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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
15/67

第十四伝「習得」

第十四伝です。何かを習得すると世界が変わって見えますよね。それでは、ご覧ください。

 交流戦をあと四日に控えたこの日。いつも以上に朝日が肌を照りつけていた。

 珍しい光景だった。邪化射ナーガと日向太郎が校庭で二人きりで会話をしていた。

「へー、進君たちがそんな練習を」

 太郎は先日、偵察により得た情報をナーガにリークしていた。勝利を揺るがないものにするためだ。

「ええ、別になにをしようが僕たちの勝利はゆるがないですけど、指導者が”拳撃の革命娘”の異名を持つアリサですからね」

「万が一のこともあると?」

「ええ、ですからなにかしら仕掛けておいてもいいと思うんです」

「僕たちが負けると思っているのか?」

 それは、チームメイトをもおびえさせるほどの圧倒的な恐怖だった。ナーガはただでさえ大きな黒目を一段と大きくした。

「それは大丈夫です……」


「起きなさーい! 何時だと思ってるの!?」

 龍は先日の特訓で精根を使い果たし冬眠するかのように深い眠りについていた。龍の母はぐっすりと眠りについている息子を強引に起こした。

「ねむー……」

 龍は嫌々ながらむくっと体を起こした。

「昨日、帰ってくるの遅かったけどなにしてたの?」

「特訓だよ!」

 それは、まるで自分が悪さをしているかのような口調だった。龍はそれにいらっとした。

「怪しいわね」

「本当だよ」

 俺は本当のことを言っているだけだ!なのになんで疑わられなければならないんだよ!

 あー!イライラいする!

 今日の龍の目覚めは決して良いものでかった。

「そう、じゃああなたを信じるわ。いってらっしゃい」

 まだ、疑っているような気もするけど仕方ない。

 いってきます。

 龍は遅刻気味になりながらも家を出た。


 朝日が妙に照りつける。龍は肌に熱を覚えた。炎を扱う龍にとっては矛盾するかもしれないが、龍は暑さが得意ではない。朝の暑さが龍をさらにイライラさせた。

 龍は額の汗をぬぐいながら通学路を歩いた。

「おらおらー、どけどけー!」

 この暑さをさらに助長するような暑苦しい声だった。

 剛はアリサに与えられた宿題である”転法をしながら移動する”を律儀に守っていた。ドタンドタンと騒がしい音を立てながら、転法で疾走していた。

「そういえば……」

 龍はふと昨夜のことを思い出した。

 昨夜、アリサ先生は俺に宿題を与えた。

 それは……

「なんでもいいから向かってくるものに全部十字守で受ける!」

 龍は閃いた。

 剛の転法を俺の十字守で受ける。

 むちゃくちゃではあったけど、とにかく実践あるのみ。

 特訓の成果が表れている綺麗な十字守だった。

「おい、龍じゃねえか! お前、ししょーの宿題やってねーじゃん!」

 さあ来るぞ……。

 剛は転法を止めることなく疾走を続けていた。

 相手をよく見る……。

 龍は剛の様子をじいっと見ながら集中した。龍は、ちょうど剛の体が十字守の交差ポイントに当たるように調整しつつ、転法をしながら走っている剛の真正面に立った。

「おい、邪魔だって!」

 このままじゃ当たっちまう……!でも、止められねえ……!

 剛は転法をマスターしたというには、程遠い。自分の転法を制御することができなかった。

「十字守!」

 十字に構える龍に剛は吸い込まれるかのように突っ込んでいった。

 ゴンという大きな音が朝っぱらから響いた。それは、綺麗な正面衝突だった。

「いてて! ぶつかっちまったじゃねーか!」

 剛の転法の勢いは相当なものだった。発動者の剛が、衝撃で座り込んでしまうほどであった。

 それほどの衝撃にもかかわらず、龍はしっかりと二つの足だけでしっかりと地を掴んでいた。

「! お前痛くないのか? かなりの衝撃だっただろ!」

 剛にとってはおかしな光景だった。

 なぜ、丈夫な俺が座り込んで、貧弱な龍が立っているんだ?

「痛くない! ありがとう、アリサ先生!」

 これでみんなに迷惑をかけないで済む。

 龍はアリサに感謝するしかなかった。

 剛は龍の妙な構えを目撃した。

 あんな技、師匠から教えてもらっていないぞ!はっ、まさか師匠は俺に内緒で龍に教えたのか!師匠は俺よりも龍に……。

「おい龍! 俺にもその技を教えろ!」

 剛は鬼気迫る顔で龍に言った。


「朝からうるさい、気が散る」

「(やっぱり恥ずかしい……)」

 進と凛もまたアリサから与えられた宿題を守っていた。二人の転法は先日よりも洗練されていた。

 ここに進チーム全員が集合した。

「おい、聞いてくれよお前ら! 龍の奴、転法もせずに妙な技を俺に使ってきたんだぜ!」

 剛は龍の妙な技を進と凛に報告した。3人で龍を責め立てる魂胆だ。

「どうせ、転法が出来ないから先生に代わりになるような技教えてもらったんだろ。筋金入りの劣等者だな、こいつは」

 見事なまでの完全回答だった。

 進はリーダーらしく、メンバーの様子をちゃんと見ていた。転法ができずに、一人だけ苦しむ龍の姿を。そんな龍を見てなんとかしてあげようとするアリサの姿を。

 進は全部知っていた。

「図星だよ」

「なに、新技だと!? やっぱりお前、ししょーと秘密の特訓を……!」

 剛は一人で騒ぎ出した。よほど自分に隠れて特訓をしていたことが気に食わなかったみたいだ。

「そういうことじゃないんだ、ただみんなの迷惑はかけたくないから……」

 迷惑をかけたくない。その一心だった。

「まったく、あなたは深く考えすぎなのですわ。男なんだからもっと堂々としてほしいものですわ」

 堂々とする。凛は龍の直すべき点がしっかり分かっていた。

 俺はみんなに支えられている。今度は俺が支えないと!

 交流戦をあと四日に迫っている朝、龍は交流戦で勝つことを心に誓った。

 交流戦まであと四日。


 ☆ ☆ ☆


 皆が同じ方向をむいて交流戦というゴールに走り出し、ついに前日の朝を迎えた。

 朝の実戦場。

 西日が照りつける厳しい気候であった。そんな厳しい気候にも負けず、練習用の丸太にひたすら剣を打ち込む一人の鉢巻男がいた。

 水堂黄河。彼は戦校きっての努力家。ライバルである邪化射ナーガに勝つために、日々鍛錬を怠ることはなかった。

「次は剣の素振り百回終わり! 次は腕立て百回!」

 それに、交流戦も前日に迫っていた。黄河の鍛錬はいつも以上にストイックであった。

 タオルで汗をぬぐいながら、太郎が実戦場にやってきた。

「やっぱりここでしたか。よくこんな暑い日にやりますよね。授業始まりますよ」

「ちょっと待つっす、素振り終わってから」

「僕にはなぜそこまでやるのか理解できません、相手は格下ですしそんな特訓やる必要ないでしょう。(かくいう僕は裏で手まわししますけどね)」

「そういう油断が命取りなんすよ、俺はあいつと戦うまで負けるわけにいかないっすから」

「ナーガ君のことですね」

「……」

「授業、行きますよ」


 この日は明日が交流戦ということもあって午前で授業が終わった。今日の特訓はみっちり午後全てを使うことができる。まさに、最後の追い込みにふさわしい日であった。

 言葉はいらなかった。龍、進、凛、剛はすでに実戦場で特訓を待っていた。

 アリサはそんな四人の姿を見てなんだか嬉しくなった。

「みんなも分かっていると思うけどついに交流戦は早いもんで明日となりました。ちんたらしてる暇ないから、凛ちゃん、剛君、進君の3人。転法がどれぐらい様になっているか見てあげる★ まず、凛ちゃん前に」

「はいですわ」

 凛に恐怖はなかった。恥を捨て昨日から欠かさず転法を使い移動した。

 努力は報われる。

 凛はその言葉を胸に戦場とも言うべきアリサの目の前に立つ。

「転法で避けてね、行くよ!」

 昨日同様、アリサは手加減の類を一切見せることなく、助走をつけ駆けた。アリサの靴と実戦場の砂が混じり合い、シャッシャと心地いい音が聞こえた。アリサは前へ跳躍した。そして、凛めがけてドロップキックをかました。

「危なかったですわ」

 華麗な転法だった。無駄一つないバレリーナのような美しい動き。スピードこそ遅いが交流戦レベルであれば十分通用する転法だ。

「形は綺麗だけど、もうちょっとスピードをあげればベターだね。次、剛君!」

「まってました、ししょー!」

 やっと師匠に良い所を見せれる……!

 そう思った剛はいてもたってもいられず、勢いよく前線に飛び出した。

 アリサは助走をさっきと同じ要領で剛にドロップキックをかました。

 一応は避けた。ただ、勢いがありすぎて前転してしまい、砂まみれになってしまった。

「つい、いいとこ見せようとしすぎちまったぜ!」

「速いけど粗すぎ、もうちょっと綺麗に凛ちゃんを見習いなさい」

「はい! ししょー!」

「次、進君!」

 進は威風堂々とアリサの目の前に現れた。この男に不安という類のものは一切感じられなかった。

 アリサのドロップキックを完璧に見切り、進はあっさりと転法で避けた。凛の転法の美しさと剛の転法のスピードを併せ持った完成に限りなく近い転法だった。とても、昨日教わったとは思えない完成度だった。

「完璧だね進君」

 アリサは拍手をして進のキレのある動きを称賛した。

 初めて見たときから天賦の才は感じていた。しかし、これほどとは……まさか、四日でマスターするとは……。

 アリサは心の奥底で進の才能に恐怖を覚えた。

「余裕だな」

 進は何事もなかったかのように後ろにさがっていった。

「そして、問題児の龍君。龍君は十字守で、さっきのみんなと同じ要領で行くよ!」

 一人で闘い、一人で技を生み出しきた龍にとって十字守は初めて人に教えてもらった技だった。言わば繋がりを感じることができる唯一の技。龍はこの技を大事にしたかった。十字守を何としても自分のものにしたかった。

「もちろんです、いつでも来てください」

 確実にマスターしてやる!

 龍の思いがこの自信満々の発言を呼んだ。

 龍が前線に立つと、実戦場はかつてない緊張感に包まれた。

 アリサは一直線に駆け抜けた。

 よく見ろ、よく見るんだ!相手を!

 龍はアリサの動きを瞬きひとつせず観察した。

 見えた! 右胸!

 そして、見事なまでにアリサの脚は龍の腕と腕が重なっている部分に吸い込まれていった。

 それは、だれが見ても成功だった。

「やるー★ どうやら十字守は龍君にとってピッタリの技だったようだね」

 アリサが独自に編み出した防御術・十字守。アリサはこの技を何としても広めさせたかった。しかし、後継者がいなかった。

 でも、今日新しい後継者ができた。アリサは思わず笑みをこぼした。

 進と凛、剛の三人も目をそらすことなく龍の見違えた姿を目撃した。

 チームの心配の種であった龍の躍進。

 これなら勝てる!

 チームの士気は高まった。

 これで、みんなに追いついた。

 龍はやっとみんなと同じ土俵に立つことができた気がした。龍は静かにガッツポーズをした。

「とりあえず歩法、防御法はひとまずいいとして、あなたたち大事なこと忘れてない?」

 大事なこと?新たな技を習得して、準備万端にも関わらず大事なことなんてあったか?

 龍はアリサの質問の答えを用意することができなかった。

「オーダーか」

 進は瞬時にアリサの言いたいことを理解した。進はずっと気がかりであった。誰と誰が交流戦で闘うのか。そのオーダーを。

「そう。明日の交流戦は先鋒戦、中堅戦、大将戦の三試合で先に二勝したチームの勝利。そして先鋒戦は二人一組のコンビ戦、ここが大事。大将戦はリーダーの進君で固定されているから三人をどこに配置するかなんだけど……」

「先生はどの配置がベストだと考える?」

「そうだね……」

 アリサは少し考えた後にこう答えた。

「先生は先鋒、凛ちゃん・剛君コンビ、中堅、龍君がいいと思うよ」

「私が剛君とコンビですの? いったいどういう吹きまわしで?」

 凛にとってこのオーダーは冗談ではなかった。

 コンビ戦すら乗り気ではないのに、よりにもよってペアがあのガサツな剛。

 とてもじゃないけど、このオーダーは受け入れられなかった。

 しかし、凛は大人だった。しっかり、アリサの言い分も聞くことにした。

「まず、凛ちゃんのスペシャルからしてサポート特化なんだからコンビ戦は決定かな。それで、どっちかなんだけど龍君はまだスペシャルを完璧に操れていない、味方に危害を加えるかもしれない。一方で、剛君は意外と周りをよく見ることができる。チーム戦タイプだよ」

 アリサの言い分は間違っている部分が一つとしてなかった。

「さすが、ししょー! 俺の良い所を分かってるー!」

 褒められた。師匠に初めて褒められた。

 アリサの何気ない一言は一人の青年を嬉しくさせた。

「いやですわよ、剛君とコンビなんて……」

 いくら先生の考えが正しいとしても、嫌なものは嫌だ。

 凛は頑なにそのオーダーを拒否した。

「先生の考えに同意だな。凛、これは勝つためのオーダーなんだ。頼む」

 進もアリサと全く同じオーダーを頭に描いていた。

 勝つためにはこのオーダーしかない。

 そう確信している進は、頭を下げ、多少のプライドを捨ててまで凛に懇願した。

「進様の頼みとあってはしょうがないですわね。いいですわ」

 進の懇願を凛が受けいないはずはなかった。

 オーダーは決まった。

「よし、決まりだね。今日は凛ちゃん・剛君の二人と龍君・進君は二人で別メニューだよ。龍君と進君は今さら新しいことをやってもしょうがないし、ひたすら私と組手」

「ししょー、俺らは?」

「あなたたち二人はデートしてもらうよ」

「えーー!!」

 デート?おい、意味が分かんねえよ!デートってなんだよ!デザートかなんかか?

 鉄剛。生まれて十六年弱。男臭いところで生きてきた彼にとってデートという言葉は無縁であった。

 交流戦まであと1日。

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