死の母校
私立浜二間高校。
恭香と守太の二人は校庭へと足を踏み入れていた。
校舎の窓ガラスは全体的に割れており、校庭は血で汚れ、ここの生徒や教師と思わしき死体がいくつか転がっている。
「校舎に血痕が……」
「争った跡でしょうね。この様子だと、校舎内にまだ屍がいる可能性はあるわ」
校舎全体を見渡す恭香。
屋上にもいくらか屍がいることが見える。
「あの……斎川さん? もしかして、入るんですか?」
「当たり前じゃない。浜島を助けるって言ったでしょ? あ、守太、拳銃はどうしたの?」
守太の手元を見るが、ただ震える手しか視界に映らない。
寒いのか、手が赤くなっている。
「すみません……寒いし、僕にあんなものは持てません……」
「はぁ……まあいいわ。私の後ろで見張って、屍が来たら呼びなさい」
言葉にするたびに息は白くなっていた。
守太が頷くのを見ると、恭香は挙動不審のように辺りを見渡して注意しながら、下足箱の見える正面入口からそっと入っていく。
入ったすぐ近くの壁や床、あらゆるところに赤い手形がついており、血溜まりに引きずられた跡もある。これは全て、必死に逃げようとしていた生徒や教師たちの跡だった。
「なんで……こんなことになったんでしょうか……」
「……」
恭香はその言葉に何も返事をできず、無意識に胸に手を当てていた。
「まだ生存者がいるかもしれないし、助けられそうな人は助けましょう」
そう言ってあの日、一日前のことを思い出す。
助けを乞うように必死に叫ぶ声が脳裏に過ぎり、罪悪感を忘れるように唇を噛んだ。
「そうですね。斎川さんの意見には賛成です」
「……まず、放送室に行くわよ。恐らくそこに、浜島がいるわ」
「え、浜島って方は校長先生ではないんですか?」
「そうだけど、浜島は放送室が好きだったからね」
浜島校長のことをよく知っているような口調でそう言った。
土足のまま下足箱を過ぎ、左右の廊下と正面の階段の前で再び立ち止まる。いや、正確には立ち止ざるおえない状況である。
「伊藤に松村と松田……」
女性教師の伊藤と松村が左右廊下から迫り、男性教師の松田が階段から此方に向かってくる。
しかし、三人とも既に屍と化していた。
「斎川さん! 早く屍を!」
「わかってるわよ!」
まず恭香は左廊下にいる伊藤を殺しに少しずつ近づく。
間合いをとりながら隙を狙って、襲いかかってくる伊藤を躱して足元をすくい、馬乗りで首をへし折った。その間に松村が守太を襲おうとする。
「うわ! 来ないでください!」
守太は落ちていた上履きを必死に振り回す。
だが、屍には視力がないため、ゆっくりと守太に近づいていく。
「守太、右の廊下から逃げろ!」
恭香は守太を安全な場所へ逃がそうと、道の塞がれていない右側の廊下を指差した。
徐々に迫る松村の隙をギリギリ抜け、守太は走っていく。
守太を追うのをやめた松村と、階段を下りきった松田が恭香へと襲いかかる。
「まずは松村から!」
後ろから来る松田を後回しに、松村を狙う。
先程と同じように間合いをとり、躱して足元をすくおうとしたが、近くにあった血溜まりに足を滑らせ、サマーソルトキックをした後に恭香も倒れてしまった。
松村は打ちどころが悪かったのか、死んでいる。
「(何この血溜まり! 滑ってなかなか立てない!)」
上体を起こそうとしても手が滑り、思うように動けない。
気づけば、松田はすぐ目の前に立っていた。
恭香を見下ろすような体勢で、そのまま、首に噛みついた。
「っ!」
恭香に痛覚はほとんどなく、出血も全くない。しかし、噛まれたことによって、屍ウィルスが体内へと侵食していく。
「ヤめろぉぉぉ!!」
首に噛みつく松田の頭を両手で抑え、力いっぱい押し潰した。
頭蓋骨は陥没、少し血が流れて目玉も飛び出す。その直後に強烈な吐き気が恭香を襲う。
「ゥ……ヴォェ……おェ……」
他の屍によってウィルスが身体に侵食したことにより、体内でウィルスが繁殖していき、恭香の中で完全な屍化が進み始めた。
つまり、理性のない屍化への進行が早まったということ。
「(ヴ……今こコで……屍になるワけニはいかない……守太ト浜島を助ケルまでは!)」
恭香は、死んだ松田の身体を滑り止め代わりにフラフラな足で立ち上がる。
フラフラなまま、右側の廊下を進んでいく。
****
一方その頃、区宮はあの公園で座り込んでいた。
「(何で俺が……こんな目に……)」
こんな世界になり、親友を殺し、恩人を殺し、抗ウィルス剤を失い、そして仲間に裏切られたことで区宮の精神は病んだ。また、恭香によって理不尽な攻撃を受けたことにより、病みとは別に区宮の中の闇が出現し、恐ろしいほどに、区宮志悠は変わってしまった。
「(元はといえば斎川のせいじゃないか……そうだった。あいつを殺すか……)」
そう、既に区宮は発狂し、人間ではなくなっている。
化物よりも恐ろしく、化物よりも化物となっていく。
区宮志悠は立ち上がり、何処かへ歩き出す。
****
現在午前八時五十四分を回った。
恭香は今もなお守太を探しており、幸い屍には出くわしていない。
「(守太ハどこに行ッたの……)」
恭香の中でウィルスは今も繁殖しているが、慣れてきたのか身体は軽くなっている。
普通に歩けるようになってきた時、職員室が見えてきた。
「(守太のことダから、コこニいる可能性も低くナイわね)」
ドアの前まで足を運び、音を立てないようにドアを開ける。すると、何かが倒れてきて恭香を襲った。
「(――――! まさか屍!?)」
しかし、よく見ると首から上は喰われており、動く気配はない。
恭香は死体をどかして立ち上がり、中へと入る。
職員室内では書類等が散乱していたり、首から上がない死体が3~4体転がっていた。
窓は完全に閉められているが、窓ガラスが割られ冷たい風が書類を巻き込みながら去っていく。
「(首から上ガない死体ナんて、初メて見るワネ)」
そう思った後、何かを食べているような音が聞こえた。
屍と思った恭香は注意しながら近づいていくが、首から上のない死体の近くには1匹の犬と思われる動物がいた。
「何ダ……犬か……」
安心したのも束の間、恭香が寄ってくると一匹……否、一頭の犬は全身を血まみれにしながら恭香の方へと向く。
「グルゥゥゥ……」
退化した目は濁っており、威嚇しながら剥き出す牙は恭香をとらえていた。
「(まサか……屍にナッタ……犬!?)」
恭香が一歩下がると犬は一歩前に出てくる。
もう一歩下がると、今度は三歩ほど前に出てきた。
「グルゥゥゥ……」
恭香は……走り出し、それと同時に犬も走ってくる。
「(嘘でショ!? 犬が屍にナるナんて有り!!?)」
犬とは距離をとっていて、間一髪職員室を出ることが出来た。ところが、反対側のドアは無防備に開いており、そこから1頭の犬がひょっこりと出てきた。
「嘘……デショ………」
一歩も距離を離れられないまま、犬は恭香へと襲いかかる。
屍犬など一度も出会ったことがないこともあり、対策は皆無。
敵前逃亡といきたいが、相手は人間の屍よりも素早く、逃げる隙がない。
「(体術は危険性が高イ……何か武器……)」
ポケットに手を突っ込んでいると、ある二丁の拳銃の形をした感触が微かにあった。
コルト・ガバメント(M1911A1)・グロック17(Glock17)。
実は恭香は、エスとメグが死んだ後にこっそりと盗んでいたのだ。それの一丁、コルト・ガバメント(M1911A1)を手に取り、襲いかかる犬の頭に発砲する。
「クゥーン!!」
拳銃から弾丸が発射され、犬は鳴き声をあげて床に倒れた。
「(この拳銃があッタのすっかリ忘れテイタわ……危なカッた……)」
二丁の拳銃の残弾を見たが、M1911A1は二発、Glock17は三発程度しか入っていない。
しかも、この二丁の弾丸の入手方法は知らず、今後ピンチの時には重要である。
「(まア、仕方ない。職員室は見たシ、恐らク守太は放送室に行ったとしカ考えラレないわ)」
この学校の放送室は、校長室の前にある。
恭香は記憶を頼りに放送室へと足を運ぶ。
最後、ご都合主義すぎてすみません;
どうしても犬が出したかった! とにかく犬が出したかった!
それはともかく、区宮が大変なことになりましたね。
まあ、恭香も大変ですが。
さてさて次回、とうとう現れますよ! あの方が!
それでは~
12/02 修正




