第二話 鏡森 結華
見上げるくらいの高さの学院へ入り、一人の少女を助けるために見栄を張ってはみたが全て生徒会長様に持って行かれ挙句の果てに助けようとした少女が学院最強の『零クラス』。
何故だろうか、こんなにも疲れたのは……。
俺はついたばかりの教室を見渡し落胆の意味を持つ溜息を吐く。
因みに、この学院だと指定の制服はあるがバックはない。つまり俺にとってボストンバックがマイバックなのだ。
「特別だかなんだか知らないけど……、適当にも程があるだろ」
学院内は土足だし、暴漢事件が起こりそうなのにそれを無視したり……。決まってるのは制服だけなのか?
それに――
「魔術も使い放題なのか……」
俺が視線を向けた先には、ワイワイと新しく出来た友達に自らの魔術を自慢している生徒の姿が見えた。
元々はそんな簡単に魔術を使って良い訳ではない。どちらかというと、罰せられる方だ。
「て言っても、俺にとっちゃ意味ないか」
俺の魔術は今は『使えない』からな。
「…………」
うわ、めっちゃ見られてるよ……。
そんなに黒髪黒目が珍しいかな……?
俺は自らの髪の毛をワサワサと触る。……決してナルシストとかではないぞ、断じて違うっ!
「……ねぇ君、君ってもしかしなくても日本人だよね?」
「へ?」
突然背後から声をかけられた。
『もしかしなくても』ってちょっと意味分からないけど――
「あぁ、一応は日本人だけど」
振り向きながら答える。
そこには、肩まである栗色の髪にクリッとした目が特徴的な女子生徒が立っていた。
「えっと……」
俺は言葉を失う。あ、案外可愛いじゃないか……。
「どうかした? 人の顔をまじまじと見詰めちゃって」
「あ、あぁいやなんでもない。それで、俺に何か……?」
「ま、ちょっとこっちに来なさい。話があるわ」
そう言ったかと思うと、少女は俺のサイズがあっていないダボダボの袖を掴み無理矢理廊下へ連れて行かれる。
俺、何かしたっけ……? まぁ、あの騒動には少しだけ関わってるけど。
「ここらへんでいいわね。君、名前は?」
少女は周りを気にしつつ尋ねる。
「俺? 俺の名前は『鏡谷 拓人』だけど君は一体――」
「――やっぱりっ!!」
俺が少女の名前を尋ね終わる前に少女は目をパッと輝かせ俺に飛びつく。
ふわりと軽やかにジャンプし体重を乗せて来るが重くはなくどちらかというと軽い。そして何よりも女の子らしい良い香りがする。
「んふふ~♪ やっぱりタクなんだねぇ~」
甘える猫のように少女は俺の胸に頭を擦り付ける。その際、首にくすぐったさが感じられるが……、これが女の子が中途半端に切るのを嫌がる理由なのか。
っとそんな所じゃないっ!
「君は一体……、誰だ?」
「あ、そっか……。覚えてないんだね。私の名前は『鏡森 結華』だよ、タクお兄ちゃん♪」
「鏡……森……だって?」
まさか、そんなことって……。
それに『タクお兄ちゃん』って確か――
「どうして此処にいるんだ? 結華」
「えへへ。色々あったんだよ、お兄ちゃん♪」
「誤魔化さないっ! それよりも……、分家の鏡森家がいるなら宗家の鏡谷家も――」
「いないよお兄ちゃん。残念だけど、お兄ちゃんが知っている過去から何も変わってない、没落したままだよ」
俺は歯ぎしりがするまで奥歯を噛んだ。
やっぱりあのダメージは大きかったんだ……。
「……それとお兄ちゃん。黒髪黒目はやめた方が得策かもね……。『元々』の国で嫌っていた所もあるみたいだから」
「元々って。今でもその国の風習が抜けない、とか?」
「うん。私たち日本人だって、ご飯を食べる時お箸を未だに使うでしょ? それと同じ。黒髪黒目を嫌っている人間が少なからずいるってことを注意してね」
俺はその警告に無言で頷く。
国によっちゃ黒髪黒目は『死神』やら『災厄』などと言う言い伝えが残っている国もあった。だからさっき俺はあんなに注目されてたのか……。
「あ~、ごめん。それは違うよ」
結華は俺の思考を盗撮したかのように――
「って待て! さすがに今の思考は読めないだろ!?」
「ははっ。ごめんね、これは私の魔術だよ。『思考盗撮』って言う一種の透視」
地味に怖い能力を持ってるな……。それに使い方によっちゃほぼ最強になる。
「それで、今の事だけどね……。ほら、コレ見てよ」
「……? 青い刺繍……? じゃあまさか――」
「そ、私は『壱クラス』なんだよねっ♪」
エッヘンと首を反らし腰に両手をあてる。
まさか結華が壱クラスだなんて……、だからあの時クラスの皆が注目をしていたのか。
「お兄ちゃんはまだ『参クラス』何だろうけど、あの能力があればだれよりも強くなれるよ♪ もしかしたら、世界征服も……♪」
「こら、調子に乗るな」
俺はポカリと軽く頭をゲンコツで叩いてやった。
その時、静電気に似た感覚が脳を直撃する。まぁ、いつものことだからもう慣れたけど。
「むぅー、嘘だよ嘘ぉ。別にお兄ちゃんのためなら何だってするのに……」
「何か言ったか?」
「なんでもないですぅ~、それよりも気をつけてねお兄ちゃん。いざって時は私が命をかけても守るから……!!」
妹みたいな存在に『守る』なんて言われる男の心情、案外辛いんだな。
ま、現状じゃあしょうがないか。
「っと、じゃあ教室に戻るね。放課後会いに行くね♪」
パチッとウインクを俺にかますとそのまま走って壱クラスの方へ行ってしまった。
「ったく、昔とほとんど変わらないな……」
宗家に居たころも、あんな感じだっけ。
もし、まだ没落してなかったら今頃どうなってたかな。俺はきっと皆で――
俺はそこまで考えると頭を振り脳を揺らし考えを無理矢理消す。
「さて、俺もそろそろ……」
俺が来た道を戻ろうとしたその時、校舎が光りだす。
いや……、校舎だけじゃない。校舎を含めた『敷地全て』だ。
ガラスから外を見ると、校舎を含めた大地がきらびやかに光りだす。そして徐々に景色が変わり始めた。
「……どうなってるんだ?」
一度強く発光したかと思えば、その光が収まる頃には景色が一変していた。
☆
今日は入学初日ということもあり、説明だけで終わった。
景色はというと、未だに一変したままである。どのように変わったかというと、白で統一されていた学院が黒に統一され所々金色の筋が通っている高級感あふれる建物に変化し、中もまた然り。
そんな一変変わった景色の中、俺と結華は寮に一緒に向かっていた。
「簡単に言えば、これは結界の中って言うことなんだな」
「そだねお兄ちゃん。この学院は実戦するんだから外にその影響を与えちゃいけないってことだね」
俺と結華は今日朝に話されたことを二人でまとめながら話していた。
「なんかやりにくいな。校舎内まで変えられると……」
「だね。トイレの場所も変わるっていうから。女の子の意見としては辛い一方だよ」
「なるほどな。確かに女の子にとっちゃ厳しいな。着替え途中とかに変わられちゃ覗きも何もないからな」
ふむ……、少し狙ってみようか――
「ダメだよ、お兄ちゃん……?」
「さすが『思考盗撮』」
「でも、でもでも……。お兄ちゃんが欲求不満っていうなら、妹である私がそれの処理を――」
「女の子がそんなことを言うもんじゃありません!」
ポカッ――
「あぅ……、ごめんなさい」
全く、暴走具合も変わってないな。
でもま、そう言うのを含めて結華なんだけどな。
「……でもお兄ちゃんがいて良かったよ」
「それは俺もだ。見知った人がいないと、俺も不安でな」
「……そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ」
「……? 何か言ったか?」
何故か不服そうな結華。
俺が目を向けると、ジト目で俺を見つめ返してきた。
「ほんと、そう言うところが憎たらしいよね。お兄ちゃんって」
「……、とりあえず俺はがっかりした方がいいのか?」
その質問には答えず結華はプイッとそっぽを向いて先に歩き出す。
何故だろう……。こんなに怒っているのは? アレか? 思春期とか女の子特有の日だからか? どちらにせよ女の子はムズかしいって奴か……。
俺はそんな結華の後ろを駆け足で近付き隣りで一緒に歩いて行った。




