第三話:賭けられたファースト・キス 1
朝、教室に入るといつも以上に騒がしかった。
特に女子たちがざわついている。
「ねえ、聞いた」
「新しい担任、今日からでしょ?」
「イケメンだって!」
そんな話し声が、あちらこちらから聞こえてくる。
チャイムが鳴ると、みんな慌てて席についた。
そして、前のドアがひらくとスーツを着た男性が入ってきた。
みんなが浮き足立っていたのも頷ける。
中央まで来ると黒板に九条龍之介と書いた。
「今日から山川先生に代わって、きみたちの担任になりました“くじょう、りゅうのすけ”で
す。 よろしく」
九条と名乗る男性が教壇に立ってこちらに振り向いたとき、どこかで会ったそんな気がした。
教室中が静まり返っている。
すべてのクラスメートが、九条先生のあまりに浮世離れして整いすぎた姿かたちに目を奪わたからだ。
どこかで。
こんな美形を忘れるはずはないのに、思い出せない。
先生と眼があった瞬間、ほんの一瞬だったが先生が眉間に皺を寄せたように見えた。
『そうだ、あのときの人に似ていると思わない?』
わたしはわたしの中のイオに問いかけた。
そう、イオに初めて会ったとき、イオは九条先生に似た人の映像をわたしに見せた。
あの美しい男性はブルーの瞳に金髪だった。九条先生は黒髪に黒い瞳、どう見ても日本人だ
けど、確かに似ている。
『ねえ、イオ』
イオはなにも返事をしない。
「……のちゃん、ねえったら」
前の席の沙羅が振り向いて、わたしの机の上に両肘をつき手のひらの上に頭をちょこんと乗せてわたしを見ていた。
いつの間にか朝のホームルームも終わり、新しい先生はいなくなっていた。
「あっ」
「ぼ〜っとしちゃって、どうしたの? 伊緒乃ちゃんも先生に見とれちゃってたの?」
「ち、ちがうって」
「伊緒乃ちゃんたら気多いんだから。 伊緒乃ちゃんには沙羅がいるんだから浮気しちゃだめでしょ」
沙羅はぷっくらとした赤ちゃんのような手で、包み込むようにわたしの手を握り締めた。
その手を引き離す大きな手があった。
「良ちゃんたら邪魔しないで」
「伊緒乃には剣道部がいる。その上、新しい教師にまでうつつを抜かすような浮気者は、沙羅に手を出す資格はない!」
「剣道部って、広瀬先輩? 先輩も先生も関係ないと思うけど。 それに、沙羅に手をだすなんて気、さらさら無いから」
「沙羅、てぇ〜だして欲しい!」
「伊緒乃は剣道部のことが好きなんだ」
二の句が継げなかった。
考えてもみなかったからだ。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
一応、全体の1/3程度までやってきました。
書きあがってはいても、ああしたほうがいいかなこうしたほうがいいかなと悩んでばかりです。
ほかの小説たちも書きあがっては直してしまい、とりとめもなくなってしまいます。
こんな私の相談にのってくれるという、奇特な方がいらしたらご連絡ください。