ウィルス(下)
感染してからおよそ二十分が経過しただろう。
俺たちは今、五人と四人の二グループに分かれ、抗ウィルス剤の在処を探している。女子五人の紗依さんグループは一~三階を探し、男子四人の拓斗グループは四~七階を探すことに。
紗依さんが言っていたように屍はいないと思う。それでも念の為、紗依さんは女子たちと行動を共にすることにした。
一方、むさくるしい男四人グループは一人を除き、異論はないまま抗ウィルス剤を探すことに。
四階の各部屋は主にレポートが保管されていた。ある一室のレポートにはこれまでの調合、マウス実験、実験結果など記されて、およそ四百枚に及ぶ束となっている。
四百枚の内、四分の一は赤いインクで×(バツ)印がつけられ、残りの百枚ほどに屍ウィルスについて書かれてあった。
俺には時間が無いことは無論、承知している。そんな中でも研究者たちが一生懸命、研究してきたレポートに目が引き込まれた。
俺は最後の一枚を手に取り、黙読する。
『この世で存在しない蘇生薬を作ろうと必死に研究と実験を重ね。
それでも完成の兆しさえ見えない毎日。
我らが研究と実験を重ねて、ようやく出来上がったのが屍ウィルス。
見かけは蘇生に成功したかもしれない、しかし人間ではない。
今はまだ完成とは言えない蘇生薬だ。
この研究を遠い未来でも行い、いつの日か完成することを祈る』
「(俺たちの知らないところで、こんなことをしていたのか)」
なんというか、素直に驚いた。
たった六行の文章は、俺に衝撃を与えるのには十分だった。
全てにおいて、立ち止まっていては一歩も進まない。ただ『一歩前に進もう』、と考えても、それを実行しなければ意味はない。そう、実行しなければ一歩すら進まないのである。
レポートを見つめる俺に声をかける拓斗。
「区宮、四階にはない……って、お前だけサボるな」
もう元気を出した拓斗はそう言った。
「(今はもう少し整理しておこう、その時が訪れるまで)」
拓斗たちは四階を探し終え、五階へと向かっていた。俺も後ろからついて行き五階へ続く階段を上がる。
****
五階は四階のようにズラリと並んだ扉ではなく、すぐ左に扉があり右には階段がある。
拓斗は迷わず扉の中に入り、俺たちも入っていく。そこは実験室らしくマウスの檻が棚にびっしり並べられていた。
俺たちが通るとマウスは急に鳴き、小さい檻の中で俺たちを睨みつける。
「可哀そうだな……このマウス全匹が屍だなんてよ」
不思議にも、拓斗は悲しそうな顔をしていた。
手を合わせ「ごめんよ……」、そうマウスたちに何かを謝って、一人先に実験室をあとにする。何を謝り、何故謝ったか俺には理解できない。
男子二人は拓斗を真似て手を合わせて、出て行く。
俺もここから出ようとした時、微かに唸り声が聞こえた気がした。
「――――!?」
咄嗟に後ろを振り向き見渡す。しかし誰もいない。
声は確かに聞こえたと思ったが、多分聞き間違いのようだ。
感染してから三十分、早く抗ウィルス剤を見つけなければならない。
「(早く見つけて、ここから出よう)」
そう思い、実験室から出る。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その時、上の階から悲鳴が聞こえた。
「(紗依さん!? 一階~三階を探しているはずの紗依さんが何で!?)」
俺はすぐ階段を上っていく。
Y字形のになっている通路の左を走り抜け、真正面の扉を開けた。そこは円形の丸い部屋で、二つの扉がある。一つは非常用出口、一つは別の道らしい。その扉に紗依さんが腰から上が此方に出ている状態で、扉の奥にいる大勢の屍に足を掴まれていた。
「紗依さんっ!」
「区宮さん……っ!」
扉の数cmの隙間から、大勢の屍が紗依さんの足を食いちぎっている光景が見える。
紗依さんと共にいた女子四人の姿はない。
「一体何が!?」
「わからねぇよ! とにかく今は紗依ちゃんを引っ張れ、区宮!」
男子二人は、此方に屍を来させない為に必死で扉を押さえており、拓斗は紗依さんの手をしっかり掴み、思い切り引っ張っている。それでも屍の力は異常に強く、紗依さんの体は微動だにしない。
「区宮さん……私のことよりもこれを……」
「区宮、早く手伝え!!」
紗依さんは自分の首にかけているポーチへ視線を移す。
俺は駆け寄り首のポーチを外す。そして紗依さんはこんなことを口にする。
「区宮さん――――そのポーチに抗ウィルス剤が入っています。私はもう助かりません……早く逃げてください!」
よく見れば男子二人は押さえているのが限界らしく、少しずつ扉が開く。それでも拓斗は諦めない。
「区宮、早く紗依ちゃんを引っ張れ! 今は紗依ちゃんの言葉を真に受けるな!」
俺は困惑した。ここで紗依さんを助けるか、ここで1人逃げるか。この二つの選択肢を、俺は決められない。ただただ時間が過ぎ、男子二人の力も弱まってくる。拓斗も必死で引っ張るが、どんどん引き込まれていく。
助ける。逃げる。助ける。逃げる。助ける逃げる助ける逃げる……。
「(仕方、ない……)」
俺は一歩引き下がり、拓斗の後ろへ付いた。そして拓斗に羽交い締めをかけ、拓斗を紗依さんから離させた。
「紗依ちゃんっ!!」
拓斗は手を伸ばす。だがその手は届かず、紗依さんは屍に引きずり込まれる。
紗依さんは最期、
「区宮さん、ありがとう。拓斗、これからも皆と生き続けて」
そのまま……扉の奥へ吸い込まれていった。
「――――! 紗依ちゃん!!」
しかし拓斗は俺から無理矢理離れ、扉へと走り出す。
「な、何してんだ拓斗!」
無理に扉の奥へ手を突っ込む拓斗。腕と足は食いちぎられ、服は引っ掻かれて破ける。そして屍に肩を掴まれた。
「どけよてめぇら! 紗依ちゃんを返しやがれ!!」
「拓斗!」
俺は瞬時に拓斗の体を引っ張る。
肩に引っ掻き傷はできたものの、屍から離せた。そして同じことを繰り返さぬように、首を窒息させない程度片手で締め付け。
非常用出口に足を運び、扉をもう片方の手で開けた。
「もう……限界だ……」
「俺も……」
非常用出口に入り完全に閉めた時には男子二人の悲鳴が聞こえた。
拓斗を開放したが、落ち着いたのか沈黙して立っている。そして顔を上げた途端に俺の頬に拳が飛び、
「クソ野郎!」
俺はそのまま気絶してしまった。
****
俺の判断で紗依さんを死なせ……否、俺が殺してしまった。そして拓斗の信頼も失ったまま、ここを立ち去った。
全然駄目だ。
ストーリーと良い文章が書けない…。
このままいけるかな? 不安がいっぱい。
10/17 修正
12/02 修正




