第三話:賭けられたファースト・キス 3
我が校のトイレは、東階段の横が男子専用なら西階段横は女子専用という具合になっているんです。
さらによくないことに、階ごとに男女が逆だなんて。
だいたい、校舎なんてコンクリートの四角い入れ物、どの階もまったく同じ造りなんだから始末におえない。
まさに、今日は、悪条件が重なった。
一つ、家庭科の授業で、自分のクラスの真上にある家庭科室に来ていたということ。
二つ、家庭科室にいたのを忘れて、始業チャイムの鳴る間際に慌ててトイレに行ったこと。
よって、自分の教室にいると勘違いしたわたしは、駆け下りる必要もなかった階段を大急ぎ
で駆け下り、思い切りドアをあけてしまったのです。
開いたドアの向こうに広がる男子用の便器の列。
人影。
急いでこの場を立ち去ろうとしたけど、時すでにおそしドアは閉じられていた。
「浅田さん」
聞き覚えのある声の方に視線を向けると、それは広瀬先輩だった。
「あっ、すみません! あの、何も見てませんから」
なにいってるんだ、わたしったら。
思い起こせば三ヶ月前、入学式にも同じドジをした。
あの頃は右も左もわからない校舎で、男女一緒なのかと思ったのだ。
「二度目だね、トイレで会うの」
「えっ?」
あの時いたのも先輩だったの?!
う、うそー! ありえない!!
「浅田さんて男だったの?」
「いえ、あの、そのー」
なんときりかえしたらよいのかわからないセリフに戸惑った。
その上、沙羅と良の賭けを思い出して、ますます顔が火照ってくる。
「あははは、冗談だよ、冗談」
「先輩でも冗談いうんですか?」
「俺だって冗談くらいいうさ。食事もすればトイレにもいくし、寝たりもする。アイドルじゃ
ないからね」
「えーっ! 寝るって女の人と」
いってしまってから後悔した。
居候のイオが来てから、あいつの変態的思考がわたしにうつってきたみたいだ。
ただでさえ、穴があったら入りたいって心境なのに。
こんなことなら、イオとであったトイレの空間に残ってたほうがよかった。
「す、すみません! 失礼します」
頭を深く下げるとトイレを飛び出した。
おんぼろ自動車ででこぼこ道を走っているかのように、身体中が小刻みに揺れ続けていた。
よって、そのあとの家庭科の授業など、まともに受けられるはずもなかった。