってしょうがなかった。

「そうだ、僕は龍と闘ってたんす!」

 そう、これは黄河vs龍の男と男の闘い。

 邪魔する者は誰もいない。

 さあ、二人の若人よ、最後の攻防に挑まん!!


「とにかく鳳凰剣に炎を込めないと!」

「龍が苦手なありったけの水を出すっすよー!」

 闘いを優位に進めるためには自分のフィールドに持ち込む!

 黄河はフィールドに大量の水を放出した。あたり一面は小さな海と化した。

「うわっ、俺の苦手な水がこんなにも! 気持ち悪い」

 水とは相性が悪い。もう、この事象は龍の身体に深く刻まれていた。それも、相当量の水。

 龍が嫌悪感に悩ませるのも無理はない。

「早く剣に炎をこめろ! といっても今出るのは炎ではないがな」

 すっかり主導権を握った鳳凰は、龍に鳳凰剣に炎を注入することを指示を出した。

「どういうこと?」

 炎ではない?

 龍は鳳凰の言った事に少しばかり疑問を持った。

「いいから早くしろ!」

 でも今の俺には……。

 前に進むことしか出来ない!!

「おっけ! ウオオオオオ!!」

 捧げる。

 俺が持っているありったけの炎を鳳凰剣(相棒)に……。

 捧げる!!

 ビリリリリイという音が鳳凰剣から聞こえた。炎が燃える音とは明らかに不釣り合いな音だった。

 龍は鳳凰剣の姿を見て驚愕した。いつもならそこにあるはずの炎が鳳凰剣に存在しない。

 代わりに鳳凰剣を彩っていたのは、稲光する雷。雷と鳳凰剣はダンスパートナーのように、息ぴったりで綯い交じった。

「なんだああ! こりゃあああ!?」

 これはなんだ?

 炎ではなく雷?

 これが電粉の効能?

 疑ってごめんよ進。俺のために力をくれたんだね。

 ありがとう進! ありがとうみんな!!

 俺いけるよ!!

 龍の動揺している表情は、笑顔に変わった!

「うそっす! あれは僕の苦手な雷っす! なんで!?」

 一撃龍は炎属性。

 でも、僕の目の前にあるのは雷?

 どういうことだよおお!?

 黄河の脳波は、操縦士を失ったようにあちらこちらへ飛び交った。

 パニック。この言葉は今の黄河のために作られた言葉かもしれない。

「水は電気を通す、早く鳳凰剣を水浸しの地面に突き刺せ!」

 わかったよ。

 鳳凰!

「鳳凰斬! 雷連進ver!!」

 みんなの力とみんなの想いが……。

 鳳凰剣に集約された!!

 ガシュンという水を切り裂く斬撃音。雷を纏った鳳凰剣が小さな海を治めた。

 雷は鳳凰剣という宿主を離れ、小さな海を自由自在に暴れまわった。

 そして、雷は水堂黄河という新たな宿主を見つけた。

 バリバリバリバリという電磁音。雷は黄河という宿主を祝福するように自慢の光で綺麗に彩った。

「ギャアアアアア!」

 電気が苦手な黄河はたまったものではなかった。黄河は自分が創り出した水面に顔面を叩きつけた。

 黄河はそのまま抵抗することなく水中に沈んだ。

 しばらくして、黄河は溺れたようにプカアと背中から水面に顔を出した。そして、術者を失った水はみるみるうちに引いていく。


「勝った……? 俺が……? 俺の勝ちだああ!」

 龍は、気を失った対戦相手を確認し勝ちを確信し歓喜した。

「お前この試合のルール忘れたのか?」

 鳳凰は龍の頭の周りをくるくる回りながら、龍に聞いた。

「あ、フラッグッ!」

「貴様は正真正銘のバカだ……」

「試合の間、一ミリもフラッグのこと考えてなかった……」

「相手も忘れてたようだがな……」

「フラッグはどこだ?」

 龍は今まで全く気にしていなかったフラッグを探し始めた。

「あった」

 すると、大量の水でしわくちゃになった二つのフラッグが龍の目線を捉えた。

「どっちか分からないからどっちもとろう」

 そして龍は二つのフラッグをガシッと掴んだ。

「けっちゃーーーーく! なんと大波乱! 中堅戦はなんと一撃龍選手が大逆転勝利! 見事、進チームが一勝! これで両チーム一勝一敗! 完全決着は大将戦にゆだねることとなりました!」

「わああああ!」

「パチパチパチ」

「良い試合だったぞ」

 司会者の決着宣言。鳴り止まない拍手喝さい。ところどころで飛び交う賛辞の言葉。

 これらの事実を照らし合わせて、ようやっと龍の勝利が確定した。

 本当に勝ったんだ……。

 こんなどうしようもなかった俺が、こんな大観衆の注目を浴びて、そして今その大観衆から祝福を受けている。

 これにより中堅戦は龍の勝利が決まった。

「本当の本当に勝ったんだ!」

「初めてじゃないか? 勝ったのは?」

「そうだ、そうなんだよ! 勝つってこんなに嬉しいことだったんだ!」

 ”勝つ”。

 ひらがな一文字と漢字一文字を加えた、たった二文字の単語。

 その言葉がここまで俺の人生に深く刻まれるなんて思ってもみなかった。

「龍、おめでとうっす」

 悔しかった。ナーガ以外の奴に負けたのは初めて。まだまだ努力が足りないっすね。

 黄河のライバルは今日、また一人増えた。

 服が自分の水でびしょびしょになり仰向けに倒れていた黄河は目を覚まし、勝った龍を祝福した。

「黄河さん」

 ありがとう黄河さん。負けたにもかかわらず、俺を祝福してくれて。

 この時、龍は黄河のことを人として尊敬した。

「黄河でいいっすよ」

「じゃあ黄河先輩で!」

「それ、響きいいっすね。でも、龍がここまで強かったなんて思ってなかったっすよ」

 違う。俺一人の力では確実に勝てなかった。というか勝負にもならなかっただろう。

 俺が勝てたのは……。

「俺一人では黄河先輩に勝つことはできなかったです。アリサ先生は俺の勝利を信じ、凛は俺の勝利を願い、母さんは俺の緊張を解き、剛は腐った俺の心を打ち砕き、鳳凰は俺のピンチを救い、進は俺に新しい力をくれた。”みんなの力”で勝てたんです!」

「なんだ、じゃあ実質僕の勝ちっすね」

「でも勝ちは勝ちです」

 今まで死闘を繰り広げていた二人とは思わない、朗らかな空気が二人を包んだ。

 闘いは新たな友情を生む。それが証明された瞬間だった。


 ゾワアという嫌な空気がした。

 龍と黄河の周りに醸し出していた和やかな空気が一変。その和やかな空気を悪魔に食われたような気味の悪い空気。

 殺気……!

 確かに龍の身体にそれが伝わった。

 いや、龍だけではない。黄河、そして鳳凰までも確かに感じた鋭い殺気が二人を襲う。

 龍は震える動作を身体に命令したわけではない。だが、身体は誤作動を起こし、小刻みに震え始めた。

「ナーガあ! まだ出てくるの早いっすよ!!」

 邪化射ナーガ。早すぎる登場だった。

 まだ、中堅戦が終わったばかり。大将戦の開始にはまだ早すぎる刻。

 しかし、ナーガの身は闘技場のフィールドに置かれていた。

「ちょっと邪化射選手! コールしますから、その時に登場してくださいよ!」

 イレギュラーをとにかく嫌う司会という役職柄、この圧倒的なイレギュラーは司会者の焦りを今日イチで掻き立てた。

「一……撃……りゅ゛う゛……!」

 ナーガは司会者の言葉に耳を傾けることが無く、真っ赤に充血した左眼で龍を凝視し、森の獣のようなおぞましい震声で龍を呼んだ。

 この時、龍はどんなホラー映画よりも怖い状況であった。

「ナーガ! 眼がおかしいっすよ!!」


 豹変したナーガの姿は、チームメイトである太郎ですら理解不能であった。

「なんですか、あれ?」

「嫌なタイミングで発作が起きたね。はーあ」

 氷はナーガの母に一度だけ会ったことがあった。

 その時、ナーガの母は氷にこんなことを言っていた。

「あの子、強者を見ると闘争本能が抑えられなくなるのよ。注意してくださいね」

 と。

 なるほどね、これがそれか。

「発作?」

「あの子、強い子を見るとその子を倒してくなる異常なまでの闘争本能にかられるんだ」

「なるほど、だから雷連進を執拗に意識していたのですね」

「ただ、これほどとは思ってなかった」

「やっかいですね」

「兄様……怖い……」

 妹とて兄のこんな姿を見た事はなかった。

 妹ですら、いや妹だからこそ兄の獣のような姿に小動物のように震えた。


「n、なんでskあ……?」

 龍の口は震え過ぎてまともな言葉を発音する事が出来なくなっていた。

「キヒヒヒ。まさか黄河に勝つなんて思ってもみなかったよ。そそるよー君の強さ……! ばああ!」

 この時すでにナーガの眼は白目をむいていた。

 狂っている。この男狂ってやがる!

 逃げないと……。

 龍の脳は足に”逃避”を指示した。しかし、龍の足は恐怖のあまり脳の指令を受け流してしまった。

「やべえぞ! 目がイっちまってる!」

 化け物の鳳凰ですら、ナーガの異常さを感じる事が出来てしまった。

「君は僕の手で葬りたいなあ」

 ナーガはそう言ってゆっくり龍に手を伸ばした。

「ヒイッ、あががgggg」

 龍の眼はぱっくりと開き、放心状態であった。

「や、やめるっすよナーガ」

 怖かった。黄河はあの日の恐怖が蘇った。

 でも、今のままでは友である龍の身が危ない。その想いが黄河を行動に移させた。

 龍は僕が助ける!

「雑魚に用は無い」

 ブシャっという血液が噴き出す音がした。ナーガは闇牙であろうことか味方の黄河を斬りつけてしまっていた。

「な、なにしてるんすかナーガ……」

 黄河の腕は赤い絵の具をぶちまけたかのように真っ赤に染まっていた。

 黄河は膝をつき、そのままうつ伏せの状態で倒れてしまった。

「これはいけません! 内乱です!」

 司会者も状況を説明するのがやっとの状態であった。

「おい、やばくねえか? あれ?」

 観客にもその不安と恐怖は届いていた。誰がどう見ても明らかな異常事態だ。闘技場は混沌の渦にまみれてしまった。

「はハはハはハは!」

 狂気に満ちたナーガの暴走は止まらない。

 周囲の混乱などおかまいなく、黄河を斬った闇牙でターゲットである龍を斬りにかかる。

「助けてッ!」

 誰でもいい……。とにかく誰か……。俺を……。

 助けてくれ!

 龍の願いは……。

 届いた!

 それは英雄にも見えた救世主にも見えた。ブーメランを背に掲げたナイスガイが龍の目の前に立った。その背中はまるで父親のような安心感があった。

 雷連進。我ら一年チームのリーダーであり大エースであり大将の華麗なる登場である。

 進は太刀と呼ばれるブーメランでナーガの闇牙をしっかり止めていた。

「ちぃ!」

 ターゲットを斬り損ねたナーガは舌打ちをした。

「進! 助けてくれたんだね!」

 それは龍と進の友情の再確認だった。

 龍は進の助けに思わず嬉しさの涙か恐怖の涙かよくわからない者を流し始めた。

「違う、俺がナーガとやりあった時にお前のいらん手助けの借りを返しただけだ」

 それは、進お得意の照れ隠しだった。

「とにかく助かったよ」

「おい邪化射ナーガ、龍なんかに感化されるとはお前も劣等者だな」

 進お得意の挑発的発言は、この闘技場の舞台でも効果を発揮した。

「(龍なんかって……ひどすぎやしませんかねえ)」

 そして、ナーガチームの担当である氷がフィールド上に現れた。それは助けるにはあまりにも遅い登場だった。

「ナーガ、頭を冷やしなさい」

 氷はナーガの肩をがっしりつかみ、ナーガの肩の周りから冷気を発した。

 ナーガの充血した眼は徐々に沈下された。

「みなさん、お騒がせしました。お詫びにサワーと菓子はいかが。サワーがしなんつって」

 寒いだじゃれだけをフィールド上に投下し、氷は早くもベンチに去ってしまった。

「ゴホン、と、とにかく一撃龍、水堂黄河両選手、お疲れ様でした! 両選手どうぞお戻りください!」

 司会者はなんとか荒れに荒れた場を正常に戻す。

 拍手喝采の中、フィールドを後にする一撃龍、水堂黄河の両選手。

 黄河はナーガに斬りつけられた影響で医務室に向かうこととなった。


「ふー」

 息を大きく吐きながら、龍はベンチに座り込んだ。

「お疲れ様★」

 こちらに初めてもたらされた白星。アリサは、とびっきりの笑顔で勝者の龍の帰還を祝福した。

 いやー、照れるなあ。まあ、俺勝者だしな。

 これからどんなありがたい言葉をみんなから贈られるのかなあ。

 龍はニタ―と顔の筋肉が抜け切った情けない表情をして、メンバーからのありがたいお言葉を待った。

「お前にしては”意外”と頑張ったな!」

「そうですわね、”意外”とやりましたわね」

 あれ?

 なんか、腑に落ちない祝福のされ方だな。

 それに、意外とは? 

「意外が多いよ! 意外が!」

 まったく。意外とは失礼だな。この一撃龍様に向かって。

 龍は、王冠をかぶったような気分でいた。

「本当”意外”だったな」

 鳳凰もそれに乗じて言い始めた。

 お前だけには言われたくないよ。さすがにね。人間以外にはね。ほら、俺にもプライドと言うものがあるし……。

 ん?あれ?

 龍は違和感に気付いた。

「ってなんでお前みんなに気付かれないの?」

「俺は鳳凰剣の所持者にしか認識されねーぞ」

「えーーーー! そーなのーーー!」

 龍は鳳凰の衝撃的な発言に、腰を抜かせ、ついつい大声を出してしまった。

「うるせえぞ! なに一人でしゃべってんだ!」

「そうですわよ、いよいよ進様の試合なんですから、黙っててくださる?」

 一人で大声を出す不届き者には成敗しなければ。

 剛と凛はきっちり龍を注意した。

「俺、勝者なのに……」


 ☆ ☆ ☆


「えーと、仕切り直して泣いても笑ってもこれが最後。いったい勝利の女神がほほ笑むのはどちらなのでしょうか! 運命の最終戦、大将戦が今まさに始まろうとしています!」

「おおおおお!」

「わああああ!」

 観客席から伝わる、今まで以上の興奮と熱気。

 そう。最終戦だからだ。

 交流戦の対戦相手との出会い、交流戦を勝つために施した努力、先鋒戦と中堅戦の激闘。

 交流戦の為に流した、血と汗と涙。全てが結集されるのが、この……。

 大将戦!!

「どうやら、場を荒らしてしまったみたいだね。申し訳ない」

 ナーガは先ほどの見苦しい暴走を懺悔するように、会場全体に深々と頭を下げた。

「いい迷惑だ」

 進はチクっとする一言を添える。

「提案なんだけど進君」

「なんだ?」

「フラッグの取り合いなんてこざかしい真似は止めよう。どちらかが戦闘不能になるまで闘う。どうだい?」

「もちろん、そのつもりだ。お前の首しか興味はない」

 全てはこの日の為に。あの日、俺は敗北を味わった。生まれて初めてのな。あの日を境に俺は変わった。お前を倒すために。お前を葬るために。俺はストイックに生きた。

 そして、俺はそのためにこの場に立っている!!

 進は目の前にいる宿敵に早くも熱い視線を送る。

「気が合うね、僕もそう思ってたところだよ♪」

 お互い、自分のフラッグを闘技状の隅っこに捨てた。

 互いが、(タマ)の取り合う覚悟を決めた。

「やっと君を倒せる……! この日をどれだけ待ちわびていたことか!」

「大将戦、スタート!!」

 ナーガと進の想い。いや、全出場者の想いが交錯する、運命のゴングが鳴った。

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