始まりと終わり、そして絶縁
今までぐっすりと眠っていた区宮が目を覚ました。
頬には冷たい風、不思議とお腹が窮屈になっている。
「(腹痛いな……それよりも、何だか浮いている気がする……)」
垂れ下がった瞼を軽く擦り、首を下に向けた。
「(地面が……動いてる?)」
地面が動いてる。
今まで寝ていたはずなのに、動いている(?)という事実に再び目を擦った。
何かの間違いだろう、と下に向けた首を今度は上へと上げる。その目の前には、青白く血色が悪い女性の顔が飛び込んだ。
「(は……え……?)」
起きたばかりの区宮の脳は、全然働こうとはしない。
ただただ、冷たい風が頬をなびくだけだ。そこでようやく、女性が気がつく。
「起きたのね区宮。後で状況は説明するから、大人しくしてて」
血色が悪い女性……否、斎川恭香は二人を抱えながら、そう答えた。
日が出始め、街は太陽の明るさに包まれる。しかしそれを感じる生存者は、数が少なくなっていた。
「ちょ、斎川だよな? お前、俺と守太を抱えているのはいいが、武藤はどうした」
恭香の眉が微妙に動いた。
表情を一切変えずに黙っているが、何かがあったような雰囲気である。
青白い恭香の顔は、何も言わずに前へと向き直ってしまう。
恭香の態度、行動、沈黙から、区宮は桜に何かがあったと確信した。
「説明は後でするわ」
一言、恭香はこちらに向かずにそう言った。
****
区宮たちが寝ていた場所から、そう遠くない荒れ果てた公園に辿り着く。
守太は今もまだ夢の世界に意識が飛んでいた。
恭香は、血に染まった真っ赤なブランコに無言で腰掛け説明をする。
「桜は……私と出会う前から、既に感染していたわ。たぶん貴方たち二人と出会う前からかもしれない。その感染の影響で桜は次第に屍になりかけていた。
今まで屍にならなかったのは奇跡かもしれないくらい、症状はひどかったわ。貴方たち二人が寝静まった深夜頃、桜は吐血したの。『大丈夫よ』って桜は言ったけど、夜が明けたと同時に倒れた。そんな時、桜の吐いた血の臭いを嗅ぎつけて屍が寄ってきたわ。足止め用に仕掛けはしておいたけど、屍が道を塞いで私たちも出られなかった。
突然、桜は言い出したのよ『私が囮になるから逃げろ』って。他に方法は見つからなかった。私たちの中で、桜が一番早く死ぬってこともわかった……。
結局、桜を置いて……今に至るわ」
区宮は話を聞き終わって、恭香のところへ行くと、頬を殴った。これには恭香も驚いて、殴られた頬を手で押さえるしかない。そして区宮は憤怒して言い返す。
「何で言わなかった! 感染者を身近に置いていて、安全なわけないだろ! 深夜頃に起こしてくれれば、どうにか逃げることはできただろう!?」
「っ!? 区宮! 貴方は何を言ってるのかわかってるの!?」
「感染者になった奴は、抗ウィルス剤がなきゃ屍になるだけだ!」
「……抗ウィルス剤?」
区宮は慌てた様子で手で口を押さえた。
「貴方も私たちに隠しているんじゃない! 抗ウィルス剤って何よ!」
「こ、これは俺のだ……って、あれ……あのポーチはどこにいった!?」
区宮が首に下げていた小さなポーチは、いつの間にかなくなっていた。ここに来る前、恐らく、区宮が寝ている時か逃げている最中に落としたと思われる。
「くっ! お前が俺を運んだから悪いんだ! 逃げずに留まっていれば!」
「何、私が悪いって言うの!? ふざけるんじゃないわよっ!!」
区宮の八つ当たりに、とうとう恭香はキレた。
腰掛けていたブランコを片足で割り、区宮に飛びかかる。それを予想していたのか区宮は横に飛び、ギリギリのところでかわす。ところが恭香は、片手で地面をつき減速させ、身体をねじらせて区宮の方へ向く。
片手で身体を起こし、足で地面を蹴り一気に距離を縮めた。その勢いのまま、区宮の腹を殴り飛ばす。
「ぐぅあっ!!」
「はぁ……一回は、一回よ」
人間である区宮の身体は耐え切れず、吐血した。
以前、恭香が区宮と戦った時は足加減せずに横っ腹を強打したことがある(肋骨は折れていなかったらしい)が、今回は内蔵にまで攻撃を受けたと思われる。
あまりの痛さに区宮は悶え苦しんだ。
「ぐっぁ……うぐ……!」
「貴方はまるでエスみたいな奴ね。流石はエスに利用価値のある人間として遣わされたことだけはあるわ。……私は守太と二人で浜島を助けに行くわ。貴方が一人でどこか行きたいなら勝手に行きなさい。ついてくるなら、桜に謝ってからにしなさい」
恭香はそう言って、守太を起こす。
「ぅん……?」
「守太、浜島を助けるわよ」
「ぇ……? ん……区宮くんはどうするの、ですか……?」
「事情があって今はここに残ってもらう。用が済めば来るけど……」
最後かもしれない、と思い恭香は振り返る。けれど、区宮の光の失った目は恭香を睨んでいた。
恭香は小声で「ごめん」と謝り、
「もう……行くわよ」
仲間であった区宮と、別れた。
****
現在、二月十一日午前七時四十分を回った頃。
恭香と守太はある学校の校門前にまで来ていた。
「まさか、またこの学校に来るなんてね……」
私立浜二間高校。
名前からわかる通り、現校長である浜島が由来である。
決して偏差値が高かったり有名な高校ではないが、浜島校長は生徒たちからは有名で尊敬されている。
「ここに来るのは嫌だったのですか?」
「いえ、違うわよ。ただ、浜島って変わり者だったからつい言葉に出ちゃったの」
守太は不思議そうに首を傾げていた。
恭香は深呼吸をして、懐かしの母校へと足を踏み入れた。
桜と離れ、区宮とも別れてしまった……。
さて、読者様がどのような反応をしているのか気になっていたりならなかったり……まあ、予想つくのは、
「この作者、拙いって書いていて正解だね。本当に文才ないんだもん(笑」
と私を罵っているだろうと思います。
まあ、次回のDewも頑張りたいですね……
12/02 修正




