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白と赤 0
☦
「見たな?
妾を……見たな?」
「お……おお……!」
喘ぎが白い息になる。
凍れる夜の片隅。
「おまえは……人ではないな?
なんということだ! 私は初めて見たぞ、こんな……」
「もう遅い」
「おお! その瞳……」
戦慄は寒さのせいか? それとも、
今、眼前に立つ、その存在のせい?
「さあ、おいで。
もはや、逆らえぬ。吾が本性を見た者は、皆、思いのままじゃ」
「おまえ? そんな眼でこちらが見えるのか?」
「見えるとも。さあ――」
差し出された手。
その手もまた、初めて見る形骸。
「おいで。妾とともに」
「――」
剥き出しのその手を男は震えながら掴んだ。
そして、誘われるまま歩き出した。
妖怪とともに真っ白い世界の中へ消えて行った。




