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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
12/67

第十一伝「亀裂」

第十一伝です。仲良い友達ほど亀裂って深くなりますよね。では、ではどうぞ。

 進の敗北から数日がたったある日。その日の朝の教室。

「進様今日も欠席?」

 凛は心配していた。

 進はあの日以来、戦校に顔を出すことは一度としてなかった。

「かもね……邪化射ナーガにやられたダメージは相当大きいよ」

 龍も凛と同じ気持ちだった。いや、間近で目撃したのだから凛以上かもしれない。

「進様を傷つけるなんて許しませんわ邪化射ナーガ!」

「しかし進をボコボコにした邪化射ナーガ、おもしれー! 一度手合わせ願いたいぜ!」

 凛と剛はナーガと闘う気を見せた。

 気持ちはわかる。仲間がやられたんだ。見過ごすわけにはいかない。

 だが龍は見た。邪化射ナーガという魔物を。この目で。だから、こう忠告した。

「やめたほうがいい」


 しばらくして、教室の扉が開いた。扉から殺気を感じた。

「進様!」

 進が教室に入ってきた。野望にみちみちとした眼で、殺気を体の全身から放出していた。

「もう大丈夫なのか?」

 龍は心配そうに進に話しかけた。逆効果だった。

「当たり前だ! あんな奴にやられっぱなしにされてたまるか!」

 進は珍しく荒々しい声を上げた。

 苛立っていた。生まれて初めての敗戦、龍に心配されたこと、とにかく全てに苛立っていた。

「はーい、みんな席についてー★」

 いつものようにニコニコしながらアリサが入室し、堂々とした歩き方で教壇の上にたった。生徒達はアリサに従い着席する。

 生徒がやられたのに呑気な野郎だ。

 進はいつもと同じように笑顔を振りまいているアリサにも苛立った。

 そんな進をよそに、アリサはいつもと違う話を切り出した。

「今日は授業を始める前にお話ししたいことがあるから聞いてね★ 一週間後にある毎年恒例の一年vs二年のチーム対抗の交流戦が今年も始まりまーす。そこで、このクラスから1チーム選抜したいけど参加したい人いるー?」

 交流戦だと?無理だ。二年相手に勝てるわけがない。

 生徒たちが口々にこぼしていた。

 さらに、アリサは話を続けた。

「ちなみに相手の二年チームのキャプテンは邪化射ナーガ君でーす★」

 進はアリサの言葉にモーターの電源が入ったかのように、目を思いっきり見開き激しく反応した。

 こうも早くリベンジ出来るとはな……。

 リベンジ。進は初めてこの言葉を頭の中で使った。俺は勝利に飢えていた。それも、敗北した相手から奪われた勝利を取り戻す。最高の展開ではないか。しかも、こんなにも早く……。

 進の体が震えていた。恐怖による震えではなく、武者ぶるいの方だ。

「誰もいない?」

 アリサが生徒に聞くなか……。

 一筋の光のように手が高々と教室に上がる。手の主は進だった。

 そして、手の主は宣言した。

「俺たちのチームがやりましょう」

 この時、龍は進の行動に目と耳を疑った。

 なぜもう一度闘おうとする?なぜまたあんな危険に逢おうとするんだ?

 平和が第一がモットーの龍にとっては考えられない行動だった。 

「進君のチームメイトはそれでいいの?」

 いや。だめだ。俺が反対しないと。

「いいっすよししょー! 俺はいつでも戦闘態勢だぜ!」

「はい! (進様とならどこまでも付いていきますわ!)」

 龍の思いむなしく剛と凛は快く承諾してしまった。

 だめだ、こいつらと一緒に過ごしていては命がいくつあっても足りない……。

 龍は急に彼らのチームメイトであることの不安感を抱いた。

「じゃあけってーい。二年生のチームにも伝えておくね★」

 こうして交流戦の一年代表が決定したのであった。


 その日の放課後。

「進、考え直せ! お前がまた邪化射ナーガに挑んでも返り討ちになるだけだぞ!」

 龍はとにかく説得して見せた。

 あんな化け物と闘うのはともかく、金輪際関わるのもごめんだ。

「俺をなめすぎだ! 俺がまたのこのことやられに行くと思うか?」

「そうですわよ龍君! 進様の強さはあなたが一番良く分かっているはずですわ!」

「しかも今度は俺たちがいるんだぜ、よゆー、よゆー」

 俺がバカだった……。

 こんな我が強い連中を説得できるはずは無かった……。

 次第に危機感がまるでない仲間に龍は怒りがこみ上げてきた。そも怒りが言葉となった。

「お前らは邪化射ナーガのことを直接見てないから言えるんだ! あいつとは闘ってはダメだ! それに、向こうもチームなんだぞ! ナーガクラスの人がもう三人いるかもしれないんだぞ!」

「弱腰だな、俺とぶつかった時とは大違いだ」

「そうですわ、最近は無くなったと思ったのに逃げ癖の再発ですわね」

「お前のそういうところは嫌いだぜ」

 龍の思いは三人の心に全く響かなかった。それどころか、龍の言葉に嫌悪感を覚えた。

「いくぞ凛、剛」

 進は龍を置いて、凜と剛と共に帰ってしまった。龍の目に映った3人の背中は遠く、重いものだった。

 くそが!俺は何も間違ったことは言っていない!!


 龍は下を向きながら、一人寂しく帰った。龍はふと3人の背中を思い出した。

 俺はこのまま友達まで失ってしまうのか……せっかく出来た友達なのに……。

 龍は後悔した。言い方というものがある。もっと柔らかい言い方をしていれば良かったのかもしれない。


 家に帰ってきた。いつものように母が玄関まで迎えにきてくれた。

「お帰りなさい龍。なんか元気ないわね」

 15にもなって親に心配されるなんて情けない息子だよ。

 それに、理由も情けない。でも、親に隠している方がもっと情けない。

「実は……」

 龍は今の自分が置かれている状況を母に赤裸々に告白した。

「確かにあなたの主張は間違ってないわ。誰だって危険は避けたい、でもあんたバトラになるんでしょ?」

「そのつもり」

「だったら危険はつきもの。危険に慣れるための練習だと思いなさい。それに、戦校が管理してる闘いなんだからもしもの時はだれかが止めるだろうし大丈夫よ」

「それもそうかもしれないけど、俺はみんなが心配なんだ」

「あんた友達が出来ていい気になってない? 友達って言うのはね”信じあう”ものなのよ。今のあなたは友達を信じていない、あなたは一回友達を信じなさい、そうすれば友達もあなたを信じてくれるわ」

 さすがは人生経験が豊富な母だった。息子の悩みを的確な助言でいとも簡単に解決して見せた。

 信じる……か……確かに俺は最近あいつらの力を信用してなかったのかもしれないな。みんなの強さをよくわかってる俺なのに……。

「ありがとう母さん! 俺みんなを信じるよ!」

 体のありとあらゆるところに付着したモヤモヤが一気に吹き飛んだ。

「そのいきよ。頑張れ龍!」

「うん!」

 ありがとう。母さん。

 龍のもやもやあ母という魔法でいとも簡単に吹き飛んだ。


 ☆ ☆ ☆


 翌日。

 龍は昨日とは対照的に晴れやかな表情で教室に現れた。龍はすぐさま、進、凛、剛の三人の元に向かった。

「みんな昨日はごめん、交流戦頑張ろう!」

 龍は仲間とともに交流戦に参戦する決意を表明した。

「そういうお前のほうが似合ってるぜ」

「あら、もうちょっとへこんでると思ったのに」

「当たり前だ、お前がなんと言おうとやるつもりだ」

 すべてのピースが交流戦に参戦するという同じ方向を向いて揃った。

「俺は信じるよみんなを」

 龍達の新しい闘いが始まった。


 邪化射ナーガ率いる二年チームのメンバーは邪化射ナーガ、邪化射ナギ、水堂黄河、日向太郎の四名だった。

 二年チームに対戦相手である一年チームのメンバーの情報が伝わった。

「やはり来ると思ったよ雷連進、プライド高い君のことだ負けっぱなしは性に合わないだろうからね♪」

 すべてが邪化射ナーガの計画通りだった。プライドの高い進を潰すことによって、必ずリベンジしにくる。

 そして今度こそ潰す……!

「鉄剛の名前もリストにありますね。これに勝てば僕の主席卒業は決定的ですから関係ありませんね」

 日向太郎は成績にこだわるタイプだ。成績が上がるようなことはすべてやってきた。戦校会長や、今回の交流戦もだ。この一戦は何が何でも落とせない。

 すべては将来のため……!

「(凛ちゃんの名前も、出来ればあなたと戦いたくなかった……)」

 邪化射ナギは凜とは闘いたくなかった。

 せっかく友達になれそうだったのに……!

「龍の名前があるっすね。これは面白くなりそうっすね交流戦」

 水堂黄河は興奮していた。楽しみだった交流戦の対戦相手がこの前出会い興味を持った龍だったからだ。

 早く闘いたい……!

「一撃龍ってあの炎の子か。まさか同じチームとは、確かに面白くなりそうだね黄河」

「龍のこと知ってるんすか、ナーガ?」

「少しね」

「ダメっすよ、龍は僕の獲物っす」

「構わないさ、むしろそのつもりだよ。黄河と彼は相性ばっちりだからね♪」

「それよりナーガ勝負っす。今日は腕立て伏せ!」

「それじゃあ黄河に勝てないな、僕の負けだよ」

「やったー。これで20勝15敗っす!」

 雷連進、君は今度は大勢の前で恥をさらすこととなる。交流戦がお前の墓場だ……!!

 交流戦まであと7日。


 ☆ ☆ ☆


 翌日。

 アリサは校庭が一望できる戦校のデッキに景色を見ながら佇んでいる細身の男に話しかけた。

「交流戦よろしくお願いしますね、白連氷(はくれんひょう)先生」

「……君が1年チームの担当か」

 少しの間をおいて男が振り返った。まるで女のような、肩ほどまで伸びている長い銀髪。目の下にはクマができていて、頬がこけているいかにも不健康そうな顔だった。

「は、はい」

 近くにいるだけで凍えるような寒さだった。

 冷気。確かに氷という男から冷気が出ていた。

「……よろしくお願いします。しかし、正直この交流戦は不公平だ、1年じゃ正直うちらの生徒には歯が立たないでしょう。観念した方がいいでしょう、1年だけに」

 今のはダジャレ?

 どちらにしても寒すぎる!

「そんなことやってみないと分からないじゃないですか!」

 アリサは子供のように負けず嫌いな性格。氷の決め付けたかのような言葉にカチンときた。

「……まあ、いいでしょう。やめるなら今のうちですよ」

「失礼します!」

 絶対に勝ってやるんだから!

 そう心に決めたアリサは、ドスドスと騒がしい足音を立てながら、氷のもとを立ち去った。


 アリサは早速、その日の放課後に動いた。

「今日はこれで終わりだけど、進君と龍君、剛君、凛さんは私のところに集まって」

 それは、アリサ直々の収集だった。

 生徒たちが次々に帰る中、収集された4人はアリサの前に集まった。

「ししょー直々の呼び出し感激っす!」

 剛は手を前後に振りながら興奮していた。初めての師匠直々のお呼びだったからだ。

「なんでしょうか?」

 凛は不思議そうな顔でアリサを見つめていた。

「あなたたち、これから時間ある?」

「ありますわ」

「大丈夫です」

「ししょーのお誘いとあらばたとえ火の中水の中!」

「何をするか話してもらおうか?」

 こっちは時間が惜しい。早くナーガをリベンジするために強くならなければならない。残念だが、教師の用事に付き合っている暇はない。

「あなたたちが交流戦に勝てるように私が直々に稽古つけてあげる★」

 アリサが考えたこと。それは直々に稽古をつけることだった。

「ついにししょーから直接指導を受けられるなんて!」

「お願いしますわ」

 剛と凛は嬉しそうに答えている。

 稽古か。えらそうに。いつもノーテンキに過ごしている奴がよく言うぜ。正直、ただの教員がなにかできる闘いじゃないんだよ。

 進はアリサのことが気に入らなかった。

「言葉を返すようだがあんたはただの教員だ、はっきりいってこれからやる実戦には役不足だ」

 言ってやった。

「あら、バトラでもないガキが良く言うじゃん」

 アリサが珍しく威圧した。さすがに、進の発言には我慢できなかったようだ。進は少し物怖じした。

 どうやら、ただの教員ではないようだな。

「こらー! お前ししょーに向かってなんてことを!」

 こと、アリサのことになると剛は黙っていることはできなかった。師匠に失礼な態度をとったやつは成敗しなければな。

「すみません」

 進はアリサに謝罪した。さすがに、教員に対し失礼な態度をとったことを後悔した。

「ちょっとしか見てないけど先生は強いよ進、だからいい練習になると思う」

 これが龍ができる精一杯のフォローだった。


 実戦場。

 戦校の裏にある大きな敷地。面積は非常に広く、運動会が余裕でできそうな広さ。不自然に作られた空き家や塀などがあり、左方向には数枚の葉が浮いている池、右方向には武具の練習用と思われる立派な丸太が置かれてある。後方には一度迷えば帰ってこれないような森が広がっている。

 戦校ってどんだけ広いんだ?

 四人はそんなことを思ながら、戦校の足場に踏み入れた。

「ここは実戦場と言って実戦に近い戦闘が行うことが出来るんだよ。ここには自然にできた小さな森、人工的に創られた空き家や塀があって、こういうフィールドを駆使しながら戦うんだよ」

 なるほど。実戦に近い環境で闘うことができるのか。

 龍はすぐに納得することができた。

「くそー、そういう頭使うのは性に合わないぜ!」

 剛は直感で闘うタイプ。こんな障害物は邪魔でしかなかった。

「まだ、そういうことは考えなくていいよ。まずは基盤である身体能力を上げる。どんないいスペシャルを持っていたって身体能力が低いと闘いに勝つことはできない。例えば短距離走でもまったく練習してない人がどんないい靴を履いたって、オリンピック選手には勝てない」

「さすがししょー、分かりやすい!」

「といっても、まだあなたたちの実力が分からないから、ちょっと見ようかな★ 対戦方法はシンプルでいいよ、全員で私を倒して。四人同時に来てもいいよ★」

 それは明らかな挑発だった。挑発なんかには乗らない。

「その必要はない、俺一人で行く」

 進はあっさりと挑発に乗ってしまった。

 進は勝利に飢えていた。とにかく、早めに直近の成績を白星に変えたかった。

 誰でもいい!俺に勝利をくれ……!!

「お前、個人プレーもいい加減に!」

 剛が進の肩を掴み、止めようとした。

 進は剛の手をあっさり振り切った。今の進は誰にも止められることはできなかった。

 そんな剛に龍はこう言い聞かせた。

「練習なんだしいいじゃないか、それに進vsアリサ先生面白そうじゃん」

 「それもそうだな!」

 アリサvs進の注目の一戦が始まった。

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