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第六話:ふたりっきり 3

 話がしたいといっておきながら、イオは一言もしゃべらない。


 静かな時間が流れていく。


 でも、わたしの心は穏やかじゃない。


「ねえ、広瀬先輩、ブランコに乗りませんか?」


 小さなブランコに座った。


 子供用に出来ているブランコは、大人に成りかかったわたしにはちょっと窮屈だった。


 わたしはブランコの上に立ち上がり、こぎ始めた。


「わあ! ひさしぶり! 子供の頃って、こいだまんま飛び降りたりしませんでした?」


 先輩はブランコの周りの柵にもたれていた。


「子供の頃って無茶してたんですね。 今は怖くって飛び降りるなんてできないです」


 ブランコを止めて降りると、ちょとだけ先輩の横顔を見た。


先輩から少し離れた柵の上の反対側から腰を掛けた。


『ねえ、イオ、話すことがあるんじゃないの?』


 イオの返事は返ってこない。


 その代わりに、なんだかわからないもやもやしたものが伝わってくる。


 なんか綿ぼこりを喉に詰まらせているようなそんな感じだった。


「田舎へ行った時、いとこに星空を見に連れていてもらったんです。 すごく沢山の星が輝いていて、あんな星の数を見ていたら宇宙人がいてもおかしくないだろうなって思えて。 あの、先輩は宇宙人を信じますか?」


 唐突で変な質問に先輩は困ったように眉をひそめた。


 でも、ここでいわなくっちゃ。 今いわないで、このまま先輩とレナが同化しちゃったらいやだ。


「あの、わたしの中に宇宙人がいるんです」


 わっ、わっ、わっ、唐突すぎるんじゃない?


 自分でいっておきながら、パニックった。


 で、でも、いわなくっちゃ。


 こんな話、レナの記憶がない先輩には、ばかげた話にしか聞こえないだろうけど。


「先輩の中にもレナっていう宇宙人がいて、レナと九条先生が恋人同士で、だから、だから、だから、先輩悪くなくって」


 吐ききって苦しくなった呼吸を整えた。


「だから」


「俺、時々記憶が無くなる時があるんだ。 でも、それが宇宙人のせいだとは思ってないから。浅田さんが俺を気遣ってくれる気持ちはうれしいけれど」


「本当なんです。 冗談じゃないです」


「ありがとう」


 先輩は歩きはじめた。


『ねえイオ、なんとかしてよ。 これじゃ、先輩傷ついたまま帰っちゃうよ』


『レナ』


 イオがテレパシーを送ると先輩は立ち止まった。


『俺だよ、イオだ』


 先輩は振り向いた。


「イオ?」


「もう思い出してくれているだろ、俺のこと」


「知らない」


「そんなはずはない、記憶は戻っているはずだ」


「そうね、イオはなんでも知っている」


「その体に入って、もう一年以上経つんだろ。 そのまま、そこにいたらそいつと同化してしまう」


「そうね、それもいいかも」


「なにいってるんだよ、アールは見つかったんだし……。 同化してしまったら、そいつが死ぬまで、もとに戻れなくてしまう!」


「思い出さない方がよかった。 あなたとのこと」


「そうだな、初めから俺たち許婚でもなんでもなければ」


「ふたりして、イオを裏切らなくって済んだ」


「そうだ、レナとアールは堂々と付き合えた」


 イオには先輩を通して、彼女の姿が映っている。


―違うよイオ、そうじゃない。 レナの気持ちをイオはわかっていない。


「イオ、あなたはいつも正しい、エリートさん」


 この広い宇宙にたった一人取り残されたように淋しげな微笑を残して、彼女は去っていった。


 レナは……


虚しさだけが身体いっぱいに溢れそうになった。


 わたしは空を見上げた。


薄明るい空には申し訳程度にともった星が揺れていた。


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