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少し長いプロローグ

 どうも、オークです。

 強靭な肉体に、凶悪な顔。さらに大きな体躯。

 その肉体から繰り出される攻撃は岩をも砕き、その凶悪な顔と大きな体躯は全てを圧倒する威圧感を放っている。

 そんなオークに、僕は転生しました。

 初めは困惑しました。なにせ、ビルの屋上から落とされたと思ったらオークになっていたんですから、驚きも大きかったですね、はい。

 それに最初は絶望しましたよ。人類の言語は話せず、顔は凶悪。人との接触はなく、あるとしてもたまに巣に運ばれてくる人間ーーそれも殆ど女性で、多くはオークに犯されてるんですから……ダジャレじゃないですよ?  それに自然界の掟、弱肉強食の世界にも苦しみました。元々僕は平和ボケした日本に住んでいたわけで、荒事などしたことがなかったから、最初は何かを傷つける事が出来なかったんです。まあ今では慣れて来たのですが、まだ少し嫌です。

 とにかく、なんだかんだありながら僕はこうして成長して、今では立派な大人のオークになりました。その期間約半年。

 成長早過ぎですよね! まあ良いんですけど、なにか常識というものが崩れたというか。いや、転生なんてしてるんだから今更か。

 それで、僕には特技があります。それはーー

「ぎぃっぎいっ!」

 っ!?

 ビックリした。今鳴いているのはゴブリンです。同じ森をテリトリーにしているので、よく鉢合わせします。ゴブリンはいつも錆びた短剣と、棍棒を持っています。

「がぁっ!」

 人ならざる声、これは僕だ。

 僕はいつも通りに、拳を振り下ろす。ゴブリンはオークより格下で、特に考えずに拳を降るだけで倒す事ができる。

「ぎひっ」

 僕の拳を避けれずに、頭に当たったゴブリンは、風船のように頭を爆ざせて絶命した。

 ……む、腕に切り傷が。

 なんと、あのゴブリンが持っていたのは錆びた短剣ではなく、冒険者から拾ったであろう品質の良い短剣だった。

 死ぬ間際、我武者羅に振った短剣が僕の腕に傷を付けたのだろう。ううむ、精進が足りない。

 僕は自然界において、傷があるのは致命傷だと思っている。その傷から病原体が入るかもしれないし、血の匂いに誘われて獣が集まってくるかもしれない。だから僕はちょっとしたピンチな訳だけど。

 もう一度言います。僕には特技があります。

「ぐぐぐ」

 人ならざる声、勿論僕だ。

 呻き声とも取れるそれを合図に、僕の腕が優しい光に包まれた。光が収まると同時に、僕の腕の傷が治っていた。

 しつこく言います。僕には特技があります。

 それは僕には過ぎた力で、僕には似合わない力で、僕に一番必要な力。

 ーー僕の特技は回復魔法です。



☆☆☆☆


 僕は森での散策を終えて、巣に戻る。今日はウサギが沢山獲れた。

 巣に戻ると、一つだけ小屋がポツンと建っていた。僕が建てた小屋だ。

 そもそも、この村には多くの小屋があり、多くのオークが暮らしていたのだが、今は見る影もなくオークは僕だけである。

 小屋に進んで行き戸を開けると、小さな影が僕に飛び込んで来た。

「ぐぐっ」

 その衝撃に少しばかりよろけながらその正体を見ると、僕の予想していた通りの人だった。

 アンナ・リデルリード。(僕から見て)小柄な少女で、程よく肉が付いている。十六歳で、魔法学校の生徒らしい。かなり優秀で、学年首席を初等部からキープし続けているらしい。喋れない僕が何故彼女は情報を知っているかと言うと、彼女が一方的に話して来ているだけだから。

 そして、何故そんな優秀な彼女がこんな小屋にいるかというと、少しばかり時間を遡らなければならない。


 始まりは巣に多くのオークが住んでいた頃のお話。

 その時僕は既に大人のオークぐらいの大きさになっており、かなり力も強かった。まあ僕が隠れて戦闘訓練をしていたからなんですが。

 ともかく、僕はオークとして生まれてから毎日戦闘訓練をしながら過ごした。理由は簡単、たまにくる女性の人間を助けたいからだ。この時すでに僕は回復魔法に目覚めており、その訓練もしていた。

 最近はあまり連れてこないが、少し前までは二週間に1人か二人のペースで連れてこられていた。

まだ弱かった僕は見ているしかなかったが、その時は巣のオークをひねり潰すぐらいの力は付いていた。

 そして、そこでアンナとであった。

 ある日、久しぶりに人間の少女が巣に来た。

 その少女は人間としては珍しく、連れてこられるわけでもなく自分から歩いて来た。そして、魔法を放ったのだ。

 いきなり魔法による奇襲を受けて、巣のオーク共は混乱した。少女もそれを見逃さず魔法でオークを蹂躙し続けた。

 しかし、オークは腐っても魔物である。時間が経つに連れて状況に慣れていき、冷静さを取り戻して行った。少女の失敗は、オークを倒すペースが遅かった事か。

 残ったオークは少女を取り囲み、ついには魔力切れで魔法の使えなくなった少女を捕まえた。

 少女は抵抗も出来ずオークに連れられて行き、巣の長の元へ連れていかれた。

 長は小屋を壊された事や仲間を殺された事に怒っており、少女を殴り飛ばした。

 当たりどころが良くて死にはしなかったが、重傷であった。

 少女の事は犯さずに殺してしまうようだ。

 ここで、僕は行動を開始する。

まず、横にいたオークの顔を拳で撃ち抜いた。

 突飛な出来事に惚けているオークを無視し、さらに近くにいる者から拳で殺していく。

 順調にオークを殺していったが、最後に残った長とその側近二匹が問題だった。

 オークは実力社会。長には巣で一番強いものがなる。

 そして長には側近がおり、長に匹敵するほどの実力者なのだ。

 それでも、僕は少女を助けるために僕は立ち向かっていった。

 まずは側近から。

 下段から顎を蹴り飛ばす。そして浮いた体を掴み、隣にいるもう一匹の側近にぶつける。しかし長はその隙に僕を殴り飛ばし、僕は小屋を突き破って転がっていった。

 体はボロボロになり、死にかけたが、僕には回復魔法がある。回復魔法をフルに使い、ゴリ押しする事に決めた。

 側近は強く、時折長からも強烈な攻撃を食らったが、その度に回復魔法で治した。

 そしてついに側近が倒れ、長も消耗しているようであった。

 しかし、僕も無事ではなかった。回復魔法のお陰で無傷ではあるが、失った血や魔力をは取り戻せない為、意識が朦朧としていた。

 だがその時の僕には、少女を助けねばならないという意思があり、なんとか意識を保っていたのだ。

 そして長との熾烈な戦いが始まる。その戦いは周りの木々や小屋を根こそぎ倒壊させ、その激しさを物語っている。

 しかし、その激しい争いの決着は一瞬だった。

 回復魔法で治っていく僕の体に、長が付いていけなくなり、その隙を見逃さず僕の拳が頭を捉えた。

 ズシンと鈍い音と共に長は倒れ、同時に僕も倒れかけた。

 ダメだここで倒れては。長を倒して終わりではない、と自分の体を叱咤して長の小屋へ戻る。

 そこには血を流しながらも意識を保つ少女が居た。

 少女はこちらの存在に気づくと小さく悲鳴を漏らした。

 その表情は恐怖と諦観て埋め尽くされており、もはや動く事も泣き叫ぶ事も出来ないようであった。

 そんな少女の顔を見て、僕はとても申し訳なくなった。

 もう少し早く動いていれば。

 もう少し早く助けていれば、彼女はこんな目に合わなかったかもしれない。

 僕は少女に近づいていき、なけなしの魔力で回復魔法を掛けた。

少女は治っていく傷とその治した張本人である僕を、キョトンとした顔で目線を行き来させた。

 魔力の欠乏で薄れゆく意識の中、その姿がとても可愛らしくて、少しだけ笑みがこぼれた。そして僕は意識を失ったのだ。



 これがアンナとの出会いと今や巣に僕達だけしかいなくなった理由である。

 あの後目を覚ました僕は眠っているアンナを見つけ、そっと布を被せた。布団なんてもの、オークには作れないんです。そしてウサギをとって村に帰ると、目を覚ました彼女がまた僕の事を見て悲鳴を小さくあげたが、僕がウサギを差し出すと、お腹の虫がなっていた。

 どうやらとてもお腹が空いていたようだ。

 食事を終えると、彼女は急に僕に接近して来た。

 まず一方的に自己紹介をされそのあと、まくしたてる様に僕に話を続けた。お陰で彼女の事が分かったが、どうにも僕は彼女に懐かれたらしい。

 そしてそれから一月以上も彼女はここに居る。

「おかえりなさいっ今日はどのくらい取れたんですか?」

 毎日彼女は花の様な笑顔で僕を迎えてくれるのだ。

「ぐぎぎ」

 そして四匹のウサギを差し出すと彼女は嬉しそうに笑いながら言うのだ。

「凄いですね!  今日も大量です!」

 そんな嬉しそうなアンナを見ていると、人の言葉を話せない自分がもどかしく感じる。アンナと会話したい! なんとかならないものか、と思いながら彼女の頭を撫でる。

 アンナの髪はとてもサラサラしていて、何故水浴びだけでそこまでなるのか疑問だ。

 僕が疑問そうにアンナを見ていると、彼女は頬を染めて「えと、あんまりジッと見ないでください。恥ずかしいです」と言った。

 いやぁ、ここは天国だね。なぜ彼女がオークである僕に懐いているのか分からないんだけど、でも好意を向けてもらえるのはとても素晴らしい事だ。

 しかしそんな日々も長く続かない様だ。

 ある日、アンナは朝から少し様子が変だった。

 少し顔を覗いてみると、決心したかの様な顔で話を切り出した。

「あの、私そろそろ帰らないといけないんです」

 ああなるほど、確かにそうだ。

 僕はついに来てしまったか、と思った。

 せめて僕にできる事は途中までついていく事だ、と思い森の出口まで肩に乗せてやる事にした。

「え? ひゃっ!?  ちょ、ちょっとなにするんですかぁ!」

 いきなりだったので少し抵抗されたが、すぐに僕の意図に気付き「連れてってくれるんですか?」と聞いて来た。

「ぐぎ」と短く返事をして、僕は 森の出口へ歩いて行った。


 森の出口まで着くと、彼女は僕の肩から降りた。

「今までありがとうございました。なんとお礼をして良いのやら……」

 少し悩む様なそぶりを見せた後「そうだ、これをどうぞ!」とアンナはポケットから指輪を取り出した。

「ぐぎぎ?」

 僕が不思議そうに指輪を見ていると、その様子にアンナは笑いながら説明をしてくれた。

「その指輪は私とのパスが繋がっています。今はありませんが、もう一つの指輪と共鳴するので、居場所が分かるんです!

 へぇー、便利なものがあるんだなぁ。

「私、絶対また来ますから。そうしたら一杯お話ししましょうね?」

「ぐぎぎ!」

 勿論ですとも!  こんな美少女と話せる機会なんて僕にはもう無いだろうしね!

 と、そういえば僕もプレゼントがあるんだった。

「ぐぎー」

「え、これを私に?」

 僕が渡したのはペンダント。

 材料は、森で散策してたら手に入れた宝石と鉄。腕力やらなんやらで加工し、最後に宝石に回復魔法を込めた品です。僕も使ってみたけど、魔力を通す事で僕の回復魔法が使える様になるみたい。まあ少しは弱体化しますが。

「ありがとう!」

 効果までは気付いていない様だったが、アンナは満面の笑みでお礼を言って、僕の元を去って行った。

 さーて、小屋に帰るかな。……寂しくなるね。

「ぐぎぎっ!」

 意味もなく一鳴きした。僕の鳴き声は森に響く事なく消えていった。

 暫くボーっとしていた僕は静かに小屋に帰っていった。


 そして間抜けな僕は気付かなかった。

 自らの体に起こり始めた異変に。



 LV50/50

 種族-オーク

 達成項目-『ハイオークの討伐』『側近オークの討伐』『回復魔法の使い手』『異界からの者』『善良なる魂』

 ーーレベルが最大になりました。達成項目より『ハイオーク【変異種】』への進化が可能です。yes/no

 時間制限により強制的に進化を開始します。

 進化により、新たに能力を得ました。能力一覧より確認してください。


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