第八話:一件落着してないぞ 2
あと2話でたぶん終わります、っていっておきながらそのまま2ヶ月間ほったらかしてしまいました。
待ってていただいた奇特なお方、今まで待たせてごめんなさい。
やっと終わらせます! 2話には分けずに今日が最終話です。
「私も浅田さん目当てでここへやって来たのですが、イオが先に入っていたのは大きな誤算でした」
「おまえに伊緒乃はやらねえ!」
わたしの身体でイオが言う。
「ちょっとまった!!」
突然わたしは大声を上げてしまった。
「問題はわたしのことじゃなくって、レナさんのことでしょ!」
「そうだ、そうだ!」
沙羅が面白半分に口を出す。
「レナさんが記憶喪失になったのって事故のせいだけじゃないんじゃないの?」
「そうだ、そうだ!」
「イオとアールのせいじゃないの? だいたい、イオには乙女心というものが全然わかってない!」
「そうですね」
アールが他人事のように言う。
「当事者のイオより、浅田さんのほうがよくわかってらっしゃるようで」
「そうだ! 決闘だ! 一人の女性を取り合うには決闘だ!」
沙羅がはしゃぐ。
決闘だなんていったいつの時代の話をしているんだ、沙羅ったら。
う〜ん、だけど……
青春ドラマによくあるよね、殴り合いのけんかしたあと二人が仲良くなっちゃうなんて。
はあ? そういえば今の時代に青春ドラマなんて存在するのか?
こんな時に、なに考えてんだ、そんなのどうでもいい。
三人がもとの仲のよい幼馴染に戻ってくれればなんだって。
もう、こうなりゃやけくそだ!
「二人でとことん戦えば! わだかまったままずるずるしているよりすっきりするかもしれない」
沙羅の意見に賛成したものの、宇宙人の決闘とはどんなものなのかわからない。
それにやけになって言っては見たものの、そんなことでイオとアールのこじれた問題が解決するとも思えないが……
というよりも、一番肝心なのはレナの気持ちじゃないのかな?
「そうかもしれないですね。 では、行きますよ、イオ」
えっ、なに? 納得しちゃったの?
「望むところだ!」
イオとアールの視線がぶつかり合いバシバシ火花が散ってるって感じ。
熱血スポ根アニメだったら絶対瞳の中に炎が燃えてる。
え〜! どうなっちゃうの!?
その時、体育館内がカーレース場に変わった。
小さな車が二台。
?????
スタートの合図とともに走り出した。
なにこれ?
普通、戦いといえば殴り合いの喧嘩なんじゃないの?
そして、二人ともぼろぼろになったあとで仲直りしちゃうんじゃないの?
それが、ドラマの常識でしょう。
先輩がくすりと笑う。
「変わらないわね、二人とも」
『えっ?』
『子供の頃から二人ともこれが好きなのよ』
『レナさん?』
『始まったわ』
青い車が赤い車を追い抜くと、赤い車はスピードをあげ青い車の横につけると体当たりを始めた。
『イオの車が』
『赤い方。 負けず嫌いだもんね、あいつ』
『そう、伊緒乃ちゃんはイオのことわかっているのね』
『まあ、一心同体ですから』
目の前では暴走した二台の車のバトルが展開されていたはずだが、いつの間にか車が怪獣に変わっている。 しかも、次第に巨大化していく。
『なに、これ? イオだけならばいざ知らず、先生の性格もこんななの?』
宇宙人の決闘ってすっごくばかげていない?
『イオってね、超エリート家系の跡取なのよ』
『うっそー!』
『様々な能力も長けているしね』
『信じらんない。 アールの方がエリートだっていうならわかるけど』
人は見かけによらない……いや、性格によらない……まあ、とにかく今のイオからは想像がつかない。
バトルは天候戦に変わっていた。
大雨や雷、地震や吹雪、炎に稲妻!
あめあられ※→%&!!
もう体育館内は上や下への大騒ぎ、ひっちゃかめっちゃかの右往左往、ごちゃごちゃになっていた。
これって、現実に起こっているわけじゃなくって、幻想を見せているだけらしいのだけど。
『わあー!』
肉体的に結構きつい。
熱いし、寒いし、目はチカチカ、しんどいし!
『あっ! あの〜、レナさんてアールを追いかけてきたっていうけど、本当はイオの事が……わあー!』
突然雪崩がわたしに襲い掛かってきた。
肉体のわたしではなく、精神の世界でのわたしにだ。
今繰り広げられているイオとアールのバトルは、現実ではない、幻想の世界だ。
そう、現実ではないと思い込もうとしても怖さが襲ってきた。
「浅田さーん!」
先輩の声ととともに羽毛に包まれたかと思ったら、現実に引き戻されていた。
気が付くと倒れているわたしの上に覆い被さるように先輩が倒れていた。
「せ、先輩」
先輩は床につけた手を伸ばすと、わたしから身体を離した。
「大丈夫だった?」
「うん。先輩にも見えていたんですか、あの景色」
なんだか、こんな体勢のまま話しているのもなんだか恥ずかしくって、起き上がろうとしたが身体がなんだかコンクリートで固められてしまったように重くて動かない。
「伊緒乃……」
先輩の息が首筋にかかる。
ちょっと待って! 心の準備が、
ってそういう問題じゃないって。
先輩の顔が上からわたしを見つめる。
「やめて、レナ!」
これって、先輩とレナが同化し始めているって事?
先輩の顔が目の前に迫ってきた時、突然大声が響き渡った。
いや、声ではなくレナのテレパシーだ。
『じゃましないでよ!』
『どういうつもりだよ!』
イオとレナの言い争う声。
それと同時に先輩が飛びのく。
『わたしは彼と同化する事に決めたのだから』
『なにバカなこといっているんだよ』
『バカなのはイオの方よ。 鈍感なんだから』
ちょっち、ちょっち待って、これってわたしの中で二人は言い争っているわけ?
『彼の身体に戻るのだから放してよ! これからは彼になるのだから』
『それで、どうするんだよ。 そんな事をしたら、彼が死ぬまでレナ自身に戻る事は出来ないんだぞ。 レナは家を捨ててまでアールを探しに来たんだろ』
「きみは本当にバカだな」
いつものごとく人事のように冷静な九条先生。
「ああ、バカだよ。 許婚を親友だと信じていたおまえに取られたのだからな」
「それがバカだというのです」
「なんだと! まだやる気か」
「レナはきみの事が好きなのですよ」
わたしもそう思う。
「なのにイオは家同士が勝手に決めたことだからと反発していたでしょ。 レナは淋しかったのですよ。 だから、きみに焼きもちを焼かせようとして。 そして今、広瀬君の身体に戻ろうとしているのは、イオの好きになった人を奪ってやろうと思う嫉妬心と、それとは裏腹に他人の身体を通してでも君と結ばれたいと思う女心のいじらしさ」
「なに勝手に詮索しているのよ!」
わたしの身体を通してレナがしゃべった。
あ、あの、今さらっと流れちゃったけど、結ばれるって?
『イオの好きな人って、レナじゃないの?』
「浅田さんも自分のことになると、うといようで」
「そこがかわいいのよね〜」
「な、なによ、沙羅まで」
あの日、急転直下のどたばたから数日立った日。
『前に、風呂で洋ナシなんて言ってごめんな』
あいも変わらず、イオはわたしの身体に居候している。
『いいよ、別に気にしてないから』
「伊緒乃、今日は部活がないから一緒に帰ろう」
「せ、先輩!」
レナは今も広瀬先輩の中にいる。
先輩がわたしの手をつかむ。
いや、これはきっとレナだ、先輩はこんなことはしない。
すぐに先輩は慌てて手を放す。
今先輩に戻ったのだろう。
わたしてきにはもう少し、手をつないでいたかったんだけど。
『あ、あの、なかなかよかった』
イオが言った時、レナが唐突に話題に割り込んだ。
『何がよかったの!』
『わっ!』
先輩と同化しないように、時々レナは同化のしにくいわたしの身体に勝手に入りこんでくる。
その度にレナとイオは大喧嘩をする。
わたしとしては、まったく大迷惑である。
「伊緒乃ちゃんは沙羅と一緒に帰るの」
わたしの身体に沙羅がしがみ付く。
童顔のくせに大きな胸がわたしの背中でぷよんぷよんと躍る。
「離れろ!」
良はいつものごとくわたしを沙羅から引き離そうとする。
だがイオは沙羅の胸の感触を楽しんでいる。
これではレナが焼きもちを焼くのも無理からぬ事。
「ああ、ここにいたのか広瀬くん、ちょっと部活の事で……ううん? あっそうそう、浅田さんに用があったのです」
九条先生の魂胆も見え見えだ。
間違いなくレナに会いに来たのである。
それにしても、ますます妙に絡まったこの複雑な関係は、いったいどんな関係というのだろう?
ふぅー、終わりました。
第二話で出てきた大友くん、本当は名前を出そうかどうしようか迷ったのですが、出したのに出番はあそこで終わってしまいました。
本当は話にもっと絡ませたかったのですが、あきらめました。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
お付き合いついでにコメントなどを頂けましたら、作者、小躍りして喜びますので。
よろしくお願いします!