創造者
区宮志悠の脳に響いた創造者と名乗る声。
一体どういうことなのか、顔を青ざめた区宮には全くわからなかった。
「(さっきから考えてる……けど意味がわからない。俺が創造者? 俺が望んで、俺が願ってこの世界を創造したってのか?)」
考えれば考えるほど混乱してしまう。
信じたくないという気持ちは不思議となかった区宮だが、自分が創造者であるならば記憶があるはずだ、と自分の今までの記憶を疑い始めた。
「(街が消滅するのが明日っていうのも……なんでそんな急なんだ)」
現時刻は午後三時半を過ぎたあたり。
街が消滅するということを仮に信じたとして、いつなのかは聞いていない。
武藤桜華の件についても驚きを隠せずにいるのに、今の状態では精神がおかしくなる可能性も高いだろう。
「(考えるだけで混乱してくる。まずは紗依さんたちと会って、日が落ちる前に斎川たちと合流しないと)」
ようやく階段まで辿りついた区宮は、階段を二段飛ばしでかけあがる。
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この時間帯になると太陽は沈み始める。
今はまだ三時半過ぎであるが、冬の時期は日が落ちるのが早い。
「だんだんと暗くなり始めたわね」
「冬の時期は五時くらいで薄暗くなりますからね」
黄昏る時間帯の行動は禁物だ。
それは斎川恭香自身よくわかっていることで、かなり焦っている様子が伺える。
焦るのも無理はない。
以前までは一日が終わる前に理性のある屍になり、睡眠も屍に対しての恐怖すらも感じずに済んでいたが、この世界では以前と同じような道を歩んではいけないためである。
「寝床を探さないといけないわね……。屍がいるわ、早くここから離れましょう」
「うわっ、あれが屍ですか? 人間にしか見えませんが……」
屍は確かに元は人間だ。
しかし今は既に人間ではなく化物となっている。
この光景を何度見たか、斎川恭香は複雑な気持ちになった。
「とりあえず行くわよ」
生まれたての小鹿のように不安定な足取りで近づく屍から逃げ、斎川恭香たちは例の公園へと向かった。
****
「ようやく着いた」
鼻息が荒くなってるものの、疲れは一切なく七階へと辿りついた。
「(あの創造者とかいう奴が出てきてから、身体が変に軽いな)」
軽いというよりは、若干ふわりと浮いているかのような感覚らしい。
身体がふわりと浮いているのではなく、中身が浮いている感覚だということは区宮はわかっていない。
七階は部屋もなにもない殺風景なフロアで、ダンボールが山積みに置かれているだけだった。
そのダンボールに紗依さんと拓斗が座っていた。
「あ、区宮さん。ご無事でしたか!」
「よお区宮、こっちには何もなかったぜ。全く……(ただ紗依ちゃんと一緒にいられたのは良かったけどな!)」
「お疲れ、紗依さんと拓斗。拓斗にとって抗ウィルス剤はどうでもいいと思うが、こっちにあった」
首から下げているパンパンに膨らんだポーチを取ると、ニタリと笑いながらポーチを見せつける。
「ところで、もう一人のあいつはどうなった……?」
「ああ、エスか。屍に喰われて死んだよ」
「屍ですか!? まさか、ここに屍が?」
紗依さんは驚いた表情をし、ひどく落ち込んでしまった。
彼女は区宮を危険な目に合わせてしまったと、何もできなかった自分を責めている。
「すみません……私がここのことをよく知っていれば区宮さんに迷惑をかけずに済んだのに……」
「さ、紗依ちゃん、自分を責めないで! こうして区宮は生きて帰ってきてるんだし、結果としてはあいつも消えたことだしさ!」
なんだか拓斗が悪者にしか見えないが、そこは置いておこう。
「でも……」、と紗依さんが元気を出してくれないため、区宮が口をはさむ。
「拓斗の言うとおり。俺はどこも怪我はしていない、こうして抗ウィルス剤も手に入れた」
「ほら、だから元気だして紗依ちゃん! 区宮は抗ウィルス剤を持って――――」
そこで拓斗が言葉を止めてしまった。
どうやら、拓斗は区宮の異変に気がついたらしい。
「おい区宮、さっきからその喋り方はなんだ? お前、区宮じゃねーな」
「何を言ってるんだ拓斗。俺は区宮志悠だぞ」
「お前、さっき俺に敵対するかのような眼差しを送ったよな。あの区宮なら、俺に抱きつくくらいしてもおかしくなかったぞ! (自分で言ってて気持ちが悪い……)」
拓斗は吐き気をこらえるように口元に手をもっていった。
確かにあの区宮ならやりかねない。
「ほう、そんなことで俺とあいつを見分けるか。だが拓斗の答えは不正解だ。俺は区宮志悠、あいつも区宮志悠だ。まあ、あいつからは創造者と言われてる」
「あっさりと俺たちが知ってる区宮ではないと認めるんだな」
「これ以上演じ続けても面倒なだけだからな」
いつどこで入れ替わったのか、脳内で響いていた声の主が区宮の身体を乗っとって現れた。
もしかしたら、区宮の内に隠れ潜んでいたもう一人の区宮の可能性がある。
しかしもう一人の区宮も区宮なわけであり、拓斗が気づくはずがないので、二重人格かそれ以外の何かとしか予想がつかない。
「まあ無駄話はどうでもいい、とりあえず伝えておくことがある。明日、この街は消滅していく。その明日午後十二時までに隣町に繋がる橋まで行き、斎川恭香が屍に噛まれたり死なないように渡ってほしい。それと、隣町に着いてヘリコプターが飛んできたら、俺を殺せ――――」
「ちょっと待て、さっきから聞いているが何だ?」
「俺である区宮志悠は、ヘリコプターが飛んでくると斎川を含めた仲間を殺す。その運命はどんなにやっても覆らない。だが、斎川は区宮を殺すことは絶対にせず、説得を続けるだろう。だから斎川の代わりに区宮を殺すんだ。例え斎川に憎まれようとも」
拓斗は返す言葉がなく眉間にしわを寄せ、紗依さんは両手で口を塞ぎ泣いていた。
この二人にはとてもではないが荷が重すぎる。
それを知っていながら頼んだもう一人の区宮は、この二人をかなり信頼しているのだ。
「それと紗依さん。君の姉、武藤桜華と名乗る奴がいるが、あれは確かに本人だ。ただ、彼女は理性のある屍として今も死ねずに彷徨っている」
「――――え……? お姉ちゃんが、屍として?」
「ああ。彼女は蘇生薬……屍ウィルスを投与されて、屍になってしまったんだ。彼女もこのまま屍として生かしてはおけない。紗依さんには悪いが、彼女を殺して成仏させてくれ」
「……わかりました。本当なら、お姉ちゃんはもうこの世にはいないのですからね……私が、この手で成仏させます」
まだ中学生だというのに、彼女は心が強かった。
例え既に死んだ家族であろうと、自分の手で殺めるなど口にすらできないだろう。
けれど彼女は家族であり姉であるからこそ、自分の手で成仏させたいと言ったのだ。
もう一人の区宮は安心し、
「かなり荷が重いことを頼んでしまっただろうが、どうかお願いする……」
頭を下げると消えていき、雰囲気が元の区宮に戻っていった。
「――――って、あれ、俺はなんでここにいるんだ?」
「っ……よ、よう区宮、早く例の公園まで戻るぞ!」
「そうですよ、区宮さん。早く斎川さんたちと合流しましょう」
まだ拭き取られていない紗依さんの涙を見た区宮は、反応に困っている。
拓斗に関してもいつもと全然違うので、区宮は「あ、ああ」としか返事できなかった。
明日になれば二人は苦しい思いをしなければならず、明日など来なければいいと思っているだろう。
しかしお天道様はそんな願いを叶えるはずもなく、気持ちを踏みにじるかのように黄昏てゆく。
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その後、斎川恭香たちと区宮たちは無事に合流した。
エスについては屍に殺されてしまった、と嘘をついてしまったが、メグは区宮を恨まずにただひたすら泣きじゃくりながらエスの名を何度も叫んだ。
寝床は結局確保できず、公園で就寝することになってしまい、中学生以外の大人たちで交代して見張って一日は過ぎていく。
To be continued....
浜島「わ、わしが出る前から何でこんなに重い気分にするんじゃ! わしが場違いになるじゃろうがああああああああああ!!」
という感じの重い内容ですみません;
この様子だと、あと一~二話で終わりそうです。
次回予告。
もう一人の区宮から頼まれた拓斗と紗依さん。
区宮に迫る最初で最後の死。
終わりゆく、死の世界。
ではー




