スリル
プロローグ1の女主人公。
斎川恭香編。
「はぁ……はぁ……」
レストランから逃げて、およそ二時間が経った頃だろうか。ひたすら逃げることだけを考えていた私は、現在位置を確認していない。見た限りでは住宅密集地だろう。
住宅密集地のため、日の光があまり当たらず、人が一人入れそうな隙間は真っ暗でよく見えない。あの化物に注意して別の場所に移動しなければ……。
「誰か! 助けてくれ!」
住宅密集地に叫び声が響いた。化物に襲われている人に違いない。しかし私は足を止めず、歩き出す。
「誰か! 誰か助けてくれ!!」
男性の叫び声は、近くの化物たちを呼び寄せている。あの化物たちは目が退化しており、代わりに聴力と嗅覚が非常に優れているらしい。音を出せば寄ってくるし、肉や血の臭いを嗅ぎつければ虎の如く襲いかかってくる。それは足音も同じこと。音は小さいが近くにいる化物には気付く。
「ん……」
私は、極力足音と呼吸を抑えながら道を探る。住宅が密集していて、今の居場所が全くわからないのだ。と、私の目の前に化物がゆっくりと此方に近づいてくる。
「(音さえ出さなければ、切り抜けるはず……)」
辺りを見渡しても化物は一匹しかいない。これならやり過ごせる。
一歩一歩近づく化物を、ただ右へ過ぎるのを待つ。
化物への恐怖というものは既に無く、今はスリルを楽しんでいた。
「(あと少しで……通り過ぎる……!)」
微かに鼻で呼吸をしながらじっと待ち、ようやく化物は過ぎ去っていく。
「ふぅ……」
ところが安心して口で息を吐いた途端、化物は私の方へ振り向き「あぁぁ……」と声を漏らした。
私が振り向くと、光の当たらない青白い顔が口を開けて襲いかかる。
「なんでよ、もう!」
逃げようと思った。けれど本心では恐怖というスリルを味わっていた。しかし徐々に迫る化物を見て、足は震える。
「(嘘……やばいやばいやばい! このままじゃ、食われる!)」
そう思った時には既に遅く、化物は襲いかかる。瞬間に私は化物の頭を掴み抑えて阻止する。
カチカチ、と歯を鳴らす化物に鳥肌が立った。
「(力が強すぎる!)」
この化物含め化物と化した奴らは全員、脳のリミッターが外れ、本来人間が出しきれていない力を100%出せるらしい。
「この化物がぁぁぁぁ! いい加減にしなさい!!」
私は化物の頭を力いっぱいに右へ曲げた。すると、嫌な音を立てながら、化物は倒れ込む。
「うわっ……」
地面に倒れ込んだ化物は動く気配がない。しかし、音を立てすぎたことで、近くにいた化物たちが寄ってきた。
私の場所はちょうどT字路になっており、三方向から化物が寄ってくる。
「(大きな音を出したとはいえ、三匹……どうすれば)」
私の結論は、立ち向かうことにした。近くに倒れている化物を見ている限りでは、倒せなくはない。ということ。
私はまず左から来ている化物を相手にする。
襲われる前に腕を掴んで背負い投げをし、しゃがみこみ首をへし折る。残りの二匹が私の方へと列を作って襲う。そこに蹴りを入れてドミノのように倒す。起き上がろうとする二匹。私は速やかに後ろ一匹へ近づき首をへし折った。その間にもう一匹は立ち上がり襲いかかるが、足払いで転倒させ、再び起き上がる前に首を折った。
「はぁ、はぁ……」
息が荒くなる。
地面に倒れている四匹の化物を見て、私は笑ってしまう。軽やかに化物を殺したことが、私の中で娯楽になりつつあった。経験したことのないような楽しさと喜び。二時間前のレストランの出来事から、私は徐々に人間としておかしくなりはじめていた。
最近、パソコンの調子が悪い…。
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10/17 修正
12/02 修正




