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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
21/67

第二十伝「意外な結末」

第二十伝です。長い長い先鋒戦もいよいよ終わりを迎えます。意外な結末はあっと驚くと思いますよ。それではお楽しみください。

 光間凛と鉄剛、二つの相反する存在が同じ方向を向き戦場に立つ。

「最後の戦いだ、いくぞ凛!」

「あまり命令しないでくれますの」

「作戦は?」

「昨日話したのでやりますわよ」

「オッケー!」

 昨日のデートの時に、二人はしっかりと作戦を立てていた。

 それを今……。

 実行する!

 

 凛は剛の背中に自慢の相棒である聖剣エターナルを当て剛の体を回復し始めた。

 これが第一の作戦だ。

「すげえ! これが聖剣エターナルの力か!」

「家にある文献をあさりまくったかいがありますわ」

「いくぞおおおお!」

 まずは剛が勢い良く走りだした。ダダダッという猛々しい足音が闘技場に伝わった。

 凛はそのまま剛に剣を当て回復を続けながら同時に走り出す。

 これが私たちの作戦!剛君が攻撃のかかりで私は剛君の後ろで回復と指示を出す後方支援のかかり!

 攻撃と防御を一手に行える!

「僕にこれ以上の屈辱を与えるんですか!?」

 最後の攻防。

 太郎はここに全力を注いだ。

 太郎は端末を使い多数の短剣を繰り出し一気に剛と凛に向けて降り注がせた。

「来ますわよ」

 戦況を分析するのも凛の役割であった。凛は剛に注意を促した。

「分かってら! いくぞ!」

「ダブル転法ッ!!」

 ダブル転法。

 昨日、二人で編み出したオリジナル技だった。二人同時に転法して攻撃を避ける。息が合わない限り到底不可能な技だった。それに、ぶっつけ本番でだ。

 しかし、それは物の見事に決まった。美しいくらいに二人の姿は同時に消え、幾多にも注がれる短剣を避けきった。

「決まったぜ!」

「クソっ!」

 こんな奴らに僕が苦戦しているというのか……!!

 太郎が受けた三度目の屈辱だった。

「一気に決めますわよ!」

「よっしゃー!」

「エターナル・ロード!!」

 凛は先ほどナギを撃破した技を太郎に繰り出す。

 ほとんど力が残っていない凛であったが、ありったけの光を振り絞り、エターナルに活力を与えた。エターナルの刃先に凛の光が密集する。

 そして……。

 放たれた!

「鉄壁に変換!」

 ここで簡単にやられるような太郎ではなかった。太郎は唯一の防御技である鉄壁で光線を防ぎきった。

 ここで太郎はある重大なことに気づいた。

 剛はどこだ……?

 完璧主義の太郎にとって、相手の姿を見失うなど致命的なミスであった。

「うぉりゃああああああ!! これで終わりだ!! 破壊しつくせ!!」

 剛は太郎の真後ろに姿を見せた。完全に太郎の死角をついた。

 しまったそっちか……。

 太郎はやっと気づいた。しかし、体を反応させるには遅すぎた。

 これで決める……!

「真・剛拳!!」

 怒号のような打撃音が闘技場全体を地響きのように揺らした。剛の渾身の拳は完全に太郎の顔面を捉えた。

「やりましたわ!」

 凛にとって歓喜の瞬間だった。自分の力を母や、他の観客に見せることができた。

 そして、なにより……。

 仲間の役に立てた!

「よっしゃあああああ!!」

 剛は確かな手ごたえのもと、喜びの雄たけびをあげた。

 チームに白星を与えられたことがどんなに嬉しいことか……!

「最後はナギちゃんが持ってるフラッグを……」

「私の負けた」

 ナギは素直に負けを認めた。フラッグを投げ捨て、白旗を上げた。

「これでやっと」

「勝ったああああああ!!」

 これで本当の勝利。

 の、はずだった……。

              

「なにしてる!!」

 突然、珍しい進の大音声が闘技場内を響かせた。

「えっ?」

 この時、価値を確信していた剛と凛の頭は真っ白になった。

 どういう……。

 ナギがフラッグを持ちながら、ものすごいスピードでこちらに駆けている。

 さっき、フラッグを投げ捨てたはずなのに……。

「あと一歩のところでしたね」

 太郎が剛の後ろを取りビームサーベルを剛の首元に構え、剛に身動きをとれなくさせた。

 さっき、確かに倒したはずなのに……。

「どうなってるんだよおおお!!」

 剛は頭の混乱をすべて言葉に吐き出した。

 そして、ナギは凛のフラッグを持っている手を闇牙で切り付ける。

 凛は痛みでフラッグを手放し、そのままフラッグはナギの手のもとにわたった。

「あっ……」

 決着の時は、驚くほどあっさりと訪れた。自分達のフラッグが相手の手に渡ったということは負けを意味していた。

「私たちの勝ち」

「意外とてこずりましたね」

 負けた……?

 剛と凛は今の状況を簡単には呑み込むことはできなかった。

 自分たちの勝ちだと思ったら、負けているのだ。そんな簡単に呑み込めるはずがない。

「えー、邪化射ナギ選手に進チームのフラッグが渡ったためこれにより先鋒戦はナーガチームの勝利です!」

 司会の宣言。完全に決着を意味していた。

 先鋒戦は突如、終わりを告げた。

「どういうことだ? どういうことなんだよ! 俺たちの勝ちだったはずだ!!」

 そう。確かに剛の拳には太郎の顔面を捉えた感触を覚えていた。

「良い夢は見られましたか?」

 太郎は剛に勝ち誇った顔で、優しく語りかけてきた。

「だからどういうことだって聞いてんだよ!」

「答えは幻想」

 幻想……!!

 ナギの言葉に凛と剛ははっとした。

 あれは幻想の中だった……。

 凛と剛はすべてを察した。

 そして、痛感した。

 完・全・敗・北!

「あれは……ナーガと同じ……そうかやはり幻想か」

 せっかく忠告してやったのに……。

 勝てる試合を落として、進は口を真一文字に結んで悔しがった。

「まさかこんな土壇場に幻想を使えるようになるとは思いませんでしたよ」

 実際、危なかった……。

 ナギの幻想がなければ僕達は負けていた……。

 太郎は改めて、ギリギリの闘いを強いられていたことを身に染みて感じた。

「私も驚いた」

 ナギは自分自身で幻想を使えた理由が分からなかった。幻想を使えたのは凛にエターナル・ロードで一閃された直後だった。

 あの時、私を締め付けていた深い闇は浄化された。

 それと関係あるのかな……。

 今のナギには幻想を使えるようになった真意を見つけることはできなかった。


 ナーガ陣営のベンチでは、ナギの思わぬサプライズプレゼントに、黄河と実の兄であるナーガは胸を躍らせていた。

「まさかナギちゃんが幻想を使うとは……正直驚いたっす」

「僕の妹だ、これぐらいはしてもらわないと困るよ。」

「厳しい兄っすね」

「次は黄河の番だよ」

「分かってるっすよ。腕がなるっす!」


「私たちはナギちゃんのてによって幻想を見せられたってわけですわね」

 凛はようやっと落ち着き、自分に降りかかった現象を理解できた。

「ちくしょーーー!!」

 負けるって、こんなにも悔しかったっけ?

 負けるって、こんなにも辛いことだっけ?

 負けるって、こんなにも痛いことだっけ……?

 剛は叫んだ。悔しさのあまり。会場一面を響かせながら。

 この叫び声とともに、先鋒戦は幕を下ろした。


 先鋒戦の出場者はそれぞれ自陣に戻った。

 自陣に戻る背中は勝者と敗者で対照的だった。

 勝者である太郎とナギは明色のオーラを背中から出していたのに対し、敗者である凛と剛の背中は暗色のオーラを出していた。

「ごめんなさいですわ進様。あれほど幻想には気をつけるように言われてたのに……」

 凛は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 進様がわざわざ時間を割いて幻想のことについて教えてくれたのに……。

 進様がわざわざ忠告してくれたのに……。

 自分は、それを……。

 活かせなかった……!

「終わったことを悔やんでも仕方ない」

 進ができる精一杯の慰めだった。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 凛は何度も謝った。進の優しい言葉に涙をこぼしながら。

「よく頑張ったね二人とも、お疲れ様」

 仕方がないよ。だって、相手は年上の二年生。健闘しただけでも凄いことなんだよ……。

 アリサは、二人の頑張りがよくわかっていた。だから、精一杯優しい言葉でねぎらった。

「次は龍君だよ」

 時は待ってくれない。先鋒戦が終わったら、次はすぐに中堅戦だ。

 アリサは中堅戦の出場者である龍に声をかけ、鼓舞させようとした。

「……」

 しかし、龍からの反応はなかった。

「おい龍!」

 進は強い調子で龍に声をかけた。

「…………」

 それでも龍からの反応はなかった。

「聞いているのか!?」

「お、おう。で、なんだ?」

「お前の番だ」

「そ、そうだったっけ?」

「こんなんで大丈夫ですの?」

 凛が見てもまずい状態だった。

 一撃龍は今までにない極度の緊張に襲われていた。

「グウ」

 剛はそんなことを気にもせず、闘いの疲れ、覚醒の反動、太郎の薬の効能、すべての疲労感が襲いかかり、ベンチにつくなり三人分の席を占拠し、爆睡した。

「剛君は戻ってきたとたん寝てますし」

 何はともあれ、0勝1敗。そして、残す試合は2戦。この中堅戦は落とせない1戦であった。

 そんな超重要な中堅戦が始まろうとしてた。


 ☆ ☆ ☆


「さあ激闘の先鋒戦を終え早くも中堅戦を迎えてようとしてます! 先に王手をかけたナーガチームここで決めたいところです! 一方後がない進チーム、ここはなんとしても負けられません! さあ、いよいよ注目の中堅戦が始まります! それでは、中堅戦の出場者をご紹介しましょう! まずは、ナーガチームから水堂黄河選手!」

「うおおおお!」

 司会者のあおりを受けて盛り上がる闘技場。そんな、雰囲気を楽しむように黄河は観客を盛り立てながら登場した。

「いやー、いい空気っす」

「続いては進チームから一撃龍選手の登場です!」

「うおおおお!」

 またしても大歓声に包まれる闘技場。

 しかし、登場を受けた当の本人はぶるぶる震えながらロボットのような歩き方で不自然な歩きで登場した。

「しっかりしなさい龍」

 龍の母は分かっていた。息子の一番の敵は緊張感だということを。

 やばい……。

 なんだこの空気は……。

 周りにいるあんなにも大勢の観客の全員が俺を見ている……。

 観客が悪魔にしか見えない……。

 龍は昔から発表なんかの類の人前に出ることが苦手な少年だった。よく、発表するために教壇の上に立つと吐き気がした。

 そして、龍はつい数か月前までは家に引きこもって、人目を断絶していた。

 それに、闘技場の観客席一杯に入っている観客。

 龍は失神寸前状態だった。


「はあ……ダメだこれは……」

 進は龍の状態を見て、勝利をあきらめた。

「完全にこの空気にのまれちゃってるね」

 こういう状況で闘うことが苦手な人は大勢いる。それは、一流のバトラでもだ。

 バトラになってもこういう状況で闘わなければいけないことは少なからずある。そして、これを克服するには慣れるほかない。

 それを知っているアリサは龍に「これは避けては通れない道」と、心で伝えながら静観した。

「しっかりするんですわ」

 凛は龍に静かに声援を送った。


「それでは、ここでナーガチームが決めるのか、はたまたそれを阻止するのか進チーム。中堅戦からは個人戦、純粋な己の力で決まります。さあ待ちに待った中堅戦スタート!」

 今後の展望を占う重要な中堅戦が始まった。いや、始まってしまった。

 龍は、心ここにあらずといった感じで上の空を見つめており、まったく戦闘態勢に入っているようには見えない。

「いくっすよ! いくっすよ?」

 この龍の状態に、せっかく闘う気満々であった黄河は早速リズムを狂わせた。

「ちょっと待って。タイム、タイム!」

 支離滅裂であった。

 極端な緊張は時に、意味不明な言動を呼び起こす。

「タイムはありません!」

 司会は龍を注意した。

 これは……ダメだ……。

 ここにいた観客の誰もがそう思った。


 これは試合。相手がどんな状況であれ、闘わなければならない。

 黄河は闘うために龍にゆっくり近づいた。

「マジで行くっすよ!」

 黄河は気合を入れ強烈な前蹴りを龍のあごにむけてお見舞いした。

「ぎゃあ!」

 心ここにあらずの龍が避けれるはずもなく、黄河の蹴りは無防備な龍のあごにクリーンヒットにした。

 龍は当たってから、だいぶ立った後にあごを手で押さえた。

「取っちゃうっすよフラッグ」

 あまりにも早く中堅戦が終わろうとしていた。

 せっかくの素晴らしい先鋒戦が台無しになろうとしていた。

 黄河は龍の陣地にある龍のようにボケっと突っ立っているフラッグのもとまで歩み寄った。

「だめー!」

 なんとか我に返った龍は、両腕を横に広げ黄河の行く手を阻んだ。まるで、腹を攻撃してくださいと言わんばかりの無防備な体勢となってった。

 黄河はお言葉に甘えて、その無防備な腹に拳を入れる。

「ガハツ」

 まったく気持ちが入っていない龍にとっては、手痛い一撃だった。

 龍は、ノックアウトしたボクサーのようにうずくまりながら、膝をついた。


 この闘いは終わった……。

 そして、交流戦の決着もついてしまった……。

 誰もがそれを確信し、落胆したその時だった。

 一人の強き女性がこの逆境を打ち破った。

 観客席で我が息子の活躍を見守っている龍の母が立ち上がった。

「龍! あんたは考え過ぎなのよ! 後が無いだとか、チームのためにとか、仲間のためにとか、深く考えなくていいのよ! あんたはあんたの出来ることだけをやればそれでいいのよ!」

 俺のできること……。

 そうか、俺はみんなのために闘うとか無茶なことを考えてしまってプレッシャーに押しつぶされていたんだ。

 こんな仲間に支えられてやっと一人前になった俺がだよ?

 バカみたいだよな。

 俺は自分のできることだけをやればいいんだ。

 俺のできることはただ一つ。

 目の前にいる相手に立ち向かうのみ!!

 母の言葉で龍のふわふわしていた心は重力を取り戻した。

 それでいいのよ、龍……!仲間想いの性格はパパになたのかな……。

 龍の母はほっとした面持ちで、肩をなでおろしゆっくり席に着いた。

 進チームに希望の灯火が……。

 灯った。


「ママの言葉にいちいち感化されるような坊やは、帰ってママのお乳でも飲んでいたらいいんすよ」

 黄河は容赦せず、もう一度龍の腹に手刀突きを繰り出した。

「!?」

 黄河が感じた手の感触は、腹を突いた時に感じるような脂肪の柔らかさではなく、骨を突いた時に感じる冷たく硬い感触だった。

 十字守。

 体撃の達人であるアリサが編み出した腕を十字にして身を守る防御術。それを使える者は開発者のアリサを除いてただ一人としていなかった。

 一昨日までは……!

 龍は十字守を実戦で初めて使い、成功させた。しっかり黄河の手刀から身を守った。

「黄河さん、これからが本番ですよ!」

 龍は完全に取り戻した。

 平常心を……!

「面白くなってきたっす!」

 闘いはこれからだ……!

「炎全開だ! いくぞ鳳凰剣っ!!」

 今まで沈下を決め込んでいた龍の心は反動で、火事のように燃え盛っていた。

 その心をそのまま鳳凰剣に伝えた。鳳凰剣は純度の高い紅色に染まった。通常の武具なら一瞬で灰と化していただろう。

 しかし、鳳凰剣はその炎を悦ぶかのように、業業しく紅蓮の炎を発現させた。

 その炎の熱で、闘技場の全体の温度は上がった。

「こいっ!」

 黄河は快楽を覚えた。

 やっと本気の闘いが出来ることに……!

 熱き中堅戦の幕開けだ。


 龍の覚醒に意外な二人が興奮を覚えていた。闘いを終えた太郎と闘いを控えたナーガの二人であった。

「あの男意外とやりそうですね」

「面白い男だね一撃龍。僕の獲物と行きたいところだが特別に黄河に譲ってあげよう」


「鳳・凰・斬!」

 それは何のひねりもない簡素な技だった。

 シンプルな縦斬り。

 そのシンプルさが功を奏した。高熱の熱波が鳳凰剣から弾け飛んだ。

 熱波の破片が対戦相手の黄河をはじめ、両チームの出場者、観客席にいる観客までにも届いた。

「なんて熱さなんすか、まったく……」

 この時、終始晴れやかだった黄河の顔が……。

 曇った。

「どうですか、僕の攻撃は?」

 龍はものすごい達成感を得ていた。初めての鳳凰剣を駆使しての技。それも大成功という形でデビューしたのだから。

「すごいとしか言いようがないようっすね。でも、君は運が悪いっす」

 黄河は落ち着いていた。

 気味の悪いほどに。

 おかしい……。

 普通、相手があんな大技を放ったのだから多少なりとも動揺するはず……。

 しかし、黄河は動揺するどころか、逆に龍の大技をこの目で目撃し、納得しているようにも見えた。

「どういうことですか?」

「見せてあげるっすよ、僕のスペシャル」

 黄河の体から青色の液体が噴き出した。

 水だった。

「これが僕のスペシャル、水属性っすよ」

 水属性。これが黄河のスペシャルだ。

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