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第三話:賭けられたファースト・キス 2

 たしかに傍から見れば、わたしが広瀬先輩に気があるように取れる。


 毎日毎日剣道部の稽古に通いつめて、普通だったらそう思うよね。


 でも、通っていたのはイオなのだ。


 そして、イオが見つめていたのは広瀬先輩。


 そういえば、先輩を見ているとわたしの心臓は全力疾走したあとみたいだ。


 ひょっとしてあれが恋のときめきっていうやつ?! 


 あ、あれはイオの心に同調しているだけで。


 じゃぁ、あいつが先輩に恋しちゃってるの?


 まさかぁ、あいつは男だし、先輩も男。


 もしかしたらイオは女?


 イオはエイリアンだから地球の常識は当てはまらないのかもしれない。


 いや、エイリアン自体に男と女の区別があるかどうかも分からない。


 え〜っ、どうなってるの?


 わたしの頭の中を止めどもない疑問が猛スピードで駆け巡っているなか、良の声が聞こえてきた。


「で、剣道部とはどうなってるんだ? 告白したのか?」


「え〜っ、沙羅、そんなの許さない! 伊緒乃ちゃんが、男の人と手つないだりキスしたり、

あんなことしたりこんなことしたり※?$☆%&#!! なんて絶対いやだも〜ん!!」


「なんでそういう話になるの!」


 慌てて二人の会話を断ち切ろうとした。


 放っておいたら、二人の妄想はますますエスカレートするに違いない。


「まあ、あたしとしちゃ、剣道部と伊緒乃が上手くいってくれた方がいいんだけど。 でも、まあ、無理だね。こんな、色気もなにも無い女に、男が寄ってくるわけがないって」


「そっか、沙羅あんしん」


「伊緒乃には初体験どころか、ファースト・キスさえ千年経っても無理ってとこか」


 なんで良は、こんな内容の会話でも事務的にしゃべるんだ!


「わ〜、よかった。あ、でも〜、千年経ってキスしちゃったら、沙羅、いや〜ん!」


「ちょっと待った。それじゃあ、わたしがちっとももてないみたいじゃないの」


「違う?」


 良がさらりとかわした。


「なによ、男の一人や二人、キスのひとつやふたつ」


「ひとつやふたつねぇ〜」


 良の人を馬鹿にしたような物言いが、わたしの神経を逆なでする。


「じゃぁさ、賭けない?」


「望むところだ!」


 勢いに任せて賭けに応じてしまってから後悔した。


 これって、いつものパターンにはまっているみたい。


 “あかずの厠”のときと同じだ。


 そう、あの時点で、もっと冷静になっていたら、今みたいな最悪の事態にいたらなかったは

ずだ。 妙な宇宙人がわたしの身体に居候するなんて、非現実的な状況に。


 そんなわたしの思いをよそに、良は勝手に話を進める。


「一週間以内に伊緒乃が剣道部とキスをする」


「えーっ!」


「そんなのだめ! 沙羅が許さないもん!」


「どうせできっこないんだから、沙羅は心配しなくったって大丈夫だ」


「あっ、そうか」


 沙羅のやつ、簡単に納得するなっていうんだ。


 なんか、当たっているだけに虚しいじゃないか。


「一週間後には、沙羅の大好きなジャンボ苺パフェが食べられるぞ」


「やったぁ! どうせ、伊緒乃ちゃんにキスなんて出来るはずないものね。先輩ってもてるの

に誰とも付き合わないんでしょ。 だったら伊緒乃ちゃんを好きになる、な〜んてありえないもんね」


「ただ、この惑星には“蓼食う虫もすきずき”ということわざもある」


「なにそれ〜」


「もう、二人してわたしのことばかにして。 やりゃぁいいんでしょ。 やってやろうじゃん、キスだろうが接吻だろうが!」


「あの―、お取り込み中、大変申し訳ございませんが、そろそろ授業を始めてもよろしいでしょうか?」


 いつの間にか古文の中森先生が目の前に立っていた。


 クラス中が嘲笑の渦に巻き込まれた。


 わたしはまるで南極の氷の海に飛び込んだ気分だった。


 ペンギンになりたい。


『バーカ』


 イオの言葉がわたしの身体の中に空しく響き渡った。


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