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第一話 入学前

 西暦二三〇〇年。歴史史上、最悪とも呼べる戦争が勃発した。

 後に『分割戦争』と呼ばれるようになる大戦は、文字通り世界を二つに分散させた。

 一つは『科学』を推進させる国『イーヴァ』となり、もう一つは『魔術』を推進させる『エイヴァ』となり、互いにいがみ合いながら歴史は進んだ。

 今もなお、戦争は続いており今日もまた何処かで罪もない人間が殺されていくのであった――……。


     ☆


 魔術推進国『エイヴァ』。

 文字通り、お伽噺や伝説に出て来る『魔術』という不可思議な攻撃手段を家事や戦争に組み込んでいる国だ。

 そもそも魔術の発現が見られたのはもうかなり前の話しだとされている。それが気にいられずに世界が二つに割られてしまったらしい。

 そして、そんな国の中で最も大きな都市『ユグドラシル』には魔術を扱う人間の育成を目的とした教育設備が設けられていた。


 ――『王立魔術学院』


 それがその施設の名前だ。

 エイヴァの中では魔術教育を目的とした学院は少なからず多い。その中でもこの『王立魔術学院』は特別な施設である。また『王立』というのはそれが理由でもある。

 エイヴァ全体の中でも、最も才があると認められた者だけが入学が可能なこの学院は、その中でもまた成績順にクラス判別をする。

 クラスは成績が上の順に『壱』、『弐』、『参』となる。そしてその中でも特に優秀な人間は『零』となる。

 また、入学してからは完全寮制でありまた四人一組の小隊を作ることになっていて、責任は全体でまた魔術授業は全てが実技である。そのため、入学生の約二割は卒業することは不可だと言われている。


 そして、そんな危険な学校に俺は入学をした。

 否、してしまった……。

「……はぁ、本当に俺がこんな所に入学するのかよ」

 俺は入学手続きを片手にボストンバックを持ち直して高さ五〇〇メートル以上、横幅四〇〇メートル以上の校舎を見上げ溜息をつく。

 正直、俺の魔術はこんな所には不向きの能力だ。それに、中学までは能力を卑下されたこともある。

 いっそのこと、逃げ出しちまうか? 今ならきっと間にあうだろう。何せ、此処には俺以外誰も――

「そこ、邪魔なんだけど? 早くどいてくれる?」

 苛立ったような口調で、俺の肩にわざと当たり横を通り過ぎていく女子生徒。俺は絶句した。

 すでに、俺は逃げ切れない、と……?

 振り返ればそこには今日入学の生徒たちがちらほらと見えていた。

「い、いや……、きっと大丈夫。皆知らない人なんだ。だから――」

「キミ、此処の生徒だろ? 早く入らないと、殺されるよ?」

 通りすがった男子生徒に声をかけられる。そう、無理だ無理なのだ。何せ、制服は同じなのだから。

「腹を括るしかないのか……」

 俺はしぶしぶ校門をくぐる。その時、背後から小さな悲鳴が聞こえた。

「キャッ」

「っと、痛いじゃねぇーか。何処見て歩いてんだよ?」

「全くだぜ……、アレ? この子意外と上玉じゃね?」

「あぁ、結構いけるな。……、悪いな俺が邪魔だったみたいだ。それで、ホラ捕まれよ」

 そこには、二人のむさ苦しい男子生徒と尻もちをついている可愛らしい女子生徒が見えた。

 二人の男子生徒のうち、一人がその女子生徒に手を差し出す。だが、女子生徒はそれを握ることはせず一層警戒を高めた瞳でその手の平を睨みつけた。

「あ、あの、私は一人で立てますので……。その、すみませんでし――」

「おいおい、それだけで済まそうっての? そりゃぁ~、当てられた俺に割が合わねえじゃんよぉ」

「それ、言えてる! 良いから、俺達と行こうぜ? 目的地は同じなんだからさぁ!」

 見ているだけで吐き気がするビジュアルだ。だが、それでも他の生徒は見て見ぬ振りをする。なぜならば、彼の制服が登校している生徒たちのとは少し違うからだ。

 色は他生徒とは変わらない黒で統一されているが、黄色の筋が刺繍されている。つまり、アレは『弐』クラスの生徒ということになる。

 それに比べて、今登校している生徒たちは黒一色。『参』クラスなのだ。そして俺も、その黒一色である。

「……マンガみたいには上手く行かないよな」

 ヒロインが助けを求める時、さっそうと登場する主人公。それは必ず、驚くべき強さですぐにその悪党どもを倒してしまう。

 そんな主人公ポジションに憧れていた時もあったけど、段々と年齢が上がっていくにつれてそれがただの幻想だって気がつくのだ。

「やめて下さい……! 謝りますから……!!」

「往生際がわりぃんだよぉ! 俺達を行こうぜ!!」

 男子生徒たちはなかなか承諾をしない女子生徒に苛立ち始め、ついには手を掴む。

 細く軽やかな女子生徒の腕は、しっかりと握られていて今にも折れてしまいそうな儚さだ。

「~~~~ッ!! もう、我慢ならねぇ!」

 俺はボストンバックを地面に置き、握りしめた拳圧でグシャグシャになったガイドを捨て走りだす。


「「その手を離せ!!」」


 その現場に駆け付け大声で叫ぶ。が、それは俺だけではなかった。

 俺と同時に出てきたのは、俺よりも少し背が高く美形の男子生徒だった。と同時に目が合う。

「……貴様も同じことを考えていたのか」

「あんた、一体――」

 言いかけてとどまる。それはその生徒が腕に付けている帯を見たからだ。

「……『生徒会長』だって?」

 目を見開いてその帯を見る。

 生徒会長。知っている通り生徒を統括する代表的な生徒である。だが、俺はそれに驚いた訳ではない。

 現生徒会長は、歴代の生徒よりもずば抜けて天才だと聞いているからだ。

 役所を全て一人でこなし、他の生徒がいると逆に邪魔になる『零』クラスの二年。

「……ふ、まぁ良い。それよりも、だ。貴様らみたいに暴漢を働く生徒は此処にはいらないのだが……?」

「んだとッ!?」

「お前、誰だかしらねぇけどこれを見て言ってるのか!?」

 女子生徒の腕を離し、黄色い刺繍を指さす。弐クラスを意味しているのだろうが、残念ながらきっと生徒会長にとってはなんてことないだろう。

 周りを見れば、いつしか俺達を囲む野次馬が出来ていた。

「それがどうした? 詰まらない見世物だな」

「んだとォ!?」

 その中で、俺はすでに除外者扱いだ。

「早く此処から立ち去れ。さもなくば、この地面を永遠に踏みしめることが出来ない身体にするぞ……!」

「はぁ!? なにいって――」

 生徒会長はキッと睨みつける、するとピリピリと空気が振動し始める。

「……ッ。 今は見逃しておいてやるっ!」

 下っ端のような捨て台詞を吐きながら二人は急いで走り去った。

「……大丈夫か?」

「え……? あ、はい」

「ちぇっ、すでに俺は蚊帳の外かよ」

 俺はその場から誰にも気づかれないように立ち去った。


     ☆


「はぁ~。あんまり不慣れなすることをするもんじゃないな」

 ボソリと呟きながら参クラスへと向かう。因みに、上履きなんて無い。土足だ。

 俺はボストンバックを右肩から左肩へ移す。その時、ボストンバックが何かに接触をした。

「っと、わりぃ当たっちまったか?」

 俺は謝りながら振り返る。するとそこには、つい先ほど暴漢を受けそうになっていた女子生徒が立っていた。

 女子生徒は手の平を抑え少し痛そうにする。

「い、いえ。大丈夫です」

「って言ってもな。そう、痛そうにされちゃうと我慢が――」

「い、いえいえ。その、私が悪いんです。私が声をかけようとして左肩を叩こうかと思ったら、丁度バックが移動してきちゃって……」

「あ、そうだったの……? 悪いな、気付かなくて。それで、何? 俺に何かようなの?」

 女子生徒はモジモジと身体をはずかしそうに動かし頬を赤く染める。

「その、先ほどはありがとうございました……!」

「……は?」

 勢いよく頭を下げられた。

 えっと、俺って何かしましたっけ?

「その……、私を助けようとして来てくれて……」

「あ、あぁそれね。でも、結局は傍観者になっちゃっただろ? だから、俺は何も――」

「い、いえ。その参クラスの貴方が弐クラスのあの人達にああやることはなかなか出来ないと聞いています。それに、貴方以外は何もしてくれませんでしたし」

「はは。ま、ああいうのを見るのが嫌いなだけだよ。それに、魔術勝負になってたら俺きっと死んでたし」

「……でも、尊敬しちゃいます。危険をかえりみず飛び出せる所」

「そりゃありがと。っと、そろそろ行こうぜ? 遅刻しちまうからな」

 にこやかに笑いかけ参クラスへと向かう。だが――

「あ、その……。私は此処で」

「え? だって参クラスは――」

「私……、『零クラス』なので……」

 

 俺は今日この日、初めて正義というのは辛いなと実感した。

 なかなか上手くいかないもんだな。こういうのは――……。

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