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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
23/67

第二十二伝「黄河とナーガ」

第二十二伝です。この話は二人の秘話が中心になります。どうぞお楽しみください。

 僕、水堂黄河は無敵の男だった。

 戦校に入る前、ジュニアの総合格闘技選手権で優勝、けんかも負けた事がなかったっす。それは、親が一般人にも関わらず、生まれながらにスペシャルを持ちバトラとしての資質を持っていた僕の才能があったから。

 僕は当時、努力をしたことがなかった。今の僕を知っている人は考えられないっすよね。負けることがなかったっすから努力なんかする必要がなかったんすよ。


 ~一年前の入学日~

 今日から待ちに待った戦校に通えるっす。僕の相手になる奴がいるんすかね、楽しみっす。

 しかし、僕も優勝者っすからね。熱い歓迎を受けるかもしれないっす。

 僕は期待に胸を膨らませて、戦校へ向かった。

「おい、あいつじゃねーか?」

「あー、間違いねー」

 戦校の門をくぐるなり、明らかに生徒達の視線を感じた。

 いやー、予想通り。人気者はつらいっすね。

「どうも、ご存じの総合格闘技優勝者、水堂黄河っす」

 僕は、注目を浴びていると疑うことなく、意気揚々にこちらをチラチラ見ている生徒達に話しかけた。

 でも、それは勘違いだった。

「どこだ?」

「ほら、あの浮かれてるやつの後ろにいるマントの男。あれが邪化射ナーガだよ」

 この人たちが注目しているのは僕ではない……!?

 その時、初めて僕は彼のことを見ました。

 邪化射ナーガを!!

 生徒達の注目を集めていた僕の後ろにいた男。ダークヒーローのような真っ黒いマントに、右眼を覆う眼帯。アニメの世界のキャラクターをそのまま現実に連れ込んだような奇抜ないでたちをしたその男は、僕をその眼球の中に吸い込ませるような眼でこちらを見ていた。

 この時、僕はまだ彼の恐ろしさに気付けなかった。

「おはよー♪ 僕は邪化射ナーガ。よろしくね♪」

 ナーガという男は、笑顔でその生徒達に挨拶までしたではないか。

 これが勝者の余裕ってやつっすか。偶然知らなかっただけっす。教室に入ったら大注目間違いなしっす。


 僕は気持ちを切り替え、これから1年間お世話になる教室に入った。

 教室には30人くらいの生徒がいた。これなら一人くらい知っている人はいるはず。

「みんなおはよーす!」

 まずは、元気な声で挨拶して注目を集めるっす。

 「……」

 何にも反応は無かったっす。ただ、僕の声が教室内を空虚に彷徨っただけ。

 こーなったら……。

 僕はあることを考えついた。こうなったら、直接言うしかないっす。

 僕はみんなの注目を一身に受けるために教壇の上に立った。

「みんな、この僕があの総合格闘技大会を優勝したあの水堂黄河っす! サインは大歓迎っすよ!」

 まったく、この僕にこんなことを言わせるなんて困った人たちっすね。ともあれ、これで熱い歓迎を受けることは間違いなしっす。

「総合格闘技大会って一般人の大会じゃねーか!」

「そんなの意味ねーよ! そんな称号、ここじゃなんの意味ももたねーんだよ!」

 あれ……。あれれ……?

 なんすか、この冷たい反応は……。

「そこは先生が立つ場所です。部外者は速やかに立ち去ってください」

 なんなんすかあのえらそうな眼鏡男は。

 どう考えても僕より弱いのになんであんな高圧的な態度を取れるんすか。その男が日向太郎とはこの時はまだ知らなかった。

 全然ダメっすね……。

 どうやら、僕の理想とはかけ離れていたみたいっすね。

 僕は完全に出鼻をくじかれ、トボトボと席に着いた。

「邪化射ナーガ、いったいどんな能力を持っているんだ……」

「考えただけでも恐ろしいぜ」

 話題は全てあの邪化射ナーガという男に持って行かれていた。

 一体、あの男がなんなんすか!?僕より強いんすか!?

 僕は邪化射ナーガのことを横目でチラッと見た。彼は、机に突っ伏して、良い夢を見ているのか安らかに眠っていた。

 とても、あいつが強いとは思えない!

 こうなったら、情報収集っす。

「だからなんなんすか、この僕を差し置いて大注目の邪化射ナーガってのは?」

 僕はいてもたってもいられず、朝っぱらからナーガの話題で持ちきりの二人組の生徒に尋ねた。

「お前も知っておいた方がいい。邪化射ナーガは、あの闇の番人と恐れられている邪化射家の正統後継者。とにかく恐ろしい奴なんだ」

 生徒はいやに神妙な顔で僕の質問に答えた。

 闇の番人? 正当後継者?

 なんかの映画の設定っすか?

 そんな嘘くさいやつより、実績がある僕のほうが強いに決まってるっす。

「そんなすごいんすかそれ? そんなのより僕の方がすごいっすよね?」

「いや、お前みたいなしょぼい大会の優勝者とはわけが違う」

 しょ……しょぼいですと!!

 僕はムカっとして、キャラに似合わずつい強い口調で返したんす。

もう一人の生徒が黄河に対し厳しく話す。

「それに僕、負けたことないんすよ! 無敵っすよ!」

 そう、僕は今の今まで一度も負けたことがない。凄くないっすか?それ。

「どうせそれも一般人相手にだろ。一般人と仮にもバトラを目指してる奴だ。力は明らかんだよ」

「だったらナーガって奴に勝てばいいんすよね? 勝てば俺の方が注目されるんすよね?」

「勝てねーよお前じゃ。そんな闘いたいなら放課後、タイマンでも張ってみればいいじゃねーか」

「それ面白そう。早くも邪化射ナーガの力を見ることが出来るぜ」

「よっしゃー、燃えてきたっす! 絶対負けないっすよ!」

 僕は彼らの提案を呑んだ。

 絶対に勝つ!!

 僕は注目されたい一心でナーガにタイマンを張ることに決めた。


 そうと決まれば早速行動。僕は入学日の放課後、早速動き出したんす。

 僕は、ナーガに初めて話しかけた。

「どうもはじめまして水堂黄河っす。噂は重ね重ね聞いてるっすよ。なんでも、どっかの家の正統後継者なんすよね?」

「さっき教壇に上がった子だね! そんなたいそうなもんじゃないよ。僕は邪化射ナーガだよ、よろしくね♪」

 間近で会話のキャッチボールをしたらはっきり分かったっす。

 こいつは僕より弱い……。

 だってそうっすよね。なんか、陽気で物腰柔らかくて強いという文字が彼から浮かび上がって来ないんすよ。

「よろしくっす」

「で、なんか用かな?」

「実は、さっきも言った通り僕総合格闘技の優勝者なんす。その力を証明するために、君と拳を交えてみたいんす」

「ふーん。で、それだけ? じゃあね」

 ナーガは僕の話が終わるやいなや、何事もなかったかのように、すっと僕のそばから離れて、スゥーと幽霊のように立ち去っていったっす。

「ちょっと待つっす!」

 僕の声かけもむなしくナーガはそのまま帰って行ったんす。

 普通、こういうときは「よっし受けて立つ!」みたいな感じで闘うのが流れってもんでしょ。

 なんか、調子狂わされるっすね。

「なんだ、結局邪化射ナーガの闘いは見れないのか」

「つまんねーの」

「大丈夫っすよ。何が何でもあいつとタイマン張るっすから」

 こうなったら僕も意地っ張りっす。僕は絶対ナーガを説得させて、闘ってやるっすよ!


 ☆ ☆ ☆

 

 翌日、僕は朝からナーガを問いただした。

「昨日はなんで僕の要望を受けてくれなかったんすか?」

「僕も忙しいんだ。いちいち君の要望につきあってられないよ」

「なるほど、僕が怖いんすね」

「冗談はよしてよ」

 ナーガは柔らかい口調とは裏腹に、僕の事をギラっとにらんできた。

 威嚇っすね。怖い怖い。

 

 僕が威嚇に負けるような男と思ったんすかね〜。僕がこんな威嚇に舞えるはずがないじゃないっすか。

 僕は、休み時間、昼食時もしつこくナーガを誘い続けたっす。

「タイマン受けてくださいっすよー」

「断る」

「やっぱり、僕が怖いんすね」

「違う!」

 さすがに普段柔らかい口調で話すナーガも、僕のやりすぎとも思える勧誘に口調が雑になってきたっすね。

 不謹慎っすけど、人がイライラする様子は見てて面白いっす。

「邪化射ナーガにあそこまでやるなんて、あいつ実は凄い奴なんじゃね?」

「”しつこさ”と”うるささ”は超一流だな」

 とりあえず、生徒達も僕に注目し始めてるっすね。かなり、違う意味合いっすけど。まあ、注目されることに意味があるんす。

「僕の勝ちってことでいいっすか?」

「あーー、ここまで温厚な僕がこんなにいらいらしたのは初めてだよ。いいだろう、受けてやる」

 キターーーー!!

 ついに説得が身を結んだっす。

 あのナーガ教の生徒達が、僕の強さに腰を抜かし黄河教に入信すると思ったら、もうワクワクが止まらないっす。

「じゃあ放課後、戦校の空き地で待ってるっす!」

 気づいたらスキップしていたっす。

 この後の授業はまったく身が入らなかったっす。

 それほど、僕は邪化射ナーガとの対戦を悦んでいた。

「やっと見れるぞ」

「よくやった、黄河」


 今日の授業が終わったら、僕はすぐさま実戦場と呼ばれる空き地に向かったっす。

 僕は実戦場を落ち着かない面持ちで、右往左往しながら”彼”の登場を心待ちにしていた。

 感じた。強者のオーラを。

 僕の対戦相手であるナーガが、ゆっくりとゆっくりと僕の視界に姿を見せた。

 ナーガは5mほどの十分過ぎるともとれる間合いを取ってきたっす。

 間合いを取るやつってのは大抵……。

 できる!

 僕とナーガはこの時初めて対面した。僕は生まれながら闘いが好きだ。

 互いの臓と臓が剥き出しになるこの感じ。この感じがたまらない!

「待ちわびたっすよ」

「あんまり時間ないから早めに終わらせるよ」

 ピリピリした空気が頭の頂上(てっぺん)からつま先までひしひしと伝わってきた。

 この感覚が僕を駆り立てるッ……!

「まずは……」

 あれ、ナーガは僕にそっぽを向いて、どっかいてしまったっす。

 おーい、放棄っすか?

 ナーガは茂みの方に歩いていったっす。よく見ると、茂みが騒々しく動いていたのがここからなんとなく分かった。

「おい、やべーよ。ナーガが近付いてくるぞ」

「ばれたのか?」

 今度は耳を澄ます。何かに、焦っているような声がガサゴソと動く茂みの中から聞こえてきたんす。

 聞いたことがある声。思い出した。ナーガ教信者の二人組っすね。

「これは見世物じゃないから、少しの間お休みになってもらうよ♪」

 ナーガは茂みの中に入り、”なにか”をした。

 見えなかったけど、確かに”なにか”したんす。

 だって……。

 茂みを揺さぐ騒々しさと焦り声がナーガの言葉の後から、さっぱりと消えてしまったんすから!!

「なにをしたんすか!?」

「闘いの最中に手の打ち明かすバカはいないよ♪」

 よく、闘っている最中に自慢げにペラペラと語りだす阿呆がいるっすけど、そんなのは愚の骨頂っす。この男はそれが分かっている。

 もうその時点で、こいつは僕が闘ったことがある中で、五本の指に入るほどの力の持ち主なのは確かっす。

 予想以上に出来そうな奴っすね、邪化射ナーガ。

 入学初日で二人の信者を獲得するだけはあるっすね。とりあえず、相手の能力が分からない以上、うかつに動くのは危険すね……。

 

 僕は戦闘モードに入ったっす。僕が闘いのはじめにやることは決まってるんす。

 一歩も動かず、じっと相手の様子だけを見る!

 それで、僕はう幾多の強敵を倒してきたんす。

「弱ったなー♪ 積極的に来てもらわないと早く終われないなー♪」

 そう、この行動を取ったら確実に相手から仕掛けてくる。

 ナーガもその計算内の行動を取ってきたっすね。

 僕の戦法はそれを……。

 カウンター狙い!!

 僕は左手ナーガに見えないように、背中の後ろに隠し、僕が所持している水属性を込める。

「今だっ! 水鉄砲!」

 僕はとっさに、水をためていた左手をナーガの眼前にさらし、水を放出した。

 クリーンヒット!

 このパターンで避けれた奴はいない。僕は早くも勝利を確信したんす。

 しかし、僕が見た光景は予想外のものだった。ナーガは、牙状の謎の武具で僕の水鉄砲をあっさり防いでいたんす!

「この段取りで防がれるなんて……」

「左手を隠した時点でばればれだよ。今まで戦ってきた相手が弱すぎたんだね。僕がわざとばればれに正面から近づいていったのは君の手の内を知るためだよ。もっと闘いを知ったほうが良いよ」

 そんな……。

 僕が手の内を探るはずが、逆に探られていたなんて……。

 僕の脳内保管庫にこんな動きが出来る奴はいない。

 つまり……。

 こいつは、今まで闘ってきた奴の中で一番強い!!

 だからといって、僕が負ける理由はないんすよ!!

「水ノ太刀!」

 水圧をあげて、刀状に変形させる僕の必殺技である水ノ太刀。これを出したら、確実に勝てる自信があった。

「はあっ!」

 斬っ……。

 なに!?

 また、生意気にもあの辺鄙な牙で防がれたっす。なんとしてもその”牙城”を崩してやる。

 僕の水ノ太刀とナーガの武具の激しいせめぎ合いが始まった。シュンガッシュンガッとせわしい音と共に。

 こういう組手こそ僕の得意分野っす。せめぎ合いの中での下段蹴り。

 しかし、やつはそれすらもシャープな跳躍で避わしやがった。

 だったら次……!

「水圧掌!」

 着地した瞬間に必ず隙が出来る。

 それを歴戦の経験で熟知していた僕は、ナーガが着地した瞬間を高圧な水を含んでいる掌底で狙い撃った。

 パシャッという心地よい水の音がした。

 よしっ!

 ナーガが衝撃で吹き飛んだっす!

 かろうじて受け身を取ったみたいっすけどね。

「どうっすか!」

「確かに肉弾戦では君の方に分があるようだね♪ でも正直ここまでやるとは思わなかったよ」

 ナーガが僕を初めて認めったっす。

 まさか、相手に褒められるだけで、こんなに高揚した感情が得られるなんて思ってもみなかったっす。

 今の言葉をナーガ教の生徒達に聞かせたかった。

 確かに、君達の言うとおりナーガは想像以上の強さだったっす。

 でも、この闘いは僕の……。

 勝ち!!

「痛っ!」

 僕が勝ちに急いで水ノ太刀を振った、その時だったっす。

 僕は腕のありとあらゆる部分に切り刻まれたかのような痛々しい感覚を覚えた。それは確かな感覚だったんす。

 自分の腕を見ると、多数の切り傷が、まるで高級店のサラダのように腕を彩っていたんす。

「一応、当たってるかな」

 つまり、あいつはあの応酬の中で僕にこの傷を負わせたというのか。

 僕は確実にあの応酬で優位を取ったと思った。でも、それは驕りだった。

 この時、僕は生まれて初めてこう感じた。

 ”僕より強い”!!

「あの応酬でここまで……!それになんなんすか君の余裕は……!」

「ここまでやったご褒美に僕の本当の力を見せてあげる♪」

 家の鍵でも閉め忘れたかのようにピンと逆立つ僕の皮膚でのんびり暮らしてきた毛、皮膚という防壁が無かったら今にも逃げだしそうなバクバク揺れる心臓。

 僕の体が今まで感じた事のない異常信号を発している。

 これは……。

 恐怖?

 僕は無敵。最強の男。そんな僕が今感じているのは恐怖?

 ありえない!ありえない!ありえない!アリエナイ!

 あれ?

 人間って掌に眼なんかあったっけ?

 確か無かったっすよね。

 でも、ナーガの掌に眼、あるっすよ?

「三眼幻想第一想・魔幻!」

 僕は両手をがっちり掴まれたっす。

 どこかに連れて行かれるの?

 突然、僕の視界は照明が消えたように真っ暗になった。

 怖い!怖い!怖い!怖い!こ゛わ゛い゛!

 真っ暗な世界。希望も明日も夢もない世界。僕の最強という称号も無になる世界。

 僕は今そんな世界にいる。

 ぐわあああああ!! 


 はあ……はあ……はあ……はあ……。

 気づいたら元の世界に戻っていた。

 希望も明日も夢もある明るい世界。

 負けた……。しかも完敗だ……。ここまで強いなんて……。

 世界はまだ広いってことっすね。

 さぞかし、ナーガは余裕の表情でこちらを見ているんすよね。

 ん?

 僕が見たナーガの顔は血の気が引いて真っ青だった。

 今まで見たことが無いくらい余裕の無い表情だった。息も荒いでいるように見える。 

 さすがにナーガも僕相手ではギリギリだったてこと?

 否違う。

 僕を変な世界に誘う時点では余裕だった。僕は誘われてからは何もしていない。いや、何もできかなった。

 僕はナーガを追い詰めた”正体”について知ることができなかった。

「君とは長い付き合いになるかもしれない♪ これからもよろしくね水堂黄河くん♪」

 ナーガは意味深なことを、座り込んでしまい、顔の筋肉が痙攣している僕に言ってこの場を立ち去ろう

「待つっす! 僕たちはこれからライバル同士っす! 今日のところは負けたっすけど、次闘うときは僕が勝つっす!」

「待ってるよ」

 最強。無敵。

 僕はこの日からそんなセメントのようにがちがちに固めた空虚な言葉を脱ぎ捨てた。

 僕は、最弱の男として生きることを決めた。

 最強の称号を取り戻すために、ナーガに勝つという最大の目標を掲げ、”努力”という相棒と運命的な出会いをしたんす。


 ☆ ☆ ☆  


 ~現在~

「はあああああ!!」

 黄河は立ちあがる。どんなことがあろうと。

 最強の称号を取り戻すために、そしてナーガに勝つために!

 黄河は、不屈の精神で龍に立ち向かった。黄河は水ノ太刀を龍の心臓めがけて懸命に振る。

 龍はなんとか鳳凰剣で防いだものの、気持ちの表れか形勢は黄河が御し合いを制した。

「まだ終わらないのか……」

 桜田銀次。鉄剛。雷連進。そして、水堂黄河。

 俺と闘った相手はなんでこんなにも……。

 諦めが悪いんだよ!!

 バトラを志す奴はなんでこんなにも、諦めが悪いんだよおお!!

 龍は怯えていた。

 黄河の本気に!!

「人間は諦めの早い生き物だと思ったが例外もいるんだな」

 鳳凰の意志は龍の感情の変化を楽しむかのように、闘技場の周りを浮遊していた。

 龍はその態度に龍の癇に障ったようだ。

「そんなこと言ってないで助けてよ!」

「ちぃ! 鳥風圧!」

 鳳凰の意志が内蔵されている火の玉から爆風が生まれた。その爆風は、160cmはあるであろう黄河の体を吹き飛ばしてしまった。

 しかし、黄河は踏ん張り被害を最小限に防いだ。

「全然吹き飛ばねえ、さすがに体の一部だけじゃ限度があるぜ! 龍、てめーの闘いなんだからてめーも協力しろ! ってえええ!」

 鳳凰が見た光景は実に悲しいものだった。

 再度出現した水の小宇宙。その小宇宙は一人の人間を捕獲していた。

 龍だった。龍は再度ウォーターボールに閉じ込められていた。

「ごめん、つかまっちゃった。助けて♡」

「かわいこぶってんじゃねーーよ! まあいいや、お前がいても足手まといになるだけだ。しばらくそうしてろ!」

 鳳凰は下手こいた龍を無視して、照準を黄河に絞った。

「えーー! 助けてくれないのー! けちーー! 意地悪ーー!」

 水の小宇宙が龍の言葉の波動でプクプクと揺れた。

「うるせーな」

「とりあえず本体は閉じ込めたっす。後はあの妙な浮遊物をどうにかするっす。水鉄砲・放射型!」

 黄河の掌はホースのノズルのように自由自在にノズルを変化させることができる。

 水鉄砲はシャワーのように広範囲に、鳳凰付き火の玉を洗い流しにかかった。

 火の玉はシャワーを太陽とすると、まるで地球のように回転しながら避けるながら、黄河に近づくという人間離れした動きをした。

「なんて動きするんすか! そして速いっ!」

 ズギュウウウという回転音が、黄河が負ったダメージの甚大さを容易に想像づかせた。鳳凰は黄河にダイレクトアタックをぶちかました。

「ぐあああ!」

 黄河の声にならない叫びが、闘技場をこだました。黄河はそのまま勢いなく膝をつく。

「おい終わったぞ龍。ゾクッ」

 鳳凰は黄河の中から”なにか”を感じた。

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