水の精 1 〈扉絵 蒼山様〉〈頂き絵 五十鈴りく様 イヲ様〉
☆この物語は連作なのでそれぞれのお話で趣が違います。
お好みに合わせて読み分けてみてください。
★宣伝動画目次下からご覧になれます!
《推理・謎解き系》 星祭り/野馬台詩/鳥の跡/鄙の怪異
《情緒・情念系》 水の精/花喰い鬼/毘沙門天の使者/小蕾/夏越しの祭り
キグルイ/白と赤
《エンターテインメント系》 双子嫌い/眠り姫/呪術師
長編の 雫ノ記/カスカニカスカナリ はシリアス色強めです。
番外編に歴史ジャンルの 雪丸 があります。
☆魔法絵師蒼山様よりいただいた田樂師兄弟です!
この躍動感! 兄弟の玲瓏さ!
どうぞ、ご堪能ください!
☆そして、最新! 2015’5’31
イヲ様にいただいた田楽師〈双子さんのどちらか〉です!
幸せを噛み締めつつ……
創作仲間の皆様、ありがとうございます!
☆ようこそ!
簡単な内容説明です! 興味を持たれましたら、ぜひ!
ちなみに現在更新中の最新作〈白と赤〉より。検非違使と巷の陰陽師。
★水の精・・・ 貴人ばかり殺害される怪事件。
古い説話にある〈水の精〉の再来?
水の精の叫び声を偶然聞いた田楽師弟はあることに気づく……
★星祭り・・・ 帝の幼い東宮が誘拐された?
矢を射られた後輩の検非違使が残した言葉の意味するものは?
★花喰い鬼・・・美男連続殺人事件の現場には喰いちぎられた花が撒かれていた。
そして、逃走を目撃された鬼の頭には3本の角が?
★双子嫌い・・・ 男女に関わらず双子ばかり拉致される事件が続き、
囮となった田楽師兄弟にも魔の手が……
★毘沙門天の使者・・・鞍馬寺参詣の帰り道、田楽師兄が会った僧の語る奇譚。
黄金を生んだ稚児の真実とは?
★野馬台詩・・・貴人が相次いで死ぬ流行病を「殺人」だと言い切った美童。
残された〈未来詩〉の謎に巷の陰陽師が挑む。
★雫ノ記(中篇)・・・失踪した中納言の息子。
捜索依頼を受けた検非違使の成澄に
水の輪のように広がる謎、また謎……
★鳥の痕・・・ 7人の娘が姿を消した。
そんな折り、歩き巫女に届けられた謎の文様。
★カスカニカスカナリ・・・叡山の秘宝八葉鏡が盗まれた?
(中篇) 盗んだ犯人が残した置手紙。
そこから見えてきた真実はあまりにも――
★小蕾・・・ 海棠のように燃える頬の美少年が田楽屋敷の居候に? 恋のお話。
★眠り姫・・・眠り病にかかった姫君。
権威ある帝の陰陽師と力を合わせて奮闘する田楽屋敷の面々。
★鄙の怪異・・・幼馴染の依頼で平安京から田舎へ赴く陰陽師と検非違使。
平安版イナカノジケン。
★夏越しの祭り・・・平安京への帰り道、
蛇神を祭る邑を通りかかったばかりに……
★呪術師・・・念力を操ると評判の呪術師。その妹に恋した田楽師弟。
恋の顛末は如何に?
★キグルイ・・・紀の国から母を捜して都にやって来たフシギな少年の正体とは?
★白と赤・・・田楽師兄の恋した娘はバケモノと揶揄される娘だった?
同じ頃巷の陰陽師有雪が見た摩訶不思議な夢の数々……
覗いてくださった感謝を込めて平安京からのXマスカードを。
作中の登場人物、双子の田楽師狂乱丸&婆沙丸です。
どちらが兄でどちらが弟と思います?
もひとつ! グリーティングカードも!
前置きが長くなりました。
では、いざ、平安京へ!
水の精 〈1〉
「まさか、おまえ、本気で信じているのか?」
半ば呆れて狂乱丸が訊いた。
「勿論!」
弟の婆沙丸が頬を膨らませて答える。
処は京の一条堀川橋の袂。
時は崇徳帝が天皇位にあった最後の年、保延七年(1141)。
清水坂の桜も咲き散った遅い春である。
田楽師の婆沙丸が居候の陰陽師から『橋で〝美しい出会い〟をするぞ』と卜占を授かったのは昨日のことだ。それで今日一日、暇を見つけては──暇でなくとも無理やり時間を割いてまで──こうして橋の周りをウロウロしている。
そんな弟を兄は嗤った。
「僻事じゃ! 有雪の占いなんぞ当たった験しはないぞ。所詮あいつは橋下の似非陰陽師さ。さてと、もう日も暮れるから俺は行く。ったく、双子だというのにおまえの気が知れぬわ」
気が知れないのは兄者の方だ、と婆沙丸は思った。
では、狂乱丸は〝美しい出会い〟と聞いて胸ときめかないのだろうか?
(俺は違う……!)
兄の遠目にも派手な装束が橋の向こうへ消えるのと入れ違うように、カッと日輪が燃え落ちて辺りは夕焼けに染まった。
それがまた、ついぞ見た憶えもないほどの見事な夕焼けで、婆沙丸は思わず目を細めて見蕩れていたところ──ハッとした。
別名〈戻り橋〉とも呼ばれるこの橋の袂、ちょうど自分の立っている目の前の地面に煌めくものがある。
最初、夕焼けの残滓かとも見紛った。そのくらい真っ赤な珠を連ねた……
「……腕輪か、これは?」
婆沙丸は拾い上げてつくづくため息した。
「美しい! 誰が落として行ったものやら……」
今まで見たことのない石だった。小粒で血のように赤い。
今度の田楽の際、身につけたらどんなに素敵だろう? 髪に飾っても映えるだろうな?
婆沙丸は一人北叟笑んだ。
(これを拾っただけでも占いは効があったというものだ。兄者は羨ましがるぞ。)
と、背後でパタパタと鳥の飛び立つような音がした。
「?」
まだ消え残る夕映えの中、橋の上、娘が一人、袖を翻してあっちに走りこっちに走りしていた。
婆沙丸が暫く動かなかったのは、拾った美しい腕輪を落とし主と思しきその人に返すのを惜しんだせいではない。
見蕩れていたのだ。
女人を美しいと思って見蕩れるのは、勿論、この時が初めてだった。
自身、垂髪に綾羅錦繍の衣装を誇る美しい田楽師兄弟として昨今都で持て囃されている婆沙丸ではある。
橋の上の娘は年の頃十五、六。
最初に聞いた足音を鳥の羽ばたきと勘違いしたせいもあって、ほっそりしたその姿が婆沙丸には鵠を思わせた。 *鵠=白鳥
腰に零れる柔らかな黒髪。小袖の上に重ねた袿の色は紅梅。
それにしても、こんなにも娘が照り輝いて見えるのは夕焼けのせいばかりではあるまいな……
「もし」
とうとう婆沙丸は声をかけた。
「何か探し物か? ひょっとして、これか?」
「まあ!」
娘はよほど驚いたらしく、暫く身動ぎもせず、差し出された婆沙丸の掌を凝視していた。
「ありがとうございます。見つからなかったらどうしようかと思っていた……」
「大切なものと見える。さては愛物からの贈り物か?」
「まさか!」
娘の笑い声を聞けて婆沙丸は幸せだった。
波のさざめきに似て清らかで涼しげな響き……
「これは母から授かったお守りじゃ」
娘は折れそうなほど細くて白い手首に急いで腕輪を嵌めた。
宝珠は収まる処に収まったのである。
(俺の手首や髪ではこうは輝くまい……)
婆沙丸はこっそり微笑んだ。
夕焼けは既に色褪せて周囲には薄闇が溶け出している。それでも、娘と娘の腕にだけ煌めきは残っていた。
「何処のどなたが存じませんが、本当にありがとうございました。では」
気づくと婆沙丸は一人、相変わらず橋の袂に突っ立っていた。
我に返ってつくづく自分を詰った。
(馬鹿か、俺は!)
何処のどなたか存じない、などと言わせる前に名乗りを上げるべきだったのだ! それを呆けたままポカンと口を開けて微動だにせず佇んでいるとは。
これでは自分の名を告げることはおろか、恋した娘の名もわからずじまいではないか!
── 恋をした?
その通り。
婆沙丸は、今やハッキリと自覚した。
橋下の陰陽師が卜した〝美しい出会い〟とは、まさにこのことだったのだ。
☆時代が把握し難い(?)ので随所に挿絵をいれております。
なお、田楽師の楽器の図が〈双子嫌い1)にあります。
よろしかったら覗いてみてください。
★五十鈴 りく様から双子の田樂師のイラストをいただきました!
なんと可愛らしい……! ありがとうございます!
並べて掲載させていただきます。どうぞ、ご堪能あれ!
(ふふ……どっちがどっちか、すぐわかりますよね!?)
★こちらはイヲ様よりいただいた、双子たちです!
凄い、皆様、描かれた絵師様の個性が溢れています!
可愛いいのは一緒でも一筋縄で行かない、イナセな双子たちです。
そして、こちらも、どっちがどっちか即わかります。
ありがとうございました!