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Dead end world.  作者: NPTNs
第一章
23/34

恭香の苦悩・繰り返される運命(せんたく)

 校長室を後にした恭香一行であったが、どうにも恭香の様子がおかしかった。

 それもそのはず、少なくとも一匹はいてもおかしくないゾンビ、それがいない。というよりは、なかったはずの屍の死体が増えている。そのことに気がついたのは、紛れもない恭香であった。


「おかシいわ。屍がいない……それだケでもおかしイのに、死体が増えてる」


 恭香は、屍同士の共食いではないか、と思った。しかし喰いちぎった痕がなく、頭に銃弾を受けた痕が見えた。明らかに人間の仕業である。


「この弾はニューナンブM60じゃのう。警察官か誰かいるのか?」


 ニューナンブM60。それを聞いた恭香が真っ先に思い浮かんだ人物像は、区宮志悠。もう一人の恭香が「世界は止めの効かない死の世界へとなってしまう」と言い、抹殺を命じたほど未来の運命を変えてしまうかもしれない人間だ。その言葉を半信半疑のまま、恭香は苦悩していた。


「(大丈夫なはずヨ。区宮は悪イ奴じゃないわ。きっと、私たチを探しに来たんだわ)」


 自分に言い聞かせるよう、心の中で暗示をかける恭香。


「もしも生存者でしたら助けないと! それにこの弾、どこかに続いていますよ。追ってみましょう!」


 三人の中で最も正義感がある守太は、恭香たちの意見も聞かずに先に行っていまった。あの臆病な守太が率先して。その時、恭香の中で、何かが歪んだ。


「(何、この違和感。マ、守太を止めナいと……)」


 そう、恭香は既にある選択肢を無意識に選んでいた。『死体が増えていることを告げる』という選択肢を。

 守太を引きとめようと喉を震わし、声を出そうとしたが、声が出ない。そこで隣にいる浜島に助けを求めようと必死に手を出した、が。


「(――――!? 声が出ない! なんデ、なんで異変に気がつかナいノ浜島!!)」


 まるでゲーム内のNPCのような、操られた人形のような、無反応の人工知能がそこに立っているだけだった。


「ぐっぁぁぁぁぁぁ!!」


 奥から銃声と共に男性の叫び声が聞こえた。紛れもなく守太の声である。


「(守太!? これ、どうなッテるの!!)」


 声が出ないだけではない。身体も全く動かない……否、自分の行動と反するかのように勝手に動き出す。


「(なんなノこれは!! カラダが勝手に!)」


 気がつけば、恭香はある男の前へと辿り着いていた。

 右手には拳銃ニューナンブ、全身は返り血で真っ赤に染まり、笑いながら守太を踏んづける男の姿。とても信じられない光景に恭香は混乱し、状況を判断できない。それだけならまだ良かったほうだが、恭香の目に映る人物は、疑いようもない区宮志悠本人だった。


「区宮……」


「来てやったよ。満足したか? いや、不満か?」


 汚れた下足で守太を転がす。頭の方には血溜まりができ、既に息絶えていると思われる。


「お前が選択を誤ったからこうなったんだ。そうだ。お前が俺を裏切らなければこいつは死ななかっただろうな。ああ、可哀想にな。そうだ、お前が救ってやれよ。こいつと一緒に地獄で」


 瞬間的に構えられ、放たれた銃弾を避けることなど容易かった。屍に近づいている恭香ならば容易いはずだった。しかし避けず、銃弾は後頭部から飛び出していった。


「(ア……れ……?)」


「あ? 避けないのかよ……呆気ないなぁ……」


 指の一本すら動けず、恭香の命は、あの白い息の如く儚く消えていく。

 脳の活動が完全停止するまで二秒かかったが、苦痛はない。喜怒哀楽すらない無表情の顔のまま、二秒という短くも長い時間が過ぎて、斎川恭香は死んだ。


****


 暗闇。とにかく何もない空間、と呼べるに等しい世界。そこに恭香は立っている。ただ無言で無表情のまま、繰り返されてきた世界を思い出す。


「(ああ。思い出した。何もかも、全部)」


 何か心の引っかかりが取れたのか、口を一センチほど開けた。微かに白い息だけは見える。


『また、ゲームオーバーね』


 もう何度と繰り返してきたバッドエンドにため息をつきながら現れたもう一人の恭香。今までに経験したバッドエンド数は三十を超えている。


『さて、目,手,足,記憶。どれを犠牲にコンティニューするつもり?』


「……記憶しかないでしょ」


 選択を切り捨てても、最終的に失っても身体に影響がないのは記憶だけである。しかし結果としては、斎川恭香が選ぶ選択肢はあまり変わらない。一番良い選択肢を選んだ斎川恭香でも、区宮志悠の抹殺を躊躇い死んだ。


『またフリダシに戻って、私に……いえ、貴方に会って、区宮に殺される。これが“死の世界”よ』


「……」


 恭香は答えない。答えがわかり、知っているから。

 もう一人の恭香は、最後にこう言った。


『次にコンティニューする時、私は消えて新しく貴方がこの空間に閉じ込められる。あっちの世界の恭香に送れるアドバイスは、あの白昼夢状態の時。他に言えば、その時が世界を変えるチャンスよ』


 死の世界。そこから脱出するためには、正しい選択をしなければならない。だが、例え正しい選択を選び続けても、心が正しい選択をしなければ永遠にコンティニューすることになる。


「区宮志悠の抹殺……あっちの世界の斎川恭香が、区宮志悠を『殺したくない』、と思えば意味がない。私にできるただ一つの選択肢は、斎川恭香の記憶を取り戻すこと、ね」


 何も言わずに頷く。

 三十を超える運命せんたくを乗り越え、恭香はここにいる。もしも次を失敗すれば、何十や何百の運命せんたくを再び乗り越えて、今の恭香と同じものを持つ斎川恭香に託すしかない。これは一世一代のチャンスではなく、必然的に与えられた最初のチャンスである。

 もう一人の恭香は自然と消えていった。そしてあっちの世界の時間が戻り、斎川恭香は、フリダシに戻るのだ。


****


 二〇十五年二月十日。

 午前十時を回り、あるレストランが開店した。それから五分ほど経つと、二十歳ほどの青年が店内へと入り、アルバイト員がいつものように席に案内して、注文を受け付ける。


「メニューはお決まりですか?」


「……水のおかわり」


 青年から差し出されたコップには、何も入っていない。


「只今、お持ちします」


 一言返して、小走りで厨房へと向かう。

 水の入った容器を片手に、アルバイトの女子……否、斎川恭香は戻ってきた。


「お待たせしました」


 空のコップにこぼれない程度、水を入れる。それと同時に青年は私物のカバンをあさり始めた。

 横目で伺いながら再び注文を受け付ける。


「あの、メニューは決まりましたか?」


 青年は手にカプセル状の薬を一錠持ち「……また後で呼ぶ」、と威嚇しているような目でそう言った。

 それから三分ほど経ち、青年の呼ぶ声がする。「はい」、と斎川恭香は立ち上がり、行く途中で全体を見渡したが、お客の少なさに疑問を抱く。


「ご注文ですか?」


 声を重くして疑問を投げかける。しかし返った答えは、2回目の水の要求であった。

 斎川恭香は、少々呆れながらも厨房へと赴く。二回も水を取りに厨房へ訪れたためか、料理長は不思議に思っていた。


「何かあったか?」


「いえ、お客様が水のおかわりを要求するので」


「そうか。しかし今日は客がいないし、他の奴も休みだ。流石におかしい」


 このレストランの厨房には料理長と二人のシェフがいる。アルバイトは、未だに斎川恭香一人だけだ。この状況を見て最初は休業も考えたが、今の赤字経営を考え、少しでも収入を増やそうと開店させた。

 斎川恭香は水の容器を持ち「たまたまじゃないですか?」、と軽く言葉を返した。

 再び青年の元に戻る。ところが、何があったのか青年は床に倒れ伏せていた。テーブルには嘔吐物が広がっており、悪臭が漂う。


「大丈夫ですか!?」


 そんなことよりも青年の安全を考え、仰向けに起こす。しかし顔は真っ青で、目は焦点を失って白目をむいていた。


「――――!」


 思わず起こした体を放り投げた。何があったのかパニックになり、その場で料理長へ叫ぶ。


「料理長、男性が倒れているんです。此方に来てください!」


 その声を聞いた料理長が、厨房から飛び出してこの光景に口を塞いだ。


「し、死んでいるのか?」


 顔色が良くない料理長の後ろには、二人のシェフもいた。


「まだ、脈は測っていません」


 経験したことのないはずなのに、何故か冷静な斎川恭香。この事態を飲み込んだシェフ二人は何かを話し合っている。


「とりあえず救急車を呼ぶん――――」


 料理長が言いかけた時、青年の体が微かに動いた。


「大丈夫か君!?」


「……ぅぁぁ」


 青年の口からかすれた声がもれ、歯ぎしりをしはじめる。


「苦しいのか? 今、救急車を呼ぶからな」


 ポケットから携帯電話を取り出し、人差し指で携帯を操作する。すると青年が、不意に料理長の服袖を掴んだ。


「待っていろ。今、救急車を呼ぶ」


 画面に表示された『11』の次に『9』を押そうとする。その時、青年が料理長の首元まで顔を上げ、噛もうとした動作に斎川恭香が気づき、意識的なのか無意識なのか、身体を蹴飛ばした。


「な、何をするんだ斎川。人をいきなり蹴るなんて!」


「何故か……身体が勝手に動いて……」


 斎川恭香は自分の手を見た。自分は動かそうとしていないのに、指が勝手に動く。そして自分が指令を出していない、にも関わらず身体が動き出して青年の元へ歩くと……頭をつぶしはじめた。それは斎川恭香の意思ではない。


「――――!」

 

 料理長と二人のシェフは震えていた。屍という存在を知らない三人には、斎川恭香は殺人犯の何者でもないのだから。

 青年は頭が潰れ、まるで落として割れた卵のようにぐちゃぐちゃになっていた。青年の顔も、脳みそも。


「ひ、ひ……!」


「「うわあああああああああああ!!」」


 料理長は尻もちをつき、シェフ二人は飛び出ていった。尻もちをついた料理長は、口を震わせ過呼吸になっている。


「さ、さ、斎川……お前、今、何やったのか、わかっているのか……人を、殺したんだぞ!」


「違う……。私じゃない。私じゃないっ!」


 必死に訴えようと料理長の前まで近づく。しかし、何も知らない料理長が、斎川恭香を受け入れられるわけがなかった。


「来るな『化物』!」


 その時、斎川恭香の脳内で見たことのない映像が流れた。それもかなりリアルで、『斎川恭香が白衣の男に、銃で殺されるが生き返る』、という不思議な映像。


「化、物……?」


 斎川恭香の目は虚ろになり、立ったまま何かを思い出そうとした。脳裏に過る言葉は、『屍』『死の世界』の二つ。それらは頭から離れない。もう一つ、ぼやけたように明確に思い出せない言葉を、口にする。


「く◆◇……◇ゆ◆……」


 言葉を発した後、レストランの入口の方から一人……否、一匹の屍が現れた。


「お客か!? こ、こっちに来ちゃいけねぇ。アンタ殺されちまうぞ!」


 何も知らない料理長は、屍に自分の居場所を教えてしまい、屍は声と肉の臭いのする方へ歩きだす。


「な、何だ?」


 屍が口を大きく開けると、一気に襲いかかった。屍が喰うのは肉だけではなかった。心臓、肺、胃、腸、血管……人間にある骨以外を余すところなく平らげる。

 屍がそうしている間、斎川恭香は厨房にあった包丁を二本両手に持ち、再び戻ってくる。刃渡りは二十センチと結構長い。

 目が虚ろのまま、無意識に動く斎川恭香。包丁を構えると、屍へと襲いかかる。

 屍の数は一匹のみ。確実に仕留めるため、屍の頭を切り刻む。数十回切ると、首だけ此方に向いて頭が外れ、屍は倒れた。それでも斎川恭香の手は止まらない。頭をとった次は手を切り刻み、腹、足、と人体解体の如く身体をバラバラに切り刻んだ。


「はぁ……はぁ……」


 息を荒げながらも手は休まない。屍を切り刻んだ後、今度は喰われた料理長を人体解体しはじめる。まだ屍になっていないのか、切り刻んだ身体からは大量出血し、斎川恭香は返り血を浴びる。そして解体し終えると、意識が戻った。


「はぁ、はぁ……何、これ」


 斎川恭香は覚えていない。これは、今までの斎川恭香にはなかったことだ。最初のレストランでは、必ず『逃げる』という選択肢しかない……否、『逃げる』しかなかったはずである。何故ならレストランの時の斎川恭香は、人を喰う屍に恐怖を覚えて『逃げる』はずなのだから。意識が飛んで無意識に屍を殺すことなどありえない。


「(これ……私がやったの? でも何故か、全く怖くない)」


 両手に包丁、返り血を浴びて汚れた斎川恭香は、怖がらなかった。そこで再び脳裏に何かが過る。言葉は、『私を、思い出せ』。


「(『私』? 一体、誰……?)」


 斎川恭香は歩き出し、その足で外へと踏み入れた。

 繰り返される運命せんたくの中、唯一違った道を歩いた斎川恭香は、脳裏に過ぎった『私を、思い出せ』、という言葉に引っかかりながら次へ向かう。


To be continued....

超、超、超急展開! まさかの……的な内容です。

えと、本編長文すぎるのは勘弁してください;


話が急に変わりますが……。

本編が意味不明という方もいらっしゃるので、次は説明回とします。あと、これで1章は終了なので次から2章に入ります。

拙い文章ですみません。

では~



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