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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
17/67

第十六伝「交流戦当日」

第十六伝です。待ちに待った交流戦当日。いよいよ熱い戦いの幕が開きます。どうぞご覧ください。

 午前八時。

 鳥が、心地よい音色を寝起きの人たちの耳に届けていた。

「起きなさーい! 出場者は9時集合でしょ!」

 龍の母はいつもよりも激しく龍を起こす。

 それもそのはず、今日は待ちに待った交流戦当日だ。

「うーん、後三十分はオッケー」

 眠い……。

 龍は連日の特訓のせいで交流戦当日にも関わらずあまり疲れが取れていなかった。

「バカ言うんじゃなーい! 少しくらい早めに行って練習でもしなさーい!」

「起きるか……」

 いつも朝起きるのが辛い龍だったが、今日は特に辛かった。龍は寝ている体に鞭打って、ムクッと体を起こした。

 たっぷりと寝たはずなのに、まだ寝ぼけていた。

「昨日、夕ご飯食ってないでしょ?」

「あっ、そういえば。気付いたら寝てたな」

「ということで、さあ来てちょうだい!」

 母は龍を引き連れリビングへ向かった。

 リビングに到着すると、すでにテーブルにまるで晩御飯のような大量の料理が用意されていた。

「すげー」

 お陰で目が覚めた。

 朝から豪華な料理。龍は元気が出た。

「さあ食った食った」

 龍が大好物であるシルットをはじめ、豚肉、白ご飯、年頃の男の子が好きそうな物のオンパレード。

「いっただっきーまーす!」

 龍は昨日夕飯を食べてないせいもあって腹が減っていた。朝にも関わらず、ものすごい勢いで飯をたいらげていく。

「ごちそーさま!」

 龍は朝ご飯を食べ終わった後、歯を磨き、用を済ませ、身支度を整え、交流戦の地に足を踏み出す準備を整えた。

「行ってくる」

「行ってらっしゃい。母さんも見に行くからね」

「はーい」

 不安が無いわけではなかった。

 でも、龍はいつもと同じように家を出た。極力、母に心配はかけたくはなかった。

 交流戦当日の朝は、お日様は雲に隠れ、過ごしやすい気候だった。


 戦校につくと明らかにいつもと様子が違った。でっかく”交流戦”と書かれてある垂れ幕に、手作り感満載のアーチを生徒達が一生懸命設置していた。

 本当に今日が交流戦なんだな……。

 龍は心臓が喉から出るような緊張感に陥った。

 集合場所は確か闘技場だったな……。

 龍は戦闘館の地下にある闘技場へと向かった。

 闘技場に向かうためにはまず戦闘館へ入らなければならない。龍は、とりあえず戦闘館の中に入った。

 そういやここで剛と初めて出会ったんだっけか、懐かしいな……。

 剛と初めて出会った時の空気の味と全く同じ空気が戦闘館に流れていた。

 戦闘館に入ると目立つように大きく「交流戦会場はこちら→」と立て看板がたててあった。龍は剛との闘いの時の空気を再度味わいながら、矢印を頼りに進んだ。

 矢印通りに進むと、通路があった。最初に来た時は気づくことができなかった。

 通路を進むと下に続く階段が現れた。おそらくこの下に闘技場があるのだろう。

 龍は、階段を一段、また一段と降りた。

 

 すると、開けた空間が龍の視界に飛び込んだ。さらに進むと、1000人くらいは収容できそうな巨大なドーム状の観客席が姿を見せた。ドーム状の観客席は、中心に行くほど下がっており、後ろの人も見れる考え抜かれた設計になっていた。

 その観客席の中心には円形闘技場がその存在を誇示していた。広さはちょっとした公園くらいの大きさで、フィールドは少量の土が撒かれている。

 一番闘いやすいように設計されているようだ。

 こんなところでやるのか……。

 圧倒された。

 本番は、この観客席に人いっぱい埋まるのであろう。そして、俺が出番の時はその大勢の観客の視線が俺に注がせる。

 そう考えた龍は急に胃が痛くなった。

 帰りたい……帰って寝ていたい……。

「あれ龍君じゃない!?」

 アリサは観客席で挙動不審に右往左往している龍を見つけた。

「あんなとこでなにやってるのですの?」

「早くこっち来い!」

「まったく、今日だってのにお気楽な奴だ」

 みんなの声が聞こえた。

 龍はパッと闘技場の様子を見た。

 アリサ、鉄剛、光間凛、雷連進の4人の龍のチームメイトが端っこのベンチにすでに集まっていた。

 逆方向のベンチを見る。すると、ナーガチームの面々の姿も見受けられた。

 誰が見ても分かる遅刻だった。

 緊張感は焦燥感へと変貌した。龍は、急いで闘技場に向かい、自分のチームメイトであり仲間があるベンチのほうへ駆け寄った。

「遅いですわ」

 完璧主義の凛は、少しの遅刻でも許したくはなかった。

「ごめんなさい」

 反論しようと思ったが、凛の口げんかの強さを考慮したら、その気持ちはバケツに入れられた花火のように沈下した。

「こういうときは十五分前行動。常識ですわ」

「遅刻でもしたらどうするつもりだ」

 進も加わってしまった。こうなれば、元々言い争いが滅法弱い龍に、もう勝ち目はなかった。

「ごめん、ごめん。ところで剛、お前顔色悪いぞ?」

「そ、そうか? 元気だぜ俺は!」

 剛の顔がなぜか青白く見えた。本人がそう言っているので気のせいだとは思うが……。

「それならいいんだけど」

「じゃあ体でもあっためよっか」

 4人は準備運動も兼ねて、ランニングをはじめ、軽い筋トレ、軽い組手をして徐々に体を温めた。

 いよいよだ。

 あの辛かった特訓はこの日の為にやってきたんだ。

 4人は今までの出来事を想起させながら、最後の練習に臨んだ。


「お前ら--!」

 観客席の最前列から粗雑な声が聞こえた。桜田銀次だ。

「銀次、見に来てくれたんだ」

 ちょっと嬉しかった。

 応援してもらえるのは悪い気はしなかった。

「当たり前だろ、お前たちの戦友だからな俺は」

「いい気なもんですわ、私たちを襲ったくせに」

 凛にとっては銀次は今でも憎き敵だった。銀次が仲間面しているのは今でも違和感があった。

「今日ぐらいはそのことは忘れてくれよ。今回は俺よりもはるかに強く憎き敵がいるんだからな」

 銀次は奥の方を指差した。

 銀次が差した指の先には、邪化射ナーガ、邪化射ナギ、日向太郎、水堂黄河が威風堂々とした顔をしてこちらを凝視している。

 先輩の威厳とも言うべきか、とにかく圧倒的な威圧感だった。

 もう闘いはとうに始まったいた。

「気をつけろよ、まああいつらの強さは分かっていると思うがな」

「そんなことは百も承知だ。お前はいちいち口出しするな。劣等者は劣等者らしくそこから指をくわえながら見てるんだな」

 進はいつもと変わらない冷酷無比な言葉を浴びせた。

「お前だけは応援してやんねー。剛さん頑張ってください!」

「お、おう。ゴホッゴホッ」

 剛は急にせき込んだ。やはり、いつもと状態がおかしい。

「(剛君……?)もうすぐ始まるからベンチに座るよ」

 アリサは剛の様子の異変に気付いたが、言及することはなかった。

 五人は闘技場の端っこにある選手用のベンチにそれぞれ座り、交流戦の開始をじっと待つ。

 開始時間が迫ってきた。続々と観客が集まりにぎやかになる中、当の出場者は嵐の前の静けさのごとく独特の緊張感に包まれている。

 そしてついにその時が来た。

「あーあー……マイクテスオッケー……さあ、開始時間になりましたので交流戦を始めたいと思います!」

 タキシードを着た司会らしき男がマイク片手に闘技場の真ん中に立ち、開会宣言を始めた。

 そう、交流戦の幕が開いたのだ。

「おーーー!!」

 司会の呼びかけに会場のボルテージが一気に上がた。

 その歓声を浴びて、龍達の緊張はどんどん上がっていった。

 こんな大勢の観衆の前でやるのか……。

「(あちゃー、完全に雰囲気にのまれてる……)みんなー、平常心、平常心」

 アリサはあがっている四人を落ち着かせた。

「さあ、今日の主役に登場してもらいましょう! まずは、1年チーム!!」

「うおおお!」

 ついに呼ばれた。

 観客の熱い声援を受けながら、アリサを先頭に五人は闘技場を一歩一歩踏みしめながら、進んでいく。

「あんた、しっかりね!」

 観客席の前列の方に、マスクをつけ、明らかに体調の悪そうな剛の母がいた。剛の母は我が子に声を届けようと、必死で剛に語りかけた。

「母ちゃん、俺頑張るよ!」

 母ちゃんの前で無様な姿は見せられねえ!

 剛はしっかりと母の声援にこたえた。

「龍ー! 頑張って!」

 龍の晴れ舞台を何が何でも見たい。

 母の執念だった。龍の母は、我が子の活躍を見たいが為に、気合いを入れて、最前列を陣取っていた。

 恥ずかしいからやめて……。

 でも、見に来てくれてありがとう。あの頃の堕ちた俺とは違うところを母さんに見せないと。

「一年チームは天才ルーキーと呼び声高い雷連進君が率いるフレッシュなチームです!」

 司会者は何とか盛り上げようと、精一杯の煽り文句を言った。

 しかし、当の進チームには不評だったようだ。

 んな紹介いらん……。

 特に進は司会者の言葉に嫌気がさしていた。

「続いて彼らの対戦相手、2年チームの登場です!!」

「おおおお!」

 ナーガ率いる二年チームは、歓声にのまれることもなく威風堂々と闘技場に姿を見せる。

 間近で見るととんでもないオーラだ。

 俺等は、あんな連中に挑もうとしているのか?

 龍はそう考えた途端、胃の奥が痛み出した。

「二年チームは十年に一人の逸材と呼ばれている邪化射ナーガ君をはじめとする個性豊かな面々が揃う実力はチームです!」

 両チームが決戦の舞台で対面する!

 

「まずは今回の出場者であり生徒会長でもある日向太郎君による選手宣誓を行います」

 太郎にとっては成績を上げるチャンスだった。

 太郎はゆっくりと、そして堂々と壇上に立った。

「宣誓! 我々、出場者一同は闘士の候補生としての自覚を持ち、諦めずに、全力を尽くし、勝利に貪欲に闘うことを誓います!」

 完璧な宣誓だった。観客席のいたるところで感心の声が上がった。

 太郎の計画通りだ。

 太郎は堂々と宣誓を終えると、壇上から降りて、もといた位置に戻った。

「ありがとうございました! さあ、お待たせしました! いよいよ、交流戦を始めたいと思います! 第一試合・先鋒戦の出場者は残り、他の方はベンチにさがってください」

 いよいよ試合が始まろうとしていた。

 先鋒戦に出る凛、剛、太郎、ナギを残し他の出場者はベンチにさがった。

 頑張れよ、凛、剛。

 龍は心で二人を応援してベンチに下がった。

「先鋒戦はコンビ戦、チームワークが試される1戦となっております! ルールは単純、相手の陣地にあるフラッグを取ったほうの勝ちです!」


 〜一時間前〜

 龍が来る少し前。

 進と剛、凛は軽いストレッチをしていた。

「凛、剛ちょっと来てくれ」

 進が凛と剛を呼び止めるなんて珍しかった。

「進様のお呼びとあらば」

「なんだよ? 手短に言えよ」

 凛と剛は気になりながらもストレッチを中断し、進のもとに集まった。

「お前たちの対戦相手であるナーガの妹、邪化射ナギ。奴がナーガの血を持っているのなら”幻想”を使う可能性がある。気をつけろ」

 幻想の恐怖をこの身で味わったことがある進だからこそ言える忠告だった。

「”幻想”ってなんですの?」

 凛のこの反応も無理はない。幻想など摩訶不思議な言葉聞いたこともないのだから。

「幻覚の一種だ。もしかしたら、戦闘中に”ありえない”事がおこるかもしれない。ただ、それは幻覚だ。幻覚だと割り切ってしまえば問題ないが、注意しなければならないのは、現実だと受け入れてしまった場合だ。その時は手遅れだ」

 凛と剛はゴクリと息をのんだ。それは、想像以上に危険な敵だった。

「ナギちゃん、そんな恐ろしい子だったのですの……」

「面倒くせーな。面倒くせー奴は太郎一人で十分だってのに!」

 凛と剛は進の忠告により一層気を引き締めた。


 〜現在〜

 気をつけなきゃ……。

 凛は一時間前の進の忠告を思い出した。

 剛と凛、太郎とナギがそれぞれ闘技場のフィールドに立ち、いよいよ先鋒戦が始まろうとしている。

 先ほどまで賑やかだった観客が嘘のように静まり返る。

 まさに、嵐の前の静けさだった。

「さあ、準備はよろしいでしょうか、皆さん!」

「はいですわ」

「よっしゃー!」

「うん」

「愚問ですね」

 ついに……。

 始まる!

 凛と剛は静を貫き、いやに落ち着いている。緊張を通り越して、無の状態に到達していた。

「ここに勝った方がチームの勢いがつくのは明白でしょう。ここを勝って次につながるのはどちらでしょう?大事な大事な先鋒戦スタート!」

 ついに交流戦の火ぶたが切って下された。 

 定石通りの行動だった。

 両チームフラッグの位置まで下がり、ナーガチームはナギが、進チームは凛がそれぞれフラッグを手に持ち、剛と太郎がそれぞれフラッグの所持者の盾になるような陣形を取る。

「やはり同じ作戦できましたわね」

 これは昨日のデートで二人が相談し合い決めた陣形だった。

 自分達が編み出した戦法だと思い込んでいた凛は、相手が同じ作戦を取ってきたので少し落胆した。

「バカでは無いみたいですね。まずは様子見と行きますか」

 太郎は自分が着ている、サバイバルゲームの装備のような服のポケットに手を突っ込んだ。

 ポケットの中から、ガサゴソと何かを探している音が聞こえたのちに、太郎はトランシーバーのような携帯端末を取りだした。

 そして、その端末にあるボタンを慣れた手つきで押し始める。ピポパポと電子音が端末から聞こえ始まる。

「何をする気だ……?」

 剛が太郎の不可解な行動に警戒している中、太郎の端末が変形し始め、2本の短剣と化した。

 手慣れた手つきで、太郎はその短剣を剛に向けて一直線に放った。

 これなら剛君の転法で避けられますわね。

 凛はこれを安心して見ていた。特訓でのアリサの蹴りの方がはるかに速いからだ。

 しかし、その安心感は一瞬でかき消された。

 ダメだ、体が言うことをきかねえ……。

 剛は避けようとしなかった。いや、避けられない。

 すかさず凛がカバーに入り、背に寝かせていた聖剣エターナルを予想より早めに起こし、太郎が放った短剣を弾き落した。

 間一髪だった。

「剛君、さっきからおかしいですわ! 体のキレがないし、なによりいつもの威勢が感じられませんわ!」

 考えてみれば、今朝から剛の様子がおかしかった。

 いつも嫌と言うほど感じる覇気が感じられない。

「すまねーな……凛……」

 剛は、朝起きてからずっと体が思うように動かなかった。交流戦当日にしてまさかの最悪のコンディション。

 凛に返事をするので精一杯なそんな状態だった。

「剛君、苦しそうですね」

 太郎はその光景をニヤニヤしながら見ていた。

「なにがおかしい!?」

「まだ分からないんですか?」

「何を言っている!?」

「思い出してください、昨日僕と君は何をしたか」

「まさか……!」

 剛は何かを感づいた。

「おしゃべりはここまでです!」

 ギュイインと場違いの音がした。

 すると、急に短剣が太郎のもとに引き寄せられた。どうやら、見えないワイヤーで短剣と太郎の手を繋いでいたようだ。

 短剣が携帯端末に戻り、またボタンを押し始める。

 今度は、赤白いビームサーベルに変形した。

 太郎は苦しそうな剛に歩み寄る。

 そして、ビームサーベルで、無防備の剛を斬った。

「グハッ!」

「どうですか?この僕特製のビームサーベルのお味は?」

「あの飲み物になんか入ってたな!」

「気付くのが遅すぎましたね。あれも僕特製の薬で、服用した日の翌日から翌々日までの間、筋肉や血液の働きを低下させます。安心してくださいね、明日には治っていると思いますよ」

「クズ野郎が……!!」


 このやり取りをきいていたアリサは、爪を噛んで険しい顔をしていた。

「剛君の元気がないと思っていたけど、まさか太郎君が一枚噛んでいるとはね……」

 アリサは口を一文字に結びながら話した。

「ひどすぎますよ! 日向太郎を失格にすべきです!」

 龍は太郎の卑怯な行動を許せなかった。

 闘いは正々堂々とあるべき。そのけがれない心がそう感じさせた。

「残念ながら出来ないんだよねー、それは」

「なんでですか!?」

「バトラの主となるのは実戦。実戦に反則負けがあると思う?」

「くそっ!」

 確かにアリサの言い分は反論する余地が無かった。

 でも、やっぱりおかしいよ……そんなの……。

 龍はアリサの言葉と自分の想いを頭の中で喧嘩させていた。

「しかし、端末を様々な武器に変形させるスペシャル、あれは予想以上に厄介だ」

 進は冷静に交流戦の滑り出しを分析していた。


 戦場では今まさに戦況が動こうとしていた。

「まずは一人目!」

 太郎は自分の卑劣な作戦により衰弱している剛を一気に仕留めにかかった。

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