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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
19/67

第十八伝「強さの証明」

第十八伝です。本当の強さとはなんなのか。ただ腕力が強ければいいのか。それとも心が強ければいいのか。とりあえずご覧ください。

「私の名前はエリ。同じクラスだよ、よろしくね邪化射ナギちゃん」

 エリちゃんはいじめられっ子の私に笑顔で話しかけてくれた。

 私はこの時初めて、戦校に入学した意味を見つけたることができた。

「よろしく……」

 私は幼い頃から兄様以外に心を開ける存在はいなかった。

 でも、心を開ける人が増えるかもしれない。私にも初めて友達ができるかもしれない。私は心は静かに踊っていた。

「これは、どんな絵なの?」

「幻想の絵」

 そう幻想。

 私達、邪化射家には幻想という伝統のスペシャルを持っている。幻想とは心の写し鏡。私は幻想を使えないけれど、私の心の中を毎日キャンバスに描いていた。

 はたから見れば、黒や灰色といった暗色をふんだんに使った気味の悪い絵。これは私の淀んだ心を明確に描いている。

「へー、なんかよく分からないけど凄いねナギちゃん」

 でも、エリちゃんはそんな私の絵を褒めてくれた。

「ありがとう」

 私にとって初めての友達ができた。

 それからというもの、私はエリちゃんと一緒に帰り、二人で遊んだりした。幸せな日々だった。

 私は今まで億劫だった登校がいつしか楽しみになっいた。全部、エリちゃんのおかげだった。

 

 だからと言っていじめが消えるわけではなかった。

 エリちゃんと友達になってから、一週間くらいたった頃だろう。放課後、私はいつものように空き教室で絵を描いていた。

 私はエリちゃんと出会ってから、絵の印象が変わった。暗色を使ったどんよりとした絵ではなく、黄色や赤色といった明色を使い、二人の女の子が仲良く遊んでいる、そんな楽しげな絵だった。

 ガラガラガラと、扉を開ける音がした。ここは私とエリちゃんだけしか出入りしない、二人だけの秘密基地。

「エリちゃん、来てくれたんだね」

 当然、エリちゃんだと思った。

 でも違った。

 そこにいたのはエリではなく、いつも私をいじめてくる忌まわしきいじめっこ二人組だった。

「本当に、こんな所で絵書いてたのかよ」

「気持ち悪-」

 ここは私をいじめから救ってくれる安息の地。

 でも、その安息は音を立てるように崩れた。

 せっかく楽しい生活を送れるとおもたのに、また元通りの苦しい生活に戻ってしまう。

 あいつらは私の絵を蹴りやがった。

「ごめーん。足が滑っちゃった」

「それだけは……」

 許せなかった。

 私とエリちゃんの楽しい日々の絵。その絵を蹴るということは、私だけではなくエリちゃん中傷されているような気がしたからだ。

「それだけは、なーに?」

 今度は絵にひじ打ちをお見舞いした。

 木のキャンバスは無残にも真っ二つに裂かれた。ちょうど私とエリちゃんが引き裂かれた構図になってしまった。私たちの仲が引き裂かれた、そんな暗示に見えた。

「その絵は私とエリちゃんとの思い出の絵! 私はいいけど、エリちゃんを傷つけるのは許さない!」

 普段、感情を表に出さない私がこの時初めて、感情をむき出しにした。

「なんだこいつ、やっちまえ!」

「あいあいさー」

 私の力では、二対一という不利的状況を覆すことができなかった。案の定、返り討ちにされてしまった。

「本当にナーガ君の妹かよ、弱すぎ」

 いじめっ子の二人が嵐のように去っていった。残ったのは、ボロボロの私と、裂かれたキャンパス。

 エリちゃんなら、エリちゃんならなんとかしてくれる!

 私はそう思い、エリちゃんがいるだろう放課後の教室にダッシュで向かい、助けを求めた。

 

 教室の扉の窓からエリちゃんの姿が見えた。楽しそうに誰かと話している。誰だろう?

 私はエリちゃんの話し相手を見て目を疑った。

 なんと、さっき私を襲ったいじめっこ二人と談笑していた。

 私は教室の扉を開けることができず、エリちゃんといじめっこの会話を扉越しで耳を傾けた。

 なんで、あんな奴らと……。

 教室の会話が私の耳に届いた。

「まったく、エリさんの言うとおりだったぜ。まさか、あんな所で絵を書いてるなんて」

「でしょ! しかも絵が気持ち悪いんだよね」

 今度は耳を疑った。

 エリちゃんが私の悪口を言ったように聞こえた。

 どういう……。

 私は幻聴だと思った。いや、そう願った。

「そういや、あいつエリちゃんとの思い出ーとか言ってましたよ」

「思い出? ああ、あのくだらない思い出か」

 確かにエリちゃんは私の悪口を言っていた。

 これは夢!?夢なんでしょ!!

「しかし、エリさんもよくやるぜ。仲が良い”ふり”をして、一緒に遊んだりするなんて」

「でも、はっきりした。兄がいなければなにもできないただの”七光り”野郎だってな」

 私はその言葉を聞いて絶望した。

 私は耐え切れず、どこか遠くへ駆け出した。

「もしかして、ナギがいたんじゃないっすか?」

「そうかもね」

「そんな、信じてたのに! やっとできた親友なのに! でも、確かに思い返せばいじめを受けていたときはエリちゃんはいなかった。それに、あいつらが私がいる空き部屋をしっているのもおかしい……でも、それでも信じられない!」

 私は親愛なる友に裏切られた。

 私は信じられるのは肉親のみと悟った。

 私は闇の存在。

 恨み、憎しみ、苦しみ、それらすべての負の感情が今日の私を形成した。

 私は”兄の七光り”と言われ、いじめられないような強いバトラになることを決意した。


 ☆ ☆ ☆


 ~現在~

「私の強さをすべてのものに証明するために私は負けない!」

 ナギは過去の決意を想起し立ち上がる。

 彼女の体は限界だった。ただ、彼女の並々ならぬ思いだけが、彼女を突き動かした。

 すべての感情を乗せて!!

 ナギは自分の感情を闇牙の乗せ、凛を突き刺しにいく。それを受け止めるべくエターナルを盾にした凛が激しくぶつかり合った。

 しかし、押すのはナギ。

 なんですの?ナギちゃんの武具から伝わるこのおぞましい憎悪は……!?

 耐え切れない……!!

 凛はナギの感情に御し切られ、壁際まで追い込まれた。

 そして、ナギは闇牙をしまい、手を手刀の形にする。

「邪化射拳・ニ刀点!」

 ナギは両手の手刀で、凛の両腕の中で一番脆い部分である関節を突いた。

「入った」

 今度こそ、ナギの手に確かな手応えが伝わった。

 危ない……光属性を腕に溜めといてよかったですわ。

 凛はこうなることを予期して、武具同士のぶつかり合いで御し切られた時あたりから、自分の体全体に光属性を溜めていたのだ。

 ダメージはほぼなし。反撃に……。

「気付いた?」

「動けない……!」

 凛はなぜか一歩も動くことができなかった。

 よく見ると、凛の靴にナギの武器である闇牙が突き刺さっている。そして、驚くべきはナギが器用に闇牙を足で掴んでいることだ。

「どうりで、”裸足”だったわけですわね」

 ナギは戦闘中、なぜか裸足だった。

 凛はそれが、気にならなかったわけではなかった。だが、このための裸足だとは到底思わなかった。

 やられた……。

 最初のナギの手刀の攻撃は足に気を取らさせないようにする罠だったようだ。

「邪化射拳・足縛。そして、邪双!」

 ここぞとばかりにナギは畳み掛けた。ナギは足を器用に使い、足で闇牙を掴みながら、凛の横っ腹を切り裂いた。

 切り裂かれた部分から綺麗な鮮血が飛び出た。凛は地面を滑り、座り込んでしまった。

 そして、意気消沈したかのように目をつむる。ナギの執念がこもった一撃は、凛に甚大なるダメージを与えた。

「とどめ」

 ナギは止めに入るために、再び闇牙を手に持ち替えた。

「エターナル、私はもうだめなのですの?」

 エターナルから鼓動の音が聞こえた。

 エターナル……?

 そして、エターナルの鼓動は祭りの太鼓のように激しく鳴った。

 「私はやれる」凛の問いかけに答えるかの如く。

 エターナル……ありがとう!私の光を全てあなたに……。

 託す……!!

 とてつもない輝きだった。刀身だけではない。剣全体が輝き、聖剣エターナルの原型が見えないほどであった。観客も目を見開くことはできないほどの眩しさだった。

 その光は徐々に剣先に集まった。

聖路エターナルロード!!」

 凛が叫んだ瞬間、そのあふれんばかりの光は、レーザーとなってエターナルから放射された。

 鮮やかなる光の路。その路は、凛の勝利を導くようにナギを貫いた。

「がはっ」

 ナギの闇は圧倒的光によって浄化された。

「……」

 動くこともしゃべることもできなかった。ナギはただただ地面に身を任せ、あおむけに倒れることしかできなかった。

「ナギちゃん!」

 凛は心配そうに、倒れたナギに近寄った。

「こんな所で人の心配、ばかじゃない?」

 人は自己顕示欲の塊。他人の心配するやつなんておとぎ話の世界だけだと思っていた。

 でも、現に今私は心配されている。それも敵にだ……。

 ナギは凛の言葉に耳を疑った。

「ごめんね、力の加減が分からないですわ」

「大丈夫、あなたの光は優しい……」

 そう。優しい光。

 私のブラックホール並みの深き大きな闇を全て、優しく包んでくれるようなそんな光。

「ナギちゃん一緒に闘えてうれしいですわ。今度は、仲間として一緒に闘いたいですわ」

 やっと私にも友達ができたよ……兄様……。


 優しい空間を崩壊させるドカーンという爆発音が闘技場全体を響かせた。

 凛とナギの周りが爆発し、優しい空間が無慈悲な煙によって包まれた。

「なんですの!?」

 凛は頭が真っ白になった。

「タイムアップです」

 今まで、観戦を決め込んでいた太郎がついに動いた。太郎は、悪魔のような表情とともに、ナギと凛のもとに少しずつ近づいた。

「どういうこと?」

 味方のナギであえ、何が起こっているのかわからなかった。

「あなたがた二人に時限爆弾を仕掛けさせていただきました」

「そんな……いつ?」

「邪化射ナギには先鋒戦が始まる前に、光間凛には盾で防いだときです」

「おかしいですわ! なんで味方のナギちゃんまで?」

 この男は何を言っている……?

 凛は太郎の言動の意味が全く理解できなかった。

「僕はナギ、あなたを信じていたんですよ。きっと、兄の言いつけどおり強いバトラになるって。でも、こんな相手に負けるようでは正直言って”兄の七光り”のままですね、失望しました。あなたは、この試合において”足手まとい”になる、そう判断しました」

「ナギちゃんを馬鹿にすることは許さない!!」

 凛の感情は暴走した。

 自分のため、そしてナギのため、この男を許すわけにはいかない!!

「口だけですか?」

「くっ……」

 凛は体に異変を感じた。

 体のいうことが効かない……。

 ナギとの激戦、そして爆発のダメージ。凛に闘える体力など存在しなかった。

「さあ、今度こそ止めを刺しますか」


 誰が見ても絶体絶命であった。それはもちろん、進チーム陣営も理解していた。

「仕方ない……」

 試合中に出場者以外が乱入することは反則行為。アリサは重々承知の上だった。

 しかし、このままでは大事な生徒の命が危ない。アリサはやむおえず、凛を助けることを決断した。

 アリサの行動は、何者かの右腕に行く手を阻まれた。

 龍だった。

 龍は、首を横に振りアリサの行動を否定した。

「どいて龍君、さすがに凛ちゃんの無事が最優先だよ」

「まだ、あの男がいます!」

 龍は彼の復活を信じていた。

「彼はもう、深い眠りについて……」

「大丈夫ですよ、あいつは必ず戦場に戻ってくる」


 戦場は、いよいよ正念場を迎えていた。

「さあ止めです!」

 太郎が凛に止めに入ろうとするまさにその時だった。

 太郎がビームサーベルを振り下ろす瞬間、重厚な手が太郎の脆弱な腕をがっちりつかんだ。

「なぜ、君が……」

 太郎は目を疑った。いるはずのない男がそこにいるのだから。

「よう、久々だな。ずる野郎!」

 威風堂々とした特攻服が観客の目を奪った。

 鉄剛が戦場に復活した!

「お前は僕が盛った薬で動くのはおろか、意識を保つのすら困難なはず!」

「気力って言葉知ってっか?」

「まさかそんな非科学的なもので……!」

「じゃあ今日勉強になったじゃねーか、時に”熱い想い”は”体”を超えるってな!」

 全ての想いが詰まった一撃だった。

 剛は、お返しと言わんばかりに、今までに溜めに溜めた一撃を太郎のみぞおちに思いっきりぶち込んだ。

「ちっ、抜け目ない野郎だぜ。当たる直前に腹筋に力を入れやがった」

「貴様……!」

「剛君、大丈夫なのですの?」

 凛は心配した。本来なら、太郎の策略で動けないでいでいたはずなのだから。

「ああ、平気だ。凛、今までお前に痛い思いをさせてすまなかったな。後は、俺に任せてゆっくり休みな。ただ、フラッグは任せたぜ」

 剛は凛に再びフラッグを託し、再び前線に立った。

 鮮やかな復活劇だった。

「少しだけあなたが美しく見れますわ」

「そんな褒め言葉はよせ」

「頼みましたわ」

 剛はチェーンを手に巻きつけ本気モードに入った。

「しかし、あの野郎なかなか起き上がらねーな。もう死んでるんじゃねーの?」

 太郎は立ったまま、微動だにしなかった。真意を確かめるために、剛は太郎に、一歩一歩慎重に近づいた。

 と、その時……。

 またしてもとてつもない爆発が起こった。

「クハハハ! 油断しましたね! 君が歩くだろう場所を予測して地雷を設置しておきました!」

 太郎には抜け目という言葉が存在しなかった。

「!」

 しかし、爆風の中に剛の姿は確認できなかった。気付くと剛の拳は太郎の顔面を捉えていた。

 剛は爆風の瞬間、とっさに転法を発動させていた。

「あれを避けたですと!? ありえない……!」

 太郎の計算は精密機械よりも正しい。その太郎の計算が今ままさに狂った!

「俺の力を見誤ってるんじゃねーぞ!(体がいつもよりキレるぞ)」

 気分は爽快だった。憎き敵の顔面を殴る。こんな気持ちいいことはない。

「転法のスピードは計算済みですよ!」

「ハハハハハ! 破壊! 破壊! 破壊!」

剛の大きな高笑いが会場を包み込んだ。

「これはまさか……!?」

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