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検非遺使秘録 §伝説の『白蛇天珠の帝王』とコラボ作あり§  作者: sanpo
双子嫌い 〈全12話〉

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双子嫌い 5

     


 検非遺使の予感は的中した。

 囮作戦を開始した、その一日目の内に双子の弟の方、婆沙(ばさら)丸が(かどわ)かされてしまったのだ……!


 日は中天高く、ちょうど成澄たちが九条を過ぎ道祖大路に入った頃、早馬が一騎追いついて来た。

 素早く手綱を絞った成澄、

「何事か?」

 馬上、少壮の使者が叫んだ。

「婆沙丸が……引っ拐われました……!」

「何だと?」


 処は三条大路の果て。鴨川の対岸はもう白河の地である。

 ここより先は洛外ゆえ引き返そうと、大江高範が合図を送ろうとした矢先、崩れた築地塀の陰よりどっと二十人ばかり湧いて出た。

 いずれも覆面で顔を覆った不善の(やから)。アッと言う間に美しい装束の田楽師に袋を被せた。

 そのまま担ぎ上げて築地の向こうへ……

 衛士たちが弓を(つが)える暇もなかった。

 大江高範は真っ先に抜刀して切り込んでいる。

 白馬が二、三人を蹴散らし、太刀が三、四人の肩や腰や首を薙いだ。だが、賊どもは怯まず、逆に蛮刀を振るって検非違使に襲いかかる。

 まず馬がやられ、引き摺り下ろされた大江高範──


「して、大江殿は?」

 使者の若者は唇を噛んで項垂れた。

「その場で落命なされたと……」

「うぬ!」

 成澄は天を仰いだ。

「大江殿は責任感の強い御仁だった」

 囮を奪われて傍観している男ではない。それにしても、天下の検非遺使を恐れぬ大胆極まるこの遣り口は──

「ハッ、狂乱丸?」

 拍車して成澄、飛び出した。先を行っている狂乱丸に追いつくと一気に鞍に引き上げる。

「これまでだ! 狂乱丸、この策、取りやめじゃ!」

 いきなりのことで全く訳がわからない田楽師の兄に、弟が拐われたことを成澄は口早に告げた。


 いったん戻った一条堀川の田楽屋敷で、囮作戦の中止を拒否したのは、誰あろう狂乱丸だった。

 弟が拉致されたことを聞いて血の気の失せた頬ながら、きっぱりと言い切った。

「嫌じゃ。止めるな、成澄。俺は今すぐにでも往来へ戻る。京師(みやこ)中を練り歩くぞ!」

「気が違ったか? 婆沙丸は拐かされてしまったのだぞ!」

「ならばこそじゃ! 今、ここで止めるわけには行かない」

 狂乱丸は言うのだ。今ここで止めては、それこそ永遠に婆沙丸の行方はわからなくなる。

 俺もそこへ行って(・・・・・・・・)居場所を突き止める以外、あいつを救う(すべ)はないではないか……!

 悲痛な決意が燦めく双眸から目をそらす検非遺使。

 幾分、声を鎮めて田樂師の兄は続けた。

「なあ、成澄よ。俺と婆沙は今まで別々の場所にいたことがないのだ。だから、俺は必ず弟の処へ行く。それに──弟を護って命を落としたおまえの仲間、検非遺使の大江高範様のためにもこの作戦は続行されるべきだ。彼の死を無駄にはできまい?」

「──」

 成澄は歯を食いしばった。

 自分こそが弟への一筋の〈糸〉なのだと言う狂乱丸の悲しい理屈はわからないでもない。だが、危険が大き過ぎる。現にあれほどの警備をつけながら白昼、まんまと婆沙丸は拉致されてしまったではないか。

 その二の舞を踏むことを成澄は恐れた。賊は相当の手練(てだれ)か、組織だった集団と思われる。連中が一体、どういう種類の人間なのか皆目見当がつかず、その点も不気味だった。

「大江殿が倒した賊どもの死骸を検分して、身元や正体を割り出すことができれば良いが。取り合えず、俺は使庁へ戻る。追捕の長と今後取るべき方策について、改めて話し合うつもりだ。もっと安全で賢明なやり方が絶対にあるはず。こんな……我武者羅に火に飛び込むような手段が正しいとは俺には思えぬ」

 最後の方は独白に近かった。

 実際に見たわけではないが、袋を被せられて連れ去られる彩羅錦繍の婆沙丸の姿が美しい蝶のようにユラユラと脳裏を掠める。同様に目の前の田楽師も篝火に飛び込む綺羅綺羅しい蝶に見えて、辛かった。

 踵を返して出て行く成澄の背にふうわりと声がかかった。

「安心しろ、成澄。今はまだ最悪ではない(・・・・・・)から」

「?」

 足を止めて成澄は振り返った。

「何故、そうと言い切れる?」

「双子だからだ。双子とはそうしたものだ。もし、あれが殺されていたなら──俺だって、今こうして息をしてはいまい?」

 否。一緒に生まれたからとはいえ、双子だとて別々に死んで行く(・・・・・・・・・)のだ(・・)

 その言葉を検非遺使はすんでのところで噛み殺した。

 

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