表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
18/67

第十七伝「白熱、先鋒戦」

第十七伝です。初っ端から激しさを増す交流戦。手に汗握る闘いを是非ご覧ください。

「まずは一人目!」

 ビームサーベルで剛を仕留めにかかった太郎だったが、ビームサーベルは剛には届かず、上空で止まっている。

 よく見ると、剣で防がれていた。

「あなた、私が今まで合った人の中で一番美しくないですわ!」

 凛と聖剣エターナルのコンビが完璧に防いでいた。

 太郎が行った行為は凛にとっ許されざる行為だった。

 怒りが力に変わる……!

 なんとか、剛のピンチをしのいだ。

「すまねえ……」

 申し訳なかった。

 本来は自分が助けないといけない立場。でも、今の自分は助けられている……!

「こんな卑劣な奴を見るのは初めてですわ! まだ、銀次君がまともに見えますわ!」

 凛は太郎を能面のような顔で見つめた。

「剛君作戦変更ですわ、あなたがフラッグを守る! いいですわね?」

 剛の状態を見ての凛の判断だった。

「でも……」

 剛にもプライドというものがある。女一人に戦場を任せるなんてそんなことはできない。

「そんな状態で戦ってもこっちが迷惑ですわ!」

 ただ、仕方が無い……俺がこんな状態じゃあ迷惑がかかるだけだ。

「ちくしょー!!」

 悲痛な叫びと共に、剛はフラッグを凛から受け取り前線から退いた。


 女一人で戦場に立つ……!

 恐怖だった。不安だった。でも、立つしかなかった。剛のために、仲間のために、そして勝つために……!

「一人で大丈夫ですか?」

 いやらしい言葉だった。こう言う時の太郎の話術は本当に巧みだ。

「正直、厳しいですわ。でも、あんたにだけには負けたくないですわ!」

 汚らわしきものに不幸が訪れ、清きものには幸が訪れる。

 凛の座右の銘だ。太郎と闘う覚悟を決める。

 負けないんだから!

「僕だけじゃないんですけどね。これは、あくまでチーム戦。チーム戦の利を生かしますか。ナギ」

 太郎は熱くなる凛をよそに冷静沈着だった。ここぞとばばかりにチーム戦の利を使い、ナギに共闘を指示した。

「分かってる。指図するな」

 ナギは兄以外を信用していない。太郎の指図など嫌気がさすだけであった。

「まったく、口の悪さは相変わらずですか」

 ナギが満を持して前線に立った。

 完全に二対一の状況になってしまった。

「行くよ、凛ちゃん」

 ナギは、黒く牙のような形の鋭利な武器を手に持った。

 凛もそれに対応して聖剣エターナルを構えた。

 あの日の続きがこんな形で始まるなんてね。

 ナギは転法に近いスピードで一気に凛との間合いを詰めた。

 速い……!

 ナギはすかさず己の武具で凛を攻撃した。凛の反応は見違えるほど上がっていた。

 ナギのファーストコンタクトをエターナルで防ぎきった。アリサとの特訓の成果が確実に出ていた。


 先鋒戦を見守る進チーム陣営。

「特訓の成果が出てきたみたいだね」

 教え子の成長した姿を見て、アリサは嬉しくなっていた。

「でも、転法使ってないですよ?」

 そう。龍の言うとおり、アリサとの特訓は転法の特訓であった。なのに、凛は転法は使っていない。それでも、アリサは「特訓の成果」が出たと言った。

 龍はアリサの言葉の真意を確かめた。

「あれには反射神経を鍛えための練習でもあったわけ」

「なるほど、だから反応出来たんですね」

「今までの凛だったら、反応すらできなかっただろうな」

 珍しく進が人をほめた。


「ナギに気を取られ過ぎですよ」

 やられた……。

 これはあくまでチーム戦。太郎はチーム戦の利を存分に使った。

 ナギに気を取られていた隙をついて、太郎は短剣で凛の肩を突き刺した。

「ッ……」

 凛は痛みを必死で耐え、持ち前の高速回復でなんとか傷を癒やした。

「はあはあ……」

 剣に属性を集中しているせいか、回復でかなりの労力を使う……。

 凛は息を切らしながら、一対二の圧倒的不利な状況に焦っていた。

「よそ見しないで」

 太郎に気を取られていたら次はナギだった。

 ナギは凛の腹にひざ蹴りをお見舞いした。次から次へとくる地獄の連撃。

 凛は耐えきれず、自陣に戻り、距離を取った。

 ここでナギのスピードが活きた。

 距離を取れない……!

 ナギは凛との距離をじりじりと詰めた。

 今だ……!

 凛の姿が突然消えた。

 消えた……!?

 ナギは戸惑いを隠しきれなかった。するとナギの左サイドから凛の姿が現れた。

 転法!!

「しまった……」

 ザシュッという気持ちい音が闘技場に聞こえた。

 凛はその隙をついて聖剣エターナルでナギに攻めかかった。ナギは反応が遅れて、腰辺りに聖剣エターナルが接触した。

 

 凛がエターナルでナギに追撃しようとした瞬間、キンという響くはずのない鉄の音が響き渡った。

「防具・鉄壁」

 聖剣エターナルを捕らえたのは堅牢なる鉄の壁だった。

 太郎が端末で鉄壁を変換させていた。

「まさか、あなたに読まれるとは思いませんでしたわ」

「コソコソと転法の特訓なんてしてはいけませんよ」

「私達の特訓まで監視してたのですわね。ますます美しくないですわね」

「口のきき方のは注意するんだな小娘っ!」

「邪魔しないで、あいつは私の獲物。手を出したら味方であろうと手加減しない」

 ナギは太郎の参戦に不快感を示した。

「怖い怖い、その威圧は兄譲りですね。戦闘不能の死にかけのゴリラの相手するのも億劫ですし、お言葉に甘えて一休みますか」

 太郎は気味の悪い笑みを浮かべながら、ナギの言葉に甘え戦線を一時離脱した。

 女の闘い!

 それは、決して華やかなものではない。ドロドロとした血生くさい闘いだ。

 凛とナギは一騎打ちムードの様相を呈してきた。


 一方、進チーム陣営は静かに戦況を見守っていた。

「先生、邪化射ナギをどう見る?」

 まだ幻想は使っていない。しかし、それが逆に進の不安を煽った。

「さっきのパフォーマンスを見ると、ナギちゃんは私や剛君みたいに身体で勝負するタイプみたいだね」

 アリサは進の考えとは違う結論を出した。

 だといいがな……。

「先生、勝機はあるんですか?」

 龍はただこの一点だけが気になっていた。

 俺達に勝機はあるのか?

 「『勝てる!』って言いたいところだけどそれはわからない。でも、この日のためにみんな一生懸命特訓した。それは紛れもない事実だよ」


「やっと闘える」

 戦場に咲くに二輪の華。その二輪の華は、自分の存在を誇張しあっていた。

「正々堂々美しく勝負ですわ」

 凛が望んだのは、純粋な力と力のぶつかり合いだ。

「私は自分自身の力を証明しなければならない」

「どういうことですの?」

「話す必要はない。闇牙アンガ行くよ」

 闇牙アンガ

 邪化射家のカラーである漆黒に塗られた、マンモスの牙のように立派な牙状の武具。幻想を本分とする邪化射家のバトラの弱点は、接近戦。その弱点を補うために生まれた武具だ。

 ナギは闇牙を相手を睨むように正面に構え、凛を威圧した。

「私だって負けるわけにはいかないですわ」

 力の奥底が読めない相手、不可解な武具、不安が無いわけではなかった。

 でも、ここでひるむわけにはいかない。

 凛は堂々とエターナルの柄を両手でしっかりと持ち、剣を立てて構えた。

 属性を武具に……。

 凛は自分が持っている属性である光属性のありったけを聖剣エターナルに捧げた。

 聖剣エターナルは凛の光に感謝するように、剣からまばゆいばかりの光を輝きを放った。

 その光は淡泊な闘技場の背景を一瞬で彩った。

 ガキンという武具と武具がぶつかり合う音がした。

 ナギは闇牙を横に振った。凛はエターナルを縦に振った。

 両武具が魂でぶつかり合う。

 光間家の総重量30kgの秘剣だけあって単純な武器同士のぶつかり合いではエターナルが押していた。

 純粋な押し合いは不利と判断したナギは、急に力を抜き、エターナルをいなした。

 力いっぱい入れていた凛は勢い余ってエターナルを地面に突き刺してしまった。

 あまりにも分かりやすい隙だった。

 ナギはまず、無防備になった凛を仰向けにして倒し、自身は凛の身体に横向きに乗りながら、肘と膝で凛の体を挟み込んだ。

 ちょうど柔道の横四方固めのような体勢になり、非力な凛では到底身動きが取れない状態になってしまった。

 誰が見ても凛が不利な状況だった。


「まずいね……」

 その一部始終をまじまじと見ていたアリサは、不意につぶやいた。

「なにがですか?」

 格闘に疎い龍は何がまずいのか理解できなかった。

「ナギちゃんの態勢、”四方固め”をかけてる」

「四方固め?」

「左右の肘、左右の膝、四方で相手の体を固める”体撃”の一種。”体撃”というのは私みたいに拳と脚だけで戦わず、身体全体を使って戦う事を指すんだけど、あれをされるとほとんど身動きが取れないんだよ」

「そんな……」

「相当のやり手だよあの子」


 ナーガチーム陣営もこの一部始終を目撃していた。

「まさか、ナギっちがあそこまでやるとは思ってみなかったっす」

 黄河は、ナギのことを兄の陰に隠れているか弱気女の子としか見ていなかった。だからこそ、この闘いぶりに驚いた。

「当たり前だよ黄河。正真正銘の僕の妹なんだから」

 ナーガは我が妹のことを自信満々に言った。

「甘く見てたっす」

「あの子は賢い。相手をよく観察して瞬時に弱点を見抜き、それに合わせた最善な行動を取る。才能がないのが惜しいけどね」


 動けないですわ……。

 身動きが取れない。それは闘いにおいてどれだけ辛いことか。凛は今日、嫌というほど思い知った。

 ナギの技は予想以上に洗練されていた。

「あなたの弱点それは……」

 ナギは自身の両肘、両膝でさらに凛の体を締めつける。

 そして、この後ナギは女の子とは思えない残忍な攻撃をして見せた。

 ナギは凛の腕を本来曲がらないであろう方向に曲げ始めたのだ。

「くっ……」

 大声で叫びたいくらいの想像を絶する痛みが凛を襲った。

 だが、ここで大声で叫べばみんなが心配してしまう。凛は極力声を発することをを避けた。

 しかし、身体は正直だ。

 凛は、苦しそうに目をつむり、口を閉じた。しわが顔の中心に集まり、凛の整った美しい顔が台無しになってしまった。それほどの痛みだ。

 そして、相棒(聖剣エターナル)までも手放してしまった。

 ナギは技をかけながら、凛に語り始めた。

「凛ちゃん、あなたのスペシャルは光属性による”超回復”。外的攻撃なら、すぐに回復してしまう。でも、”内的”な攻撃はどう?」

 せめて、剣さえ取れれば……。

「終わり」

「ナギちゃん!」

 凛の予想外の大声に一瞬闘技場の時が止まった。

 ナギの動きも一瞬だけ、ピタッと止まった。

 凛は次にしようとした行動を躊躇した。

 凛の次なる行動は自分のプライドを捨てかねないものだった。

 凛は仲間とプライドを天秤にかけた。

 天秤は仲間のほうに傾いた。

 凛はナギに掴まれている逆の手で地面に散乱している少量の砂を手づかみし、ナギの顔面にぶちまけた。

「ゴホッ……ゴホッ……」

 砂はナギの鼻や口の穴に侵入した。その痛みで、ナギは凛の腕を離してしまった。

 その隙をついて凛は自身の剣を再び手に取り転法で距離を取った。

 なんとか、ピンチは切り抜けた。

「美しくない闘いは嫌いだったんじゃ?」

 そうナギの言う通り、これまでの凛にとってみれば、ありえないような汚らしい戦法だった。あまりにも美しくなさすぎる。

「時には必要ですわ」

 その発言の中には、葛藤が含まれていた。

「でも、その腕では何もできない」

 私の推測が正しければ……。

 今度は何の躊躇もなかった。

 はたから見れば自決に見えた。凛はエターナルを自身の負傷している変な方向に曲がってしまった腕をブッ刺した。

 衝撃的な行動だった。

 歓声が上がっていた場内は、悲鳴とざわつきに変わった。

「フフフ、思いどおりですわ」

 しかし、当の本人はいたって冷静だった。

 凛は先ほど自らの剣をブッ刺した腕を、何事もなかったかのように回し始めた。

「なんで? その腕は壊したはず!」

 ナギには確かに凛の腕を破壊した感触があった。

「私の皮膚には光属性が流れている。その流れている光属性で回復することが出来る。だったら、剣を使って自分の内部にも強引に光属性を流させればいいんですわ」

 自慢げに言っているが、確証はなかった。

「よくそんなことを……」

「一種の賭けですわ、勝算はありましたけど」

 ただ、これをしないことには勝つ可能性が無かった。

 凛は輝かしい光を放つ聖剣エターナルを振り上げた。

 そして、光属性を一杯に注ぎ込み、光で闇に溢れているナギを上かるかのように斬る!

「グハッ!!」

 闇は光に浄化されるともろい。

 ナギは中身が抜けたような、ポカンとした表情をし、膝をついた。

 私は兄の七光りではない……。


 ☆ ☆ ☆


 ~一年前~

 私、邪化射ナギは本来より一年早く戦校に入学した。

 私は一カ月ほど遅れて入学した。

 登校初日の日。兄様に連れられ教室に来た。

 兄様の指示で私は先生に呼ばれるまで廊下で待った。廊下で待っている私に、私を見る生徒達の気味悪い目が襲った。

「ゴホン、じゃあ入ってきて」

 先生らしき人の声がしたので、私は教室に入った。

 教室に入るともう一度、私の事をじろじろ見る嫌な目が私を襲った。私は歓迎されていないのだと思った。

「じゃあ、適当に自己紹介を」

 あまり自己紹介をしたくはなかった。私の素性が分かってしまうから。でも、私がここで自己紹介を拒むのもおかしいので仕方なく自己紹介をした。

「邪化射ナギです。よろしくお願いします」

 私を見る気味の悪い目はやがて、私を睨みつける鋭い目に変わった。

 分かっていた……。

「ごめーん、みんなに言うの忘れてた♪ 僕の妹♪」

 そう。兄様の言うとおり、私は邪化射ナーガの正真正銘の妹。

 では、なぜ同じ教室にいるのか。

 兄様が、出来るだけ私と長い間居れるようにと気を使ってくれて一年早く入学させるように手をまわしてくれた。

 言い方を悪くすれば”コネ入学”ってこと。

 そんな入学の仕方で歓迎されるはずがなかった。


 数日後。その不安はやがて現実のものとなった。

「あれ、私の上履きがない……」

 昨日確かに靴箱に入れておいたはずの上履きが無くなっていた。

「職員室に行って借りてこようか?」

 兄様は優しく私をフォローしてくれた。

 そう、これは私が最も恐れていた事態、”いじめ”だ。

 いじめはこの日を境に行われていくことになった。

 上履きを隠されたり、机が移動されたり、直接悪口を言われたりもした。

 そんな精神的に参ってしまう生活が続いた。


 私は少し兄様を恨むようになっていた。

 普通通りに入学していたら、あんな目に合わなかったかもしれない。

 私は家で兄様に直接言うことにした。

「兄様、なぜ私を一年早く入学させたのですか? 私はいじめを受けています。もう耐えられません……」

 私は泣いてしまった。

 小さいときから、泣いた記憶の無い私が、初めて記憶に残るほどのおお泣きをした。

「ゴメンね、ナギ。僕はこうなることを分かっていた。でも、あえて僕はナギを一年早く入学させた。なぜだか分かるかい?」

 そんなの分からないですよ兄様……。

 「君は幼いころから全部僕が守られてきた。そのせいで、君はなんでも僕に頼ってしまう人間になってしまった。バトラになるにはあまりにも精神的に脆弱だ。そうしてしまったのは僕の責任。だから、戒めとして心を鬼にしてあえてナギを厳しい道に行かせた。”獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす”みたいな意味合いかな。ナギ、僕は君に心を鬼にして言うよ、”強くなりなさい”」

 兄様は私の為にここまで……。

 私は決意した。

 いじめに耐え抜く強い人間になると……!

 

 でも、いじめは徐々にエスカレートしていった。

 私は誰にも会わなくて済む空き教室にこもることにした。

 その部屋は薄暗く、絵具くさい部屋だった。

 ”絵”との出会いだった。

 暇だから、その部屋に置いてあった美術道具で絵を描くことにした。

 絵は安らげる。嫌な現実を全て消し去ってくれる。

 私は次第に美術室にこもり、絵を描き続けた。

 

 そんな生活が続いた。

 私は、いつものように空き教室で絵を描いていた。

 ガラガラという音がした。

 おかしい。美術室といっても誰も使っていない完全なる空き家。人が来ることはありえなかった。

 女子生徒だった。

「誰?」

 来るはずのない客に私は不審に思った。

「すごーい、絵を描いているんだね」

 その女子生徒は、私の絵を見て興奮気味に言った。

 それが、エリちゃんとの出会いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ