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呪術師0
―― あれは何処の鐘じゃろう?
たいそう美しい音色じゃ……
―― 鐘?
母上様は熱に冒されておいでじゃ。
でも、大丈夫。明日にはきっと熱も下がって気分も楽になりましょう。
だから、どうぞお気を強く持って……
―― ああ、また聞こえる。
ほんとうにいい音色だこと……
ほら、また。
おまえにも聞こえるでしょう?
娘は耳を澄ました。そして、頷いた。
―― はい、母上様。
いい音色じゃ。
心が洗われるよう……
戸が乱暴に開け放たれたのはその時だった。
邸の従者たちがヅカヅカと押し入って来た
病の母を守ろうと娘は小猿のように跳ね飛んで乱入者の行く手を遮る。
―― 何用じゃ、おまえたち?
母上様をどうするつもり――
大きな手に掴まれて娘は地面に突き飛ばされた。
―― きゃ――……




