第四話:三角関係!? 4
彼らがいなくなった後、わたしは地面に仰向けに大の字になって転がった。
もう、すっかり暗くなった空には星が輝き始めていた。
なんか気持ちいい。
大地に寝転んで、土の香りをかぎながら星を見るなんて、なかなかないもんね。
わたしの身体は、わたしの意志のもとに戻ってきていた。
なのに、痛みはまったくなかった。
きっとイオが痛みの全部を背負ってくれているのだろう。
「なぜわざと負けたの?」
な・ぜ。
聞くまでのことはない、わたしの負けてしまえと思う心に彼は反応したのだ。
いつもは饒舌なイオが、今は黙り込んでいる。
イオの気持ちも伝わってこない。
まるで彼がいなくなってしまったのかと勘違いするぐらい。
ただ、感覚の無くなった身体だけが、いまだにわたしの中に彼が存在していることの証だった。
なんだかそれって、変な気もするが。
喧嘩をしたばかりの疲れも無いのに、起き上がることが出来なかった。
さっきまで、ジィージィーと耳障りな音を立てて不規則に点滅していた街灯が切れて、真っ暗になった。
暗くなった空には、いつもより少しだけ増えた星が瞬いていた。
『ねえ、イオのいた星ってどれ?』
『見えないよ』
『そんなに遠いんだ』
まあ、都会で見える星の数なんてたかが知れてるけどね。
でも、なんか、改めて宇宙の広さを感じた。
そうだよね、今までイオみたいな宇宙人が実在するなんて想像してもみなかった。
いたら面白いな、ってくらいで。
だけど、宇宙って広いんだよね、どんな生物がいたっておかしくない。
『レナと俺は、家同士が決めた許婚』
『えっ、でも、九条先生はレナとアールは恋人同士だって』
『そう、だからそのことがばれて、アールは地球へ追放されたんだ』
『レナにはお咎めがなかったの?』
『アールの身分は俺たちより低いから、罪を問われたのはアールだけだ。 だけど、それって、なんか納得できなくて俺はレナを連れてアールを捜しに来たんだ』
『科学がいくら進歩していても、身分制度はずいぶん古めかしいのね』
『そういう地球人こそ』
確かにそうかも、民主主義っていっていながら、いろんな特権階級がいたりして。
『ちょっとまってよ、罪人のアールが地球へ追放されたってことは、地球は流刑地ってこと? そうか、最近日本の治安が悪くなったのは、イオの星の罪人たちが来ているからか』
『それは、違うと思うけど』
『どうして? だって、悪い宇宙人がいっぱい来てるんでしょ』
『いっぱいってほどは、それに極悪人は地球に来てないし……アールだって悪いやつじゃない。 ただ、いけ好かないやつだけど』
そういいながらも、なんだかイオが二人を大切に思っている気持ちが、湧き水のように清らかにわたしの体いっぱいに溢れ出てきていた。
こんなにだれかに思ってもらえるなんて、ちょっぴり二人がうらやましかった。
今まで人とは適度な間隔を持って付き合ってきたけれど、なんだかイオたちみたいなのもいいかなって。
その時、沙羅と良の顔が浮かんで思わず頭を振ってしまった。
空には、パラパラと散らばった星が輝いていた。