□□紗依の秘密・憎き二人
雨は今も降り続く。
区宮と拓斗は疲れたのかソファでぐったりとし、皆はこの雨に気が滅入っていた。
「はぁ……」
小さなため息をついたのは斎川恭香である。
テーブルに片膝をつきもう一度ため息をつくと、悲しみの如く雨が強くなった。
「斎川さん、ちょっといいですか?」
「ん?」
ふと斎川恭香を呼ぶ声が一つ。
振り向くと、顔に馴染みのある小さな女の子――――否、紗依という名前の中学生が真剣な眼差しで立っていた。
「何か用?」
「あの、武藤桜華について、聞きたいのですが……」
「桜……?」
彼女はコクン、と首を折り、
「お姉ちゃんとはどこで会ったのですか?」
その瞬間、雨に混じった小さい雷が背景をつくりだしたかのように音とともに近くで落ち、同時に斎川恭香の頭の中でも落雷が一つ落ちた。
「――――お姉ちゃん?!」
意識が戻ると、頭を抱えた紗依さんが視界に映し出される。
顔を揃えて見れば一目瞭然だし、だいたいわかっていたことであったが、武藤桜華の妹の紗依さんから言われ衝撃が走ったのだ。
「あ、あの、雷が怖いわ、わ、わけじゃないんですが……が、み、耳栓をして話してもいいですか、か?」
「ど、どうぞ」
まるで二十一世紀から来たロボットなのではないか、と思わせるような感じでポケットから耳栓を取り出す。
しかし四次元ポケット云々の前に斎川恭香は、目の前にいる紗依さんとその姉である桜華(桜)に興味がいっている。
「よし。あー、聞こえますか?」
軽く右手の親指を立てる。
「私の姉である武藤桜華は、屍ウィルスの実験で命を落としたはずなんです。二日くらい前、私は父に教えられました」
「二日前に死んだ!?」
紗依さんは耳栓をしてキョトンとしているが、斎川恭香の声により気が滅入っていた皆が顔をあげた。
なになに? と野次馬みたいに皆が集まり、同じ話をすると言葉を失う。
どす黒い雲が自然に消えた頃には、日差しが身体を暖めてくれたが空気はひどく冷たかった。
****
武藤桜華の死。それを知ったのはこの世界で初めてである。
ではこれまで接してきた武藤桜華は何者であるのか、何故武藤桜華という名前を知っているのか、何故武藤桜華と名乗ったのか、斎川恭香と区宮には疑問しか残らない。
「桜と最初に会ったのは区宮のはずよね、その時はどうだったの?」
「どうだったと言われてもだな、普通に生存者にしか思えなかったさ。それに屍だって知ったのも後々だったしよ」
区宮の言葉で手がかりは消えた。
すると区宮が人差し指を天井に向けながら「あ、そういえば」、と思い出した顔をしながら斎川恭香にこう言った。
「いつだったか忘れたけど武藤を救出しようとしたときに、俺さ、一部だけ思い出せないことがあるんだ。その世界では、俺が屍に噛まれて、そのあとから記憶がないんだ」
「その話関係あるの? でも、記憶がないってどういうこと?」
「それがわからないんだ。数秒だけ映像があるんだが、思い出そうとすると頭が重くなって……」
記憶共有の失敗? 屍ウィルスが原因? もしくは人間の手による記憶の抹消? 武藤桜華について探り出さないといけないこの場面で、新たに引っかかる謎。
あらゆる原因の可能性を見つけ出せばきりがないが、根本的な原因はおそらく、その世界で起こった何かである。
記憶がなくなるならば、それ相応の物理的ダメージや精神的ダメージがあるわけで、断言はできないが屍ではなく人間の仕業であろう。
そう考えると犯人はかなりしぼられる。
斎川恭香、守太恭助、浜島一六、武藤桜華の四人。
しかし守太恭助にそんな度胸があるとも限らないし、浜島一六は区宮と知り合ったばかりのためそうする理由がない。斎川恭香もこの時は記憶共有はないため、逆に区宮を救おうとするだろう。
さて、そうなると自然的に、四人の中で最も怪しい人物である武藤桜華が残る。
「――――まあ、とりあえず、今は桜と名乗っている人物に会わないといけないわね」
「ああ、そうだな」
「?」
いつまでも耳栓をつけていた紗依さんには、二人が何を言っているかわからず、ただずっと首を傾げていた。
紗依さんをずっと見ていた拓斗も、話を聞いていなかったらしい。
****
「さっきまでの雨はなんだったんだ?」
区宮たちが外に出ると太陽がギラギラ輝き、冬だというのに春の気温にまで上昇していた。
斎川恭香と区宮は気にしなかったが、この異常現象もこの世界で初めてのことである。
「な、なにこれ……」
「うわっ!」
「屍が、焼け死んでる?」
先程の雷が脳天に直撃していた、と説明できるほど頭が真っ黒焦げになった屍が倒れ込んでいた。
屍たちにとって脳は活動できる唯一の命、それに雷が直撃すれば命も消えるだろう。
と、この住宅密集地からではない別の場所から銃声が聞こえた。
音は微かなものであったが、斎川恭香はその音を聞き逃さない。
「銃声っ!」
「おい斎川、待てって!」
微かな音から拾った銃声はとても聞き覚えがあり、そして思い出したくない憎たらしい白衣の男とオカマを思い出した。
身体中から溢れ出しそうな怒りを抑えながら、斎川恭香は走る。
音が大きくなるにつれ、近くに屍が多く現れるようになる。
「銃声!?」
ここまで着いてきたほかの皆も、ようやく銃声に気がついた。
斎川恭香は、目をつぶり耳をよく澄ませると、場所が特定できたのか再び急に走り出す。
「斎川っ! 一人で勝手に行くんじゃねー!」
別に争ってるわけでもないのに、区宮が斎川恭香の後ろから全速力でついて行く。
あのボ○トもビックリするような走りっぷりに、残された皆はただ呆然と見ているしかなかった。
そして銃声が聞こえていた場所へかけつけると、屍の死体とともに、そいつらがいた。
「ちっ、あの野郎どういうことだ。俺たちには何もしねぇって……どうしたメグ?」
「例の二人」
斎川恭香が忘れたくても忘れられない悪魔の顔をもつエスと、そいつと行動を共にするオカマのメグが知らん顔でこちらに向いている。また、そいつらの近くにもう一人、少し大人びいている高校生がいる。
エスは紳士気取りで近づいてくると思ったら、いきなり拳銃(コルト・ガバメント)を斎川恭香に向け、メグも拳銃(グロッグ17)を区宮に向けた。
「よお、お前が斎川恭香だな?」
「そして、区宮志悠」
「(こいつら、なんで私と区宮の名前を! まさかこいつらも記憶共有をしているの!?)」
「(記憶共有できるやつが俺たち以外にもいるのか!?)」
もともとどんな仕組みで記憶共有が行われているのかは知らない。
それどころか、別世界の人間の記憶を共有する方法はそもそも根本的に理解不能であるし、神様の存在までいかなくとも魔法や超能力の存在を信じるしかない、と思われる。
しかしそれを考えたところで、今の状況が変わるはずもない。
「とりあえず抗ウィルス剤を渡せ。渡さなければ、後ろの奴らが犠牲になるだけだぞ?」
二人が後ろを振り向くと、全員が手をあげたまま震えていた。
武器も何もない二人にとっては、最悪な状況であることは一目瞭然である。
「(どうすれば――――)」
「抗ウィルス剤なら……私が在処を知っています!」
紗依さんの言葉に二人は驚いた。
だが、斎川恭香は紗依さんが助けにはいってくれたことに、そして区宮は、一度ならず三十以上経験した紗依さんの未来の死がほとんど確定してしまったことに。
「ほう、ならそこに案内してもらおうか」
「わかりました」
「(やめてくれ、紗依さん――――)」
区宮の心の中では、未来を変えたい自分と臆病者の自分が闘っていた。
「皆さん怖がらないで、私が抗ウィルス剤を持ってきますから」
「――――待ってくれ! 俺も……俺も行く。紗依さんについて行く」
「……そうか。まあ、人手が多い方が早く見つけやすいからな、いいだろう着いて来い」
区宮の右手は震えていた。
それでも紗依さんを救いたい、未来を変えたいという自分が勝ったのだ。
「なら俺も行く! 区宮には任せられねーからな」
「拓斗、お前――――」
「いいから行くぞ。メグ、俺が帰ってくるまでショウとそいつらを見張っててくれ」
メグはただ頷く。
エスと区宮たちが歩き出すと斎川恭香が、
「区宮、スーパーで待ってる!」
と、死の別れではなく、生きて帰ってくるよう告げた。
姿が見えなくなると、何故かメグが「着いて来い」と言わんばかりに手招きをする。
しかし斎川恭香にとっては好都合であるのは変わりないため、他の皆も連れてこの場を後にした。
To be continued....
風邪引いて投稿できず、すみませんでした。
それと今回も長文ですみません;
次回予告~?
紗依さんの死を回避するために、区宮はどうするのか? メグは一体何を考えているのか?
では~




