真実
エス、区宮、紗依さん、拓斗の四人は、あの抗ウィルス剤が保管されてある高層ビルへとやってきた。
それもただの高層ビルではない。
屍ウィルスを研究し、開発した会社であることは、区宮は記憶共有で知っている。
それと、この社内で紗依さんが死んでしまうことも、その後何が起こるかも、区宮は全部知っているのだ。
今回の区宮の目的は紗依さんを助けることにあるが、抗ウィルス剤を手に入れなければエスが区宮たちを殺す可能性もある。
しかし紗依さんが抗ウィルス剤を手に入れると、紗依さんが死んでしまい拓斗が発狂し、再び終わってしまう可能性だってある。
つまり紗依さんよりも早く抗ウィルス剤を見つけ、その途中でエスから武器を奪えるかが重要だ。
区宮の記憶によれば、抗ウィルス剤は四階~七階にはなかった。なら紗依さんグループが探していた一階~三階のどこかを探せば手がかりがあるはず。
「えっと、紗依さんと拓斗は四階から七階を探してくれ。俺とエ――――こいつと一階から三階を探すから」
「さ、紗依ちゃんとふた、二人で探すのか!?」
「そういえば、区宮さんは記憶……むぅうん!?」
紗依さんがエスの前で危ない発言をする手前で、区宮は紗依さんの口をおさえた。
「きおく?」
エスが顎に手を当てて考え出した時、区宮は早口で、
「紗依さんが言いたかったのは『きおくれ(気後れ)』だよな? 俺って人前だとたまーに気後れして話せなくなるんだ!」
と言うと、エスが顎から手を離し、拓斗に向かってこう言った。
「おい、こいつの頭は大丈夫か?」
「ああ、問題だから大丈夫だ。区宮の頭は変態と馬鹿でできてるからな。それと区宮、さっさと紗依ちゃんの口から手を離せ!」
拓斗が区宮に一発軽く殴ると区宮は紗依さんから手を離し、そして拓斗がエスに見つからない程度に区宮へ口元を歪ませてウィンクした。
これは拓斗なりに区宮を庇ったらしく、ウィンクもその証拠である。
区宮がその(若干笑顔な)ウィンクに頬を赤めたのは、言うまでもない。
「(変態とはそのことか)……いいから中に入るぞ!」
「「「わかった(わかりました)」」」
エスと行動を共にする中、抗ウィルス剤を先に手に入れ、エスをどう始末するのか。
二つのグループに分かれ、エスと区宮は一階~三階、紗依さんと拓斗は四階~七階を探る。
****
一方、斎川恭香たちの方はというと――――
「一体、どういうつもり?」
「――――私は貴方達を殺したりはしないわ。ただ、さっき言ったことをお願いしたいの」
エスとメグの連れていたショウという高校生の願いを聞いてほしいと、メグは先程斎川恭香に言ってきた。
「何を企んでる?」と斎川恭香が聞き出したが「別に何も」と、全く悪意も感じないまま答えた。
斎川恭香にとってそれが不思議でならない。
斎川恭香の記憶では、メグは無慈悲なオカマとして認識しているし、エスに忠誠を誓っている奴隷にも感じたため、そんな善良な人間ではないはずである。
「――――でも、家族を探してほしいって言われてもね。何もわからないんじゃ」
「そこをお願いしたい」
「俺からも――――お願いします」
メグが、あの無慈悲でエスに忠誠を誓うメグが、頭を下げた。
斎川恭香の思考が一時停止する――――否、記憶が一瞬飛んだ感覚に襲われ……というよりも本当に飛んでしまったのかもしれない。
とにかく今、目の前の状況が理解できず、メグに尋ねる。
「えーと……今、何をしてるんですか?」
「貴方に頼み込んでいるんです。お辞儀という行為をしているんです」
「ですよね~」
もう斎川恭香には何が何だかわからなくなっていた。
この感覚を例えるならば、何年間も逃亡してた殺人犯が急に「助けてくれ」と泣きながら自首してくるものだろうか。それを味わった警察官は恐怖で精神が参ってしまうだろう。
そんな感覚が今、目の前で行われているのだから斎川恭香も目をパチクリさせるしかない。
「ま、まあ、理解はできた。わかったわ、その家族の人を探せばいいのね?」
「――――ありがとう」
「俺からも、ありがとうございますっ!」
こんな世界で平和な気分になったのは、斎川恭香だけではなく、他の皆もメグの拳銃に目がいきながらもそんな気分にはなっていたはずだろう。
****
「(なんとかエスと行動を共にできたのはよかったが……)」
先頭に区宮、その後ろからエスが拳銃を向けながら歩いている。
場所はまさしく研究所という感じでいくつもの部屋があり、大きなガラスから見えるのは、機械やらなんやらテレビで見るようなところばかりだ。
どこの部屋を覗いても機械やら資料室のようなところで、屍ウィルスを製造している部屋が全く見当たらない。
「おい、抗ウィルス剤はまだ見つからないのか」
「今探してる。ところで、こんなことを聞くのもなんだが、お前はなんで抗ウィルス剤のことを知っている?」
エスの顔は無表情のまま崩れる様子はない。ただ、一瞬だけ目をそらしていた。
「――――聞いて何になる?」
「別に、何で秘密情報を知ってるのか気になっただけだ」
眉間にしわを寄せると、区宮に「前に行け」と言わんばかりに首を斜めに振った。
エスが何かを隠しているということはわかったが、これ以上下手に聞き出そうとすると殺されかねないかもしれなかった区宮は、何も返事をせず探索を再会した。
「エレベーター?」
隅々まで探していた途中に「関係者以外使用禁止」と書かれたエレベーターを発見し、区宮とエスは立ち止まる。
「らしいな。関係者というのは、ここの研究員の中でも限られた者しか使ってはいけないエレベーターということ、か」
頭の回転が早いエスは根拠もなしにそう言ったが、おそらくそれであっているだろう。
もしかしたらこのエレベーターの先に抗ウィルス剤が置いてある可能性もある。
「たぶんこのフロアには屍ウィルスの研究も抗ウィルス剤もないな。行ってみよう」
エレベーターに乗り込みボタンを確認すると、最上階と思わしき七階が存在せず六階“しか”表示されていない。
この時、区宮はなんとなく紗依さんが六階にいた謎が解けた気がした。
つまり紗依さんたちは、一階を隅々まで探していた途中にこのエレベーターを発見し、六階へと辿りつき、六階のどこかで抗ウィルス剤を発見したところで屍に襲われ、紗依さん以外の女子は死亡。
紗依さんは区宮たちに抗ウィルス剤を渡すためにあの部屋に続く道を走ったが、逃げ切る前につかまってしまった、ということ。
ただこれは憶測にすぎないことであり、実際はどうなのかは区宮自身が自分の目で確認しなければならない。
もしもこの憶測が正しかった場合、紗依さんの代わりに区宮が死んでしまう可能性もなきにしもあらず。
「おいどうした。着いたぞ」
気がつくと既に扉は開かれ、エスが区宮の背中を拳銃でつついている。
降りる前から見える扉の先は真っ白な一本道の廊下だが、左側の壁の真ん中には扉が見えた。
「あそこにあるっぽいな」
忘れもしない紗依さんの死。
だが紗依さんがやすやすと屍にやられるはずがないことを考えると、あの部屋で抗ウィルス剤を手に入れたあと何かがあったはずなのだ。
区宮はゆっくりと部屋の扉へと近づき、エスも後ろからついていく。
銀色の光沢のかかったドアノブを回しながら押し、中へと入った。
すると部屋の中に一人の女性が後ろ向きで立っており、その後ろ姿に区宮は目を疑った。
「なんでここに、お前がいるんだよ」
「それはこっちのセリフ。ってこのセリフも何十回目かしらね? 区宮」
見慣れた短い髪を揺らし顔だけこちらに振り向き、身体もこちらに向けた後、「あーあ」と言いながらポケットに手を突っ込んだ。
そしてこう言う。
「まさか区宮が記憶を持ってるなんて、気づかなかった」
「なんでそれを!?」
「ここには紗依が来るはずだった。って言えばわかるでしょ?」
多少選択肢が変わっていても、紗依さんがここに来ることは変わらなかったことを知っている。
更に区宮が記憶共有をしていることを知っていて、この世界では知り合ってもいないのに区宮志悠という人間を知っている。
武藤桜華と名乗るこの女もまた、記憶共有をしている一人ということだ。
「そんなことより、どういうことだ。屍には襲わせないって言っただろう!」
「ああ、それ嘘。アンタが襲われて抗ウィルス剤を求めれば、ここに紗依が来て屍たちに殺させDEADルート突入したのに……区宮が記憶を持ってたなんて予想外だったわ」
「屍って……どういうことだ武藤!」
「ふぅーん、肝心なことは忘れてるみたいね区宮。まあ簡単に言っちゃえば、私が屍を操っているってことよ。抗ウィルス剤はあげるから、早く逃げたら? 死ぬわよ」
「っ!」
見覚えのあるポーチを投げる桜。
区宮がキャッチすると同時に桜の後ろから無数の屍が出てきた。
桜が「行け」と合図した途端に屍たちが区宮とエスへと走り出し、区宮とエスはその部屋から急いで飛び出した。
「なんだよあの屍、走りやがったぞ!?」
「いいからエレベーターに行くぞ! 区宮」
エレベーターの扉前まで着きボタンを何度も連打する。
エスは拳銃を構えるとこちらに走ってくる屍に向けて発砲し、屍の足止めをしてくれている。
数秒経ってエレベーターはようやく開き、区宮が入って一階のボタンを再び連打する。
開ボタンを押しながら、区宮がエスに早く乗るよう言おうとした時、このままエスを見殺しにしようと考えた。
元々の目的は抗ウィルス剤を紗依さんたちよりも先に見つけ、その途中でエスを殺すことにあったのだから、このまま一階にいけば抗ウィルス剤も手に入り一石二鳥だ。
静かに閉ボタンを押すと扉は徐々にしまっていき、それに気づいたエスが、
「おい区宮、てめぇ!」
屍に向けて撃っていた拳銃を区宮に向け発砲。
完全に閉まる扉よりも弾丸のほうが速いため弾丸が区宮の腕に命中したあとに扉は完全に閉まり、エレベーターは一階へと下降していった。
腕には痛みがあったが、武藤桜華が屍を操っていたという真実が頭から離れず、それが痛みを軽減していた。
一階に着き、ポーチの中身を確認する。
ポーチの中には抗ウィルス剤が十本ほど入っており、何かおかしい点は見当たらない。
区宮は腕をおさえながら紗依さんたちのところへと向かった。
To be continued....
いろいろ無茶苦茶であります!
(終)
じかいよこく~
作者がすでにいろいろカット死はじめたDew! 重要なことを詰め込んで、完結目指します!
ではー




