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Dead end world.  作者: NPTNs
第一章
18/34

一日の終わり

「あ……んんっ。聞こえてますかの? ま、大丈夫そうですな。んんっ。あー、現在……二時三十三分……午後の二時三十三分を回った頃に録音したものを流しているんじゃが、誰か助けてくれんかの……このラジオを聞いた生存者よ。わしは今、身動きがとれないんじゃ―――」


****


 二〇十五年の二月十日、十六時三十分。

 人が人を喰うという事件(ゾンビの出現)は、日本だけでなく徐々に世界へと蔓延していく。それは、パンデミックという最悪な事態が起こってしまうということ。

 アメリカでは、軍を総動員して鎮圧を目指す、といったことを発表していた。

 未だ1日も経っていないこの世界で、犠牲者は何十万にもなり、屍たちは半日で世界を恐怖へと包み込んだ。

 日本では、このようなニュースが放送されている。


「日本のある街では、人を喰う人間が急激に増加しているということです。現在、状況を調査している模様ですが、街は壊滅的と言ったほうが良いほど事態は深刻になっています――――」


 ある街。

 その街には、生存者がいるのかもわからないほど屍の増加が早かった。

 調査結果によるとその街には、極秘で何かのウィルスを研究していたらしい。しかし、その調査中にも数人が喰われ、死亡している(屍と化した)。また日本政府によると、屍の被害が広まることを少しでも避けるために、生存者の有無を問わず早くて二ヶ月、遅くても三~四ヶ月後には核ミサイルを落とすといった発表もしていた。


****


「これから先、どうするんだ?」


 区宮は心配そうな顔をして、そう言った。


「ナニがどうするって?」


「なんというか、食料と水は俺の持ってるこれだけしかないし、この街には生存者がいなさそうだし、それに脱出できるのかって話だ」


 桜の問いに区宮は大きめの袋を持ち上げ、指を指しながら答える。

 脱出、その言葉に周りの皆は息を呑んだ。全員が考える脱出とは、この街から逃れることと『生き延びられるか』、ということである。


「食料ならスーパーがあるじゃないですか」


 そう言って、先程のスーパーを指す守太。しかし、呆れた顔で桜は反論した。


「守太、アンタはあの屍を相手にしようって考えてるわけ? 私は御免よ」


 ここから肉眼で見えてしまう無数の屍。幸い、中からだと引き扉式なため、知能のない(ゾンビ)にはその扉を開けられない。

 外に出てくる心配はないが、数匹の屍は扉に張り付いていて、鳥肌が立ってくる。


「……前言を撤回します」


 自分の失言を取り消すかのように前言を撤回した。

 実際のところでは、守太の判断は正しくはあるが、あまりにも数が多すぎて近づけない状況である。


「対屍武器があればイイんだけどね~」


「桜、ちょっと静かにしてもらえる?」


「え?」


 耳に手を当てながら、突然桜の話し声を止める恭香。それから、何秒間か耳を澄ませる。


「何か……声が聞こえる。話し声みたいなのがどこからか聞こえるわ」


「話し声? まさか生存者か!?」


 驚き、区宮も耳を澄ませるが、聞こえないらしく眉間にシワを寄せていた。


「聞こえるのはこっちの方よ。屍に注意しながらついて来て」


 恭香は耳を澄ませながら、音がする(らしい)場所へと1歩ずつ近づいていく。


****


「ラジオ……?」


 その場所から一mほど先に、一つの古いラジオが置いてあった。

 ただ、古すぎて雑音のようにザザ……としか流れない。


「ん? ラジオだな」


「へぇ~、まだラジオってあったの」


 久しぶりに見るような顔をして、区宮と桜は顎に手を当てていた。

 守太は周りを見張っていてくれている。

 ザザ……っと流れる音に混じって、先程聞こえた話し声を耳にする。


『あ……(ザザッ)。聞こえてますかの? ま、大丈夫そうですな。(ザザッ)現在……二時(ザザッ)……午後の二時三十三分を回った頃(ザザッ)たものを流しているんじ(ザザッ)助けてくれんかの……このラ(ザザッ)存者よ。わしは今、身動きがとれないんじゃ。わしは学校(ザザッ)れているんじゃが、この街は異常(ザザッ)。ここは化物に襲われる心配は(ザザッザザザ――――)』


「学校って、このじいさんはドコから放送してるのかしら?」


「この声……浜島?」


「斎川? 誰かわかるのか?」


 無意識に言葉を出していた恭香は、我に返り、


「この声、私が卒業した高校の校長だわ」


「「校長かよ」」


 何を期待していたのか、2人は点のような目で恭香を見た。


「おいおい、そうなると学校にまで行くのか?」


「え、助けるの……?」


 区宮の言葉に、桜はそう疑問を投げかける。

 どう思っているのかわからないが、桜の顔からは、今後不吉なことしか起こらないような、嫌そうな顔をしていた気がした。

 まるで未来を見ていたかのように……。


「んー……浜島には悪いけど、今日は無理だわ。いえ、屍は暗さも関係なく襲ってくるだろうし、夜になったら私たちが不利よ。明日の朝にでも考えましょう」


 その言葉で、桜は急に元気になりはじめた。今の何秒かで何かを打ち砕いたかのように。


「でもさ、どこで一日を過ごす? 近くにホテルは……なぁ斎川、その指はどこを指してるんだ?」


 区宮が話していた途中、恭香が不意に右手の人差し指を下に向けた。

 口で説明するのが面倒なのか、ひたすら強くアピールする、指を下に向けたまま。


「斎川っ!? おまえ正気か!? この気温でしかも屍が歩き回るここで眠れってか!? それはいくらなんでも無理があるだろ!!」


 区宮は、自分の意見を息継ぎなしで、しかも一言も噛まずに話した。しかしふざけたわけではなく、恭香はきちんと説明する。


「ここには臭いがないのよ。血生臭さとか。ホテルとかだと食い殺された人が何人もいて、血や肉の臭いが染み付いているはず、だから危険なの。ここは狭い通路が2つあるけど、大丈夫。足止め程度のトラップを仕掛けておいて、貴方達が寝ている間は私が見張っておくから」


「「はぁ……」」


 二人とも反論はせず、口をポカーン、と開けたまま突っ立っている。

 早速、恭香は狭い通路に仕掛けを設置し始めた。


****


 数十分経って、ようやく完成した。その間に屍が来なかったことは幸いである。ふと、恭香は三人を見る。


「(なんだろうこの感覚。血が巡っていないはずなのに、身体が熱くなる……!)」


 見たことのない、視界。

 感じたことのない、食欲。

 求めたことのない、血と肉の臭い。

 無意識に、身体が動き出す。


「どうした斎川?」


「(喰イ……タイ!! ウグッ!!)」


 痛むはずのない胸に、激痛を覚える。

 声を殺しながら、心の中で叫ぶ。


「(うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 私は人間ダ!! 一秒たりトも化物ニなっテたまるか!!)」


「区宮っ、下がれ!」


 異変に気づいた桜が区宮を下がらせる。

 桜は、恭香に近づきながら拳銃を構えた。


「恭香」


 返事はない、まるで死人みたいにぐったり立っているだけだ。ところが、恭香の指を動くのを桜が見逃さない。


「っ……」


 拳銃を、両手で構える。


「サ……桜……?」


「そうだけど」


「私ヲ……私を思い切り蹴レ……」


「 」


 桜は言葉を出さなかった。

 そして、恭香に蹴りをいれようと足を上げた時、恭香に足を掴まれる。


「おちたのね!!」


 そう言って拳銃を構えたが、撃つ隙もなく恭香に拳銃を奪われる。

 足を持たれたまま、一向に襲ってくる気配がない。

 瞬間、桜の左足は恭香の顔に直撃した。


「どうよ! これでいいんでしょ!」


 軽く吹っ飛んだが、恭香は立ち上がる。そして、


「あまり効かないけど、脳には響いたわ」


「恭香なの?」


「あら、意外と冷静ね。ま、お礼を言っておくわ。ありがと桜」


 何が起きたのか、結局区宮と守太はわからないまま、目を点にするしかなかった。

 恭香は平然として、何事もなかったかのように空を見上げる。だが桜は、


「(屍になったの……? アレは、さっきのは、屍になった恭香?)」


 震えた小声で「どうなってるの……」と連呼して、驚いた表情で再び恭香を見た。

 確実に桜は、混乱している。それからも、暗号のような聞き覚えのない単語を小声で喋っており、守太は怖がっていた。


****


 空は既に暗く、電気のついていないこの街はほとんど真っ暗である。

 現在十九時十八分。

 暗闇の中、恭香が話す。


「区宮、守太、桜。こんな中眠れないかもしれないけど、睡眠はしっかりとっておいて。今眠れなくてもいいから、とにかく眠ってて」


 恭香の顔が見えないが、笑っていた気がした。

 三人は肯定して、静かに、目を閉じた。

桜が……。

恭香が……。

守太が……。

更新遅いですが、これからもお楽しみに


12/02 修正

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