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Dead end world.  作者: NPTNs
第二章
33/34

終わりの前

 いつもと変わりなく自然と目を醒ました。

 朝方はひどく冷え込み、手足の感覚はほとんど感じない。

 斎川恭香が起き上がると見張りをしていた区宮が気づいたようで、「おはよう」と眠そうな声で言った。

 斎川恭香も挨拶を返し、あまり疲れのとれてない身体を立ち上がらせる。

 皆が静かに寝ている中、中学生の拓斗と沙依さんの二人はうなされていた。


「悪夢でも見ているのかしら……?」


「現実世界がこうなっているんだから、悪夢を見ていてもおかしくはないな」


 もう少しでこの暗闇が消え去るというのに、斎川恭香たちの心は晴れない。

 太陽が顔を出して光を届けてくれると皆が起きはじめた。

 時刻は午前六時半を示す。

 ふと沙依さんが上体を起こすと、


「おはようございます、皆さん」


 とお辞儀をしながら言う。


「おはよう沙依ちゃん……」「おはよう」


 沙依さんの声に反応して拓斗と区宮は挨拶をした。

 斎川恭香を含めた他の皆も「おはよー」と怠けた声をもらし、皆が起きたことを確認した。


****


「お腹、空きましたね」


 皆が完全に目を醒ました頃、いつも通りの口調でメグがお腹をさすりながら言った。

 事実、昨日から飯なんて全くありついていない。

 このままだと体力が切れて屍に食われてしまうか飢えて死にそうである。


「流石に断食はきついわね。んー、浜島のところに学食あったかしら?」


「学食ですか? 作ってる人はいないと思いますが……」


「作っているおばちゃんは別にいいのよ。食材さえあれば、何か作れるでしょう?」


 え? と全員が驚く。

 皆が驚いたのは“何か作れる”と言ったことである。言うまでもないが。


「ま、まさか、斎川さんの手料理ですか!?」


「何よ、私だって作れるわよ」


「いえ、そういう意味で言ったわけじゃないんですが」


 斎川恭香も一応は女性だ、料理の一つ作れても当然であろう。

 しかし守太が言った意味は「斎川の手料理を食べれる」である。


「俺はそれがいいと思う。これがサイゴになるかもしれないし……」


 拓斗は言った。

 その言葉に斎川恭香も区宮も守太も首を傾げた。

 サイゴとはなんのサイゴなのか、何にしても明るいものではないことが拓斗の表情からわかる。


「あまりネガティブに考えない! とりあえず早く浜二間高校に向かうわよ」


 元気付けようと言ったものの、暗い表情は変わっていない。

 拓斗以外にも沙依さんの元気がなかったのも気になったが、何か事情があるのだろうと斎川恭香は皆に声をかけ、浜二間高校へと向かうことにした。


****


 何故だろうか屍がいない。

 そのことにあまり安心することができない。

 普通なら安心できるかもしれないが、同じ世界を何度も繰り返したことがある斎川恭香にとっては不安が増していく。


「ここが浜二間高校ですか」


「そう。でも気をつけて、校舎内には屍と屍犬がいるから」


 人間のままの斎川恭香にとって天敵になりうる屍犬。

 この高校に来たのは朝食のためであるが、浜島を助けることが優先となる。

 つまり浜島を助けるには屍犬に出会う確率が高くなるため注意しなければならない。


「犬?! 屍でも危ういのに、屍犬を相手にするのか!」


「ど、どうしたの拓斗? そんなに声をあげて」


 珍しく拓斗が区宮でなく斎川恭香を怒鳴った。

 拓斗はメグを見て、


「確か拳銃持っていたよな? それ貸してくれないか、俺が屍どもを抹殺してくる」


 と言った。

 流石のメグもそれには驚き、手で待ったをかける。


「君は死ぬ気か? 彼女に任せなさい。恐らく戦闘能力は彼女が一番高い――――」


「それだと駄目なんだ! 斎川は屍と戦っちゃいけない」


「拓斗、何を知ってるの?」


 斎川恭香の質問に拓斗は口を震わせる。

 冷や汗をかいて何かを伝えようとするが、口を開くことはなかった。


「……わかったわ。メグさん、悪いけど一緒について来てくれないかしら?」


「構わない。彼も連れて行った方がいいんじゃない」


「そうね。あまり連れて行きたくないけど、仕方ないわ」


 他の皆を唐木さんに任せ、校舎内へと入って行く。


****


「おかしい……おかしすぎる!」


「一旦落ち着きなさい」


 斎川は頭を抱えていた。またもや屍がいないことに。


「確かに以前はいたのよ! なんで、どうして!」


「いや、むしろ俺にとっては好都合だ。早く浜島とかいう奴を助けよう」


 今にでも発狂しそうな斎川を見て心配するメグ。

 この時、屍を操っている武藤桜華に動きがあったのだ。

 武藤が何らかの理由で屍を動かしたことにより、再び運命が変わってしまったのである。


「そ、そうね……運命が変わってるかもしれないものね。行きましょう」


 しかしやはり斎川には不安が増す一方であった。

 見えない敵に怯える斎川はまるで、繰り返す死の世界の最初の斎川に戻ったかのようである。

 結局、屍は出ないまま放送室へとたどり着いてしまった。


「まさか浜島までいない、なんてことはないでしょうね?」


「斎川さんの記憶によればここだろう? 俺の考えだといると思う」


「結果が知りたいなら開ければわかる」


 確かにメグの言う通り、中身を知りたければ開けるしか確認する方法がない。

 ところが斎川は何となく、ただの勘であるが、浜島は『いない』気がした。

 この場に『いない』という意味で使われる言葉でなく、既に存在『しない』という意味である。

 ドアノブを回して開けようとした時、ドアを開けるのを躊躇った。

 皆はよく『やらないで後悔』するより『やって後悔』した方がいいと言うが、それは果たして正解なのだろうか? 否、正解という言葉はないのだろう。

 ただ、遠い未来であれをやっておけばよかったと思うだけの話である。


「斎川さん、どうした?」


 気がつけば拓斗もメグも心配そうな顔をしていた。

 浮かない顔をしながら手に汗をかき、手にはドアノブの鉄臭さが染み込んでいる。

 ハンカチを取り出して鉄の臭いがする手を拭くと、


「もういいわ。やっぱり戻りましょう」


 と言った。

 その言葉に拓斗は一言、「は?」と当たり前すぎる反応をする。

 一方、メグはわかったようで何も言わずについて行く。


「おい、二人とも何で戻るんだ! ここを開ければ浜島がいるんだろう?」


 ドアノブを掴もうとした拓斗だったが、静電気ではない感じたことのない痛みが手に伝わり、咄嗟に離してしまった。


「(なんだこれ? 静電気じゃない、俺を拒んでいるような……)」


 拓斗に伝わった痺れる痛み、それを感じるともう一人の区宮が言った言葉を思い出す。

 町の消滅、これが関係しているのだろうか。

 どうすることもできないとわかり、おとなしく拓斗は斎川のあとについて行くことにした。


****


 結局、浜島を救わないまま戻った斎川は事情も説明せずに食堂へと向かってしまった。

 様子がおかしいことはわかっている。

 しかし誰も斎川から事情を聞き出すことができないのだ。

 目の前に壁があるかのように、声をかけようとしても何かをしようとしても遮られてしまう。

 斎川と同じ記憶共有する区宮でもこの異常事態には首を傾げるしか方法がなかった。

 世界がこんな状況であるにも関わらず太陽はほとんど同じ活動ばかりする。

 地球という惑星も同じだ。

 太陽のまわりを二十四時間三百六十五日、ずっとまわり続けるなんてご苦労なことである。

 考えるとそれらの仕組みなんてものはわからないものばかりだ。

 今からはるか昔につくられた惑星が、今もこうして同じ活動をしながらも少しずつ変化している。

 それをいうならば人類も同じことだろうか。

 人類の祖先は猿でそれが年を重ねるごとに知恵をつけ、歩けるようになったり道具を使うようになったり、と変化し続けて私たちが存在する。

 全くもって、世界とは凄いものだ。


****


 区宮たちは斎川の作った手料理を食べて腹を膨らましていた。


「(料理は意外にも美味かった。けど、斎川があんなんじゃゆっくり食ってられねぇ……)」


 拓斗と沙依さんはそわそわしていたが、皆は味わって食べている。

 一人に関しては三杯くらいおかわりしているが無視しておこう。

 斎川はいつも通りに“笑顔”で楽しく会話している。


「(心の底から笑ってる斎川を見るのは、最初の時くらいか)」


 斎川が笑わなくなったのは世界の繰り返し、死の世界が始まってからだ。

 区宮によると普段の斎川の笑顔は表面上だけである。

 今までは以前の記憶はなかったが、以前感じた恐怖や絶望といった精神的な苦痛は知らない間に受け継いでいるらしい。

 それによって斎川は、心の底から笑ったことは最初だけであったのだが……。

 区宮のところに拓斗と沙依さん、そして何故かメグまでもやって来た。


「もしかして三人も斎川の異常に?」


 誰も頷かなかった。

 しかし三人が頷かなくても、区宮は異変に気づいているとわかった。

 特に拓斗は一番そわそわしていて、冬だと感じさせないくらい大量に汗をかいている。


「なんとなくわかると思うが、今の斎川は俺たちの知っている斎川じゃない。その原因はわからないけど」


「前の彼女は強かった。けど今は弱い」


「ああ、それにこの世界になってから異常続きだ。とうとう斎川までおかしくなるなんて思わなかったが……」


 区宮が解ける謎は、斎川が何らかの原因で最初の斎川に戻ってしまったこと、一部を除いて記憶と精神が消滅したことである。

 それを三人に伝えると、拓斗と沙依さんは心当たりがあるのか目をそらした。


「拓斗、沙依さん、何か心当たりがあるのか?」


「あ、ありますが……その……」


「区宮、悪いが教えられない」


「俺が知ると運命が変わるのか? それとも俺が知ったらいけないことなのか?」


「……」


 拓斗も沙依さんも言わない理由は、もう一人の区宮の仕業であるとわかったからだ。

 恐らくもう一人の区宮は斎川の記憶と精神状態を最初の斎川に戻し、区宮が死んだことの絶望感を和らげるためであろう。

 そうでもしなければ斎川は発狂し、拓斗と沙依さんを殺しかねない。

 二人の背負った重要な任務は区宮の殺害。

 『区宮志悠、俺を殺せ』、もう一人の区宮が言った衝撃の言葉による。

 真実を言えば、拓斗も沙依さんもその言葉を承諾したくないし、実行もしたくはないのだ。

 しかしそれを実行しなければ斎川は死に、もう一人の区宮が悲しむであろう。

 どの道、二人には選択肢はない。


「そうか……二人の優しさからか。わかった、これ以上は二度と聞かない。頼んだ」


 区宮は席を立つとメグに何かを渡してトイレへ行った。

 メグも渡された何かを見ると、席を立って食べ終わった食器を片付けに行ってしまった。

 二人は全く気づいている様子はない。


****


 その後、二人は区宮ともメグとも話すことなく料理を片付けた。

 皆が食堂から出るとわざとらしく拓斗が、


「斎川さん、ここにはもう用がないわけだし隣町まで行かないか? 寝床も確保できるかもしれないし」


 と無理やりな提案を言う。

 ところが斎川は、無理やりな提案を一言で承諾した。

 拓斗がそれを提案した理由は、時間が迫っていたからだ。


「じゃあ皆、隣町に行くには橋を渡らないとだからそこまでいくわよ!」


 もうあと少しで全ての関係が崩れ去り、二人は皆から悪魔と呼ばれることになる。


To be continued....

浜島「え? 出番なし? ええええええええええええええ!?」


まず、長文失礼です。

次話でようやく本編終了。予定。


次回予告。


二人の少年少女が背負った重要な任務は成功するのか。

死の世界からの脱出はできるのか。

ようやく終わりの見えてきたこの作品は「決して面白くなかった」と満場一致で答えがでるのか。

というか……ゾンビ、いなくね? (作者も思ったこと)


では~

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